今坂正一とE-アシスト - 今年の春の訪れは甑島から5
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昆虫掲示板 : 今年の春の訪れは甑島から5

投稿者 トピック
imasaka
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  • 登録日: 2018-1-27
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今年の春の訪れは甑島から5
今年の春の訪れは甑島から 最終回です。

3月26日

下甑島3日目、甑島採集行最終日、午後14:35のフェリーで帰るので、残された時間は半日しかありません。

26日の採集地は次の図の通り。1と2はトラップ回収のみです。























8:00に宿を出て、手打の砂浜に掛けたイエローパンFITと、ベイトトラップの回収をします。

(手打の砂浜とイエローパンFIT)
















今坂のトラップにはハエ類などが少し入っていただけで、なぜか殆ど虫がいません。

築島さんのベイトトラップにも、ウスアカクロゴモクムシとヒメカクスナゴミムシダマシが1個体ずつ入っていただけで、後はゴキブリの幼虫とアリ、ハエなど。

気を取り直して、尾岳に向かいます。

尾岳のライトFITの回収にも、築島さんが行ってくださったので、今坂は近くで材採りをしていました。

ライトFIT表面の網には特異な形で静止するキイロトゲエダシャクが止まっていたそうで、写真も見せて貰いました。早春に出る比較的珍しい種で、長崎県ではRED種になっているようです。

(ライトFIT表面の網に静止するキイロトゲエダシャク)
















ライトFITにはガ類が沢山入っていましたが、甲虫はごく少なく、ミエコジョウカイ*とツブノミハムシが少々。この早い時期にはしようがないです。

また、イエローパンFITにもミエコジョウカイとアカホソアリモドキが入っていました。

尾岳はそれぐらいにして、今坂と国分さんは下甑島北端の藺牟田の湿地を目指しましたが、築島さんは昨日の片野浦のヒメドロムシの探索が心残りだったとかで、そちらに向かうことにして、お昼に長浜港で落ち合うことにしました。

ここから、今坂は国分さんの軽トラの助手席にお世話になります。尾岳から20分余りで、藺牟田の湿地に着きました。周囲を小高い丘に囲まれた元は広い湿地だったと思われる場所で、大部分は草地か荒れ地で、一部に牛が放牧されています。

(藺牟田の草地)
















浅い水溜まりもあちこちにあり、一見楽に入っていけそうですが、築島さんは前回水生昆虫を求めて踏み込んで、かなり深みに入って難渋したそうです。時期には再び水物などを狙って、ライトもしてみたいものです。

(藺牟田の畦道、右側が湿地、奥の右側が放牧地)

















この藺牟田という地名ですが、藺(イ)が生えた牟田、つまり湿地ということです。

テントウムシの権威だった故・佐々治先生は、この藺牟田において森本先生(当時、九大昆虫学教室で同室)が採集された16種のテントウムシを記録されていて(神谷, 1962)、テントウムシの総説(Sasaji, 1971)でもカグヤヒメテントウ、ハマベヒメテントウなど藺牟田(Imuta)の記録が再録されています。

神谷寛之, 1962. 鹿児島県甑列島のテントウムシ科甲虫相. KONTYU, 30: 82-86.

Sasaji, H., 1971. Fauna Japonica, Coccinelidae (Insecta: Coleoptera), 340pp. Academic Press of Japan, Tokyo.

それもあって、よほど良い湿地を想像していたのですが、大部分は陸化しており、その点は期待はずれでした。

それでも、湿地性のニッポンチビマルハナノミ*は沢山いて、時期が良ければいろんなものが採れる可能性があります。下甑島で1年間カメムシを調べられた野崎さんもここの湿地は面白いと話されていました。

(ニッポンチビマルハナノミ)

















少し風があるので、山裾の道沿いを歩いてみます。角のカーブのあたりが吹きだまりになっていて、陽も射すと暖かく、チョウも飛び出してきます。

(山裾の道沿い)
















国分さんによるとこのあたりで、ツバメシジミ、ヤマトシジミ、ルリシジミ、ベニシジミ、ツマグロヒョウモン、キタキチョウ、テングチョウが見られたそうです。

今坂は、カラムシからアカタテハの幼虫を見つけました。

(アカタテハの幼虫)
















そのすぐ近くにはフクラスズメの幼虫が・・・。

(フクラスズメの幼虫)
















あれっ!確か、フクラスズメの幼虫って、秋の風物詩でしたよね。
まさか別物?と思いつつ、後日、ネット等で調べてみたところ、どうも暖地では周年発生するような感じで、幼虫も年中見られるのかもしれません。
3月のウスバキトンボと言い、さすが、甑島は南国ですね。

林縁をスウィーピングしたり叩いたり、花を掬ったり、草地をスウィーピングしたりして採集した甲虫類は次の通りです。

(藺牟田で採集した甲虫)















ニセマルガタゴミムシ、ハラグロハナムグリハネカクシ*、オオシリグロハネカクシ、トビイロマルハナノミ*、ハナムグリ、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、ミエコジョウカイ*、クギヌキヒメジョウカイモドキ、キバナガヒラタケシキスイ*、デメヒラタケシキスイ、キムネチビケシキスイ、ムネアカチビケシキスイ、キイロアシナガヒメハナムシ、ジャロスジンスキイキスイ*、ケシコメツキモドキ、ヨツボシテントウダマシ*、アミダテントウ、セスジヒメテントウ、カワムラヒメテントウ、コクロヒメテントウ、モンクチビルテントウ*、ムーアシロホシテントウ、ヒメカメノコテントウ、ヒメオビニセクビボソムシ*、クロフナガタハナノミ、ナガハムシダマシ*、マルムネゴミムシダマシ、オビレカミキリ、チャバラマメゾウムシ、ドウガネツヤハムシ、イチゴハムシ、ツブノミハムシ、サメハダツブノミハムシ、ヘリグロテントウノミハムシ、ヨツモンカメノコハムシ、ミスジマルゾウムシ、ナガクチブトノミゾウムシ、シラホシクチブトノミゾウムシ、エノキノミゾウムシ、ムネスジノミゾウムシ、ニセキイチゴトゲサルゾウムシ*、チャバネキクイゾウムシなどです。

全部で44種、この時期でも暖かくて無風の日だまりには虫が集まっているようで、24日の尾岳に次いで2番目に多い種数が得られました。

このうち、聞き慣れない種が2種含まれています。
まず、ニセキイチゴトゲサルゾウムシ Scleropteroides longiprocessus Huang et Yoshitake。

(ニセキイチゴトゲサルゾウムシ背面、側面)
















この種については、城戸さんから原記載論文と共に教えていただいたのですが、従来、キイチゴトゲサルゾウムシとされていたものに実は2種類混じっていて、原記載論文に付いている分布図によると、本州,四国,九州の大部分の地域に2種共に分布するようです。同じ場所に2種混生するのか、それとも、微妙に棲み分けているのかは解りません。

キイチゴトゲサルゾウムシのホストとしては、この報告で、カジイチゴ(実は黄色)、クマイチゴ、ニガイチゴ等(以上、実は紅色)が上げられているのに対して、ニセキイチゴトゲサルゾウムシではモミジイチゴ(キイチゴ、花は下向き)、ナガバモミジイチゴが記録されています。多分、ホストの植物が解れば、野外でもどちらの種か区別できるかもしれません。

どちらにしても、今坂(2019)ではキイチゴトゲサルゾウムシとして下甑島から記録していましたが、今回見直したところ、こちらもニセキイチゴトゲサルゾウムシの様で、訂正する必要がありそうです。

2種についての詳細は以下の論文でご確認ください。インターネットで検索すれば、論文を見ることが出来るようです。本種と次種についてご教示いただいた城戸さんにお礼申し上げます。

Huang, J., Yoshitake, H., Zhang, R., & M. Ito, 2014, Taxonomic revision of the East Asian genus Scleropteroides Colonnelli, 1979 (Coleoptera, Curculionidae, Ceutorhynchinae). ZooKeys, 437: 45-86.

さらにもう一種、和名が無いのが面倒なので、種小名をそのまま読み下して(仮称)ジャロスジンスキイキスイ Cryptophagus jaloszynskii Otero et Pereiraとしています。

(下甑島産ジャロスジンスキイキスイ)
















こちらも城戸さんのご教示で、昨年末に出版されたという以下の文献で、茨城県筑波山から新種記載された種です。

Otero J. C. & J. M. Pereira, 2018. The genus Cryptophagus Herbst, 1792 (Coleoptera: Cryptophagidae) in Japan with description of a new species. J. Asia-Pacific Ent. 21: 1434-1449.

この報告はスペインのサンチャゴ大学の研究者によるもので、日本産のキスイムシ属 Cryptophagusのまとめです。日本から1新種と3新記録種を含めて18種が報告されており、従来国内から記録されていた22種のうち、5種類がシノニム処理されています。

なお、ノコバキスイ Cryptophagus micramboides Reitterと学名未決定のカワリキスイについては触れられていません。

この報告では掲載種の大部分について、頭?前胸?上翅、触角、雄交尾器などの詳細な図が有り、結構難解であったこの類の、良い手がかりになるものと思われます。

上記、ジャロスジンスキイキスイとした種の図を引用します。

(ジャロスジンスキイキスイ Cryptophagus jaloszynskii、背面、触角、♂交尾器パラメラ、♂交尾器エデアグス、Otero & Pereira, 2018 Fig. 8より改変引用)

















本種とした決め手ですが、前胸側縁の中央前に歯状突起があり、それより基部にかけて小さくノコギリの歯状になっている点です。

上記、ノコバキスイも前胸側縁は全面にノコ歯状に小さい突起が並んでいますが、中央の大きい歯状突起はありません。

その他、キバナガヒラタケシキスイ、ヒメオビニセクビボソムシ、ナガクチブトノミゾウムシも注目されます。

(キバナガヒラタケシキスイ、ヒメオビニセクビボソムシ)
















また、ここでも、帰化種のモンクチビルテントウとヨツモンカメノコハムシが見られました。

甲虫以外では、クビキリギス、キュウシュウクチブトカメムシ、ビロウドツリアブ等が見られました。

(藺牟田で採集した昆虫)

















少し時間があったので、先を急ぎ、芦浜まで見に行ってみましたが、浜も周囲も、虫のいそうな場所が見当たらず、長浜に戻ることにしました。

長浜で築島さんと待ち合わせ、片野浦の成果を聞いてみましたが、思ったほどではなく個体数を増やしただけで、あるいは運が良ければ1種くらい増やせたかもしれない、といった程度だろうと言うことでした。
フェリーの時間にはまだだいぶ時間があるので、今日は開いている港の食堂で昼食にすることにしました。色々美味しそうなメニューもありましたが、大エビが2匹も乗った天ぷら丼が魅力的で、これを注文しました。

(天ぷら丼)
















はたして食べられるかと思いましたが、結果、ペロリと平らげてしまいました。

食事が済んで、土産を買っても、まだ時間があったので、港の横の砂浜にブラブラ行ってみます。
モンシロチョウやモンキチョウが時折飛んできます。

(長浜港の横の砂浜)
















海浜植生も多少はあるようです。

(海浜植生)
















試しに石起しをしてみると、コスナゴミムシダマシがいます。

(石の裏についたコスナゴミムシダマシ)
















いくつかの石を起こして、アカアシコハナコメツキ、コスナゴミムシダマシ、トビイロヒョウタンゾウムシを見つけました。

そうこうしている間に14:10になり、フェリーが入港してきました。
あわてて、車に戻ります。いよいよ、甑島の旅も終わりです。

(フェリーの入港)


















14:35長浜港出港。甑島がだんだん遠ざかっていきます。

(遠ざかる下甑島長浜港)
















その後、串木野新港に16:15着。そこからガソリンを入れて、帰りは八代経由で戻りました。
途中、宮原ISで夕食を取り、久留米には午後10時着。

5日間の長くて楽しい採集行でした。築島さん、運転ご苦労様でした。国分さんも同行いただきありがとうございました。

なお、採集した甲虫は、上甑島121種、下甑島164種で、合わせて230種でした。
やはり、下甑島の方が標高もあり、自然の多様性もあり、種は多いようです。

今回、3月末ということで、それほどの成果は期待していなかったのですが、結果は期待以上で、虫の発生は北部九州での感じで言うと、4月中旬以降の感じでした。

上甑島・下甑島両島で、79種を新たに採集することができましたので、今坂(2019)で記録した883種に加えると、1種を同定誤りで訂正して、甑島列島産甲虫は961種になります。

次回、少し頑張れば1000種の大台に乗りそうな感じです。