今坂正一の世界
九州の昆虫
自然環境アセスメント
おたより・ログイン
大野原で確認した昆虫類
−長崎県RDBの見直し調査の一環として−

今坂正一
<はじめに>
 佐賀県嬉野市の市街地から南方へ10kmほど下った、佐賀(嬉野市)と長崎(東彼杵町)の県境に大野原(おおのばる)高原がある(図版1-1)。標高450m前後、大部分が自衛隊の演習地に使用されている広大な草原が広がっている。蝶屋さんの間では、オオウラギンヒョウモン(図版1-2)の多産地として全国的に有名で、そのためか、各地から採集者が押しかけ、傍若無人に草原を駆けめぐり、自衛隊と悶着を起こした者もいるやに聞く。
 甲虫屋の立場からすると、むしろ大野原は、国内で数ヶ所しか知られていないルリナガツツハムシ Smaragdina mandzhura (Jacobson)の生息地として、オオウラギン以上に重要な場所に当たる。ルリナガツツハムシ(図版1-4:♂, 5:♀)は大陸性の草原生活者で、中国大陸と岡山県以西の本州、九州で記録されている。しかし、国内の生息地として知られている産地の数はごく少なく、木元・滝沢(1994)のハムシ図鑑では、岡山県川上村、福岡県平尾台、大分県塚原高原の3産地のみが上げられている。その他には、今坂・西田(1991)の中で、西田が佐賀県嬉野町大野原から報告したものと、私自身が同じく自衛隊の演習地である、大分県日出生台の湿原まわりの草地から記録したもの(今坂, 2005)があるだけで、文献で確認できたのは以上の5ヶ所である。
 また、最近、青野(2009)により、岡山市旭川礫河原でもカワラバッタと共に記録されている。ただ、この旭川は、上記、岡山県川上村の同じ流域の60km程度下流であり、本文によると、秋季(10月)に草にひっかかっている死骸を採集されたもので、おそらくは、この河原で発生したものではなく、上流の草地から流されてきた個体のように思える。つまり、確実な産地としては、いまだ、上記5ヵ所に留まると考えられる。
 私は長崎県内で永年採集を続けてきたが、本種の標本を持っていたことや、自衛隊やチョウ屋さんと鉢合わせするのが嫌で、最近まで、特に大野原に出かけたいと思わなかった。しかし、2008年度より長崎県RDB(レッドデータブック)の見直しが開始され、再びその委員を引き受けたのを機会に、本種の生息地である大野原の調査を思い立った。
 2001年に発行された長崎県RDBにおいては、この西田の記録を採用して長崎県産としてRDB種に指定したわけであるが、他に県内の誰も確認していなかったし、自身でも生息状態も含めて良く確認していなかったのである。
  報告するに当たって、大野原を案内頂いた西田光康氏(嬉野市)、文献記録をご教示頂き、自身の歩行虫類などの採集記録を託して頂いた森 正人氏(西宮市)の両氏に心より感謝したい。また、いつもバッタ類などについてご教示頂き、ウンカ・ヨコバイ、ハバチ、クサカゲロウなどと共に同定頂いた田畑郁夫氏(北九州市)、常日頃甲虫類のホスト植物について教えて頂いている小原 静氏(熊本県益城町)、ササキクビボソハムシについて注意を喚起して頂いた佐々木茂美氏(日田市)、比較のためのモモグロチビツツハムシとハコネチビツツハムシを恵与頂いた木附嘉理氏(八王子市)、シマクサアブを同定して頂いた祝 輝男氏(前原市)、ルリナガツツハムシの文献記録をご教示頂いた末長晴輝氏(松山市)の諸氏にも心よりお礼申し上げる。

<初回:5月10日・下見>
 そんなわけで、当の西田さんに無理を言って、大野原を案内して頂いた。嬉野市街地から岩屋川内のダムを経て、ほぼ30分足らずでパッと視界が開ける。見渡す限りなだらかなスロープの草原で、長崎にこんなところがあったのかと感心する。地図で確認すると、ざっと、2km×4km程度、草地が広がっている。演習地のことで、どこが立ち入り禁止で、どこならかまわないのか、気になって尋ねたところ、走っている道は、地元の人が農作業などにも使用する生活道路であるので、演習中の看板や合図の旗が掲げられていない限りは、道路を通行するのはかまわないらしい。草地をむやみに走り回ったり、演習中に侵入したりすると注意されるらしいが、そうでなければ大丈夫、ということで、次回からの単独調査の可能性も考えて、一応安心した。
 西田さんはまず、見晴らしの良い高台に誘導する。ここのススキが、クロモンヒラナガゴミムシのポイントであると、自ら、ススキをかき分けてみせる。普通は、茎とそれを包む葉とのすきまに潜り込んで生活しているらしい。「なるべく大きな株が良い」、と言いつつ、いくつか剥いて見せたが、姿は現れなかった。まだ、時期が早いのかも知れない。
 次に、いくつかある溜め池を巡りながら、通行可能な道を教わる。一部を除いて全て地道で、砂埃がすごい。砂塵防止のために、スピードを出さないようにとの注意書きが見られる。草地を通り抜けると、いきなり人家や水田が現れる。周囲を生活道路が取り囲んでおり、次を曲がると、また、草原へ戻れる。なだらかな起伏といえども、谷間に入ると見通しはきかない。自分のいる位置が掴めなくなる。あっちへ走り、こっちを眺め、説明を聞くが、なかなか全体像と経路が掴めない。まあ、よほどのことがない限り、侵入した道が行き止まりになったり、進入禁止地域に入ったと言われて逮捕されたりはしないようなので、メクラ走りでも、何とかなりそうである。
 肝心のルリナガツツハムシの生息地を尋ねると、「白い綿毛の穂が付いているチガヤが目印だ」と教えて頂いた。実際に採れた谷間の草地に案内して貰うと、チガヤが生えていて、「ここでスウィーピングしたら入った」と言われる。さっそく試してみたが、ダメであった。成虫の時期は6-7月と思われるので、当然そうだろうと思い、その時期にもう一度来ることにする。
大野原での初採集
 忙しい中、案内をして下さった西田さんにお礼を言って別れを告げ、午後から、少しは虫を採って帰ることにする。案内人がいないと、当然ながら、なかなか思った場所に到達できない。いきあたりばったりに、草地や林縁を叩いて廻る。林縁の風通しの良い葉上には、ニシジョウカイボンがひっそり止まっていた。住んでいる久留米の黄色い肢のタイプとは異なり、長崎県のは全て、触角や肢は真っ黒だ。
 草の茎に、大柄のくっきり縞のあるアブ様の虫が静止している。注意深く写真を撮り、その後に採集した。後日、壱岐の調査でも同じものを採集し、ハナアブが専門の祝さんにご教示頂いたら、レッドもののシマクサアブ(図版1-3)で有ることが判明した。
 大汗をかいて、2時間ばかり、叩いて廻って多少の成果があった。
 この中に、特に、面白いものは含まれていなかったが、黒地に四つ紋のあるハガタホソナガクチキムシはちょっと少ない。また、ルリ色のカミナリハムシが3種含まれていて、そのうちの、スジカミナリハムシ本土亜種は長崎県本土から記録されていない。大きな川の河川敷きなどに生える背丈の低いヤナギには必ず付いている種だが、長崎県ではヤナギ林が発達するような大河川はほとんどなく、今まで見つかっていなかったのだと思う。

<2回目:6月25日・ルリナガツツハムシの食草判明>
クロモンヒラナガゴミムシ
 数日ぐずついた天気が続いたが、朝から晴れたので、勇躍、出かけることにした。雨続きの後の晴れ間で、虫がワッと出るに違いないし、前回閉口した土埃が押さえられるのも期待したのである。西田さんに教わった道順のとおり、まず、ススキ原から始める。ススキの大きな株を二三度ビーティングすると、さっそく、クロモンヒラナガゴミムシ(図版1-7)が落ちてきた。数は多くないが、ぼちぼち落ちてくる。大きな株には春の野焼きで焼け焦げた炭の茎が残っていて、これが、本種探しのポイントかもしれない。
 なんとか、生態写真を撮ってみたいと、目を皿のようにして探すが、とても見つからない。教わった葉柄の付け根を剥いてみるが、入っているのは、ニッポンコバネナガカメムシばかり。たぶん、これらをエサにして、こういうところに潜り込んで生活しているのであろう。しばらく探してみたが、大概で諦めた。
モンキアシナガハムシ
 ススキを叩いていても、周辺の草に依存しているものも多く落ちてくる。この場所では、モンキアシナガハムシとサクラサルハムシ、チビアオクチブトゾウムシなどが多かった。最後のものは、比較的広い草地でしか見られない。
 当地のモンキアシナガハムシは大部分、上翅の肩に大きな黄色紋があり、ごく一部に、これがないものも見られる。図鑑には、この肩紋型が掲載されているので、モンキアシナガハムシはこういうものと一般に思われている。しかし、西九州以外では、大部分は肩に黄紋が無く、翅端に狭く黄帯が見られるだけのホタルハムシそっくりの色彩型となる。北海道から九州まで、全国的に広く分布するにもかかわらず、ほとんどがホタルハムシに誤認され、本種の記録は意外に少ない。低地の河川敷や空き地などの、丈の低い草地では、むしろ、ホタルハムシより本種の方が優勢である。大野原では結局、ホタルハムシは見つけることが出来なかった。
 次に、ススキ原の台地から斜面に移動する。林縁近くまでマルバハギが沢山生えていた。これにも焼け焦げた茎が見える。ハギにはチビアオクチブトゾウムシとサクラサルハムシが山ほどいて、ムネアカキバネとマルキバネの両方のキバネサルハムシもいた。ふと、黒くて小さなツツハムシが落ちてきた。一瞬、チビルリツツハムシかと思ったが、青色光沢は見られないので、多分、キアシチビツツハムシの黒化型だろう。さらに、1個体だけだが、黄色地に黒紋の水玉模様の可愛いジュウシホシツツハムシも見つかった。この種もマルバハギに集まる草原性種の代表として、長崎県RDBに掲載されている。なぜ、台地上はススキで、斜面はマルバハギなのか良く解らないが、湿気や日当たりなど、微妙に違うのであろう。集まる虫たちも、重複しながら微妙に違っている。
 今日は、それよりルリナガツツハムシだった。
 溜め池の所まで来ると、岸辺にチラッと白い綿毛が見えた。チガヤかもしれない。教えて貰った場所とは違うがスウィーピングしてみる。
 とりあえず溜め池の水辺まで行って、そこから道路沿いまで、生えている植物が違う色々な場所をスウィーピングしてみよう。イネ科植物の間からルリ色の蛾がチラチラ飛び出したが、あまり見かけない種なのでいくつか採集する。帰宅して調べてみると、マダラガ科のルリハダホソクロバのようである。ネットで調べると、佐賀県と東富士演習場などの写真が公開してある。本種も草原性の種のようだ。その後も、行く先々の溜め池の周りで飛ぶ姿が見られたので、当地では少ない種ではないようである。ホストはバラ科のズミとあるが、ノイバラ以外に周辺にバラ科らしいものはなく、もっと別のものを食べているようだ。
ルリナガツツハムシのホスト
 あちこち採集してみてもクロオビツツハムシとウリハムシモドキが多いだけで、めぼしいものは見つからない。しかし、チガヤのあるところは、繰り返し特に念を入れて採集する。
 ニ〜三回往復して、ネットをのぞき込むと、無数のアオバネサルハムシに混じって、「金緑の虫」がチラリと見えた。
 「イタ〜ッ!!」、ルリナガツツハムシだ。思ったより簡単に見つかった。やはり、チガヤを食べているのだろうか・・・?
 本種のホストについては、図鑑類や、平尾台での高倉(1973)の記録にも食草は未確認と有り、できれば、この機会に解明したいと思っていた。かなりしつこくスウィーピングして、やっと数頭採集し、見上げると、道路の上の台地にもチガヤは生えている。試しに、そちらもスウィーピングしてみる。しかし、いくらここでスウィーピングしても、ルリナガツツハムシは入らない。他の虫もほとんどいない。
 気分を変えて、次の溜め池へ移動する。車を止め、池沿いに歩いてみる。水際にガマが生えているのを見つけて、花穂を花粉だらけになって掬ってみると、2個体だけだがガマキスイが見られた。周囲の草地には、ところどころに、アザミの群落があり、ヒョウモンが飛んでいる。止まったところを近づいて写真を撮る。オオウラギンヒョウモン(図版1-2)のようだ。見ていると、あっちにも、こっちにも飛んでいる。
 溜め池の奥に白い点々が霞んで見えて、チガヤの群落かと思ったのは、野菊の仲間だったようで、諦めてスウィーピングしながら戻ることにする。しばらく歩いてからネットを覗き込むと、無数のアオバネサルハムシと共に、またまた金緑の光が。「オッ、いるではないか・・・」、しかし、この周りにチガヤは無い・・・? キアシチビツツハムシ?もいくつか入ったが、付近に、マルバハギは見られない。
 注意して見ると、細かい葉のついた箒のような植物がそこ・ここにある。アオバネサルハムシが無数についているので、ヨモギの仲間(ヒメヨモギ)と思われる。さらに、その中に混じって姿が似ているけど、ちょっと違う植物もあり、こちらには、サクラサルハムシやキバネサルハムシ類がいる。そうすると、マメ科だが・・・・・そうか、メドハギだ。
 改めて、メドハギを主体にスウィーピングしていくと、思った通りにルリナガツツハムシがぽつぽつ入ってくる。しかし、個体数は少なく、いくら目をこらしてみても、メドハギを食べているものも、メドハギ上に静止しているものすら見つけられない。
 アザミの群生しているところまでスウィーピングしていくと、「ルリクビボソハムシかな?」、と思われる虫がネットに入った。「こいつは、帰ってゆっくり調べる必要がある」と思いながら、次へ進む。最初の溜め池にも、考えてみたらマルバハギは無く、マメ科喰いのハムシたちがいて、どうも、メドハギが有ったような感じがする。チガヤか?メドハギか?、まだ、半信半疑である。
 次に調べた、最奥の溜め池の手前の草地は、かつての水田の跡のようで、なぜか、中心部にまん丸くチガヤの大群落があった。暑くて、多少疲れていて、ちょっと、あそこまで降りていくのが億劫だったが、とにかく、降りて行ってみる。それでも、チガヤの真ん中でスウィーピングをすると、当然のようにルリナガツツハムシが入ってくる。それも、ここは結構個体数が多い。俄然元気が出て、いくつか採集してから、こんどは目視作戦に切り替える。じっと見つめていると、汗が目に入ってくる。しかし見れども見れども、チガヤにはルリナガツツハムシは少しも留まっていない。緑がキラッと光っても、見えるのは、うじゃうじゃいるアオバネサルハムシばかり。見ていくうちに、ここのチガヤの群落の中にも、メドハギがかなり混じっているのに気が付いた。やはり、正解はメドハギのようだ。
 思いついて、チガヤの群落の外に移動してもメドハギはあり、ここで掬うとルリナガツツハムシが入った。「ヨッシャー」とばかり、メドハギと確信する。さらに、チラッと閃いたものがあり、何頭か生かしたまま、メドハギと共に持ち帰ることにする。
 このちょっとした思いつきは、翌日、大正解をもたらした。翌朝、メドハギと共に入れていた容器を開けると、ルリナガツツハムシがメドハギに静止していた。顕微鏡の下まで、振動を与えないように移動して、写真を撮る。マウントしているカップルを見つけて、そちらもそおっと顕微鏡の下に移動して写真を撮る。メスが移動しようとすると、オスはそれを牽制しながら、長い前足でメスの上翅を把握し、交尾を中断されないようにする。この角度のある交尾体勢のまま、オスがメスを把握する必要から、オスの前足は長くなったものと思われる。
 そろそろとメスは移動していくが、オスは把握したまま従っていく。「ん・・・」、茶色くなった食痕が付いている。そう思って見ていると、メスは交尾したまま、葉を囓りだした。思った通り、ルリナガツツハムシのホストの1つはメドハギLespedeza juncea var. subsessilis に違いない。それにしても、メドハギなんて日本中の到るところにあるのに、なぜ本種の産地はたったの5ヶ所なんだろう? 
 なお、後日、末長氏から、本種を岡山県川上村蒜山から記録した渡辺(1994)の報告をご教示頂いた。見てみると、すっかり忘れていたが、同定したのは私自身であり、この中で渡辺氏は「ヤマハギから本種を採集した」と述べ、ヤマハギがホストであることを示唆している。あるいは、ハギ類の複数の種をホストにしているのかもしれない。
 大野原の草原では、メドハギはそこら中に生えていた。しかし、本種を見つけたのは3ヶ所とも、溜め池の周辺の湿気た場所であった。このあたりが、本種の生態のキーポイントであろう。確かに、日出生台で見つけたときも、湿地のワキであった。各地の草原でも、湿地や溜め池など、湿気の多い草地を探すことにより、まだまだ産地は見つかるであろう。
 それにしても、生きている本種の写真(図版1-6)と、標本写真(図版1-4, 5)を見比べて頂きたい。標本は確かに瑠璃色だが、生きて動いているものは青みはあっても、どちらかというとの金緑色である。生きている虫ならミドリナガツツハムシのはずで、ルリナガツツハムシは標本を見ての命名であろう。この色の変化は、多分、死ぬことによって水分が失われ、表面の金属光沢の多層膜構造が多少とも収縮して薄くなり、より短い波長の光を反射するようになることによって起こるものと考えられる。
フキタマノミハムシとオオノミナガクチキムシ
 大野原では草原の間の谷間には、結構森林も発達していた。その林縁の林床のツワブキを掬うと、フキタマノミハムシが採れた。多良山系の記録はまだないので、追加を狙って草掃き採集をやっていると、こんどは大型のノミナガクチキが入った。帰宅して調べてみると、オオノミナガクチキムシ♂(図版1-12:背面, 13:腹面)で、この種も長崎・佐賀両県からまだ記録がない。♂後胸腹板の中央の舟形の隆起と、腹節中央両側の隆起が、種の特徴になる。
ササキクビボソハムシ
 また、採集時に、「標高から考えると、ルリクビボソハムシ(より高標高に分布)かなぁ?」、と気になっていた種は、♂であったのを幸い、交尾器を取り出して確認したところ、まさに、新種と思われている(仮称)ササキクビボソハムシ(図版1-8:背面, 9:♂交尾器側面10:♂交尾器背面)だった。一昨年から昨年にかけて、日田の昆虫巡査こと佐々木茂美氏が、上津江町白草という牧場横の草地で、ギョウトクテントウの多産地を発見したが、この種は、その白草の探索を彼に誘われて実施した際、偶然に彼が2頭、私も1♂を採集したという、注目中の種だったのである。当初、私は多少の違いはあっても、ルリクビボソハムシの小型個体と考えていた。しかし、彼が自身で編集するミニコミ誌 「日田博物ニュース」に♂交尾器を掲載して、「新種?」と書いたので、再度調べ直してみたところ、確かに、少なくとも日本からは未記録の種であることを確認した。最初に採集し、国内から知られていない種であることに気が付いた彼の名前を付けて、友人達に仮称・吹聴している種である。大野原産もまさしくこの(仮称)ササキクビボソハムシだったわけで、確認した2つ目の産地となった。
 その後も、佐々木氏は数個体を白草で追加されており、アザミ葉上からも確認されていて、多分、アザミ(種は未確認)がホストと考えている。大野原でもアザミが沢山あるところで採れたことは、先に述べたとおりである。
 本種と思われるものを、既に、大野(1967)は、山口県の日本海沿岸の離島である見島の低地から記録している。「成虫・幼虫ともアザミ類で生活している、アザミ(ルリ)クビボソハムシとキバラルリクビボソハムシとの中間的形質をもつ小型種」として解説・図示していて、「ミシマクビボソハムシ Lema sp.として記載予定」、と述べているが、なぜかその後、記載はされてはいないようである。本種については、現在、北海道大学の松村洋子氏が詳細な分類学的検討を実施されている。
 近似のルリクビボソハムシが九州ではほぼブナ帯以上の森林林縁に生えるアザミで生活しているのに対して、本種はより低地の草原性のアザミに依存しているものと考えられる。
ハギチビクロツツハムシ
 さらに、気になっていたキアシチビツツハムシの黒化型とした種(図版1-14:♀頭部前面, 15:♀背面)を詳細に調べてみた。雲仙や多良の山頂付近で見つかるキアシチビツツハムシは、例外なく黒地に黄色の紋があるタイプで、一見、当地の黒化型とは違って見える。雲仙産黄色紋型は体長2.8mm、上翅幅1.8mmで有るのに対して、この黒化型は体長2.5mmと一回り小さく、上翅幅も1.25mmでかなり細長い感じがする。各地のマルバハギとメドハギで、10個体余り採集していたので確認してみたが、全て♀だった。上翅の点刻列の感じも違うので、キアシチビツツハムシではないようである。腹面は足を除いて全て黒く、背面も黒くて金属光沢はない。
 原色甲虫図鑑(IV)で木元(1984)がキアシチビツツハムシとして図示しているものは、黒くて細型の個体であり、上記の黄色紋型が本種の色彩変異であることは、その解説中に有るだけである。木元・滝沢(1994)にその色彩変異のパターンが図示してあるが、体形はむしろハギチビクロツツハムシとした方が近く、幅の広い雲仙産黄色紋型のような斑紋パターンは描かれていない。
 手元の標本を改めて見直したら、多良山系五家原岳の山頂で得られた、黄色紋型の♂が見つかった(図版1-16:キアシチビツツハムシ♂交尾器側面, 17:同♂交尾器背面, 18:同♂背面)。体型は細く、黄色紋の発達も少ない。ということは、先の黄色紋の発達したものは♀で、それでよけいに幅が広かったものと思える。確認した♂交尾器は、木元・滝沢図鑑のものに、よく似ていた。ということは、黄色紋型がキアシチビツツハムシで間違いなく、大野原産は同じ♀であってもかなり細く、やはりキアシチビツツハムシとは明らかに別種である。
  さらに、国産の近縁種としては、モモグロチビツツハムシとハコネチビツツハムシがあるが、木附氏のご好意で送って頂いた両種は、前胸腹板に隆起条(前者)や、後縁に突起(後者)があり、この部分が単純な不明種とは、どちらとも合わない。さあ、大変だ。
 ということで、とりあえず、不明種として、ハギチビクロツツハムシ Cryptocephalus sp.と仮称しておく。♂が採れてみないと確定できないが、本種も日本未記録種の可能性が高い。

<3回目:8月4日・オオヒナノウスツボに依存する虫たち>
 北部九州は今年は未曾有の大雨続きで、福岡県各地では災害続きである。8月4日現在、まだ梅雨も明けておらず、こういうことは、何十年ぶりらしい。ただ、大雨のせいで仕事の日程は大幅に変更になり、この夏は妙に、時間が空いてしまった。前日に天気予報を確かめると、晴れ、ということで、この日、大野原を三度再訪することにした。ルリナガツツハムシがいつまで発生するのか、見届けたい気持ちがあった。ササキクビボソハムシももう少し数が欲しかった。さらに、謎のハギチビクロツツハムシの♂を何としても見てみたいと思った。
 やってきた大野原は晴れてはいても空は重く、空気も湿って霞んでいた(図版1-1)。
 上記3種が一度に観察できた二番目の池に行く。なぜか、見渡してもアザミは見えない。花が終わっただけか、と思ったが、トゲトゲの葉も茎も見つからない。草原のあちこちで、長く成長したススキ原は苅られてしまっていたので、アザミも行進や匍匐訓練などの邪魔になるので苅られたのかもしれない? ともかく、今回はササキクビボソハムシはアウトである。佐々木氏が最初に見つけたのは昨年の9月であるので、また、こちらは秋に探してみよう。アザミがまた芽吹いてくれるかどうか、それが心配だが・・・。
 次に、メドハギをスウィーピングする。入るのは、常連のサクラサルハムシとアオバネサルハムシ。しかし、前回に比べるとかなり個体数が少ない。そして、ウリハムシモドキとクロオビツツハムシと、ジュウシホシツツハムシ。前回はジュウシホシツツハムシは1個体見ただけだったが、今回は結構、ぽつぽつと落ちてくる。むしろ、今の盛夏が発生のピークらしい。
 いくらスウィーピングしても、ルリナガツツハムシは落ちてこないし、ハギチビクロツツハムシもダメである。
 ルリナガツツハムシを、西田{今坂・西田(1991)}は6月17日、高倉(1973)は6月21日、私自身は7月16日と前回の6月25日に採集しているので、ほぼ梅雨の始まりから終わりくらいまでが、本種の発生期ではないかと思われる。
 それではと、方針を変えて、溜め池に注ぐ水路両側の丈の高い草地を見に行く。
アシナガハムシ属
 藪の中に他の草に被われながら、大きな葉のヨモギ様の草(図版2-19)が生えている。虫に穴だらけにされているので、これはハムシだろうと思いながらスウィーピングすると、黄褐色のやや大きなアシナガハムシ属(Longitarsus)の一種(図版2-20)が落ちてきた。あちこち叩いてみると、別の植物にも食痕があり、こちらにもいる。目に付く限りのこの2つの植物を叩いて廻って、10個体くらいを確保した。裸眼ではよく見えていないのだが、オオアシナガトビハムシ Longitarsus nitidus Jacobyにちょっと似ている。しかし、後者はヒルガオに付くので、多分、別物。目の前のものは一回り以上小型である。
 アシナガハムシ属は大野さんの総説(Ohno, 1968)があり、20数種が知られているが、クロボシトビハムシなどの数種の普通種を除いて、余り採集できない。それで、手元には一部の標本があるだけで良く解らない。
 三番目の池へ廻ると、既にチガヤの白い花穂の塊は消えていて、一面、緑である。メドハギは勢いよく伸びていて、スウィーピングしてもサクラサルハムシとアオバネサルハムシ以外は殆ど入らない。やはりもうルリナガツツはまったくダメ。変わりにジュウシホシツツはポツポツ入る。しつこくやっていたら、ハギチビクロツツハムシが2つだけ入った。しかしやはり♀しかいない。♂は来年に持ち越しのようだ。
オオヒナノウスツボに付く虫
 窪地の道側の斜面にアシナガハムシの一種がいた草を見つけた。花が付く先端部の茎が枝分かれし、結構、長く伸びている。叩いていると、アシナガハムシの一種も落ちてきた。しかし、こちらはちょっと大きめで、おまけに、上翅の合わせ目に黒い筋がある(図版2-28)。採集品を確かめると、最初のものはこのクロスジが無い。一緒か違うか解らないがとにかく数をかせぐ。そして、一部は、例によって食草と一緒に行かしたまま持ち帰る。
 この草からは、タマアシトビハムシ(図版2-33)や、ごまだら状の紋のあるコロコロした黒いゾウムシ(図版2-23)も落ちてきた。タマアシトビハムシには和名の基になった後肢の爪の先が膨れた様子(球足)が見える。本種のホストはオオバコのみが知られているが、この場所は周囲にオオバコが有るような環境ではないし、5個体も得られたので、まんざらこの草が関係ないわけでも無いかも知れない。すべて、上翅は黄褐色地に黒い縦筋のあるタイプだが、関東には上翅全体が黒くなるタイプがいるらしい。九州ではまだ見たことがない。
 後者のゾウムシの方は、上翅の真ん中に標的のような丸い黒紋があるところから、マルモンタマゾウムシと思われる。よくよく目を凝らすと、花穂に付いて、その蕾をかじっている(図版2-24)ので、ここに産卵するのではないかと思う。こんな特徴的な虫が付くので有れば早晩、ホストである食草の名前は解るだろう。例によって、写真を撮る楽しみに虫と食草を持ち帰る。マルモンタマゾウムシは福岡県の平尾台で記録されている(高倉, 1989)が、長崎の記録はなく、佐賀ではデータを伴わない記録がある。本種も草原性のようである。図鑑を確認すると、本種が付くホストとして、幼虫はフジウツギ、成虫はキリ、オオヒナノウスツボの名があった。
 このオオヒナノウスツボ Scrophularia kakudensisというのは、意味不明の聞き慣れない名前であるが、植物図鑑などで調べてみると、ゴマノハグサ科に属し、名前は「大雛の臼壷」の意。今回見たものはまだ花穂が伸びきっていない蕾の状態のもの、花が開くと赤紫色で、基部が壷を連想させる形をしているらしい。
マルモンタマゾウムシの交尾
 翌日まで容器に入れたままで、一晩経過したマルモンタマゾウムシのカップルは、顕微鏡の下でもおとなしくしていてくれた。その交尾姿勢は非常に特徴的である(図版2-26)。特に、標的に矢を刺すかのように、♂の口吻の先端が、まさに、♀の上翅中央の黒い紋の中心に置かれていることは暗示的である。さらに、♂は、左右の前肢を前方へ長く平行に延ばして、その爪を♀の前胸の前縁に引っかけると同時に、中肢の2本を左右に大きく拡げて、♀の上翅を挟み込んでいる。後から♂交尾器を挿入すると、口吻も入れて5点で、完全に♀を包み込んで固定した形になる。交尾体勢の要(かなめ)の位置に、口吻の先端が置かれている、と言うわけである。
 改めて、オオヒナノウスツボ花穂上の本種の写真を見直すと、翅端にも同様の黒紋が見える(図版2-24)。翅端の黒紋で♀のお尻を確認して近づき、次に上翅中央の黒紋の位置に口吻を移動させると、自然と交尾可能な位置に♂自身の体を置いたことになる。
 本種の黒紋にこんな役割があることは、実際のカップルを見て、初めて思い到った。同属の2種や、近縁属のハイイロタマゾウムシやカミヤコバンゾウムシなどにも、同様の位置に黒紋があるので、こうした意味合いがあるのかも知れない。
 さらに、ホストと成虫を入れている容器を、2日後に確かめてみたところ、何匹かのうじむし型の幼虫が這っていて、その形からゾウムシの幼虫と思われた(図版2-25)。図鑑によると「葉に粘着して幼虫は生活し」とあるように、幼虫の体表は粘液で濡れており、オオヒナノウスツボの若葉と蕾を囓っていたことから、マルモンタマゾウムシの幼虫と考えられる。ホストを採集したときには見かけなかったので、通常は、蕾の間や新芽の中に潜り込んで生活しているものと思われる。
ヒナノウスツボアシナガトビハムシ
 ところで、マルモンタマゾウムシが止まっていた草がオオヒナノウスツボとするなら、それから採れたクロスジのあるアシナガハムシの一種のホストも当然そのはずである。そう思いながら大野の総説を見ていくと、「いたいた!!」、同属のエゾヒナノウスツボを食べる種が出てきた。その名もズバリ、ヒナノウスツボアシナガトビハムシ(図版2-29:♂、30:♀、31:♂交尾器背面、32:♂交尾器側面)で、分布は本州、利尻島、奥尻島である。大野の記載では、上翅中央のクロスジには触れていないので、基産地の奥尻島産にはこのクロスジは無いのであろう。半信半疑で♂交尾器を確認すると、原記載の図にほとんど合うので、この種に同定しておく。記載文は♂交尾器の図だけなので、多分、本種の雌雄の姿が図示されるのはこれが初めてだろうと思う。当然、ホストのオオヒナノウスツボも、九州からの記録も、初めてである。なお、オオヒナノウスツボ自体も長崎県レッド種(VU)に指定されている。
ヒヨドリバナアシナガトビハムシ
 クロスジが有るものはヒナノウスツボアシナガトビハムシと判明したが、では、最初に採ったクロスジの無いものは何だろう。単に、クロスジが消えただけの個体変異なのか?・・・。よく見ると、クロスジがあるものの触角は先端半が黒ずんでいるのに対して、これがないものは触角全体が黄褐色である。触角の長さや、正面からの顔の様子もどことなく違う。思い切って、クロスジ無しも♂を見つけて、解剖してみる。結果、予期せぬ事に♂交尾器は全然違っていた。明らかに別種だ。
 大野の総説の♂交尾器の図より、この種はヒヨドリバナアシナガトビハムシ(図版2-20)に当たった。分布は北海道、本州、四国、九州、南千島、利尻島、対馬で、既に、九州からも記録されているが、当然、佐賀・長崎では知られていない。福岡では、英彦山・平尾台・山田市大法山から記録がある(高倉, 1989)。こちらは、先端がスペート様に広がった特徴的な♂交尾器(図版2-21:♂交尾器背面、22:♂交尾器側面)から、迷うような種はいない。ホストはヒヨドリバナ(キク科)とその近縁種で、そうすると、ヨモギに似た草と思ったものはヒヨドリバナであろうか?
 現地で撮影した写真を小原氏に確認して頂いたところ、サワヒヨドリ Eupatorium lindleyanum (図版2-19)ということで、確かに、ヒヨドリバナの仲間をホストとしているようである。
その他のLongitarsus
 さらに、最初採れた草は全然違うけれども・・・と思いながら、クロスジの無いLongitarsusを見ていると、この中には小さいものから大きいものまで、かなり体長に差があることに気が付いた。試しに、小さい♂を解剖して大野の総説で調べてみると、何と、普段見慣れているはずのヨモギトビハムシだった。結局、サワヒヨドリに混じってヨモギ自体もあったわけで、それらの食草をごっちゃにして、そこにいるヨモギトビハムシとヒヨドリバナアシナガトビハムシも混同していたものらしい。「な〜んだ」、と思いつつ、1つ解らないと思い出すと、全てが未知のものと思いこんでいたのが恥ずかしくなった。
 帰りがけにオオバコをスウィーピングして、オオバコトビハムシも採った。
コミヤアシナガトビハムシ
 オオバコトビハムシは上翅合わせ目にヒナノウスツボアシナガトビハムシ同様のクロスジがある。帰宅して、並べているタトウを見ていると、オオバコトビハムシと思っていた微小な個体の中に、クロスジがないのが混じっていた。体長はさらに小さく、上翅の点刻は逆に粗い感じがする。さっそく、マウントして調べてみると、どうもコミヤアシナガトビハムシ(図版2-34)ようである。解剖してみると♀で、♂交尾器は確認できなかったが、1.6mmと極小で、触角間室隆起の末端が前頭隆起の間に、くさび形に入り込んでいる(図版2-35)ので、多分間違いはないだろう。
 この種は、故・小宮義璋さんが、1966年に伊豆三宅島で採集されたものを基に、上記の大野さんが総説の中で新種記載されている。「そんな昔に、すでに、こんな微小な新種を発見されていたのだ・・・」と、今更ながら、小宮さんの採集力と同定眼に敬服した次第。何度か、この種と思いながら、調べてみたら違ってたというのを繰り返してきたが、ようやく、本種を見つけることが出来た。九州では福岡県の平尾台と香春岳(高倉, 1989)、対馬の記録がある程度。ホストはイヌゴマ・ヤマハッカ・アキノタムラソウ・メハジキが知られており、この種も草原性ではないかと思う。
 結局、1日でLongitarsus属の5種を採集していた。
 今まで、気にも留めていなかったのだが、Longitarsusは全てなで肩で、後翅はあっても短く退化したものがほとんど、先に図示した種には全て、飛翔できるような後翅はなかった。大部分のLongitarsusは飛べないのであろうと思われる。

<4回目:9月24日・オオアオホソゴミムシとセグロイナゴ>
9月末の大野原はハムシも終わり
 9月になって涼しい日が続き、このまま秋になってしまうのかと思われた。しかし、下旬になると気温も上り調子、連日30度近くまで上がり、汗だくの毎日に戻った。寒かった1ヶ月前と入れ替わったような気候で、今年の天気は確かにおかしい。それでも、大野原の秋が気になっていたので、出かけてみた。
 日中は31度まで上がるとの予報が出ていたが、朝の内は爽快である。大野原も見た感じはすっかり秋の気配で、ススキが風に揺れている。見渡すと、あちこち草刈りがしてあり、それらが束ねて放置してある。
 今年は、5月、6月、8月、9月と、だいたい1ヶ月半ごとにこの大野原を訪れていることになるが、草原の様子は、そのつど違っている。草原のヘリや傾斜地など、まったく苅られてない周辺部分もないことはないが、基本的にこの草原はかなり人為的に管理され、マダラ状に年に2-3回は苅られる様だ。当初、この草刈りは、自衛隊が演習の利便のために行っているものと考えていたが、今回、作業をされているのを見ると、近在の農家の方が行われているようで、刈り取った枯れ草も利用されているらしい。あるいは、自衛隊が演習地にする前から、営々と草刈りが続けられ、維持されてきた草原なのであろう。草食性のハムシなどでは、その草刈りのサイクルにうまく適応できたものだけが生息しているのかもしれない。
 枯れ草のドラムが放置してあるこの草地(図版2-44)は、前回、サワヒヨドリが多く、水路沿いにはオオヒナノウスツボも見られた場所である。しかし、見事に苅られており、前回の面影はない。チラチラと黄色いチョウが飛んできて、キチョウかと思ったが、ネットに入れて確認してみるとツマグロキチョウだった。あちこち飛んでいるもの、花で吸密しているもの、黄色いチョウはよく見るとすべてがツマグロキチョウで、キチョウは見つからない。その点でも、確かに、ここは余所とは違う。
 刈り残してある周辺のヒヨドリバナの花には、コアオハナムグリがついていた。ヒヨドリバナアシナガトビハムシを期待してスウィーピングしてみるが、葉には食痕があっても、ハムシは見られない。付近をヒラヒラ飛び回っているヒョウモンは、ツマグロヒョウモンが一番多く、オオウラギンヒョウモンは数が少ない。いても大部分はボロだ。ごくたまに、メスグロヒョウモンも飛んでくる。この周辺では甲虫は期待できそうになくて、、早々に最奥の溜め池横へ移動する。
 例によって、道路沿い下の斜面を中心に、ヤブをメクラめっぽう叩いていく。ポツッと、見慣れない虫が落ちて来たと思ってよく見ると、クロモンヒラナガゴミムシである。叩いた先には、当然、ススキの大きな株が・・・。
 ススキをかき分けながら空いた空間を見ると、期待していたオオヒナノウスツボ(図版2-27)が見える。花も終わり実がなっているようである。揺らさないよう注意しながら叩くと、ちゃんと、ヒナノウスツボアシナガトビハムシが出迎えてくれた。「まだいるんだ」と、楽しくなる。虫たちにも夏の暑さは死活問題らしく、大部分が、草の陰などで日当たりが遮られ、湿気が保たれているような、やや空間のある場所の株に集中している。
 次々に、オオヒナノウスツボを草の波の中から探しながら叩いていくと、マルモンタマゾウムシとタマアシトビハムシも落ちてきた。これら3種が、セットで依存しているようだ。タマアシトビハムシのホストとしても、オオヒナノウスツボを改めて確信した次第。
 一方、ヒヨドリバナはむしろ日当たりの良い場所に点々と開花していて、あちこちに多くの株がありながら、食痕も虫もみられない。こちらはどうも、開花前の幼い株を主として加害するようで、大野原での成虫の発生はもう、終わっている感じがする。ヒヨドリバナが時折混じるメドハギやチガヤの草原を、めくらめっぽうスウィーピングしても、入るのはマルキバネ・ツヤキバネサルハムシとモンキアシナガハムシ、そして、時に、サクラサルハムシくらい。大部分のハムシの発生は、もう終わっている感じである。
フジジガバチ
 遠く大村湾を望む草原のヘリで、風に吹かれながら弁当を食べていると、ハギの花に大きく赤い足のジガバチが飛来してきた。きれいなので思わずネットをつかんで採集する。「あまり見ない種だな」、と思いながら、帰ってから調べるとフジジガバチ(図版2-41)だった。図鑑には生態の記載が無かったが、ネットで調べると、「低山地の露出した裸地に営巣し、ウスムラサキシタバの幼虫を狩る」、とある。周囲は草原と林の境で、林縁の草地が刈られ、赤土が露出し、いかにも本種が営巣しそうな場所である。
マメハンミョウ
 食事をしながら見るとはなく眺めていると、黒くて大きな甲虫が飛んで視界を横切った。春先ならさまざまな甲虫が飛び出すが、この時期に何が飛ぶのか、まったく心当たりがない。気になって、弁当をほっぽり出して追いかけ、着地したところを見ると、なんと、マメハンミョウだ。本種はバッタ類の卵塊に寄生し、成虫は草喰いで時に大集団で農作物まで食害する。かつてはマメ畑などに大発生して、害虫として駆除されていたらしい。今ではそれほど多くはない。夏から秋への変わり目に時折草地で見つけて、「もう、そんな時期か」、と思う。「秋の到来を感じさせる虫」である。その本種が、あんな風に陽光の中を、風に乗って飛んで移動するとは知らなかった。
オオアオホソゴミムシ
 食事を済ませて見渡すと、林沿いの苅られた草はそのまま元の場所に積み重ねられている。こういった枯れ草には、湿気具合にも寄るが、結構、その下にゴミムシ類など様々なものがいるものである。手始めに、赤土に被さっている枯れ草をどけてみると、土がやや湿気ていて、エンマコオロギが走り回り、チラッと、青緑色に光る虫があわてて物陰に走り込むのが見えた。「さては!」、と思って、慌ててどけると、オオアオホソゴミムシ(図版2-42)である。
 この青緑色の草原タイプは、まだ採ったことが無くて、前回の8月にも一応狙ってみた。ススキを叩いたり、石起こしをしたり、多少は探してみたものの、ぜんぜん居る気配が無かった。今になって見られることを考えると、ゴミムシの常として、秋発生で越冬なのだろうか。いろいろやっていれば、いるものはちゃんと採れるものらしい。
 多少本気を出して、苅ってある枯れ草の下にビーティングネットを差し入れ、ひとしきり叩いて廻って、2個体を追加した。大野原から本種を記録した森さんの報文(森, 2009)によると、大野原など九州中部以北の草原の種と、南九州の森林で採れる種は別種らしい。その後の森さんからの私信によると、2種共に既知種であることが解ったと言うことで、近いうちに、決定された学名が公表されるものと思う。
セグロイナゴ
 草が刈られた後の草地を歩いていくと、バッタ類が勢いよく飛び出していく。最も多いのはトノサマバッタで、ショウリョウバッタモドキも多い。不思議と後者がいる草地では、ショウリョウバッタは見られない。局所的に上翅に黒帯のあるクルマバッタが見られ、1個体だけ、セグロイナゴ(旧名 セグロバッタ 図版2-38)を捕まえた。後者は余り見たことがないが、草原性で、頻繁に草刈りが行われる草地を好むようである。
林縁の甲虫
 ここの草地では、他にあまり甲虫が見られないので、林縁を探してみることにする。林縁に沿って歩いていくと、所々、林内へチラチラ陽の当たる小道が入り込んでいて、地表にはオオバコなどが生えており、多少は湿気がありそうである。スウィーピングをしてみると、オオバコトビハムシとヒメフトツツハネカクシ(図版2-36)がそれぞれ2個体と、前胸が赤くて可愛いアカクビヒメゴモクムシ(図版2-37)が沢山入っていた。一般にはそれほど知られていないが、後者も「秋告げ虫」と言っていいような虫である。普段はほとんど採れないが、この初秋の一時期だけ、さまざまな低山地で林縁の草の上に這い上がっているのを見かける。
 さらに林縁を叩いていくと、ネズミモチにクロボシトビハムシが無数に群がっており、セグロニセクビボソムシと、丸くて毛むくじゃらのゾウムシ(図版2-40)も落ちてきた。後者は初めて見るゾウムシで気になったが、コバンゾウの仲間であることしか解らなかった。
 帰宅して検鏡してみると、尾節板は平で、後腿節に小さなトゲがあり、吻は曲がっており、体長2.6mm前後で、図鑑の検索からチビコバンゾウムシに行き着いたが、この種は本州と佐渡の記録しか無く、同定に自信がない。帰るまでにさらに1個体追加し、2個体を保管している。
カヤコオロギ
 さて、そろそろ帰ろうかどうしようかと思いながら、入り口の溜め池付近まで帰ってきた。1番目と2番目の溜め池の間は、谷状の窪地になっており、小さな流れがあり、周辺は湿地状である。前回、ここでも、オオヒナノウスツボを見たので探してみるが、道横の草は広く苅られていて、殆ど残っていない。奥の湿地へ分け入ってみると、思いがけず乾いていて、イノシシの踏み分け道が付いている。草丈もそれほどでもないので、スウィーピングしながら歩いていくと、ネットに細長くて華奢なバッタが入った。先日、別の場所でも採集したカヤコオロギ(図版2-39)である。その折り、仕事仲間で直翅類に詳しい田畑さんから、「人里周辺の良い草地にしかいない」、と教えて頂いたばかり。
 本種は成虫でも飛べる羽や発音器はなく、幼虫のような小羽で、コオロギと言っても鳴かないそうである。図示した個体は産卵管が長いので♀であろう。名前の通り、草丈の低いイネ科植物(カヤ・チガヤなど)に依存し、移動力もないので、分布は局所的になる傾向があるそうだ。本種も人の草刈りに依存している種であろう。
ササキクビボソハムシのホスト
 元湿地のイノシシ道の周囲には、オオウラギンヒョウモンも飛んでいて、ヒョイとアザミに止まる。
 「アザミ」??
 そう、今日、秋の大野原を一度見ておきたいと思った最大の要因は、アザミに来るササキクビボソハムシの探索であった。それが、春にアザミを見たところは草が刈られてしまっていて見つからず、行った場所全てでまったく影も形も無くて、アザミを探していたことすら忘れてしまっていたのである。意外にも、見渡すと、この元湿地周辺には、あちこちにアザミが見られる。それにしても、やけにヒョロヒョロしたアザミだ。葉も、周囲にきょ歯がなく、笹の葉様のほっそりしたのが少し付いていて、あのギザギザゴワゴワした葉の普通のアザミとはまったく違う。それでも、不用意に触るとチクッとしたので、葉の根元あたりに、トゲがあるようだ。「こんなに細い葉では、あまり、ムシには喰うところがなさそうな」、と思いながら叩いていると、それでも、ルリ色のがコロッと落ちてきた。
 「やった!、いたんだ」、と喜んで、それからは現金に本格的に目に見える範囲のアザミを全部叩いたり揺らしたりしてみる。しかし、結局はこの1個体止まり、どうも♀らしい。帰って図鑑で確かめると、ホストはヤナギアザミ Cirsium lineare (図版1-11)のようで、花季は9-10月となっている。春に、ササキクビボソハムシを見つけたあたりに咲いていたアザミは、ちゃんと広葉・トゲトゲの普通のアザミで、多分、ノアザミではなかったかと思う。ということになると、少なくとも春と秋と、このハムシは季節によって違ったホストを利用していることになる。というより、アザミであれば、様々な種をホストに出来る種なのかも知れない。なお、ヤナギアザミについても後日標本を小原氏に確認して頂いた。長崎・佐賀では山野に多いが、熊本・宮崎・鹿児島では少なく、県レッドに指定されているそうである。
  さらに、5回目として、10月6日にも少しの時間立ち寄ったが、追加する種はほとんどなく、虫たちのシーズンも終わりを告げていた。
人為的に草刈りを繰り返されることで維持されてる草原にしか住めない昆虫類
 それにしても、大野原は、探せば探すほど、さまざまな珍しい種を紹介してくれる。その多くが、人為的に草刈りをして、低い草丈を維持されている草原を好む種のようである。かつて、日本中で、そのような草原は、採草地として人里周辺には普遍的に見られたものであろうと思われる。しかし、その後、人々の暮らし方の変化や機械化などで、刈り取った草が農家に必要とされなくなって、急速に消滅してしまった。それに伴い、そういう草原にしか住めない多くの昆虫類も、既に各地で絶滅してしまったものであろうと思われる。
 さて、今年、長崎県のRDBの見直しのために始めた大野原の調査だが、それらの種の内、いったいどこまでをレッド種として指定したものだろう。既にリストアップされているルリナガツツハムシやオオウラギンヒョウモンは別格としても、生態的にほぼ同等なものとして、本文中に上げた種だけでも、十指に余る。

<A: 既に長崎県のRDBにリストアップされている種>
ルリナガツツハムシ、ジュウシホシツツハムシ、シマクサアブ、ツマグロキチョウ、メスグロヒョウモン、オオウラギンヒョウモン
<B: 指定されてはいないがAと同等と考えられる種>
セグロイナゴ、カヤコオロギ、クロモンヒラナガゴミムシ、オオアオホソゴミムシ、ササキクビボソハムシ(学名・未記決定)、ハギチビクロツツハムシ(学名・未記決定)、ヒナノウスツボアシナガトビハムシ、コミヤアシナガトビハムシ、マルモンタマゾウムシ、ルリハダホソクロバ
 それぞれの種について、どうすべきか真剣に考えていきたいものである。

<大野原産昆虫採集リスト>
 最後に、4回に渡る長崎県東彼杵町側の調査で、目撃あるいは採集した昆虫類をリストアップし、別表に示しておく。甲虫の大部分とバッタ類などの一部は採集しているので採集個体数を入れたが(幼は幼虫)、チョウなどは、大部分目撃のみの記録であるので( )中に、目撃数や多・少を入れた。大部分は今坂同定、バツタ、ウンカ・ヨコバイ、ハバチ、クサカゲロウは田畑氏同定。
 採集日は今坂採集分が、A:2009年5月10日、B:2009年6月25日、C:2009年8月4日、D:2009年9月24日、E:2009年10月6日であり、表中・列の頭にABCなどを示している。
  また、森 正人氏からは、自身が2008年4月26-27日に大野原(長崎県側)で採集した甲虫類のデータを筆者に託され、発表することを許可して頂いたので、併せて報告しておきたい。こちらは、F列に採集個体数を入れた。春先の、草丈がまだ十分に伸びきらない半裸地状態の草原に点在する石などを起こして採集されたそうである。
  さらに、今までに報告されている大野原の記録も 銑ノ鵑砲泙箸瓩討澆燭、今回は、甲虫以外の分類群については資料の探索が出来なかった。少なくとも、チョウ類の記録はかなり多いと思われる。その他の分類群も含めて、ご存じの方が有ればご教示頂きたい。
 甲虫類の文献記録としては、代表的なものとして、今坂ほか(1987)、西田(1992)、西田(1994)、大塚(1995)、今坂・西田(2001)などを引用しておく。表中、長崎県側:○、佐賀県側:●、両県共:◎として、記録の有無を示したが、西田(1994)と大塚(1995)は、長崎・佐賀県を区別していないので、両県の記録として扱う。
 引用したのは以下の文献である(年代順)。列の頭に以下の文献ナンバーを示している。
 ズ坂正一・緒方健・西田光康(1987)多良岳の甲虫相. 佐賀の昆虫, (28): 176-260.
   佐賀県側から、ウバタマコメツキとアカハラクロコメツキを記録。
◆ダ湘銚康(1992)1992年5月に嬉野町大野原高原で石の下から採集した甲虫. 佐賀むし通信, (142): 676-677.
   佐賀県側から、オオオサムシ、ヒラタキイロチビゴミムシ、ナガマルガタゴミムシ、オオヨツボシゴミムシ、ヒトツメアオゴミムシ、オオアトボシアオゴミムシ、キボシアオゴミムシ、アトワアオゴミムシ、オオキベリアオゴミムシ、オオアオホソゴミムシ、オオヒラタシデムシ、ヒメカンショコガネ、ナガチャコガネ、ヒラタアオコガネ、ウスチャコガネ、ニシジョウカイボン、アカハバビロオオキノコムシ、ナナホシテントウ、ゴモクムシダマシ、キマワリ九州亜種、アカクビナガハムシ、ドロノキハムシの22種を記録。草原性と思われるヒトツメアオゴミムシとオオアオホソゴミムシの記録は注目される。
.西田光康(1994)1994年春に大野原高原で石の下から採集した甲虫. 佐賀の昆虫, (28): 585-586.
   佐賀・長崎県の区別無しに12種を記録。フトキノカワゴミムシ、アシミゾナガゴミムシ、ヒメツヤマルガタゴミムシ、ニッポンヨツボシゴミムシ、クロモンヒラナガゴミムシ、シロテンハナムグリの6種を追加。クロモンヒラナガゴミムシの記録に注目。
ぁヂ臘遊鯒(1995)大野原高原で採集した甲虫. 佐賀の昆虫, (29): 702-704.
   佐賀・長崎県の区別無しに21種を記録。ニワハンミョウ、セアカオサムシ、キイロマルコミズギワゴミムシ、オオキンナガゴミムシ、ゴミムシ、アカアシマルガタゴモクムシ、アカクビヒメゴモクムシ、ムネアカマメゴモクムシ、ヨツボシゴミムシ、フタホシスジバネゴミムシ、ミイデラゴミムシ、ホソセスジゲンゴロウ、ツマフタホシテントウの13種を追加。草原性のセアカオサムシ、オオキンナガゴミムシ、ヨツボシゴミムシ、珍品のツマフタホシテントウは興味深い。
ァズ坂正一・西田光康(2002)多良岳の甲虫相2001. 佐賀の昆虫, (36): 389-480.
   既知記録を集大成し、49種を記録。両県からルリナガツツハムシとジュウシホシツツハムシを、長崎県側からマメハンミョウを、佐賀県側からフタフシエンマアリヅカムシ、マルムネアリヅカムシ、クロミジンムシダマシ、マルツヤニジゴミムシダマシ、サビカミキリ、キノコヒゲナガゾウムシの6種を追加。

  今回の報文以前に、上記5文献により52種が大野原より記録されていた。筆者を除く西田・大塚両氏、および、今回、採集データ発表の許可を頂いた森氏の興味の中心は歩行虫類にあるので、いきおい、オサムシ・ゴミムシ類の記録が多くなっている。
  森氏は41種を採集されているが、上に記した草原性の歩行虫の稀種は、大部分採集しておられ、さすがに採集巧者の面目躍如である。その上で、エゾカタビロオサムシ、ツヤヒメヒョウタンゴミムシ、ルイスオオゴミムシ、マルガタツヤヒラタゴミムシ、ヒメツヤヒラタゴミムシ、オオクロツヤヒラタゴミムシ、ヒメゴミムシ、ケウスゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、マメゴモクムシ、オオスナハラゴミムシ、アカガネアオゴミムシ、スジアオゴミムシ、クビボソゴミムシ、センチコガネ、フトカドエンマコガネ、クロアシナガコガネ、コアオハナムグリ、ヒメツチハンミョウ、マルクビツチハンミョウ、ヒゲブトゴミムシダマシの21種を追加されている。
 採集リストと共に頂いた私信では、「ほとんどすべてが、草原内の石起こしなどで採集したものです。おもしろかったのは本来樹林(林床)性種と思っていたオオクロツヤヒラタやマルガタツヤヒラタが多く確認されたことです。地域によって生息環境が異なることがあるので、九州では不思議ではないのかも知れませんが、違和感がありました。歩行虫の面でも、オオアオホソをはじめ、セアカオサやオオキンナガなど本来の草地環境依存種がしっかりと残っている、大変貴重な場所との感じを受けています。」とのコメントを頂いた。
  リストアップした種の内、草地性の種については、種名の前に「草」印を付けて示し、その中でも特に、人為的に草刈りを繰り返されることで維持されてる草原にしか住めない、あるいは、特に好むと考えられる昆虫類については、種名の前に「☆」印をつけておいた。
 なお、この会誌の別報文(田畑・今坂, 2009)で報告したように、8月4日に採集した見慣れないクサキリの一種は、田畑氏によりオオクサキリ(図版2-43)と同定され、大野原は九州で3番目の産地であること、やはり、人為的草地に住む稀種であることが判明した。詳細はそちらを読んで頂くことして、採集リストと図版だけ加えておいた。

<まとめ>
 以上、まとめると、文献と森氏採集分、そして2009年度の5回に渡る大野原の調査で記録できた昆虫は、甲虫目が224種、その他の昆虫が44種の計268種である。このうち、明らかに草地に依存する種が107種で、その中に、今回注目した、人為的に草刈りを繰り返されることで維持されてる草原にしか住めない種22種が含まれていた。最後のグループのうち、6種は既に長崎県のRDB種に指定されているが、残りの種についても、検討の必要があるかも知れない。
 また、一部は本文中にも述べたが、今回の報告によって、甲虫では、(仮称)ササキクビボソハムシと(仮称)ハギチビクロツツハムシの2種の日本未記録種、ヒナノウスツボアシナガトビハムシ、チビコバンゾウムシ、ツメクサタネコバンゾウムシの3種の九州初記録種、ツヤヒメヒョウタンゴミムシ、ヒメフトツツハネカクシ、オオノミナガクチキムシ、スジカミナリハムシ本土亜種、コミヤアシナガトビハムシ、ヒヨドリバナアシナガトビハムシ、タマアシトビハムシ、タケトゲトゲ、マルモンタマゾウムシ、クロズマルヒメハナムシ、モンチビゾウムシの11種の長崎県初記録種を記録したことになる。その他の昆虫については、県内の記録について良く調べていないが、オオクサキリは長崎県初記録である。カヤコオロギ、セグロイナゴ、ヨツモンカスミカメ、ウスアカカスミカメ、ハラビロヘリカメムシ、フジジガバチ、シマクサアブ、ルリハダホソクロバなどは記録があったとしても、かなり少ないと思われる。
  大野原は以上のように、稀少な昆虫類が豊富に生き残っている草原である。今回調べることが出来なかった分類群も含めてもっともっと調査されるべき場所であり、それらが今後も維持されるべく見守っていくべき場所であると考えられる。

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大野原で採集したオオクサキリ