今坂正一の世界
九州の昆虫
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ヤニタケをめぐる甲虫たち

今坂 正一

A.ムネモンコナガクチキ
<黒岳のキノコに集まるこの甲虫は何だ!!>
 2007年11月10日、大分県九重湯坪温泉で、九州むしや連絡会が開催された。会は夕方からで、天気も良いところから、久方ぶりに黒岳に採集に出かけた。男池周辺はちょうど紅葉が始まったばかりで、秋の陽が、色とりどりの木々の葉を照らしていた。
 2時間余り、樹幹やキノコ、樹皮下を探して彷徨った後で、倒木の根本に密集して生える赤茶色のキノコを見つけた。その時は名前が解らなかったが、帰ってから図鑑をながめてみると、革質で表面がビロウト状なので、ヤニタケではないかと思う(図1:幼菌,図2:成熟菌)。
 何層にもなっているので注意して見ていくと、6-7mm の胸が赤くて瑠璃色の上翅をした虫がはい出してきた。キノコの層の間に一杯隠れているらしい(図6)。
 探るといっせいにあちこちに逃げ出すのをあわてて捕まえる。何匹か採集してからちょっと落ち着いて、写真を何枚か撮りながらよく見ると、前胸には4つの黒紋が見える(図4, 5)。
 まったく、見たことのない虫で、「何だ、こりゃ〜」と思わず声を上げる。
 ワクワクしながら、新種だと大変なので、とにかく、数をかせぐ。

 夕方、むしや連絡会の会場に着いて、大分県の甲虫の生き字引のような三宅 武さん・堤内雄二さんを見つけて、さっそく、上記の虫の話を切り出す。
 「橙色の前胸に、4つの黒紋があって、上翅が瑠璃色の虫」と説明しても、みんな首をひねるばかり。「そんなもの、見たことも聞いたこともない」と言う。「何の仲間と思うか?」と聞かれて、「クチキムシ〜ナガクチキのあたりかな・・・」と答えながら、まったく自信がない。
 論より証拠、宿の一室に招いて、さっそく採ってきたばかりのタトウを開く。
 「あらら!! 青い鳥」、青い色はすっかり消え失せて、ただの黒い虫になっていた。
 幻ではない。確かに、採集した時には青い光が見えて、ちょうど、アカアシヒメコメツキモドキのような配色に見えた。撮影した生態写真をデジカメの画面で示して、必死で、「青かった」と弁解する。改めて見直すと、写真でも青みはほとんど見られない。それでも青いと強弁すると、相手も、「うんうん」と、お義理でうなずいてくれる。蛍光灯が暗いせいもあり、「昼間なら青い光が見えるかもしれない」と負け惜しみで思いながら、目の前のタトウには、多数の赤黒い虫が横たわっていた。
 前胸の黒紋も、死んでしまうと鮮やかさが消え、かなりぼけてしまった。個体によっては、前胸の紋が拡大して大部分が黒褐色になるものもいる。黒紋の大きさは、かなり個体変異があるようだ。どちらにしても、三宅・堤内両氏とも、こんなものは見たことがないということで、新種の期待が高まった。お互いに30年近くも黒岳に通っているのに、ある日突然、見たこともないような虫が多量に見つかる。「黒岳はすごいなあ〜」、つぶやきが聞こえた。

<名前調べ>
 帰宅して、さっそく、調べにかかる。概形はヒメクチキムシ類に似ているが、科の検索を引いてみると、クチキムシは爪が櫛状とある。問題の虫は単純で、クチキムシではない。
 小アゴ髭や、前胸腹板の形が、コキノコムシにも似ているので、念のためにフ節の数を数えると、雌雄共に5-5-4で、♂4-4-4・♀4-4-3になるコキノコムシでもない。
 キノコムシダマシも考えてみたが、丸い体形や、触角先端が球桿になるこの科とも違って見える。フ節の数から、異節類には違いないので、他に可能性がありそうなのはナガクチキムシくらいしか思い浮かばない。図鑑を眺めると、前胸の形など、ムナクボナガクチキが少し似ていて、前胸基部両側のくぼみが共通である。しかし、後種は全体単色で、上翅に毛があり、ほとんど無毛の本種とは異なる。この属には、国内では他に種が無く、これで、すっかり手がかりが無くなってしまった。
 最後の望みで、一応、ナガクチキということにして、北九州の昆蟲に連載された水野弘造さんの解説「ナガクチキ漫談」を頭から読んでみた。すると、一通り九州産の説明が終わった後のナガクチキ漫談(6)に「Mycetomaのことなど」と題する一文があり、「先年、中根先生の記載になるムネモンコナガクチキ Mycetoma sapporensis が本誌上に発表され、興味深く読ませていただいた。特に面白かったのは中根先生ですらこの虫を長い間 Mycetochara(クチキムシ科の属)と思っておられたとの記述である。」とある。
 Mycetochara(ヒメクチキムシ)に似てて、ムネモン(胸・紋)コナガクチキという和名から、いきなり、ピーンときた。こいつだ!!
 さっそく、参考文献を探すと、水野さんの報文の数号前の38巻1号に記載があった。見開きに、付図(図35:中根, 1991より引用)が付いている。これを見ると、前胸の黒紋と上翅基部の淡色部の様子など一目瞭然で、この種に間違いない(図25:黒岳産頭胸部)。
 とりあえず、今回の黒岳産をムネモンコナガクチキ Mycetoma sapporensis Nakaneと同定しておきたい。当然、九州初記録になる。
 それにしても、さすがに中根先生、ちゃんと見つけて、記載されている。解説によると、近縁種が極東に Mycetoma affine Nikitsky (国後)と、Mycetoma ussuriense Nikitsky の2種あり、本種は後者に似ていて、前胸の点刻やカラーパターンで区別されるという。水野さんも、中根先生も、ナガクチキかどうか迷われていたようで、私が解らないのも、ごく当然である。あるいは、同様に何の仲間か判断できずに、いずこかの標本箱で眠っている個体もあるかもしれない。
 それにしても、本種は九州大学の昆虫総目録にも出てこないので、水野さんのヒントが無いと、絶対に行き当たらなかったと思う。まあ、この文献を見つけられなかったら、当分の間、新種だと思って、ホクホクしていられたのに・・・と思うと、その点、多少残念な気もする。
 ただ、厳密には、上記の文献の情報からは、真に確定することは不可能で、本当に、Mycetoma ussuriense とムネモンコナガクチキ Mycetoma sapporensis が別種かどうか、また、沢山得られた黒岳産が、Mycetoma sapporensisとまったく同じかどうかは、ホロタイプと比較してみるなど、専門家の目で確認して貰う必要がある。色彩変異はかなり多様であるので、これら全てが同一種の可能性もあるし、あるいは、地域分化している可能性もある。

<水野さんの教示>
 ここまで書いてから、念のために、水野さんに意見を求めてみた。水野さんの返事は次のとおり。
 「Mycetomaを九州で採集されたのは大きなニュースです。四国の剣山あたりでかなり以前から知られていましたので、もしやと考えていました。このナガクチキは晩秋にヤニタケ、ヤケコゲタケに居ることが知られるようになってから、各地の熱心家が探して現在次々と知見が寄せられています。私の手元にも、札幌、宮城県、福島県、東京都奥多摩などの標本が集まりました。同時に、sapporense{(--tomaの形容詞ですから、中根先生も、記載の次々の号で訂正されています)(中根, 1992)。}とaffine が一緒に採れるようになって、sapporenseはaffineの synonymと思われるようになり、最近Nikitsky がsynonymize したように聞いています(実は、未発表:後述)。たしかに黄色の紋は鮮明なのから、真っ黒まで連続するようで、同一種と見るのが自然です。なお、Nikitsky はMycetoma, Hallomenus, Synstrophus, HolostrophusなどをナガクチキからキノコムシダマシTetratomidaeに移しています。歴史的にキノコムシダマシはナガクチキの仲間と見られてきていますので、広義のナガクチキには違いないのですが・・・。」
 やはり、問い合わせておいて良かった。中途半端な知識で、いいかげんな情報を出さなくてよかったと思った。ご教示頂いた水野弘造氏に感謝したい。
 これらの情報を整理すると、以下のようになる。

◎ムネモンコナガクチキ Mycetoma affine Nikitsky
 分布:国後, 北海道(札幌), 本州(宮城・福島・東京), 四国(剣山), 九州(九重黒岳)
 生態:晩秋にヤニタケ、ヤケコゲタケに見られる
 現在の所属:キノコムシダマシ科 Tetratomidae

<再度、黒岳へ>
 こだわるようだが、最初の印象のあの瑠璃色はなんだったのだろう? 私の目の迷いか、はたまた、全ての個体が、死んで魔法が解けて色が変わったのか・・・。もう一度、生きたものを見て確認したいものだ。今なら、生息場所は解っているし、幼虫や卵などを得て、幼生期が解明できるかもしれない。そう思いながら、11月15日再び黒岳に出かけた。
 秋の日は5日であっても季節が進み、林内はより枯れ葉色が濃くなっていた。気温も5度くらい下がり、キノコや虫が見つかるか心配だった。
 しかし、ヤニタケはすぐ見つかった。このまえ、虫を採ったキノコにはさすがに一匹も見られない。長い倒木の別の部分を探すと、この前は気が付かなかったのだが、他に4株ほどあちこちに付いている。注意深く落葉を除け、キノコのヒダの間を見つけると、「いた!!」、まだ、ムネモンコナガクチキが残っていたのだ。注意深く探しながら、写真を撮り、生かしたまま容器に収容していく。残念ながら、何度見直しても、上翅に青い光は見られない。あの時は、たまたま、漆黒の上翅に青空の光が反射したのだろうか?
 数個体採集して、飼うために、キノコの一部もタッパーに詰め込む。
 周囲を見渡して、もう、キノコはないかと探す。しかし、この倒木以外には見あたらない。あれだけ多数の個体がここにあるキノコで発生していたとは思えないので、あちこちにあるはずだ。男池の回りと、かくし水までの往復を、2時間ほどかけて倒木を中心に見て回ったが、結局発見できなかった。ヤニタケがついていた倒木は湿気が多く、川の近くの谷間に倒れていた。登山道ぞいの倒木は大部分乾いていて、ヤニタケ以外のキノコもほとんど見られなかった。ということは、よほど湿気のある場所(川沿いや日陰の谷沿いなど)の倒木にしか見られないのかもしれない。ヤニタケ自体が、珍品なのだろう。先週、ヤニタケに出会い、ムネモンコナガクチキが採集できたのは、よほどの、暁光と言えるのだろう。生きた個体が追加できたことで満足して帰ることにした。
 
<雌雄の特徴>
 採ってきたヤニタケを小分けして虫と共に小タッパーに移す。残念ながら、採った時にヤニタケの下敷きになって潰れた個体と、ヤニタケの間に隠れていた死骸が見つかった。ちょうど雌雄のようなので、♂交尾器を取り出し、体のパーツをバラバラにはずして、台紙に貼り付ける。
  ♂交尾器は三叉状で複雑な形をしており(図24)、特に側片は中央片の基半・背面側方に位置し、先端は二叉する。内側にトゲ状の突起があり(仮に内トゲ: inner spinと呼ぶ)、外側は半周ほどロール状に巻いた葉片(仮に外葉:outer lobeと呼ぶ)を持つ。このあたりに、種の特徴が出るのかもしれない。基片は腹側に付着し、中央片の基部腹側を被う。この構造は、原始的な甲虫の基本的なパターンを呈していて、ホタルやコメツキなどと大差がない。ナガクチキは異節類に含まれ、ゴミムシダマシやハムシダマシに近縁とされているが、かつて調べたヒサゴゴミムシダマシやアオハムシダマシの、一様に筒状で変化のない♂交尾器の形とはまったく似ていない。交尾器だけ見て判断すれば、ムネモンコナガクチキは、ヒゲナガハナノミやホタルの近縁の科にでも入れたくなるかもしれない。
 前回採集した個体も、タトウの上で展足しながら、雌雄に分けて並べてみる(図16, 17)。一見して解る性差は見あたらず、いずれも量的な違いがある程度で区別しずらい。産卵管の一部が露出しているものは雌に違いないので、それらを手がかりに分けていく。
 雄は、雌より触角が長く太く(図18, 19)、小アゴ髭は太く(図18)、上翅は細型で尻すぼみになる。一般に、雄は頭・前胸・腹部など明るい黄褐色(生時は橙黄色)で、前胸の4つの黒紋も小さく、くっきりしているのに対して、雌はやや黒ずみ、前胸の黒紋は拡大することが多く、ぼけて前胸全体が黒ずむ個体までいる。前胸中央側方には、時に三角の黒紋が出現し、雌では出現頻度が高い。雌の腹面もやや濃色で、後胸と腹節は褐色のものが多い。体長は雄が4.8-7.1mm、雌が5.5-8.3mm、雄の最小のものと雌の最大のものでは2倍近い差がある。
 数多く展足して並べてみるといろいろな個体変異が有ることが解った。頭と前胸の点刻は、比較的大きく密なものから、やや小さく疎に見えるものまで変化があり、後者のものは光沢が強い。雌雄とも、上翅は漆黒で、基部のみM字状に黄褐色を呈する。この黄褐色紋の大きさはほぼ一定だが、微妙に変化がある。上翅には、10条ほどの粗く大きな点刻列を持つが、かなり不規則に乱れ、特に合わせ目と側縁では不規則に多くの点刻があり、点刻列が明瞭ではない(図17)。足は黄褐色だが、雌は腿節がやや濃色になる。触角は基部2節と、末端節の先端半が黄褐色で、それ以外は黒褐色、ときにやや淡色。

<文献での情報>
  中根先生がsapporenseを記載するのに参考にされたNikitsky(1985)の文献を見てみたいと思い、水野さんに問い合わせたところ、ヒラタムシ上科を研究されている上野さんが持っているのではないかとの返事だった。彼は九州大学の昆虫学教室で一緒に過ごした仲なので、気楽に頼めるはずだったが、数年、連絡が途絶えていて、住所が解らなかった。インターネットのゴミムシの掲示板に出現するという話があって、問い合わせを出したところ、さっそく、彼から返事があった。検索表を丁寧に訳して教えていただいた。
 「Nikitsky(1985)のもとの論文(英語版)の検索では、次の要領で2種が簡単に区別できるとしています。
1.前胸は光沢があり、前胸背の点刻は粗。上翅第2間室の幅は第3間室の1.7倍以下。黒褐色。頭部前方、前胸の一部と上翅基部は透き通った赤褐色。小あごひげ、触角第1-2、腹面は赤褐色。体長6.0-7.0mm。国後島........................................................................................................affine
2.前胸はくすみ、前胸背の点刻は互いに接するほど密。上翅第2間室の幅は第3間室の倍以上。赤褐色。触角2-11節(第11節の先端部を除く)、頭胸部の一部、上翅(基部、側縁部などを除く)は暗褐色・黒褐色。体長4.5-7.0mm。ハバロフスク南部地域.............................ussuriense」

  他にも、掲示板を見た岐阜の高井さんからは、ロシア語版の上記文献の検索表ページと付図のファィルを送って頂いた。ご教示およびお世話頂いた上野輝久・高井泰の両氏に深謝したい。
 ただ、これらの文献情報からは、affine、ussuriense、sapporenseの正体を正確に掴むことは難しい。中根先生のsapporenseの記載では、sapporenseはussurienseに近いと書かれている。その付図(図35)から類推すると、sapporenseの前胸の点刻が密と判断されて、極端に点刻が疎のように書かれているaffineの絵(図38の5)よりは、むしろussuriense(図38の4)に似ていると考えられたのであろう。ussurienseは前胸は暗色で、斑紋があるとは書かれていないので、斑紋のあるsapporenseは別種と判断されたものと思われる。
  しかし、前記のように、水野さん情報によると、sapporenseはむしろ、中根先生がより似ていないと考えられたaffineのシノニムと考えられており、実際に、水野(1997)、加藤(2002)では、北海道産をaffineの名で記録されている。また、木元(2007)も個体変異の方が大きく、差異は無いとしつつ、東京産をsapporense、青森産をaffineとして報告している。これらの情報が錯綜して、affine、ussuriense、sapporenseの関係がよけい解らなくなった。

<研究者からの情報>
 上野さんからは、ほどなく、Burakowski(1995)によるMycetoma suturaleの生態論文のコピーが届いた。その論文の中には、ホスト、幼虫、卵などと共に、成虫の概形、♂交尾器の形が図示されていた(図39)。Mycetoma suturaleの♂交尾器(図40)では、側片の内側にあるトゲ状の突起(内トゲ: inner spin)は、外側のロール状に巻いた葉片(外葉:outer lobe)の半分くらいで短く、内トゲが外葉より長い黒岳産(図24)とは明らかに区別できることが解った。
  一方、北海道に赴任中の豊嶋亮司さんは、古くからナガクチキムシ類の研究者として知られているが、掲示板を見て必要な文献を送って下さるとの便りを頂いた。
 その中で、「Mycetoma affineはNikitskyにより、M. ussurienseと共に発表されております。M. sapporenseはaffineのシノニムではないかと考え、数年前にDr. Nikitskyに標本を送り、その旨を確認しました。シノニムの処理については、Pal. Cat. 5 にて出版の予定と聞いており、これはまだ印刷中のはずです。なお、Mycetoma属はHallomenus属に極めて近く、私もNikitsky同様にTetratomidae科として考えております。九州のMycetomaはエリトラの色彩変異はいかがですか? 四国の個体では、エリトラの基半分が黄褐色となる個体までが得られておりますので、個体変異の幅は大きいと思います。なお、M. ussurienseは、ハバロフスク産のParatype (♀)を検した限りでは前胸背板の点刻が非常に密でより強く、そのため光沢がありません。また翅鞘は暗褐色で基縁と会合線基部付近が赤褐色、体形もより幅広でaffineとは一見して区別がつきます。」と述べられている。丁寧にご教示いただき、文献を送っていただいた豊嶋氏に心よりお礼を申し上げたい。
  これで、話が2つ片づいた。ussurienseは独立種、そして、sapporenseとaffineは同じ種ということが確認されたが、水野さん情報はちょっとフライングで、まだ正式にはシノニム処理されていないようだ。水野(1997)、加藤(2002)などの報告では、前胸が暗色で斑紋が確認できない個体として、sapporenseとaffineの関係を考慮する以前の段階で、affineとして記録されたものらしい。

<北海道産と九重黒岳産>
  少なくとも北海道産のsapporenseとaffineは同種の個体変異と処理してかまわないとして、では、北海道産と九州産は同種なのだろうか? 九州からは今回が初めての採集記録で、まだ誰もそのことは検討していない。sapporenseがaffineと同種なら、北海道の札幌産と比較したら、九州産が同じか違うか判断できるに違いない。水野さん情報で、嬉野の西田光康さんが北海道産を持っているということなので借用をお願いしたら、即座に雌雄2ペアの札幌産が届いた。西田氏にも、心からお礼を申し上げたいと思う。
 札幌産は、雌雄共に極端に淡色だった(図32, 33)が、これは採集時の殺虫剤の影響らしい。色が淡いためか、黒岳産とはかなり違って見える。少なくとも、札幌産の上翅の点刻列はかなり規則的で、点刻も小さいのに比べて、黒岳産は点刻列はかなり不規則に乱れ、点刻も大きく密である(図16, 17)。♂交尾器は、札幌産は内トゲと外葉の長さが接近しており(図34)、黒岳産の方がより内トゲが長い(図24)ように思える。
  豊嶋さんに「北海道と九州との、分布域の両端で亜種的に変化しているのではないか?」と、私見を述べたところ、「北見、札幌、東京、四国の個体を検しておりますが、点刻の状態は違っていても軽微なものと考えております。前胸背は札幌でも真っ黒(青森産と同じ程度に)と言っても良い個体はいます。交尾器ですが、国内の個体は基本的な形は同じと考えており、多少の地域変異のうちではないでしょうか?」との答えだった。
  直後に、豊嶋さんからNikitsky論文の英語版のコピーが届き、なぜか、こちらにはロシア語版と異なり、タイプの国後産♂交尾器の絵があり(図37)、見ると内トゲは外葉よりやや長く、黒岳産とほぼ同じ形をしていた。この結果から、豊嶋さんの意見のように、現段階では日本産全部がsapporense=affine と考えるべきだと思い直した。
  なお、水野さん情報では、「NikitskyはMycetomaを、Hallomenus、Synstrophus、Holostrophusなどと共にナガクチキ科からキノコムシダマシ科Tetratomidaeに移しています。」と書かれていた。豊嶋さんも、「Mycetoma属はHallomenus属に極めて近く、私もNikitsky同様にTetratomidae科として考えております。」と言われている。残念なことに、Nikitskyがそのように処置した論文をまだ見ていないし、私自身、ナガクチキ科とキノコムシダマシ科の定義が良く解っていない。
 しかしながら、いろいろ見ていたら、1点、前胸腹板の形からはそのことが支持できるかもしれないと思うようになった。ムネモンコナガクチキの前胸腹板後縁中央は、前基節を分けて長く後方へ伸びる(図23)が、ナガクチキの典型であるアオバナガクチキ Melandrya gloriosa Lewis(図43)では後縁中央が山形にちょっとだけ突出するだけで、前基節を分ける程度までは伸長しない。キノコムシダマシ科に属するホソアカバコキノコムシダマシ Pisenus chujoi Miyatake(図42)はほとんどムネモンコナガクチキと同じ。カバイロニセハナノミ Orchesia ocularis Lewis(図41)は、さらに細長く前基節の後ろまで伸びる。ヒメナガクチキ属Holostrophusもキノコムシダマシ科に移されたとしたら、当然、Orchesia属もそうであろう。この特徴は、ナガクチキ科とキノコムシダマシ科を分ける重要な特徴の一つではないかと思っている。

<ムネモンコナガクチキの生態の一端>
  黒岳に2回目に採集に行った折、ヤニタケを探したら、幼菌も見つかった(図1)。幼菌は軟らかく湿気に富んでいて、軸の無いシイタケのような感じで、美味しそうにもかかわらず甲虫類はまったく見つからなかった。ムネモンコナガクチキは層になって生えたヤニタケ成熟菌の間や、材・落葉との隙間(図6)に潜り込んでいるのが見つかり、かなり堅くなった成熟菌と共に、タッパーに入れて持ち帰った。菌の表面は紫味を帯びた赤褐色で、古くなると黒色になるようだ。裏面は白色で、数枚重ねておくと、ムネモンコナガクチキはその隙間に潜り込み、裏面にさかさまに静止しているものが多かった。
 上野さんはBurakowski(1995)の論文を引用して、「Mycetoma suturaleのポーランドでの観察例ですが、晩秋から12月、もしくは1月まで成虫がホストのIschnoderma(ヤニタケ類) 2種に見られ、産卵はおもにキノコの腹側に単体、もしくは数個で行われるようです。期間を通じて産卵が見られますが、♀は産卵後すぐに、♂は交尾後すぐに死ぬようです。幼虫は4月に成熟し、6-7月に土中に潜るとあります。2年目の枯死したキノコは再利用されないようです。」と、その生態を解説してくださった。
 らそれを参考に、しばらく、屋内で飼ってみた。容器内の成虫は、成熟菌の裏面が白い間は静止しているだけで、時折、マウント行動をしているように見えたが、交尾自体は観察できなかった。
  採集後2週間ほど経った頃、菌の表面が黒く変色し、裏面も斑状に褐色味が強くなった。触ると、菌が多少軟らかくなっているのが解った。ふと、菌を持ち上げて裏面を見ると、あちこちに坑が空いていて、そこに潜り込んでいる個体も見られた。雄はそんな雌に交尾を仕掛けようとしていた(図3)。
 それから数日すると、菌の裏面は全体に褐色になり、あちこち坑だらけになった。坑の中に潜り込んでしまって、見えなくなる個体も現れた。あるいは、こんな風に、菌の中に坑道を掘って、生き残った個体は冬越しをするのかもしれない。
  さらに数日放置した後(採集から1ヶ月ほど過ぎていた)、容器の中を見たところ、中が蒸れて全ての成虫が死滅していた。管理ミスと思われ、まだ、寿命ではないようなので、大変残念な気がした。菌裏面にはキノコバエの一種の幼虫が急速に成長して、我が物顔に這い回り、坑を穿ち、菌をどろどろに溶かしている。この虫の影響で卵や幼虫も生き残れないかもしれないと思ったので、見つけたキノコバエの幼虫はなるべく別の容器に移し替えた。しかし、ひるがえって考えると、キノコバエがヤニタケを溶かし、軟らかくして、初めて他の虫たちも食害できるようになるのかもしれず、キノコバエの存在は不可欠かもしれない。その傍証として、別の容器に移したヤニタケからはキノコバエもMycetomaも見つからず、表面に白カビが大分付いたが、キノコは褐色で堅いままで、ほとんど変化がない。
 軟らかくなったヤニタケ表面には、小さくて細い白い虫も無数に蠢いていた。0.1mm前後で、多分、線虫の一種であろう。この虫もヤニタケの分解者として、キノコバエと共に力を発揮しているのかもしれない。
 2-3日後、見直すと、Mycetomaの容器内に幼虫が数頭見られた。1齢と思われる2mm程度でやや扁平、頭・胸部と尾端の数節が褐色の幼虫(図27)はヤニタケの表面を這い回っており、ヤニタケに開けられた坑(径1mm程度)から顔を出していたものは引っ張り出してみると3.5mm程度の円筒形で2齢と思われ、その他にも3-5mm前後の幼虫が容器の底に転がって死んでいる。2齢幼虫(図28, 29)は、尾端の一対の突起を除いて白色で、頭に数個の単眼を列状に備える。1齢と2齢では別種ほど形が違い、1齢は歩き回る形、2齢は潜り込む形のようだ。2齢幼虫はキノコから出てしまうと、再侵入は難しいのかもしれない。一対の尾角が特徴的だが、坑道の中で前進を食い止めたり、後戻りのために使用されると考えられ、ヒラタムシ上科の中で、坑道を掘ってキノコや朽ち木中で生活する幼虫に共通して見られる。Burakowski(1995)の付図にも1齢と終齢の両方の幼虫が図示してあり、よく似ているので、これらの幼虫はMycetomaの幼虫と思われる。
 上野さんのご教示によると、ヤニタケで生活する似た幼虫としてははホソアカバコキノコムシダマシが知られており、この幼虫は尾突起の内側にさらに1対の微小な歯状突起を持つことで区別されるらしい。得られた幼虫はその小突起も見られないのでムネモンコナガクチキの幼虫に間違いないと考えている。その後もキノコを注視していたところ、裏面で卵も見つかった(図26)。長径が1.3mm、短径が0.5mmの前後が丸い円筒形である。
  さらに10日ほど後のクリスマスイブには、別の容器の底を這い回る11-12mmの幼虫が見られた。これは本種の終齢幼虫(図30, 31)と思われ、キノコの外を歩き回っているのは室内の暖かさを春と勘違いして蛹化場所を探しているのかもしれない。2齢と比較して体長が約3倍あるので、この間に3, 4齢くらいが存在した可能性が強い。終齢は再び色づき、頭や背面はやや褐色味を帯びる。肢も発達し、敏速に歩行する。
 幼虫たちが春まで生存して、無事蛹化し、次いで羽化して欲しいが、屋内での飼育ではそこまで到達するかどうか・・・。
 なお、本種の学名はシノニム関係が確立されていないが、国内産として、従来、Mycetoma affine NikitskyとMycetoma sapporense Nakaneが、同種と認識されないままに個別に使用されてきた。ここでは、先に示したように、affineを用いたいと思う。また、和名もaffineの学名と共に、クナシリコナガクチキ(加藤, 2002)、チシマコナガクチキ(水野, 1997)なども使用されているが、最初に使用された和名で、北海道から九州まで分布するという意味で、ムネモンコナガクチキを採用したい。採集データを以下に示す。
◎ムネモンコナガクチキ Mycetoma affine Nikitsky
37♂♂28♀♀. 大分県由布市庄内町黒岳男池 10. XI. 2007. 今坂正一採集.
3♂♂4♀♀. 同上 15. XI. 2007. 今坂正一採集. 他に、幼虫若干数を16〜26. XII. 2007に確認。

B.モンヒメマキムシモドキ
  黒岳でヤニタケと共にムネモンコナガクチキの成虫を採ってきた翌日、虫の生態写真を撮りたいと思って、虫の動きを緩慢にするために前夜から冷蔵庫に入れておいた。黒岳では連日、これくらいの気温には下がっているだろうし、冬越しをするくらいだから耐えられると思ったのだ。翌日、冷蔵庫から取り出してみると、ムネモンコナガクチキは全ての個体が、容器内でひっくり返っており、あわや全滅かと、ガッカリした。虫をつついてみると、微妙に動くので、どうも動けなくなっているだけらしい。急激に温度が下がったからかもしれないが、意外と低温に弱いので、以後は冷蔵庫に入れるのを控えた。
 他にもころがった個体はいないかと、容器内を拡大鏡を使って見回していると、あちこちビッシリと冷蔵庫で冷えて生じた露が付いていて、その中に点々と虫らしいものが見えた。露に掴まって動けなくなっているらしい。顕微鏡下で確認すると、モンヒメマキムシモドキ Derodontus japonicus Hisamatsu(図10: ♂, 11: ♀)で、これも従来、九州から記録のない種と思われ、嬉しい副産物である。これは思わぬ拾いものとばかり、目を皿のようにして容器内を探索する。結局、ちょうど4ペア、8個体が見つかったので、ヤニタケの一部と共に、別の容器に移す。
 翌日確認すると、残念ながら、1ペアは蘇生しなかったが、後の3ペアは元気で活動している。ヤニタケの表面を歩き回ったり(図8)、裏面に静止したりしていた。さらに、次の日見ると、ヤニタケ表面には見られず、上から見て容器内にも見られない。ヤニタケの一片を除けてみると、糞様のものが底一面に付着していて、3ペアとも、その糞に潜ってマウントしている(図7)。ヤニタケをひっくり返してみると白い裏面のいくつかに小穴が空いていて、そこからキノコバエ幼虫の糞が排出されているようで、その付近だけが褐色になっている。モンヒメマキムシモドキは、日によっては、ヤニタケの表面を歩き回ったり、裏面に静止していたりする個体もあつたが、何頭かは必ず底面の糞塊に潜っていたので、かなり、キノコバエ幼虫の糞に執着するものらしい。数日後、ヤニタケの表面・裏面で見られるのは2個体だけになり、後の4個体は行方不明になった。確認していないが、キノコバエ幼虫の坑道を伝って、ヤニタケ内に侵入したのではないかと考えている。
 ムネモンコナガクチキでもそうだったように、モンヒメマキムシモドキもやはり、キノコバエとの関係が深いと想像され、ヤニタケをめぐる虫たちの生活は、どうも、全体として、このキノコバエの存在なくしては、成立しないのかもしれない。
 モンヒメマキムシモドキも九州初記録として報告しておきたいと伝えたら、「Pisenus chujoiとDerodontus japonicusは黒岳から20年ほど前に記録されています。Mycetomaが同時に採れていないのが今となっては不思議なくらいです。」との上野さんの返事だった。あわてて文献を尋ねると、佐々木(1988)が報告しており、確かに大晦日に黒岳でホソアカバコキノコムシダマシと共に採集している。朽ち木や立ち枯れから採集したとあるので、ヤニタケは発見されていないのかもしれない。
 上野さんからは、モンヒメマキムシモドキの幼虫の探索も依頼され、Boving & Craighead(1931)による同属のDerodontus maculatus(アメリカ産)の幼虫図版(図12)のコピーを送って下さった。「Derodontus幼虫は腹部背面に1対の突起列があり(図12の上)、外観がある種のケシキスイにも似た感じです。」と、解説されている。
  Mycetomaの幼虫を確認した際、キノコ中を見渡して、1個体だけMycetomaと違う幼虫(図13, 14)を発見した。側面からのプロポーションはBoving & Craighead(1931)の図E(図12)に似るが、腹部背面に1対の突起列は無く、尾節が細長く突出し、1対の大きな単眼を持つ点なども異なっている。それでも、他にヤニタケに集まる甲虫も思い当たらないので、モンヒメマキムシモドキの幼虫ではないかと疑ってみた。
 しかし、上野さんに確認したところ、「Aleocharinae亜科(ヒゲブトハネカクシ亜科)のものと思われます。第8背板が硬化し突出することからGyrophaena属あたりが近いものかもしれません。」との返事で、ハネカクシの一種らしい。この種がヤニタケのみに依存するかどうかは不明であるが、今更ながら、さまざまな虫がヤニタケで生活しているものと、感心している。
  大晦日になり、既にムネモンコナガクチキ成虫は死滅してしまったが、本種の成虫は、相変わらずキノコバエの糞に潜ったりして元気である。ふと、容器の中を這い回る第三の幼虫を見つけた(図12c)。体長は3.8mm程度、腹部尾突起の形はムネモンコナガクチキと違っており、尾突起の内側には1対の微小な歯状突起は無く(図12b)、6個の単眼が見られる(図12a)ので、こんどこそモンヒメマキムシモドキの幼虫だろうと思って、上野さんに確認したところ、またしても違い、「多分、ケシキスイ(Epuraea属?)ではないか?」との返事であった。腹部背面にはDerodontus maculatusのように、各節1対の突起が縦に並ぶのではなく、末端数節は横に4〜5個の微小な突起が並び、尾突起のある末端節以外は、各節とも突起列が前後に2列並ぶ(図12b)。また、末端節を除く腹端8節の後縁側方には肉質の短い突起が斜め後ろ向きに生じるのも特徴的である。
  結局、残念ながら本種の幼虫は得られそうにない。採集データを以下に示す。
◎モンヒメマキムシモドキ Derodontus japonicus Hisamatsu
4♂♂4♀♀. 大分県由布市庄内町黒岳男池 15. XI. 2007. 今坂正一採集.

C.ホソアカバコキノコムシダマシなど
 上野さんの教示で、ヤニタケに晩秋から現れる甲虫は、ムネモンコナガクチキ、モンヒメマキムシモドキと、ホソアカバコキノコムシダマシであることを知った。黒岳で11月15日に採集した標本を調べるとホソアカバコキノコムシダマシ(図15)も1個体が見つかった。確か、ヤニタケを採集する際、菌を切り取っているときに、裏側に付着していたものを採集したように思う。前述のように、佐々木(1988)が当地から既に記録している。
  そういえば、以前、秋田の尾崎俊寛さんから、これらの甲虫のことを書いた別刷りをいただいたのだった。取り出して読んでみると、その、佐藤・鈴樹・尾崎(2004)のタイトルは、そのものずばり、「本州北部のヤニタケから見出された甲虫類若干種について」というもの。晩秋から冬期にかけて、青森と秋田のヤニタケから見つかった、アラメヒメマキムシモドキ Derodontus tuberosus Hisamatsu et Sakai、モンヒメマキムシモドキ、ホソアカバコキノコムシダマシ、チシマコナガクチキ Mycetoma affine Nikitsky(図36)の、ここまで、延々と書いてきた甲虫類が全て掲載されている。これら3種の越冬中の状態について、Mycetomaについては、「キノコの外側に出ている成虫を見つけることはできなかった。中略。ヤニタケを割って調べると、蛹室のような部屋の中にほぼ一匹づつが入っているところが見出だされ、・・後略。」と述べられている。モンヒメマキムシモドキについては、「表面や傘の下面に静止しているものや、開いた小さな穴に出入りする個体も頻繁に見ることが出来た。」とあり、ホソアカバコキノコムシダマシについても、「多くはヤニタケの内部から見いだされたもので」と記されている。
 最初にこの別刷りを見ておけば、Mycetomaのことも含めて、ヤニタケをめぐる甲虫たちのことが、全体としてより詳しく掴めていたろうと思う。
 私はアラメヒメマキムシモドキは採集できなかったが、「ヤニタケも食餌菌の1つ」と書いてあるので、完全にこのキノコに依存している他の3種とは多少性格を異にするようである。ただ1個体しか、採集できていないホソアカバコキノコムシダマシについては、やはり、少ないように書いてある。もう少し、後の時期に採集すれば、あるいは数が見られたかもしれない。今のところ、飼育中のヤニタケからも見つからないので、これ以上は得ることはできないかもしれない。
 しかし、まったく知識がなかったにもかかわらず、ヤニタケ食の3種が一応網羅できたのは、ホストを採ってきたからである。今後も、キノコ食の甲虫の探索には、キノコとその周囲の樹皮下など隠れる場所のゴミ全てを、一応、回収してきて、自宅でしばらく飼育してみるのが最も効果的であることを、身をもって経験した。冬期の採集も、なかなか楽しいものである。
◎ホソアカバコキノコムシダマシ Pisenus chujoi Miyatake
1ex. 大分県由布市庄内町黒岳男池 15. XI. 2007. 今坂正一採集.

D.まとめ
  偶然に黒岳でヤニタケとムネモンコナガクチキに出会ってから一ヶ月余り、ムネモンコナガクチキの学名調べや生態解明など、久しぶりに熱くなり、楽しい日々を過ごした。
 黒岳のヤニタケからは、以下の3種が見つかった。ハネカクシやケシキスイの不明種の幼虫も見つかっていることから、他にも共存する種があるかもしれない。
モンヒメマキムシモドキ Derodontus japonicus Hisamatsu: 分布:本州、四国、九州
ホソアカバコキノコムシダマシ Pisenus chujoi Miyatake: 分布:本州、四国、九州
ムネモンコナガクチキ Mycetoma affine Nikitsky: 分布:国後、北海道、本州、四国、九州
  文献や上野さんの助言、自宅での観察を総合すると、ヤニタケをめぐる生き物たちの冬は次のように展開していくと推測される。元より野外で確認したわけではないので、大部分は憶測である。
 ヤニタケは10月末〜11月初旬に出現し、軟らかい幼菌のうちに、キノコバエが産卵し、線虫も侵入するのではないかと思う。1〜2週間後、成熟してキノコが堅くなった頃、上記3種の甲虫の成虫が集まる。キノコバエが菌内部に坑道を掘り、出した糞に、モンヒメマキムシモドキは惹かれる。さらに、1〜2週間後、キノコバエと線虫の作用で、ヤニタケが軟化を始め、ムネモンコナガクチキが坑道を掘り始める。モンヒメマキムシモドキはキノコバエの坑道を伝って、ヤニタケ内部に侵入する。ホソアカバコキノコムシダマシも多分同様であろう。この頃までに、ムネモンコナガクチキを始めとして交尾・産卵を始め、寒さを避けるためにも、成虫はヤニタケ内部に侵入していく。1〜2週間して、ムネモンコナガクチキの1齢幼虫が孵化する頃には、ヤニタケはキノコバエと線虫の作用でどろどろに融けている部分も出現し、1齢幼虫は歩き回って、そのような軟らかい部分を見つけると脱皮して2齢となり、ヤニタケ内部に食い入っていく。ムネモンコナガクチキは、積算で発育可能な暖かい日が約2ヶ月ほどあれば卵から終齢まで達するようである。ブナ帯であれば、11月から5月くらいまでの間に、それくらいの日数が稼げるのかもしれない。ムネモンコナガクチキ成虫は交尾と産卵をしながら、序々に死に絶えるが、一部は春まで生き残って、ヤニタケ内部に止まる。モンヒメマキムシモドキとホソアカバコキノコムシダマシの成虫は、ムネモンコナガクチキ以上に遅くまで生存し続けるようである。
  それにしても、最近のインターネットの威力には、つくづく感心する。文献記録の探索は、大部分がインターネットによる呼びかけで得たものである。呼びかけに応じて、数々のご教示をいただいた水野、上野、豊嶋、高井、西田の各氏に重ねて心より厚くお礼を申し上げる次第である。また、有意義な別刷りを恵与いただいた尾崎氏、いつも大分県内の甲虫について教示いただいている三宅・堤内両氏にも厚くお礼を申し上げる。

引用文献
Boving, A. G. & Craighead, F. C. (1931) An illustrated synopsis of the principal larval forms of the order Coleoptera. Entomologica Americana (N. S.), 11: 1-351.
Burakowski, B. (1995) Biology and life-history of Mycetoma suturale (Panzer) (Col., Melandryidae), with a redescription of the adult.: 491-502. In: J. Pakaluk and S.A. Slipinski, eds., Biology, Phylogeny, and Classification of Coleoptera: Papers Celebrating the 80 th Birthday of Roy A. Crowson. Museum i Instytut Zoologii PAN, Warszaw.
加藤敏行(2002)道東の甲虫の話題. 昆虫と自然, 37(12): 4-8.
木元達之助(2007)東京都でムネモンコナガクチキを採集. 甲虫ニュース, (160): 6.
水野弘造(1992)ナガクチキ漫談(6)−Mycetomaのことなど−. 北九州の昆蟲, 39(2): 105-107.
水野弘造(1997)特集・かくれた人気甲虫 ナガクチキムシ. 昆虫と自然, 32(2): 4-8.
中根猛彦(1991)日本の雑甲虫覚え書7. 北九州の昆蟲, 38(1): 1-9.
中根猛彦(1992)日本の雑甲虫覚え書9. 北九州の昆蟲, 39(2): 73-79.
Nikitsky, N. B.(1985)The genera Mycetoma Mulsant 1856 and Orchesia Latreille 1807 in the Eastern Palaearctic (Insecta: Coleoptera: Tetratomidae, Melandryidae). Senckenbergiana biol. 65(1984)(3/6): 265-277.
佐々木茂美(1988)1987年大晦日の黒岳採集行. 二豊のむし, (20): 31.
佐藤隆志・鈴樹亨純・尾崎俊寛(2004)本州北部のヤニタケから見出された甲虫類若干種について. Celastrina, 39: 51-59.


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2006年に鹿児島県南さつま市で採集した甲虫
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