今坂正一の世界
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2007年に大分県で採集した興味深い甲虫

今坂 正一・三宅 武

  はじめに
  数年前から九州内の各県の分布記録を整理し始めた。今坂は手始めに、自身のベースである長崎県の概略をプライベートに整理した。佐賀県は西田(2005)によりまとめられた。また、福岡県では高倉(1989a)による膨大なまとめがある。九州近県である広島県は、昆虫全般のデータがまとめられ大冊(比婆科学教育振興会, 1997)が出版され、現在も、整理が続けられている。さらに、山口県は、2007年3月に、今坂が山口むしの会総会の席上、山口県の甲虫相の概略を講演することになり、急遽、田中馨・田中伸一両氏の協力を得て記録されている種をリストアップした。一方、三宅は数年前から大分県産昆虫全体について、記録をまとめる作業を継続していて、今年7400種を越え、現在、8000種に近づくべく努力している。
 そんなわけで、九州中部から広島県までの、長崎・佐賀・福岡・大分・山口・広島の各県については、甲虫類について分布が概観できる状況が生まれてきている。
  今坂はかねてより大分県の九重黒岳、飯田高原、地蔵原、九酔渓方面へたびたび採集に出かけてきた。今年は特に、森林中で生木の樹幹や、キノコのついた立ち枯れなどの表面を箒で掃いてビーティングネットに落とす「幹掃き採集」を実施し(今坂, 2007を参照)、それまでに採集したことの無い多くの甲虫を見いだすことが出来た。また、夏前からはハムシ類に対する興味が高まり、ハムシの食草となる草本の名前を覚えながらハムシ類を探してみた。その結果、例年よりは興味深い種を多く見つけることが出来たと思われるので報告しておきたい。
 すべて2007年に大分県内で今坂が採集、同定・保管しているものなので、年号と県名、採集者名は省略した。採集地名は2回目から簡略に記している。大分県内の文献記録は三宅が、それ以外の記録については今坂が調査した。種毎に、上記各県における分布の有無も概観したい。長崎県の記録は便宜上、本土と離島(対馬・五島など)に分けた。九州内の他の県の情報は、個別に記した以外は、原則として不明(調査していない)ということである。なお、今坂採集以外の未発表のデータも、採集者のご好意で併せて報告させていただいているので、そちらは年号と採集者名も付け加えた。
 常々ハネカクシ類についての同定と分布等のご教示を頂いている伊藤建夫氏(京都府八幡市)、ヒラタムシ上科の文献や種についてご教示頂いた上野輝久氏(福岡市)、大分県内の採集情報について教えていただき未発表データを使用させていただいた佐々木茂美(日田市)・堤内雄二(臼杵市)・岡本 潤(日出町)の各氏、ハムシ類の食草を同定して頂いた塚原和之・小原 静両氏(熊本県益城町)、ハムシ類の文献を恵与頂いた南 雅之氏(武蔵野市)、以上の方々に心よりお礼申し上げる。
 大分県産採集目録
1. カタボシホナシゴミムシ Perigona acupalpoides Bates
  3exs. 由布市庄内町黒岳 9. V. ブナ立ち枯れ樹皮下より。県内の記録は九重山(高倉, 1978)・釈迦岳(荒木ほか, 1994)。福岡、山口、広島。ブナ帯に棲息する種なので、あるいは、長崎・佐賀には分布しないかもしれない。
2. ヒトツメアトキリゴミムシ Parena monostigma (Bates)
 1ex. 九重町地蔵原 20. V. ミズキ葉上より。県内の記録は両子山(高倉, 1986)のみ。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。記録は少ないが、各地の山地で広く見られる。
3. ツツエンマムシ Trypeticus fagi (Lewis)(図1)
 4exs. 黒岳 9. V. 男池のすぐ脇にケヤキの倒木があり、この倒木の樹幹はビッシリと苔むしていて、その上から、特に枝先の方はゴトウヅルが密に着生していた。木自体も丁度良い枯れ頃で、樹皮は剥げかけて隙間だらけだし、湿気や隠れ場所も多く、虫には良い生活場所になっていたようである。この木には、ちょうど春先の発生時期らしくキクイムシ類が多く集まっていて、それらを捕食すると思われる本種や、キノコ食・枯れ木食の多くの甲虫が集まっていた。
 この木の幹掃き採集によりモンキヒラタケシキスイ、ケマダラムクゲキスイ、カタモンムクゲキスイ、ハスモンムクゲキスイ、ベニモンムクゲキスイ、マダラヒメコキノコムシ、コモンヒメコキノコムシ、ヒレルコキノコムシ、チャイロヒゲボソコキノコムシ、アカバヒゲボソコキノコムシ、フタオビコキノコムシが得られ、エゾベニヒラタムシも樹皮下からはい出して、飛んでいってしまった。
 本種の県内の記録は黒岳(城戸, 1995; 大桃, 1996)のみ。山口、広島。九州には近縁のホソツツエンマムシ Trypeticus venator (Lewis)が分布することになっているが、大原(1998)はこの種自体を未検討としている。あるいは、九州産ホソツツエンマムシの記録は本種を意味しているのかもしれないが、九州のどの県の記録かは不明。長崎・佐賀・福岡の記録は無い。
4. オサシデムシ Ipelates striatipennis striatipennis (Lewis)
 3exs. 黒岳 10. XI. 軟らかいキノコより。県内の記録は黒岳(佐々木, 1985)のみ。福岡では熊渡山で採れているが、長崎・佐賀の記録はない。山口、広島。ブナ帯のキノコに集まり、黒褐色のものが本種で、黄褐色のものがウスイロオサシデムシ Ipelates curtus (Portevin)とされるが、両種の関係については、まだ問題があるようである。
5. クロニセトガリハネカクシ Achenomorphus lithocharoides (Sharp)
 1ex. 黒岳 12. IX.  軟らかいキノコより。県内の記録は横川(佐々木, 1985)・一本檪〜屋形木(三宅, 2003)・久留須(環境調査)など、すべて低山地で、ブナ帯で得られたのは珍しい。長崎離島、長崎本土、福岡、山口、広島。本種と次種は、伊藤氏に同定して頂いた別の産地の個体と比較して同定した。
6. ヤマトクビボソハネカクシ Stilicoderus japonicus Shibata
 1ex. 黒岳 9. V. 樹皮下より採集。県内の記録は杉ヶ越(三宅, 2003)のみ。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。山地で稀に見られる。
7. アカヒラタコガシラハネカクシ Philonthus macrocephalus Sharp(図2)
 1ex. 九重町九酔渓 20. V. (伊藤建夫氏同定)、ケヤキ倒木樹皮下。Philonthus属の種としてはひどく扁平で、ヒラタムシ科の様。本州、九州、伊豆諸島の分布が知られているが、上記の県ではいずれも未記録。大分県初記録。
8. ルイスキムネマルハナノミ Sacodes dux (Lewis)(図3)
 1ex. 黒岳 9. V. 葉上より。Sacodes属については、Yoshitomi(1997)による再検討が行われ、本種は九州では福岡(英彦山)、大分(黒岳)、長崎(多良岳)、鹿児島(Kurio)から記録されている。キムネマルハナノミ Sacodes protecta Haroldと共にこの属では最も大型で、雌雄それぞれの腹節末端の形や、♂交尾器などで区別される。後者の九州の記録は霧島のみ確認されているので、各地の記録は再検討が必要である。
9. セダカマルハナノミ Prionocyphon ovalis Kiesenwetter
 1ex. 黒岳 12. IX. 樹葉上より。県内では環境調査の記録が1件知られるている他に、国見町長瀬(1ex. 21. VII. 2007. 岡本 潤採集)と臼杵市立石山(1ex. 7. III. 2003. 堤内雄二採集)で得られている。長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡の記録もあり、低地〜山地まで広く産するようである。本種と次種の幼虫は、樹洞内に溜まった水中で生活するとされており、比較的発達した森林内でのみ見られる。
10.ムツボシマルハナノミ Prionocyphon sexmaculatus Lewis(図4)
 1ex. 黒岳 9. V. 樹葉上より。県内の記録は黒岳男池から九州初(大桃, 1993)として記録され、他にも黒岳(佐々木, 1983; 城戸, 1995)の記録がある。山口で記録されているが、長崎・佐賀・福岡・広島の記録は見あたらない。山地性で、九州では今のところ唯一の産地ではないかと考えている。
11.チャバネクシコメツキ Melanotus seniculus Candeze
 1ex. 地蔵原 20. V. 草地のスウィーピングで得た。県内の記録は九重(松田・中尾, 1976)・日出生台(今坂, 2005)。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。草原で見られるが、河川敷などでも得られ、比較的低茎の安定した草地があれば産するものと思われる。
12.ミヤマクビアカジョウカイ Lycocerus nakanei nakanei (Wittmer)
 1♀. 九重町飯田高原 9. V. グミの花より採集。県内の記録は大船山(Okushima, 2005)のみ、上津江町笹野スーパー林道(1♀. 25. IV. 2007. 佐々木茂美採集)でも見つかっている。福岡、山口、広島。本種は、前胸が赤褐色で、中央に黒紋を持つことにより近縁種と区別できるが、黒紋の大きさはかなり変化する。幼虫は湿地の草の根際で捕食生活をすると考えられている。高倉(1989b)は、英彦山(添田町Muta)からキュウシュウクビアカジョウカイ Athemus kyushuensis Takakuraを記載したが、Okushima(2005)により本種のシノニムにされた。
13.ハロルドヒメコクヌスト Ancyrona haroldi Reitter
 1ex. 飯田高原 9. V. 枯れ木より。県内の記録は黒岳(佐々木, 1981; 城戸, 1993)・天瀬町尾戸(佐々木, 2007)。長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。低地から山地まで各地に広く分布し、キノコ、枯れ木などに見られる。
14.モンキヒラタケシキスイ Epuraea quadrimaculata Reitter(図5)
 2exs. 黒岳 9. V. 前記ケヤキの幹掃き採集による。かなり珍しい山地性の種で、県内の記録は黒岳(城戸, 1993)のみ。北海道〜九州に分布するとされているが、上記各県の記録は見られない。
15.ガマキスイ Telmatophilus orientalis Sasaji(図6)
 63exs. 九重町長者原 5. VII. 池に自生したヒメガマの花穂より。本種は通常、低湿地のガマの花穂より得られ、幼虫・成虫共に花穂の中で生活すると考えられている。今回は1000m近い高地での発見で、しかも、ホストがヒメガマ(塚原・小原両氏が写真で確認、以下もホストとしての植物名は両氏による)なので、別種でないか疑って検鏡したが、本種であった。長崎本土、広島。ガマ類を調査すれば各地で見つかるものと考えられる。大分県初記録。
16.ムネスジキスイ Henotiderus centromaculatus Reitter(図7)
 1ex. 黒岳 15. XI. キノコの一種より。県内の記録は大野川河口〜中流域(環境調査)のみ。長崎本土、佐賀、福岡、広島。
17.キスイモドキ Byturus affinis Reitter
 1ex. 飯田高原 9. V. キイチゴ花上。県内の記録は黒岳(佐々木, 1983・1985)・南畑(三宅ほか, 2006)。本種は山地性で、ほぼ、標高600m以上で出現する。低地にはズグロキスイモドキ Byturus atricollis Reitterが分布し、過去の記録は両者が混同されている可能性が強い。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島の記録があるが、再検討の必要がある。
18.ツノブトホタルモドキ Xerasia variegata Lewis
 1ex. 黒岳 9. V. 樹皮下から得られた。県内の記録は九重山(高倉, 1978)・黒岳(佐々木, 1985)。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。本種は従来山地性と考えられており、城戸(2005)は佐賀県浮岳のアカガシの樹皮下から多数の本種を得たと報告した。実際には低地にも分布しており、佐賀県小城市内の標高100m足らずのクヌギ林でも確認している(未発表)。
19.ケマダラムクゲキスイ Biphyllus flexiosus (Reitter)
 1ex. 黒岳 9. V. 前記ケヤキの幹掃き採集による。県内の記録は黒岳(佐々木, 1983; 城戸, 1993)のみであるが、長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡、広島に広く分布し、低地から山地までキノコ類に見られる。
20.ズグロツヤテントウ Serangium punctum Miyatake
 1ex. 九酔渓 20. V. ケヤキ倒木の幹掃き採集による。県内の記録は黒岳(高倉, 1984; 城戸, 1993)のみ。山地性の稀種で北海道から九州まで分布するが、上記県の中では、福岡県英彦山の記録があるだけ。
21.マダラヒメコキノコムシ Litargops maculosus Reitter(図8)
 1ex. 黒岳 9. V. 前記ケヤキの幹掃き採集による。県内の記録は黒岳(城戸, 1993)のみで、多分、これが九州唯一。山地性でキノコなどに見られ、広島の記録がある。
22.チャイロヒゲボソコキノコムシ Parabaptistes irregularis Reitter(図9)
 1ex. 黒岳 9. V.; 1ex. 黒岳 10. XI. 前記ケヤキの幹掃き採集と、11月にはキノコで得た。長崎本土、佐賀、福岡。上野輝久氏のご教示によると、本種の属名・種小名共に変更されるべきとのことであるが、処置されていないので、従来の学名で示した。大分県初記録。
23.クロコキノコムシダマシ Pisenus rufitarsis (Reitter)
 1ex. 黒岳 12. IX. キノコの一種より。県内の記録は黒岳(今坂他, 1980)のみ。山地性のようで、福岡県では英彦山と古処山の記録が有る程度。長崎・佐賀では記録されていない。山口、広島。
24.ネアカツツナガクチキムシ Hypulus cingulatus Lewis
 2exs. 黒岳 9. V. 苔むしたブナの倒木から採集。県内の記録は黒岳(城戸, 1995)のみであるが、黒岳では比較的見かけるようである。福岡県英彦山の記録があるが、その他の県では記録が見あたらない。
25.アオグロアカハネムシ Tydessa lewisi (Pic)(図10)
 3exs. 黒岳 9. V. 花上より採集。県内では上津江町笹野(1ex. 25. IV. 2007. 佐々木茂美採集)でも得られている。長崎本土、佐賀、山口、広島。福岡県でも採れていたと思うが、未確認。ルリ色の小型の甲虫で、かつてはジョウカイモドキなどの仲間と考えられていた。春先のカエデの花などに集まり、低山地からブナ帯まで分布する。
26.ムナグロオニアカハネムシ Pseudopyrochroa flavilabris Blair(図11)
 1ex. 飯田高原 9. V. カシワの新芽に飛来。県内の記録は黒岳(佐々木, 1985; 城戸, 1997)のみ。北海道、本州、九州の分布が知られるが、上記県の中では広島県の記録のみが見つかった。
27.ジュウモンジニセリンゴカミキリ Eumecocera minamii Makihara(図12)
 2exs. 地蔵原 20. V. カシワ・クヌギ・コナラ林の中にある住居跡のミズキの葉上から、セミスジニセリンゴカミキリ Eumecocera trivittata (Breuning)と共に得られた。県内の記録は黒岳の男池周辺(南・津田, 1984; 南1985)と、飯田高原側の西大原(黒岳周辺と記述されている採集地の地名。文献多数のため省略)の明るいクヌギ・コナラ林で記録されている。山口、広島の記録が知られるが、長崎・佐賀・福岡では無い。
28.サムライマメゾウムシ Bruchidius japonicus (Harold)
 1ex. 飯田高原 7. IX. マルバハキ花上より。県内の記録は槻木(高倉, 1988)・大船林道(三宅, 2007)。長崎離島、佐賀、福岡。ハギ類を探せば、各地で発見できるかもしれない。
29.ムナキルリハムシ Smaragdina semiaurantiaca (Fairmair)
 1ex. 地蔵原 20. V. 草地のスウィーピング。県内の記録は耶馬溪町柴田(九州初: 高倉, 1986)・八面山(環境調査)・三光本耶馬(環境調査)。長崎離島、山口、広島で記録され、本州では平地の河川敷のヤナギでも見いだせる。しかしながら、九州では、長崎・佐賀・福岡での記録が無く、分布しない要因は不明である。ただ、ミズギワアトキリゴミムシ Demetrias amurensis Motschulsky、クロスジチャイロテントウ Micraspis kiotoensis (Nakane et M.Araki)など、本州では平地の河川敷で見られる種で、九州では大分県の高原でしか記録のない種が数種知られているので、本種もその1種と言えるかもしれない。
30.オキナワトビサルハムシ九州亜種 Trichochrysea okinawana meridiojaponica Y.Komiya
 1ex. 地蔵原 20. V. クヌギ樹葉上。長崎本土、福岡、山口(山口市以西)。Trichochrysea属は小宮(1985)による再検討が行われ、従来、トビサルハムシ Trichochrysea japana (Motschulsky)の亜種として扱われていたオキナワトビサルハムシ Trichochrysea japana okinawana Nakane(屋久島〜沖縄)を種に昇格させTrichochrysea okinawanaとした。また、トビサルハムシの四国・九州産個体群を後者の亜種 オキナワトビサルハムシ九州亜種Trichochrysea okinawana meridiojaponica Y.Komiyaとして新亜種記載した。ちなみに、元のトビサルハムシの分布域は山口県以東(山口市以西を含まず)の本州と対馬・朝鮮で、先島諸島産はサキシマトビサルハムシ Trichochrysea sakishimana Y. Komiyaとして区別された。
 この結果、九州からトビサルハムシとして記録されているものは全てオキナワトビサルハムシ九州亜種ということになる。各地のサクラ・クヌギなどの葉上に見られる。
31.ホタルハムシ Monolepta dichroa Harold
 (図13左:背面, 14左:腹面, 15a:♂交尾器背面, 15b:♂交尾器側面)
 7exs. 飯田高原 7. IX.; 1ex. 黒岳 7. IX.; 15exs. 飯田高原 12. IX. マルバハギとクサフジの花と葉上から採集。県内では本種名で平地〜山地から数多く記録されており、長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島など、全ての地域で記録がある。
 しかし、多くは、次種を誤認している可能性が高いので、再検討が必要。本種は佐賀・長崎では山地性で局所的、むしろ少ない。本種は、やや山地の草丈の高いマメ科・タデ科を好み、花によく集まる。頭・前胸は橙黄色だが、頭頂はやや黒ずみ、上翅はほぼ漆黒で、時に翅端は狭く黄褐色(図13左)。腹部は全体黄褐色かあるいは側縁のみ黄褐色(図14左)。♂交尾器は先端手前で急に細くなる(図15a)。
32.モンキアシナガハムシ Monolepta quadriguttata (Motschulsky)
 (図13右:背面, 14右:腹面, 16a:♂交尾器側面, 16b:♂交尾器背面)
 22exs. 飯田高原 7. IX. 放棄水田のイヌタデなどをスウィーピングして採集した。県内の記録は大山町(環境調査)・山国川(環境調査)のみであるが、実際は各地に分布し、大部分は前種に誤認されている可能性が高い。長崎本土、佐賀、福岡、広島。
 本種の図鑑等に図示されている顕著な斑紋の型は、上翅肩部に一対の大きくて丸い黄褐色紋を持ち、翅端も広く黄褐色になるという肩紋タイプである。しかし、このタイプは、長崎・佐賀では主力であるが、福岡以東の地域ではほとんど出現せず(大分県内では肩紋タイプは見ていない)、前種に似た翅端が狭く黄褐色になるタイプ(図13右)が一般的で、一部には、淡色部を全く欠く個体も出現する。こうなると、前種とほとんど見分けが付きにくいが、腹部は常に黒色(図14右)で、頭頂は黒ずむことはなく、頭・前胸は鮮やかな橙黄色(図13右)。低地の河川敷、荒れ地、農耕地など人為的な低茎の草地に多い。前種と共に北海道から九州まで分布するが、♂交尾器は背面から見て先端手前で狭まらずほぼ平行。斑紋タイプの出現比率は地域によって異なるようなので、各地での再検討が必要であろう。
33.テンサイトビハムシ Chaetocnema concinna (Marshall)
 (図17a: 頭部前面, b: ♀背面, c: ♂交尾器斜め側面, d: ♂交尾器背面)
 2exs. 九重町筋湯 5. VII. 放棄水田に生えたタデの一種のスウィーピング。県内の記録は三光本耶馬(環境調査)ほか1件(環境調査)。長崎離島、福岡、広島。本種を含むChaetocnema属は一部の種を除くと小型で特徴が少なく、同定が困難なこともあり、正確な同定に基づく記録は少ない。本種とクサイチゴトビハムシは、イヌタデ・オオイヌタデに見られ、頭頂部には複眼に沿った大型の数個の点刻を除いて、点刻を持たないことでTlanoma亜属に含まれる。本種はクサイチゴトビハムシより大型で、背面は鈍く銅色を帯びる。放棄水田や農耕地など人為的な低茎の草地で見られるが、個体数は多くない。北海道ではテンサイを加害することが知られている。なお、本種以下のトビハムシ類の幼虫は土壌の中で生活し、種によって落葉や、ホストの根を食害しているらしい。そのため、大部分の幼虫が未知である。
34.ヒメドウガネトビハムシ Chaetocnema concinnicollis (Baly)
 1ex. 飯田高原 7. IX.; 4exs. 黒岳 7. IX.; 1ex. 飯田高原 12. IX. 放棄水田・あぜ道・荒れ地などのスウィーピング。県内の記録は三光本耶馬(環境調査)・竹田道路(環境調査)・大野川(環境調査)・大分川(環境調査)。長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。ホストはメヒシバ・エノコログサとされているが、タデ類の多い放棄水田・草地などでよく見る。本種とヒサゴトビハムシは、頭頂全面に点刻を密布し(Chaetocnema亜属)、本種がより小さく細型。普通は銅色だが、時にルリ色の個体も見られる。
35.クサイチゴトビハムシ Chaetocnema granulosa (Baly)
 (図18a: 頭部前面, b: ♂背面, c: ♂交尾器斜め側面, d: ♂交尾器背面)
 22exs. 筋湯 5. VII.; 5exs. 飯田高原 7. IX. 前者はヤナギタデ?、後者はオオイヌタデより採集。県内の記録は大分川(環境調査)のみ。長崎離島、福岡、山口、広島。本種は図鑑類に図示されていないので、今坂にとっては、つい最近まで正体不明であった。南氏からの文献恵与で、平地〜山地のタデ類を普遍的に食害する、本土では最も小型のChaetocnemaが本種であることが判明した。頭頂は数個の点刻のみで、テンサイトビハムシより小型。背面は常に淡いルリ色の光沢があり、点刻がより小さく少なく、上翅はツルッとした感じ。♂交尾器はより太短く、先端手前側方は角張る。河川敷、田圃の周り、放棄水田、荒れ地など、湿気が多くタデ類があればたいてい見られる。和名は、クサイチゴをホストとするキイチゴトビハムシ Chaetocnema discreta (Baly)の誤認によるものと考えられるので、イヌタデトビハムシとでも改名する方が良いかもしれない。
36.ヒサゴトビハムシ Chaetocnema ingenua (Baly)
 3exs. 筋湯 5. VII.; 2exs. 飯田高原 7. IX. どちらも、タデ類の多い放棄水田のスウィーピングで採集した。県内の記録は大野川(環境調査)・大分川(環境調査)。長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。ホストはメヒシバとされているが、タデ類やギシギシなどの多い放棄水田・耕作地・荒れ地などでよく見る。ヒメドウガネトビハムシに似るが大型で、点刻も大きいので解りやすい。通常銅色によく光り、時に青く光る。各地に普遍的に産する。
37.イヌノフグリトビハムシ Longitarsus holsaticus (Linnaeus)
 1ex. 筋湯 5. VII.; 1ex. 黒岳 7. IX. どちらも、オオバコのスウィーピングによる。県内の記録は大分川(環境調査)のみ。上翅が褐色で、翅端のみ赤褐色のツートンカラーで、同定は容易。長崎離島、長崎本土、福岡、山口、広島。やや日陰に生えたオオバコのスウィーピングをすると、多くの次種に混じって、かなり高い確率で本種が混じる。ホストはイヌノフグリとされているが、周辺にほとんどイヌノフグリを見ない場合が多いので、オオバコもホストではないかと疑っている。個体数は少ないが、各地に普遍的に産する。
38.オオバコトビハムシ Longitarsus scutellaris (Rey)
 3exs. 飯田高原 7. IX.; 2exs. 黒岳 7. IX. どちらも、オオバコのスウィーピングによる。県内の記録は毛谷村(高倉, 1988)・柴田(高倉, 1988)・大山町(環境調査)。長崎離島、長崎本土、佐賀、福岡、山口、広島。やや日陰のオオバコの、地面と接する葉の接地面にほぼ確実に見られ、多い。
39.ナスナガスネトビハムシ Psylliodes angusticollis Baly
 1ex. 地蔵原 20. V. 荒れ地のイヌホオズキの一種より。県内の記録は大山町(環境調査) ・大野川(環境調査)。長崎離島、長崎本土、福岡、山口、広島。イヌホオズキは荒れ地・耕作地・草地・河川敷の何処でも見られ、その中には帰化種も含めて何種か含まれていて、植物初心者には同定は困難である。九州では、たいていホオズキカメムシ・ニジュウヤホシテントウと、ルリナガスネトビハムシ Psylliodes brettinghami Balyが付いていることが多い。本種はやや局地期に見られる。ルリ色に光るルリナガスネトビハムシより二回りほど小さく、銅色であるので区別できる。
40.イノコヅチカメノコハムシ Cassida japana Baly
 (図19a: 背面, b: 腹面, c: ♂交尾器背面, d: ♂交尾器斜め側面)
 2exs. 黒岳 7. IX. 林縁のイノコヅチ葉上より。本種は図鑑によって、この名前で掲載されたり、ヒメカメノコハムシ Cassida piperata Hope(図20a: 腹面, b: 背面, c: ♂交尾器斜め側面, d: ♂交尾器背面;図示したのは佐賀産)のシノニムとして抹消されたりを繰り返してきて、原色日本甲虫図鑑(IV)(1984)以来、存在が忘れられていた。最近、南・滝沢(2005)により独立種として復活・認定され、今坂も改めて検討したところ、明らかに別種であることを確認した。そんなわけで、本種としての記録は本県を始めとして上記全ての県で知られていないが、ヒメカメノコハムシとしての記録の内、実際は本種が8割以上を占めていると考えられる。本種はイノコヅチを食草とし、上翅側縁の先端部に黒紋を持たない(図19a)。また、各腿節の基部は黒ずみ(図19b)、♂交尾器の湾曲は少なく、先端前縁は背面方向に反る(図19c, d)。一方、ヒメカメノコハムシはアカザ・シロザの仲間を食草とし、上翅側縁の先端部に一対の黒紋を持つ(図20b)。各腿節の基部は黒ずむ事はなく(図20a)、♂交尾器は中央部で強く曲がり、先端前縁は反らない(図20c, d)。両種共に平地から山地まで広く分布するが、後者はやや局地的である。
41.モンケシツブチョッキリ Auletobius submaculatus (Sharp)(図21)
 1ex. 黒岳 10. XI. 樹葉上より。県内では他に黒岳(1ex. 23. VI. 2004. 三宅 武採集)の採集例もある。本州、四国、九州に分布し、福岡県では釈迦岳の記録がある程度。他に山口の記録があるが、長崎・佐賀・広島からは知られていない。上翅には波曲する灰色の4帯紋を持ち、国内産のチョッキリ類としては特異。山地性の種と思われる。
42.ハナコブチビゾウムシ Nanophyes pubescens Roelofs(図22)
 1ex. 飯田高原 7. IX. クサフジ葉上より。県内の記録は環境調査1件のみ。長崎本土、佐賀、福岡、山口。口吻の触角の付け根背面に一対のコブがあるのが特徴。草地のマメ科植物に見られるが多くない。福岡県では大任町・赤村・小石原村・英彦山など低地から山地まで、広く採集されている。
43.ワルトンサルゾウムシ Phytobius waltoni Boheman(図23a, b)
 1ex. 地蔵原 5. VII. タデ類のスウィーピングによる。イヌタデなどは、タデノクチブトサルゾウムシ Rhinoncus sibiricus Faustなどサルゾウムシ複数種から食害を受けており、場所によりさまざまな種が見られる。本種は北海道、本州とシベリア、ヨーロッパの分布が知られており、九州からは未記録であった。上翅に白紋が斑状にあり(図23a)、口吻が先端幅の3倍以上の長さがある(図23b)のが特徴である。九州・大分県初記録。
44.ギシギシクチブトサルゾウムシ Rhinoncus jakovlevi Faust
 1ex. 黒岳 7. IX. ギシギシ葉上より。県内の記録は八面山(環境調査)・三光本耶馬(環境調査)。佐賀、福岡、山口、広島。ギシギシ葉上に見られるが、普遍的に分布するタデノクチブトサルゾウムシに比べて、かなり局所的、大型で上翅間室にトゲは無く平坦。
45.オビアカサルゾウムシ Coeliodes nakanoensis Hustache
 5exs. 飯田高原 9. V. 春先にカシワ葉上には確実に見られる。県内の記録は黒岳(高倉, 1984)・由布岳(高倉, 1986)・久住高原(三宅, 2007)。福岡県では英彦山で記録されているが、カシワを見かけないので、ホストが何か興味がある。山口、広島。今のところ、高原のカシワで見つかっているので、長崎・佐賀には分布しないものと思う。
46.フトアナアキゾウムシ Dyscerus gigas (Kono)(図24)
 1♂1♀. 黒岳 7. IX. 男池駐車場ワキのケヤキの樹幹で交尾していた。山地性のようで、ホストはホオノキとされる。北海道、本州、九州に分布し、福岡県英彦山でも記録されているが、長崎・佐賀にはいそうにない。山口、広島。大分県初記録。

 まとめ
  以上、2007年に大分県で採集した興味深い甲虫46種を報告した。このうち、ワルトンサルゾウムシは九州初記録で大分県初記録でもある。また、アカヒラタコガシラハネカクシ、ガマキスイ、チャイロヒゲボソコキノコムシ、アオグロアカハネムシ、オキナワトビサルハムシ九州亜種、イノコヅチカメノコハムシ、モンケシツブチョッキリ、フトアナアキゾウムシの8種は大分県初記録である。
 山地性で珍しい種の中には、黒岳のみで確認されている種も多く、ツツエンマムシ、オサシデムシ、ルイスキムネマルハナノミ、ムツボシマルハナノミ、モンキヒラタケシキスイ、ケマダラムクゲキスイ、マダラヒメコキノコムシ、チャイロヒゲボソコキノコムシ、クロコキノコムシダマシ、ネアカツツナガクチキムシ、モンケシツブチョッキリ、フトアナアキゾウムシの12種を上げることが出来る。改めて、黒岳の自然の豊かさを感じる次第である。
 今後とも、大分県の豊かな自然に親しみ、文字通り豊の国の珍しい虫たちと出会い、そのことをできるだけ多くの人に伝えていきたいと考えている。

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