今坂正一とE-アシスト - 2020年初夏から梅雨の英彦山 1
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昆虫掲示板 : 2020年初夏から梅雨の英彦山 1

投稿者 トピック
imasaka
管理人
  • 登録日: 2018-1-27
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2020年初夏から梅雨の英彦山 1
その後も、ほぼ、週一のペースで英彦山に通っております。

春の英彦山1-4で紹介しましたように、今年は深倉峡、貝吹峠、スキー場跡を主な採集場所として、調査を続けております。

國分さんと二人で、4月15日、4月21日、4月30日、5月12日、5月20日(ここまで紹介済み)、5月28日、6月5日、6月9日、6月16日、6月24日、7月4日(久留米昆採集会)と、のべ11回、ここまで順調に通ってきました。

しかし、7月8日以来、九州は連続して線上降水帯に見まわれ、各地で浸水、崖崩れ、道路崩壊、鉄橋流出など被害が続出し、地元久留米でも、筑後川へ連なる各志流で、本流増水から逆流を心配して水門を閉じたための浸水被害が、市中心部以外の川沿い数カ所で起こっています。

その様子が全国放送されたために、各地からのお見舞いが、電話やメール、ハガキなど、様々な方法で寄せられました。幸い私の自宅は川からは遠く、周囲よりやや高い位置にあるため、まったく被害は受けておりません。心配していただいた方々に心よりお礼申し上げます。

さて、そんなわけで7月11日の英彦山での久留米昆採集会の第二回目は中止し、その後も通行止めや雨天で、英彦山へは出かけることが出来なくなりました。

しかし、8月8日の第三回採集会も予定されており、7月18日、國分さんと2人、通行止めの箇所などの確認や、下見を兼ねて出かけたところ、なんとか、深倉峡までたどり着くことが出来ました。

ここでは、5月28日から7月18日までの特筆したいトピックについて、採集地点ごとにご紹介します。

標高の低い方から、まずは、深倉峡の入り口、集落の手前の土場の様子から。ここにはエノキと思われる大木の立ち枯れがあり、FITを吊り下げています。

(土場の側の立ち枯れ)
















(立ち枯れに吊したライトFIT)























5月28日には、ヤマトホソツツハネカクシとオオマダラヒゲナガゾウムシが入りました。前者の福岡県の記録は見ていません。後者は東峰村岩屋公園でも採れていますが少ないようです。

(ヤマトホソツツハネカクシとオオマダラヒゲナガゾウムシ)
















6月5日にはミナミウスイロツツハネカクシとイチハシチビサビキコリの近似種です。

(ミナミウスイロツツハネカクシとイチハシチビサビキコリの近似種)
















前者は琉球までいる暖地性種、後者は低地性のイチハシチビサビキコリとは別の種と言われている山地性種です。

この日はかなり好成績で、ツヤヒメキノコムシとトウキョウムナビロオオキノコも入っていました。

(ツヤヒメキノコムシとトウキョウムナビロオオキノコ)
















前者の九州の記録はまだ見ていません。後者も通常は近似のミイロムネビロオオキノコですが、この個体は上翅基部合わせ目にも黒紋があり、トウキョウのようです。

さらに、この日には微小な(1.3mm)ヒメマキムシが2個体入っていて、前胸側縁のトゲの形や、上翅の盛り上がった間室などが特徴的です。

(微小なヒメマキムシ)
















小笠原から記録されているEnicmus sp.とほぼ同じと思われます。当初、上翅肩部が丸いことから飛ばないのでは・・・と思っていましたが、その後もライトFITに入っており、長い後翅が見えていましたので、飛来したようです。

6月24日には未記載種のヒメマドボタルが入りました。前胸の赤紋の中央に、黒い縦スジがみえるのが特徴で、時に、赤紋が左右に2分されます。

(ヒメマドボタル)
















次いで、集落の中心部辺りから左折し、英彦山の周遊道路への抜け道のほぼ中央、貝吹峠手前の、一軒家のある常緑樹林です。

(一軒家周辺)

















(貝吹峠のライトFIT)

















今年の英彦山の採集地の中では、この常緑樹林が最も多くの興味深い種が得られています。

5月28日にはヤツボシハムシがライトFITに入りました。
城戸・今坂・緒方(2019)で報告したように、本種はそれ以前はまったく九州から記録されていない種でした。

(ヤツボシハムシ)















城戸克弥・今坂正一・緒方義範, 2019. 福岡県でヤツボシハムシを採集. 月刊むし, (586): 49-50.

6月5日には、クロアシヒゲナガヒラタミツギリゾウムシがライトFITに入りました。

(クロアシヒゲナガヒラタミツギリゾウムシ、左♂、右♀)
















九州では英彦山と高千穂峰で知られているだけのようです。

また、壊れていましたが、メツブテントウの一種が入っており、未記載種のタラメツブテントウのようです。

(タラメツブテントウ)
















また、丸っこい見慣れぬコメツキダマシも入っていて、畑山さんに見てもらったところ、新属新種のコメツキダマシということです。

(コメツキダマシの一種)
















同行の國分さんは、チョウを探しながら、林縁をビーティングされていることが多いですが、6月5日には見慣れないゾウムシを採集されていました。

体形からはヒメゾウムシと思われますが、上翅にはトゲトゲしたコブが沢山生えており、当然、図鑑類には載っていない種で、吉原さんのモノグラフでようやく種名が解りました。

(コブヒメゾウムシ Pharcidobaris miyamotoi Morimoto et Yoshikawa)
















カメムシの権威 故・宮本先生が福岡県古処山で採集された個体を元に新種記載された種で、その後、本州(愛知)と九州(佐賀高島・大分熊群山)で見つかっているだけのすごい珍品でした。

吉原一美(2016)日本の昆虫6ゾウムシ科 ヒメゾウムシ亜科. 171pp. 櫂歌書房

さらに、7月4日には見慣れないジョウカイモドキが入っていて、♂上翅末端にあるトゲが後ろ向きに生えていることから、高倉康男氏が晩年に新種記載されたヒコサンヒメジョウカイモドキ Hypomixis hikosanus (Takakura)と思います。

高倉康男(1988)九州産Hypebaeus属の1新種. 北九州の昆蟲, 35(3): 151-154.

(ヒコサンヒメジョウカイモドキ♂)
















当初、英彦山の固有種と思われていましたが、その後、本州(東京・鳥取),四国(愛媛),九州(福岡・大分英彦山)などで記録されています。

(ヒコサンヒメジョウカイモドキ♂翅端のトゲ→緑矢印)
















近縁のクギヌキヒメジョウカイモドキ類では、平野(2007)による図では、全ての種で、トゲは前方に向かって生えている(緑矢印)のに対して、ヒコサンでは後方に向いています。

(平野, 2007の図3を引用)













平野幸彦(2007) クギヌキヒメジョウカイモドキとその近似種について. 神奈川虫報, (159): 29-36.

他に、タカサゴシロカミキリやトラフホソバネカミキリ、ヒメボタルも入りました。

(タカサゴシロカミキリやトラフホソバネカミキリ)


















(ヒメボタル)

















この一軒家周辺の常緑樹林は、せいぜい200m四方あるかないかで、周囲は全てスギの植林になっています。そんな島状態の林でもこれだけ多くの興味深い種が生息していると言うことは、英彦山の本来のファウナはよほど多様性のある重要なファウナだったと言えるかもしれません。

さて、抜け道を通って本来の英彦山周遊道路を上り、英彦山野営地に入ります。
そこで車を停めて、スキー場跡に向かいます。

昨年の緒方さんの採集例から、なんとか自身でも採ってみたいと5月12日、5月28日、6月5日と、3回、ススキ原でモリアオホソゴミムシを探してみましたが、まったく手応えがありませんでした。

6月5日には、國分さんはススキからトゲナシトゲトゲを採られています。

(トゲナシトゲトゲ)
















私の方は、この日、ホソクロチビジョウカイ Malthodes furcatopygus Wittmerを採集しました。

(ホソクロチビジョウカイ)
















2.5mm前後の小型種としてはウスキクロチビジョウカイ Malthodes simplipygus Wittmerが主として低地に、本種は山地で見られます。

自身での採集は無理そうなので、6月9日に緒方さんにお願いして案内していただきました。緒方さんの話では、所謂、青天井の草原では採れず、疎林の部分でのみ採れたそうです。

(スキー場跡のモリアオホソゴミムシの生息地)
















草原ばかり探していたので、今まで採れなかったのが頷けました。
疎林の中の、やや日陰になる、ススキの大きな株が良いと言うことで、バンバン叩いていきます。

クロモンヒラナガゴミムシは次々に落ちてきますが、モリアオホソゴミムシは落ちてきません。

(クロモンヒラナガゴミムシ)















緒方さんは、と見ると、彼は革手袋をして、大口径のネット状の丸網に、ススキの根際を掴むようにして丸網の中に倒し込んでいます。

1時間ほど斜面を行き来してビーティングしてみましたが、結局ボーズ。
彼は4個体を採集していて、1頭は、採れたてのネットの中を走り回る様子を見せてくれました。

6月16日、彼に倣って手袋をし、ススキの根際を掴むようにしてビーティングネットに落とし込んでいきます。

1時間ほど奮闘して、ようやく1♀ゲット。
まあ、これが限界でしょう。ともあれ、採れたことで良しとしましょう。

(モリアオホソゴミムシ♀、しばらく飼っていた)


















なお、昨年(2019年)の採集品ですが、江頭さんが、英彦山実験所のライトで本種を採集されていました。
実験所の周囲は、芝生と植物園と樹林くらいでススキの姿は見ていないので、本種はよほど広い範囲を飛翔・拡散するのでしょう。

草原性ではなく、林縁の小規模のススキ群落を移動しながら、利用しているものと思われます。

つづく