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昆虫掲示板 : 色の話 その3−付 日本産ハンミョウ科チェックリスト−

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色の話 その3−付 日本産ハンミョウ科チェックリスト−
さて、日本産ハンミョウのうちの残り、Cicindela属の紹介を続けます。

まず、コニワハンミョウ Cicindela transbaicalica japanensis Chaudoir、本州、四国、九州の、砂地の河原に分布します。
(左:♂, 右:上翅)



















前回紹介したシロヘリハンミョウや、カワラハンミョウより、明らかに凹凸が多く、凹部の前部は盛り上がって顆粒になります。顆粒表面の盃刻はすり減ったように痕跡だけになり、光沢があります。

次いで、アイヌハンミョウ Cicindela gemmata aino Lewis、北海道、本州、四国、九州、対馬のやはり砂地の河原に分布します。前種より、やや上流域にいることが多いようです。
(左:♂, 右:上翅)



















前種に良く似ていますが、本種の方がやや凹凸が少なく、顆粒の表面の盃刻はほぼ残っています。


さて、ニワハンミョウ Cicindela japana Motschulsky、この種は北海道、本州、四国、九州に分布し、春先に山道などで見られます。
(左:♂, 右:上翅)



















本種はむしろコニワハンミョウに似て、顆粒が良く発達し、表面の盃刻はすり減ったように痕跡だけになっています。

本種には良く色変わりが見られます。

次の個体はほぼ全体が黒化したものです。金属光沢はほとんど見られません。顆粒以外は全体が扁平に見えます。
(左:♂, 右:上翅)



















さらに、全体がきれいな青に染まった型です。こちらもあまり凹部がはっきりしません。
(左:♂, 右:上翅)



















この個体は、平坦部と顆粒は青紫色に光り、凹部は黒色です。顆粒には多少、盃刻が見られます。

以上のように、本種では1つの種の中で、色の発色具合や表面の凹凸、そして盃刻の発現具合にも、変化があるわけです。裸地から林縁まで、結構、さまざまな環境を利用しているのかも知れません。

それから、ミヤマハンミョウ Cicindela sachalinensis Morawitzです。北海道、本州、四国、九州(九州の分布については、後の、チェックリストの項参照)に分布し、山地のガレたような場所で見られます。
(左:♂, 中・右:上翅)



















本種も前3種と似ていますが、顆粒は小さくてやや弱いようです。顆粒の頂点のみ盃刻が消えています。

そして、ルイスハンミョウ Cicindela lewisi Bates、本州、四国、九州、壱岐、五島に分布し、広い砂浜で見られます。
(左:♂, 右:上翅)



















本種の顆粒はかなり大きく、隣り合った顆粒が、不規則に繋がっています。顆粒の表面の盃刻は、ほとんど消失しています。
その他の部分の盃刻は残っていて、凸部は唐金色に、凹部は暗緑色に光っています。
この状態から、さらに、盃刻が消失すると、イカリモンハンミョウの状態に似てくるかも知れません。


さて、Cicindela属のうち、ハンミョウは最初に紹介しました。
また、オキナワハンミョウ Cicindela chinensis okinawana Nakaneについては、残念ながら、手元に標本がありません。


そうそう、忘れるところでした、
ハラビロハンミョウ Calomera angulata niponensis (Bates)は、本州、九州、五島、種子島に分布します。本種も主として砂浜に見られる種です。
(左:♂, 中・右:上翅)



















上翅表面の凹凸は比較的顕著で、場所によっては、凹部の前部以外にも、凸部のあちこちに細かい顆粒が多く見られます。顆粒表面の盃刻は消失したものが多いようです。


以上、ひと当たり、日本産を紹介しましたが、ついでに、手元にある2〜3のマレーシア産を紹介します。名前は堀 道雄京都大学教授(以降は、堀さんと表示)に写真による同定をお願いし、ご教示頂いたものです。

まず、マレーシア産の3番目(その1に2種紹介したので)です。黒地に、ヒスイのような青緑の光を放つ種です。{Cylindera (Verticina) versicolor (Macleay)だそうです。}
(左:背面, 右:上翅)



















光に目を奪われて、大分違って見えましたが、平らな上翅表面や盃刻の具合など、エリザハンミョウに近い種のような感じがします(結果として、堀さんの同定でも、同じ属の種でした)。

次いで、マレーシア産の4番目です。上翅は渋い金緑で、この種も一見所属が掴めない感じですが、上翅の構造は、やはり、前種同様、エリザハンミョウに似ているような気がします。{堀さんの同定ではCylindera (Leptinomera) catoptroides (W. Horn)です。}
(左:背面, 右:上翅)



















堀さんのご教示によると、2種はCylindelaですが別亜属のようです。Cylindelaも大きな属で、かつてのCicindelaと同じような経過(下記参照)をたどって、現在13の亜属に分けられているそうです。世界中に分布しているそうなので、おそらくゴンドワナ起源(つまり遅くとも約1億年前には分化していた)と考えられているようです。


マレーシア産の5番目は、カマキリの幼虫みたいな変な体形の森林性種です。この体形では後翅は無いと思います。どちらかというと、日本産では、ヤエヤマクビナガハンミョウに近いのでしょう。上翅表面には、まばらな点刻と、菱形の印刻を備えるだけです。{同様にTricondyla aptra (Olivier)と同定して頂きました。後翅が無く、飛ばない属のようです。}
(左:背面, 右:上翅)



















さて、前回お約束した北アメリカ産まで紹介するには、ちょっと長くなりすぎましたので、次回にまわします。
次回は、金属光沢の正体や、盃刻の形成過程とその機能、また、盃刻からみた系統についても考えてみたいと思います。


<日本産ハンミョウ科チェックリスト>

今坂正一・堀 道雄 (2009. 3. 18作成)

せっかく、日本産のハンミョウの大部分を紹介しましたので、現時点での日本産ハンミョウの学名と分布について、整理しておきます。

最初に、今坂単独で掲載を開始し、途中から堀さんのご教示と助言を受けて修正したという経緯がありますので、その1〜その3までの本文で掲載した学名と、このチェックリストの内容が異なる部分がありますのでご注意下さい。

以下のチェックリストは、

芦田 久(2007)ハンミョウの分類. 昆虫と自然, 42(8): 5-8.

をベースにして、今坂が編集し、堀さんに監修・追加訂正して頂いたものです。

なお、種の配列は、ほぼ芦田(2007)に準拠しています。この解説では伝統的な配列に従っていますが、最近の分子系統などの成果とも大きな矛盾は無いようです。
離島などの分布地名の略称は九大昆虫総目録に準拠しています。

また、インターネットではアルファベット以外の文字は使用が難しいので、命名者などの特殊な文字はアルファベットで代用してあります。

日本産ハンミョウ科チェックリスト

ヤエヤマクビナガハンミョウ Neocollyris loochooensis (Kano)
 石,西,与那
シロスジメダカハンミョウ Therates alboobliquatus iriomotensis Chujo
 石,西
シロスジメダカハンミョウ屋久島亜種 Therates alboobliquatus yakushimanus Nakane
 屋,奄,徳,沖縄
ルイスハンミョウ Cicindela lewisi Bates
 本州,四国,九州
ミヤマハンミョウ Cicindela sachalinensis Morawitz
 北海道,本州,四国,九州(註参照)
アイヌハンミョウ Cicindela gemmata aino Lewis
 北海道,本州,四国,九州,対
コニワハンミョウ Cicindela transbaicalica japanensis Chaudoir
 本州,四国,九州
ニワハンミョウ Cicindela japana Motschulsky
 北海道,本州,四国,九州
アマミハンミョウ Cicindela ferriei ferriei Fleutiaux
奄,加計
アマミハンミョウ徳之島亜種 Cicindela ferriei indigonacea (Miwa)
 徳
ハンミョウ Cicindela japonica Thunberg
 本州,四国,九州,対,種,屋
オキナワハンミョウ Cicindela chinensis okinawana Nakane
 沖縄
タイワンヤツボシハンミョウ Cosmodela batesi (Fleutiaux)
 西
ハラビロハンミョウ Calomera angulata niponensis (Bates)
 本州,九州,種
タテスジハンミョウ Lophyra striolata dorsolineolata (Chevrolat)
 沖縄,石,西
カワラハンミョウ Chaetodera laetescripta circumpictula (W. Horn)
 北海道,本州,四国,九州
マガタマハンミョウ Cylindera ovipennis (Bates)
 北海道,本州,佐
ホソハンミョウ Cylindera gracilis (Pallas)
 本州,四国,九州
トウキョウヒメハンミョウ Cylindera kaleea yedoensis (Kano)
 本州,九州
リュウキュウヒメハンミョウ Cylindera humerula (W. Horn)
 沖縄
ヒメヤツボシハンミョウ Cylindera psilica luchuensis (Nidek)
 石,西
エリザハンミョウ Cylindera elisae elisae (Motschulsky)
 北海道,本州,四国,九州
エリザハンミョウ御蔵島亜種 Cylindera elisae mikurana (Nakane)
 伊
オガサワラハンミョウ Cylindera bonina (Nakane et Kurosawa)
 小
コハンミョウ Myriochile speculifera (Chevrolat)
 北海道,本州,四国,九州,種,ト悪,奄,喜界,加計,徳,久米,伊良,与那
シロヘリハンミョウ Callytron yuasai yuasai (Nakane)
 本州,四国,九州,伊,対,屋
シロヘリハンミョウ沖縄亜種 Callytron yuasai okinawaense Hori et Cassola
 ト宝,奄,加計,喜界,徳,沖永,与論,沖縄,久米,伊良,石,西,与那,南大,尖閣北小
ヨドシロヘリハンミョウ Callytron inspecularis (W. Horn)
 本州,四国,九州,種
イカリモンハンミョウ Abroscelis anchoralis punctatissima (Schaum)
 本州,九州,種

以上のように、日本産は25種4亜種に整理されます。

このうち、芦田(2007)では、エリザハンミョウ御蔵島亜種mikuranaと、アマミハンミョウ徳之島亜種indigonaceaは扱われていません。また、ハラビロハンミョウでは、亜種 niponensisは採用されていません。
これらのタクサについては、今後、研究者間で、さらに議論されるものと思います。

それから、ミヤマハンミョウの分布ですが、本種の確実な生息地は本州中部(白山)以北で、比較的最近、四国(剣山山頂付近)で確認されています。九州からは、唯一、鹿児島県高千穂峰(井上, 1963)の記録がありますが、再確認が必要のようです。

蛇足になりますが、今坂にとっては、日本産ハンミョウの大部分がCicindelaであったものが、最近になって唐突に多くの属に分割されたような印象を受けました。

堀さんの説明では、既に、ヨーロッパでは、♂交尾器の検討などによるRivalier (1950〜1961)の一連の研究や、Wiesner (1986)のまとめなどにより、1000種以上を含む大属のCicindelaが、亜属を属に昇格させて、多くの属に分割される流れが起こり、1980年代後半までには、その考え方が主流になっていたようです。

日本でも、最近になって、やっとその流れに追いついてきて、多くの属が採用されたと言うことのようです。

引用文献
井上定雄(1963)高千穂峰に於ける甲虫. SATSUMA, (35): 30-31.
Rivalier, E. (1950) Demembrement du genre Cicindela Linne (Travail preliminaire limite a la faune palearctique). Revue Frnacaise d'Entomologie, 17: 217-244.
Rivalier, E. (1957) Demembrement du genre Cicindela Linne III. (Travail preliminaire limite a la faune Africano-Malagache). Revue Frnacaise d'Entomologie, 24: 312-342.
Rivalier, E. (1961) Demembrement du genre Cicindela Linne IV. (Travail preliminaire limite a la faune indomalaise). Revue Frnacaise d'Entomologie, 28: 121-149.
Wiesner, J. 1986. Die Cicindelidae von Sumatra, 9. Beitrag zur kenntnis der Cicindelidae (Coleoptera, Cicindelidae). Mitteilungen der Munchner Entomologishen Gesellschaft 76: 5-66