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昆虫掲示板 : 長崎昆総会と阿比留さん採集の彦山産甲虫(その2)

投稿者 トピック
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長崎昆総会と阿比留さん採集の彦山産甲虫(その2)
帰宅してから、預かった長崎市産のタトウを開いてみると、これが思ったより多量の甲虫が含まれていた。

本腰を入れて長い時間かかって同定をし、次のような事が解った。
以下の内容は、そう遠くないうちに、長崎昆の会誌「こがねむし」に、阿比留さんと一緒に報告したいと考えている。

<彦山産甲虫の発生消長>

阿比留さんは、彦山に3月4日から12月1日まで、のべ63日以上出かけられ、407種3182個体を採集されていた。

特に、3、 4、 5月の3ヶ月は、雨の日以外、毎日出かけられていたようで、ほぼ2日に1回の割合で、のべ47日採集されている。

これを半月ごとに集計して、一日当たりの個体数を出したものがグラフ1である。

(グラフ1 半月毎の一日当たりの個体数の消長)















元より、阿比留さんは、モニタリング目的で、毎回、同じ採り方をされたわけではない。
しかし、その採集スタイルを伺うと、多くの場合、その1で述べた経路を通って、ビーティングをしながら山頂まで往復して採集されている。
或る意味、モニタリングと同様と考えて良いと思う。

3月中は20個体程度と少ないが、4月から5月前半はその約倍の4〜50個体程度、5月後半と6月前半は100個体程度に跳ね上がっている。

8月前・後半は、40個体足らずと4月の水準に下がり、9月は10個体程度に減少している。
10月にはまた30個体ほどに戻っているので、8〜10月を通じてこれくらいの感じであろう。

その後、11月、12月と急速に減少している。

ご存じのように、昨年の夏は、北部九州では6月25日くらいからほぼ一ヶ月間豪雨が続き、その後は7月20日くらいから一転して酷暑で、8月一杯は連日35度を超える日が続いた。

ということで、この時期は8月の2日間を除いて採集されていない。
例年では、多少とも梅雨の晴れ間があれば、7月中は4月から5月の50個体程度は、採集可能ではなかったかと思われる。

次いで、種数の消長を見てみよう。
グラフ2が、出現した種数である。

(グラフ2 半月毎の出現種数の消長)













3月から5月末に掛けて、ほぼ一直線状に右肩上がりで種数が増えている。
毎回、半月毎に20〜30種増えていって、5月の下旬がピークで、6月には下がり始めている。
8月以降は20種前後で推移しているが、虫がいないだけではなく、暑くてやる気が出ないことも影響しているかも知れない。

最後に、グラフ3は、半月毎に新しく追加されていく累計種数である。

(グラフ3 半月毎の累計種数)














4月から6月初めに掛けて、次々に、毎回、60種を超える種が追加されている。
しかし、それも、8月以降はほとんど頭打ちで、ごく一部の種しか増加していない。

以上の結果は、かつて、佐賀県武雄市の宇宙科学館の周囲の甲虫調査をした時と、ほぼ同様であった。

今坂正一・西田光康, 2004. 武雄市宇宙科学館周辺の甲虫相. 佐賀の昆虫, (40): 771-804.

上記のテキスト情報は、以下のホームページにも掲載している。

武雄市宇宙科学館周辺の甲虫相
http://www.coleoptera.jp/modules/tinyd1/index.php?id=35

九州の低地での、昼間の任意的な調査では、6月中旬以降は極端に種数が少なくなる。
この後に活動する虫は夜行性の虫が大部分になってしまうのだろう。
事実、夜間の灯火などに集まる虫は梅雨末期をピークにその後も増加した。

昨年の大野原の調査では、多少標高が高いせいか、発生期と増加パターンが長崎市と比較して後に半月〜1ヶ月ほどずれていた。
しかしこちらも、梅雨明けと共に、昼間の虫はピタリといなくなったのは同様であった。

昨年に限らず、殺人的な酷暑の昼間に活動する甲虫は、当然ながら少ないと言うことだろう。

<彦山産甲虫の科別構成と多く見られた種>

阿比留さんは56科407種の甲虫を採集されている。

多い方から、ゾウムシ科55種、ハムシ科52種で、この2科がダントツで多い。
主として、樹の葉と枯れ木の虫たちを叩いての採集というのが、この事から解る。

他のものは半数以下となり、ゴミムシダマシ科26種、テントウムシ科23種、カミキリムシ科23種、ハネカクシ科19種、オサムシ科18種、コメツキムシ科18種、ケシキスイ科16種、コガネムシ科13種、ジョウカイボン科10種、ヒゲナガゾウムシ科10種、タマムシ科9種などと続く。

また、最も多くの個体数が採れている種はキベリチビケシキスイで101個体、次いで、ケナガサルゾウムシ(花上)の96個体、イチゴハナゾウムシの82個体。
最初と3番目のはノイバラの花上と葉上に春先に多い種で、登山道沿いに多く見られるこの木を、連日叩いて拾われたのであろう。

次いで、ウスオビキノコケシキスイ(キノコ)が70個体、ケブカホソクチゾウムシ(エノキ)、アオグロツヤハムシ(キヅタ)、ダルマチビホソカタムシ(キノコの付いた枯れ木)、コフキゾウムシ(クズ)、

コクロヒメテントウ(カシなどの葉上)、ウスチャケシマキムシ(葉上、枯れ草)、マダラアラゲサルハムシ(カシなどの葉上)、ヒサゴクチカクシゾウムシ(枯れ木)、ヨツモンキスイ(花上)、オオアカマルノミハムシ(ボタンズル)、

ケナガマルキスイ(枯れ草)、ルリテントウダマシ九州亜種(キノコ)、クロミジンムシダマシ(キノコ)、ハスモンムクゲキスイ(キノコ)、ムネアカキバネサルハムシ(クズ)、ツブノミハムシ(ノイバラ)、ワモンヒョウタンゾウムシ(葉上)と続く。

九州低地の雑木林の林縁なら、どこにでも多い植物と、枯れ木、キノコなどを叩いて採集されている光景が、これらの種からも推測できる。


さらに、コヒラタホソカタムシ36個体(キノコ)、コナガキマワリ34個体(オオヒョウタンキマワリ・林床の倒木)と続いてくるのは、長崎ならではと言える。

(左:コヒラタホソカタムシ、右:コナガキマワリ)















前者は九州中部以南〜琉球で採れており、同じ長崎県の島原とここ長崎が今のところ北限である。
また、後者は長崎県本土と佐賀県西部の固有種である。

その他、個体数が多くて比較的長崎らしいのは、ツヤケシヒメホソカタムシ、イヌビワシギゾウムシ、ヒメコブハムシ、エグリクロヒメテントウ、ハヤトニンフジョウカイくらいか。


<注目すべき種など>

個体数が少ないが長崎らしいものとして、ナガサキトゲヒサゴゴミムシダマシ(長崎県本土と佐賀県西部の固有種)、ツツノミゾウムシ(九州の固有種)、

(左:ナガサキトゲヒサゴゴミムシダマシ♂、右:ツツノミゾウムシ)















暖地性のオオカンショコガネ、サシゲチビタマムシ、ニホンホホビロコメツキモドキ、ベーツヒラタカミキリ、タケウチヒゲナガコバネカミキリ、ウスグロアシブトゾウムシ、ネジロツブゾウムシなども採れている。

(左:ベーツヒラタカミキリ、右:タケウチヒゲナガコバネカミキリ)















また、比較的珍しい種として、エビチャクビナガハネカクシ、コゲチャミジンムシダマシ、アラキハナノミ、チャイロニセクビボソムシ、ヒメオビニセクビボソムシ、カクチビキカワムシなども上げることが出来る。

(左:コゲチャミジンムシダマシ、右:アラキハナノミ)















ミジンムシモドキは国内1科1種であるが、1.5mm前後と微小で、楕円の球形、褐色というだけで特徴が乏しく、今まで本種と確信できる標本を見ていなかった。触覚や足の特徴から、この個体は間違いなさそうだ。

(ミジンムシモドキ 左:腹面、右:背面)















また、ヒゲナガチビケシキスイは黄色くて平たい微小なケシキスイで、一見ヒラタケシキスイ属 Epuraeaに似る。
昨年、佐賀産の名前が解らず、ホームページに掲載したところ、平野さんからご教示いただいた。
九州とトカラ、沖縄などで記録されている珍品だそうだが、長崎・佐賀の低地では、春先に花上などから見つかる模様。
脛節が太くて丸いのが特徴であるが、今回の写真ではよく見えない。

(ヒゲナガチビケシキスイ)















それから、最近話題の虫を2種。
一昨年出版されて話題になった、平野さんのヒラタムシ上科の1巻で紹介されているアナバケデオネスイ。
この本によると、Lewisが長崎産を基に記載した種というが、今までその事実も標本も知らなかった。

(アナバケデオネスイ)















さらに、ダニの世界的権威青木さんが出した、楽しい採集記と、すばらしい精密画の図説、ホソカタムシの誘惑で紹介されているクロヒメヒラタホソカタムシ。

(クロヒメヒラタホソカタムシ)















こちらは本州以南〜琉球まで分布するが、当然、長崎県の記録は知られていない。

<タケとササの虫>

前回、その1で、ササの葉にタケトゲトゲらしい食痕を認めながら、虫自体は確認していないと言うことを書いた。
その後の山元さんからの情報で、2003年以降に、確かに、いくつか長崎市内で採集されているそうだ。

タケ・ササに付く種としては、モウソウ竹の枯れ木に入るベニカミキリを筆頭に、メダケなどの立ち枯れ茎内に入るニホンホホビロコメツキモドキ、ウスアヤカミキリ、ササセマルヒゲナガゾウムシ、

(左:ニホンホホビロコメツキモドキ、右:ウスアヤカミキリ)















(ササセマルヒゲナガゾウムシ)















タケ・ササの葉上にいるエグリクロヒメテントウとシコクフタホシヒメテントウ、

(左:エグリクロヒメテントウ、左下:同左 ♂腹節末端→中央が抉れている、右:シコクフタホシヒメテントウ)




















タケ類の枯れ葉に多いアカアシヒメコメツキモドキ、ケシコメツキモドキ、ケナガマルキスイなど
タケ関連のものはほぼ全て得られている。

エグリクロヒメテントウとシコクフタホシヒメテントウは、長崎市ではまだ記録されていない。エグリクロヒメテントウは上記写真のように、♂腹節の末端部中央が抉れている。
最近、同定ができるようになったのでいることが解ったのだが、前からいたものと思う。

タケ類の多くは、古い時代に中国や朝鮮から持ち込まれたものと考えられているので、上記の何種かはタケと共に渡ってきたのかも知れない。

<外来種など>

台湾からの外来種であるチャゴマフカミキリは長崎市には広く分布しているが、今回、中国〜朝鮮半島から日本まで分布し、本邦では対馬の特産種と言われていたチュウジョウナガタマムシが得られたことは大変興味深い。

本種はクズに付くので、何時の時代か、クズと共に対馬から持ち込まれたのかも知れない。

(左:チュウジョウナガタマムシ、右:ハスジオオキノコ)















同様の分布が知られるハスジオオキノコもやはり長崎市周辺のみで見つかっているが、こちらはシイタケを含むキノコ類に付く。
あるいは、同様に、キノコの付いた枯れ木が薪として持ち込まれたのかも知れない。

それにしても、名前からお解りのように、阿比留さんというのは間違いなく対馬特有の姓で、ご実家は対馬にある。
対馬から長崎にやって来た阿比留さんが、同じ対馬から来た虫たちを発見するのも、何かの縁かもしれない。

阿比留さんは、今年も、さらにトラップ類も駆使して、調査に意欲を燃やされている。
何が採れるか興味の尽きないところである。