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昆虫掲示板 : 今年の春の訪れは甑島から1

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imasaka
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  • 登録日: 2018-1-27
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今年の春の訪れは甑島から1
3月2日に鹿児島昆虫同好会より会誌 SATSUMA 162号が発行されました。

この号は全編、「特集:甑島の甲虫」ということで、今坂による以下の報告が掲載されています。

甑島列島の甲虫類
-1982 年の下甑島採集品と既知記録からみた甲虫相-

この号の紹介は以下のアドレスをクリックしてください。

http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=204

実はこの報告は、これから計画している甑島の調査のたたき台として製作したものです。

この報告を作っている過程で、甑島には並々ならぬ魅力があることが予感されました。

その究極が、極端に言えば、「ブナ帯と琉球が同居する島」と言うことになるかと思います。

おまけに、九州本土から30kmという、かなり近い距離に有りながら、固有種が多いと言えます。

その固有(亜)種の比率は九州近海の離島でも相当に高い対馬の約半数。あるいは五島列島と比較しても、さらにやや高い2.6%という固有(亜)種率を誇るということで、さらなる新種や新亜種の発見が期待されます。

ということで、前置きが長くなりましたが、発行された甑島特集号を片手に、3月22日から26日まで、今後の調査の下見として、久留米昆事務局の国分さん、編集担当の築島さんと3人で、上甑・下甑両島に出かけてきました。

3月22日

朝6時10分前、築島さんが今坂宅まで迎えに来てくれました。さっそく、一緒に国分さん宅へ行き、2台で久留米を出発。久留米ICから高速に乗り一路、串木野港を目指します。

7:30 宮原SAでトイレ休憩。

(宮原SAでの左から国分さん、築島さん)
















鹿児島IC経由で、南九州道に入り、串木野ICで降りるつもりが話に夢中になり、1つ乗り過ごして薩摩川内水引ICから一般道へ、ガソリンを満タンにしてから串木野新港着11:00。久留米からゆっくり休憩を入れながら約4時間です。

さっそく上船の手続きをします。

(甑島フェリー時刻表)
















11:20出港、フェリーは上甑島の里港を目指します。

(甑島フェリー)
















(フェリー船上より串木野方向)
















1時間ほどで上甑島が見えてきました。

(上甑島)
















船上で、まず、どこの採集地へ出かけるか、話し合います。

(船上で)
















実は、築島さんは、甑島調査の話が浮上するなり、すでに昨年の12月に単独で下見に出かけていました。
季節柄、陸上の昆虫は望めないので、水物に限り、河川でのフンドシ流しと、湿地巡りを行い、上甑・下甑両島をほぼ全域走破していたのです。

結果、主としてヒメドロムシを何種かと、ゲンゴロウ類、ガムシ類などを採集し、ヒメドロムシの中には相当興味深いものが含まれていたようです。その結果についてはいずれ発表されると思います。

12:35上甑島の里港に上陸。

(里港にて)
















さっそく、港から北へ車で10分程度、湿地と砂浜がある、北部の市の浦海水浴場を目指します。

ここで、3月22日の上甑島での採集地を地図に示しておきます。1,2,3の順に回りました。

(3月22日の上甑島での採集地)






















海水浴場の裏はかなり広い湿地で、柳が生えていました。背後の山に点々と白いのが見えるのはヤマザクラが開花しているようです。

(海水浴場の裏の湿地)
















浜の方は残念ながら礫浜で、砂浜ものは無理のようです。

(市の浦の礫浜)
















湿地とその上の草地にベイトトラップとイエローパンFITを置いて、ビーティングをしてみました。

冷たい風が強く吹き、前日からの寒波の影響で、体感は10℃を下回っています。

それでも、林縁や枯れ草、松の花などを叩いて、次のような甲虫が落ちてきました。

(市の浦で採れた甲虫)

















湿地らしいものとして、まず、マルハナノミ類を上げることが出来ます。

(註:上甑島から記録されている甲虫は159種と少なく、ゲンゴロウ、ガムシ、コガネ、コメツキ、カミキリ、ハムシなどで、その他の科の大部分は未記録です。ということで、この後、上甑島新記録については特に表示せず、甑島列島全域から記録の無いものに限って新記録という表示をします。ただ、いちいち新記録と書くのも煩雑なので、新記録種にはコキムネマルハナノミ*のように、和名の後ろに*を付けることにします。)

トビイロマルハナノミ*を始め、翅端に黄褐色紋を持つクロチビマルハナノミ* Contacyphon mizoro (Nakane)が沢山見られました。

(クロチビマルハナノミ)
















その他、全体褐色のもの、縦筋状の斑紋を持つものなど色々の色彩のものが見られましたが、これらが1種なのか、数種混じっているのか解りません。これらは、後日同定していただくつもりです。

(マルハナノミの数種?)














また、こちらは樹洞にたまった水などに発生する種で湿地性ではありませんが、コキムネマルハナノミ*も採れました。

(コキムネマルハナノミ)
















クロマツには花も付いていて、それに、コガタマツシバンムシ Ernobius curticollis Picがいました。「甑島列島の甲虫類」でも書きましたが、なぜか、この種は本州・四国と下甑島で知られ、九州の記録が見つかりません。

(コガタマツシバンムシ)
















クロマツの花にはハヤトニンフジョウカイ Asiopodabrus hayato (Nakane)とキイロニンフジョウカイ Asiopodabrus ochraceus (Kiesenwetter)も集まっていました。

しかし、2種共に、高橋さんが指摘したように、九州本土とは色彩が違っています。

高橋和弘, 2017. 鹿児島県下甑島のジョウカイボン科. さやばねニューシリーズ, (27): 17-19.

(ハヤトニンフジョウカイ甑島産、左から♂、♂、♀)
















甑島産のハヤトニンフジョウカイでは、特に♂の前胸の黒色部が縮小し、ほとんど黒色部が消失します。♀もやや黒色部が縮小するようで、九州本土産で見られる前胸全体が黒色になるタイプは見られませんでした。

(ハヤトニンフジョウカイ長崎県産、左から♂、♀)

















(キイロニンフジョウカイ甑島産、左から♂、♀)
















甑島産のキイロニンフジョウカイでは、♀の上翅がかなり黒ずみますが、♂は心持ち黒ずむ程度です。九州本土産では上翅が黒ずむ個体は全く見られません。

(キイロニンフジョウカイ長崎県産、左から♂、♀)

















♂交尾器については、両種とも本土産と目立った差異は見つけられませんでした。

これら2種共に、75%ルールを採用するなら、甑島固有の亜種と考えても差し支えが無いと思います。
また、これらの変異は、上甑島・下甑島を通じて、同様でした。

他に、ヨツボシテントウダマシ*やモンクチビルテントウ*、フタホシシリグロハネカクシ* Astenus maculipennis (Kraatz)も見つかりました。
最近話題になっているヨツボシテントウダマシ近似の2種は見つかっていません。

(ヨツボシテントウダマシ)
















帰化種のモンクチビルテントウは、甑島まで既に侵入しており、この後も、上甑・下甑両島各地で見つかりました。すごい早さで離島を含む西日本全域に広がっているようです。

(モンクチビルテントウ)
















(フタホシシリグロハネカクシ)
















国分さんは、薄曇りの強風下、ルリシジミ、ツバメシジミ、ナミアゲハ、アカタテハくらいしか飛ばないので、ビーティングに勢を出し、コマルノミハムシ、ツブノミハムシとハヤトニンフジョウカイを採られていました。

さらに、現地ではよく見えてなくて確認できませんでしたが、間違いなく、クロチビジョウカイの仲間 Malthodes sp.と思われる♂も採られていました。

離島のことで、ニューを期待したのですが、残念ながら、本州・九州に広く分布するキュウシュウクロチビジョウカイ* Malthodes kyushuensis Takakuraでした。

(キュウシュウクロチビジョウカイ♂側面)
















築島さんは、海岸沿いの散策道路沿いの山裾にベイトトラップを掛けに行かれましたが、ビーティングでも、南方系のミナミチビマルクビハネカクシ* Coproporus micropennis (Nakane et Sawada)、ツワブキにつくアカアシナガトビハムシ* Longitarsus cervinus Baly、サツマゴキブリを採られていました。

(ミナミチビマルクビハネカクシ)
















(アカアシナガトビハムシ)
















この時仕掛けたベイトトラップを翌日回収してマルキマダラケシキスイ* Stelidota multiguttata Reitterとホソキヒラタケシキスイ* Epuraea oblonga (Herbst)を採られています。

湿地と海岸ではこれ以上期待出来そうにないので、場所を変えることにして里の街まで戻り、南の正面鞍部に見える風車のあたりに言ってみることにしました。

武家屋敷と畑道を抜けてつづら折りの林を登っていきます。中腹は比較的木も大きく、北斜面とあって多少湿気もありそうです。

風車のある交差点は、牧の辻段と表示されていて、角にヤマザクラが咲いていました。

(ヤマザクラ)


















風が強くてどうかなあ、とは思いましたが、掬ってみたところ、いきなりハナムグリハネカクシが入りました。どうもハラグロハナムグリハネカクシ* Eusphalerum solitare (Sharp)のようです。

(ハラグロハナムグリハネカクシ♂、♀)
















後日♂交尾器を取り出してこの種であることを確認しました。九州本土産と比べると側片先端の扁平な広がりが少し狭い感じがします。

(ハラグロハナムグリハネカクシ♂交尾器)
















このサクラには、常連のアカタデハムシ*やケナガサルゾウムシ*、ズグロキスイモドキ*もいました。

(アカタデハムシ、ズグロキスイモドキ)
















左に折れると、この道沿いはちょうど南向き斜面で、今日は北風なのでほとんど無風状態です。
色々虫が居そうなので林縁を叩いてみました。

(道沿い)



















ニンフジョウカ2種は勿論、ヤホシゴミムシ*、ムナキヒメジョウカイモドキ* Attalus niponensis Pic、マダラニセクビボソムシ、オビレカミキリ、タノオアラゲサルハムシ、イチモンジハムシ*、フキタマノミハムシ、カシルリチョッキリ*、ツツノミゾウムシ* Orchestes cylindricus (Morimoto)など、この時期にしては色々落ちてきました。

(牧の辻段で採れた甲虫類)
















ムナキヒメジョウカイモドキは佐多岬から屋久・種子島を経てトカラまで知られており北限記録。ツツノミゾウムシは九州の固有種です。

(ムナキヒメジョウカイモドキ、ツツノミゾウムシ)
















斜面にキノコが付いたアカマツの立ち枯れを見つけ、スプレーイングをしてみるとヒメデオキノコムシ、ケナガツツキノコムシ* Nipponocis longisetosus Nobuchi、コヒラタホソカタムシ*が落ちてきました。

(ケナガツツキノコムシ、コヒラタホソカタムシ)
















国分さんはムラサキツバメを見ただけとか。

築島さんはせっせと、ベイトトラップとFITを設置されていましたが、翌日の回収ではたいした成果はなかった模様です。

その後、嶺の山(標高383m)と遠目木山(標高383m)の南麓を巡る標高200m前後の林道を西へ向かいました。この林道は両山の南斜面で、海面までほとんど森林に覆われていました。

所々、比較的大きな木も見られ、上甑島では最も発達した樹林と言えるかもしれません。

(林道沿い)
















分岐から江石には向かわず、北上しました。里から中甑への幹線道路に出る直前、右手に砂防ダムがあり、覗いてみました。

(砂防ダムの中)
















岸辺にはおびただしいヒキガエルの幼生がいます。真っ黒でまさにオタマジャクシ、五線譜の全音記号そのままです。

(岸辺のオタマジャクシ)






















築島さんの話では、12月に訪れた際も、夜間林道を大きなガマがうじゃうじゃ歩いていたそうで、踏まずに走るのに苦労したそうです。

水域があれば、どこでもこんなにオタマジャクシがいるとすれば当然ですね。

それにして、それだけのヒキガエルが生息できると言うことは水域も周囲の地表もエサが豊富で、天敵も少ないのでしょう。

それで思い出したのですが、今から65年ほど前の幼少期、島原の自宅の前の未舗装の道路には、梅雨前になると、尻尾が取れたばかりの真っ黒の子ガエルが何千何万と這い回ったものです。

その黒い絨毯は、もぞもぞと移動し、馬車や車にひかれていました。

九州を初め、日本本土の大部分の地域では数が激減し、たいていREDものになっているというのに、甑島は違うのですね。改めて島のすごさ・豊穣さを感じました。

夕暮れが迫ってきたので、幹線道路に出て、中甑の民宿みかくに向かいます。一泊二食付き7500円、素泊まり5000円、仕事で長期滞在の方が多いようで、食事はレストランの方でとり、別棟の宿舎に泊まります。
フローリングでしたが、広くて快適な宿でした。

(民宿みかく)
















今坂と国分さんは、さっそく一風呂浴びて、虫の整理をして、それから夕食です。クロダイの唐揚げを始めとして、食べきれないくらいのごちそうが並びました。

築島さんは、夜間採集の用意をしてきたらしく、先ほど立ち寄った砂防ダム付近で白幕を張って灯火採集をするつもり、と言って出て行きました。

午後10時を過ぎても築島さんが帰ってこないので電話をすると、こちらに向かっていると言うことで、ほどなく戻ってきました。

10℃を切って寒かったはずで、成果を訪ねたところ、蛾は多少来たようですが、その他はショボショボだったようです。それより、持参の発電機の調子が悪く、最初の1度目は掛かったもののしばらくして消え、その後は手にマメができるほどスターターを引っ張り続けても掛からなくなったそうです。

(上甑島中甑中野のナイター)



















しようがなくて、車のバッテリー変換と、電池式の蛍光灯で、ねばってみたそうです。

甲虫を見せてもらうと、なんと、ミエコジョウカイ* Lycocerus miekoae (Takakura)が入っていました。

同時に、ライトFITで得られた♀個体は前胸(やや赤みがあり)も含めてほぼ全体黒色で、一瞬、何か?と思いました。

(ミエコジョウカイ♂、♀、黒化型♀)
















実を言うと、本種はこの3月末の今回の時期、多分採れるだろうと狙っていた種の1つでした。記録はされていませんが、アセスメントの標本で天草の標本は確認していたので、甑島にはまずいるだろうと思っていたわけです。

本種は、福岡県の甲虫研究の大先輩、高倉康男氏が最晩年の1987年、大分県祖母山尾平(標高980m)産を基に、奥さんに献名して新種記載された種です。

高倉康男, 1987. 九州産Athemellus属の1新種. 北九州の昆蟲, 34(3): 179-180.

当初、爪に歯状突起が無いことからAthemellus属で記載されましたが、その後、Athemus属、そして現在では、Lycocerus属として扱われています。

Okushima(2005)により、そのホロタイプ標本が図示されていますが、赤い前胸以外は頭・触覚・足・上翅共に真っ黒です。

(ミエコジョウカイホロタイプ写真: Okushima, 2005より改変引用)
















Okushima, Y., 2005. A taxonomic study on the genus Lycocerus (Coleoptera, Cantharidae) from Japan, with zoogeographical considerations. Jap. j. syst. ent. monographic series, (2): 1-383.

それが南に行くほど全体の感じが淡色化し、触角と足が赤褐色になり、薩摩半島先端では上翅まで褐色になったものを見たことがあります。

ミエコジョウカイとクビアカジョウカイは、前者がやや大型で上翅がより長いことと、♂交尾器の側片背板の中央部が、前者では広く浅く抉れるのに対して、後者は狭く深く切れ込むことで区別できます。

(♂交尾器背面、ミエコジョウカイとクビアカジョウカイ)













この後採集した下甑島尾岳(標高450m地点)産はやはり足はほぼ黒色でした。色彩が変わりやすい種のようです。

本種は主として南九州に分布しますが、北部九州には近似のクビアカジョウカイ Lycocerus oedemeroides (Kiesenwetter)が分布します。

(クビアカジョウカイ金毛型♂、♀、黒毛型♂)















九州では上翅に金毛を備える金毛型が一般的で、足や触覚も淡色です。それでも、高山では時に黒毛の黒毛型が出現します。本州の岡山から岐阜まではこのタイプが分布します。

九州での2種の分布を以下に図示します。

(九州におけるクビアカジョウカイとミエコジョウカイの分布)























原図はOkushima, 2005のクビアカジョウカイの分布図(Fig. 183)で、●が彼が示したもの。○は今坂が手元の標本データから追加したものです。

また、▲はやはりOkushima, 2005によるミエコジョウカイの分布図(Fig. 186: 原図は●)、△は今坂が手元の標本データから追加したものです。

これを見ると、クビアカジョウカイの分布は島原半島-菊池阿蘇-九重を結ぶ線より北、ミエコジョウカイは天草-白髪岳-祖母山-別府を結ぶ線より南です。ただ、五家荘周辺では両種が混生するようです。

ほぼ、中央構造線を2種の分布境界にするところが非常に興味深いところです。

つづく