今坂正一の世界
九州の昆虫
自然環境アセスメント
おたより・ログイン
2006年に鹿児島県南さつま市で採集した甲虫
                                                                                
今坂 正一

はじめに
  鹿児島県大隅半島南端にある佐多岬は,南方系の昆虫が豊富なことで特に有名である.近年にはオオスミヒゲナガカミキリなどの発見により,甫与志岳や稲尾岳など,多くの甲虫屋が毎夏,大勢で大隅半島通いを繰り返している.
 それに引き替え,薩摩半島へは絶えて採集行の話や成果を聞いたことがない.かつて,今給黎靖夫氏が枕崎市を中心に活動されていた折りには,長崎市とこの枕崎市周辺でしか見つかっていないモンキタマムシの話題を伺ったり,近年記載されたミエコジョウカイの赤足になるタイプを見せていただいたことを思い出す程度である.その後,氏が関西に移られて以来,薩摩半島の鹿児島市より南の地域の甲虫の記録は見られなくなっている.
  薩摩半島中・南部は,大部分が小高いシラス台地に被われ,切り立った谷間が刻まれている.台地上は大部分がタバコ・サツマイモなどの耕作地で植生に乏しいが,谷間は思ったより豊かな植生が残されている.特に,半島南西端に近い南さつま市の坊津周辺には,南方系の珍しい植物も豊富であるとの情報を得て,仕事のついでに訪れ,その魅力をかいま見たので報告しておきたい.なお,従来,鹿児島県薩摩半島の西南端に位置していた,北より,金峰町,加世田市,笠沙町,大浦町,坊津町の5つの自治体が,2005年11月に合併して,南さつま市が誕生したが,今回は,そのうち,坊津町を中心に,笠沙町と大浦町で採集した.同定と標本の保管は筆者.
  なお,南さつま市周辺の採集地情報についてご教示いただいた熊本市の塚原和之氏と小原 静氏,採集に同行し貴重な甲虫標本を恵与いただいた北九州市の田畑郁夫氏,南さつま市におけるキボシカミキリの亜種についてご教示いただいた今給黎靖夫氏,本文の搭載についてご尽力いただいた本誌編集部の古川雅通氏に心よりお礼申し上げる.
  田畑氏採集の甲虫については,別の報告でも多くの種を記録した.最初,そちらの報告に加えるつもりでデータを取り始めたのであるが,南さつま市には筆者も同行し,一緒に,あるいは別行動で採集を行ったので,二人分をまとめて報告することにした次第である.

採集状況
  南さつま市へは,筆者と田畑氏の二人で,2006年4月23〜24日と,同年7月13〜14日の2回,採集に訪れた.
 一回目の4月23日は,二人で,昼過ぎから坊津町の車岳山麓を海岸線と平行に走る林道で採集を行い,翌4月24日は,朝から再び車岳の林道を二人で覗いた後,二手に分かれて,筆者は,海岸沿いに笠沙町馬取山まで走ってその周辺で採集した.田畑氏は,林道沿いに,坊津町長者山〜今岳北林道,坊津町平崎,坊津町林道掛橋線などで採集されたようである.
  二回目の7月13日は,同様に二人で,昼過ぎから車岳山麓の林道で採集を行い,筆者のみ短時間,坊津町丸木浦海水浴場に移動してしばらく採集の後,車岳の林道に戻って,夕刻から各人白幕を張っての夜間採集.翌7月14日は,田畑氏のみ大浦町磯間岳岩登りコース入口で採集されたようである.

南さつま市産甲虫目録
  以上の採集結果をまとめたのが表−1である.春と夏,二人でのべ4日間の採集で,37科174種1亜種の甲虫を採集することが出来た.春には比較的目新しく興味深い種が見られて,それなら夏には輪を掛けて興味深い種が見つかるかもしれないと,特に灯火採集に期待していたのだが,蓋を開けてみるとあまり芳しくなく,期待はずれであった.しかし,細かく同定し調査を進めていくうちに,思ったより南方系の種が多く,琉球系の九州初記録種なども複数見つかり,地味ながらちゃんと調べればまだまだ興味深い種が隠れている可能性が高まった.今後も,機会が有れば,是非調査してみたいと考えている.
  科ごとに採集した種について述べてみたい.
○オサムシ科8種
 キンモリヒラタゴミムシ,キガシラアオアトキリゴミムシ,アオヘリアトキリゴミムシなどを採集した.低地の樹林で得られるような種が多かった.
○ガムシ科2種
 アカケシガムシとルイスヒラタガムシが得られた.後者は水田・ため池などにいる.
○ハネカクシ科6種
 ニセトガリハネカクシ,アカバナガエハネカクシ,アカバクビブトハネカクシ,キバネナガハネカクシなど水辺にいる種が大部分.
○マルハナノミ科4種
 コキムネマルハナノミ,セダカマルハナノミ,カタモンマルハナノミ,ホソキマルハナノミが得られた.
  このうち,カタモンマルハナノミ(図 9)は4月24日に田畑氏により坊津町車岳の林道で1♀が採集されたもので,日本産Sacodes属の中で,唯一,前胸背は外周を除いて暗色で,上翅肩部に黄褐色紋を持つ顕著な種である.従来の分布は奄美大島・徳之島・沖縄本島.今回の採集品を元に,既に今坂・吉富(2006)により,九州初記録として報告した.共著者の吉富博之氏はマルハナノミ類の研究でドクターを取得した専門家であるが,従来の分布からは九州に分布することはまったく想像できなかったと述べられた.
  本科の4種のうち,前3種は樹洞にできた水たまりで幼虫が育つ水生の種で,比較的発達した森林中に多い.そう言った意味でも,カタモンマルハナノミに限っては,人為的な移動は考えにくく,自然分布であろうと思われる.ホソキマルハナノミは渓流脇の水たまりで幼虫が育ち,この種も比較的良い林で見られ,余り多くない.
○クワガタムシ科2種
 コクワガタとヒラタクワガタ.後者の大あごは西九州ほどではないが,比較的長い.
○コガネムシ科9種
 コクロコガネ,クロアシナガコガネ,ハナムグリ,オキナワコアオハナムグリ,コアオハナムグリなどが見られた.最後の2種は同じ花で一緒に採集できた.
○ナガドロムシ科1種
 タテスジナガドロムシのみ.
○タマムシ科8種
 ムツボシタマムシ,ミツボシナガタマムシ,アオグロナガタマムシ,ルリナカボソタマムシなど.ルリナカボソタマムシ(図 3)は奄美大島から九州西岸沿いに天草まで分布する琉球系の種で,当地を代表する種と言うこともできる.
○コメツキムシ科10種
 フタモンウバタマコメツキ,クシコメツキ類,アカアシコハナコメツキなど.アカアシコハナコメツキは砂浜や河口の砂地に限って生息する種である.
○ベニボタル科2種
 ヒメベニボタルとクロハナボタル,各地に最も普通.
○ホタル科1種
 オバボタル
○ジョウカイボン科10種
 フチヘリジョウカイ,ニシジョウカイボン,ヒメジョウカイ,クロニンフジョウカイ九州亜種,キイロニンフジョウカイ,ウスグロニンフジョウカイ,ヒメキンイロジョウカイなど.クロニンフジョウカイ九州亜種の原産地は鹿児島市城山,ウスグロニンフジョウカイは未記載種で,鹿児島から熊本,長崎,五島と九州西海岸沿いの地方で見つかっている.フチヘリジョウカイは,低山地の渓流沿いの環境で見つかることが多く,やや意外な気がした.
○カツオブシムシ科1種
 ヒメマルカツオブシムシ(シイ花上)
○シバンムシ科1種
 フルホンシバンムシ,枯れ枝などで見つかる.
○ジョウカイモドキ科3種
 カイモンヒメジョウカイモドキとクギヌキヒメジョウカイモドキが暖地性.前者の原産地は当地の開聞岳.
○ケシキスイムシ科4種
 ヒメヒラタケシキスイ,ムネアカチビケシキスイ(シイ花上)など.
○ホソヒラタムシ科1種
 ミツモンセマルヒラタムシ
○キスイムシ科1種
 クロノコムネキスイ(シイ花上)
○コメツキモドキ科1種
 ケシコメツキモドキ(ススキ枯れ草)
○テントウダマシ科1種
 キイロテントウダマシ,暖地性でシイ・カシなどの葉上に多い.
○テントウムシ科18種
 アミダテントウ,バイゼヒメテントウ,オオタツマアカヒメテントウ,モンクチビルテントウ,シロジュウシホシテントウ,オオフタホシテントウなど.ハムシ科,カミキリムシ科に次いで種数が多く,南方系・暖地性の興味深い種が多かった.
  このうち,モンクチビルテントウ(図 10)は,従来,台湾,中国(基準産地:福州),ベトナムに分布することが知られていたが,国内からは最近,沖縄本島に分布していることが報告されたばかりである.既に,今回の春の採集品を今坂(2006)として九州初記録で報告したが,夏にも追加個体が採集され,当地では広く普通に分布するようである.自然分布か人為移入か今のところ判断できないが,少なくとも相当前から生息していたような感じがする.林縁のシイ・カシなどの樹葉上,林道沿いのガケ地の草間などさまざまな環境で見られた.
  オオフタホシテントウ(図 11)は,琉球から対馬暖流沿いに五島まで分布する琉球系の種で,ルリナカボソタマムシと同様,当地の特徴的な種である.
  バイゼヒメテントウとオオタツマアカヒメテントウも暖地性で,暖流に洗われる地域に見られる.
○ヒメマキムシ科1種
 クロオビケシマキムシ(ススキ枯れ草)
○ナガクチキムシ科1種
 フタモンヒメナガクチキムシ(暖地性,シイ葉上)
○ハナノミ科1種
 フタオビヒメハナノミ(海岸の近くに多い)
○カミキリモドキ科3種
 アオグロカミキリモドキ,フタイロカミキリモドキ(暖地性,シイ花上に多い),カトウカミキリモドキ.
○アリモドキ科3種
 ケオビアリモドキ(ススキ枯れ草),アカホソアリモドキ(樹林性).
 ホソクビアリモドキトカラ亜種(図 5)は前胸の色が,本州〜九州各地に分布するホソクビアリモドキ(本土亜種ssp. coiffaiti)が赤褐色を呈するのと異なり,上翅同様褐色〜黒褐色.♂交尾器も多少異なる.従来,沖永良部島,徳之島,トカラ宝島の分布が知られおり,九州からは初めての記録.薩摩半島北部で,どのようにトカラ亜種から本土亜種(ssp. coiffaiti)に移行するのか,分布境界はどうなるのか,興味が持たれるところである.
○ニセクビボソムシ1種
 チャイロニセクビボソムシ,本種は九州の分布は知られていないが,時折見つかっている.あるいは近似の別種の可能性もある.
○ハナノミダマシ科2種
 キイロフナガタハナノミ,クロフナガタハナノミ.
○チビキカワムシ科1種
 カクチビキカワムシ(図 7),本種は命名者の故 佐々治寛之博士が父君の名前を種小名に付けられたことでも知られている.本州・四国・九州に分布するが,いずれも少ない.
○ハムシダマシ科1種
 ヒゲブトゴミムシダマシ
○クチキムシ科1種
 アカバネツヤクチキムシ
○ゴミムシダマシ科2種
 マルムネゴミムシダマシ,コマルキマワリ.
○カミキリムシ科18種1亜種
 ヤツボシハナカミキリ(ツマグロ型),フタオビチビハナカミキリ,ミヤマカミキリ,アメイロカミキリ,タケウチヒゲナガコバネカミキリ,ズマルトラカミキリ,ウスアヤカミキリ,アトモンチビカミキリ,アヤモンチビカミキリ,ヒメリンゴカミキリなど.
 キボシカミキリ沖縄亜種(図 2)と奄美亜種(図 1),筆者は,夏の車岳の林道で,クワの木からクワカミキリとキボシカミキリを採集したが,落ちてきたキボシカミキリを一見して,「何でこんな所に・・・??」とビックリした.ビーティングネットに這っていたのは灰褐色の地色にボケたような白紋を散らした,明らかに沖縄亜種と判断できる個体であったからだ.奄美,トカラ,屋久島などには,それぞれ別の亜種が分布するので,ここに沖縄亜種が自然分布するはずがない.2〜3日後,別れた後での採集成果を尋ねた田畑氏からは,「キボシカミキリが2種類同時に採れました」との報告で,その時点では,当地では沖縄亜種が広範囲に広がり,元々の九州産キボシと沖縄亜種とが混生しているのだろうと思った.しかし,その後田畑氏から届いた標本には,沖縄亜種と共に,上翅の白紋と前胸側縁の前後に分かれた白紋がより明瞭な奄美亜種と判断できる個体が約半数含まれており,そうなると現地産と3つ巴で生息して可能性も出てくる.
 前述の今給黎靖夫氏にこのあたりの事情を確かめたところ,琉球各地から,ガジュマルやアコウが公園や海水浴場などの庭木として持ち込まれており,さまざまなキボシカミキリの亜種が同時に見られるらしい.現在,ペットとして持ち込まれた外国産のカブトムシやクワガタムシの遺伝子汚染が問題視されているが,国内に於ける農作物以外の植物の移動でも,このような事態が起こっていることは知らなかった.持ち込まれてしまったものを消滅させることは困難であり,結果として,南さつま市は,キボシカミキリの亜種間の交雑の実験場と化したわけである.今後,このあたりの亜種群の変化の推移に注目が持たれる.なお,当地に本土産のキボシカミキリ(ssp. hilaris)が生息しているかどうかは,未だ確認していない.
  上記のカミキリのうち,ヤツボシハナカミキリ(図 4)の1個体は,上翅がかなり黒化したものであった.このような海岸近くで,フタオビチビハナカミキリが産することも興味深い.タケウチヒゲナガコバネカミキリ,ウスアヤカミキリ,アトモンチビカミキリ,アヤモンチビカミキリは琉球系の種で,ズマルトラカミキリも暖地以外は少ない.
○ハムシ科30種
  得られた科の中で最も多くの種が採集できた.ニセウスイロサルハムシとセアカケブカサルハムシ,スギケブカサルハムシ,オキナワトビサルハムシ九州亜種,ヘリグロテントウノミハムシは琉球系の種で,ニセウスイロサルハムシ(図 8)は鹿児島県を北限とする.その他,アラゲサルハムシ,タイワンツブノミハムシなどは暖地性.ブチヒゲケブカハムシ,ムネアカオオノミハムシ,ウスグロチビカミナリハムシ,チャバネツヤハムシ,アラハダトビハムシ,カタビロトゲトゲなど.
○オトシブミ科2種
 チャイロチョッキリ(クヌギ),コナライクビチョッキリ(アラカシ)
○ホソクチゾウムシ科1種
 ヒレルホソクチゾウムシ(ウツギ)
○ゾウムシ科12種
 トビイロヒョウタンゾウムシ(砂浜の植物上),ヒラセノミゾウムシ(シイ葉上),ウスモンノミゾウムシ(シイ葉上),ケナガサルゾウムシ(シイ花上),シバタカレキゾウムシ(シイ枯れ木)など.シラホシクチブトノミゾウムシ(図 6)は,台湾,琉球から四国,本州(和歌山・三重)まで知られる琉球系の種で,九州からは初めての記録である.

引用文献
今坂正一(2006)九州初記録のモンクチビルテントウ. 月刊むし, (425): 45.
今坂正一・吉富博之(2006)カタモンマルハナノミの九州南端の記録. 甲虫ニュース, (154): 20.



前のページ
2006年に田畑郁夫氏により採集された九州・沖縄産甲虫
コンテンツのトップ 次のページ
ヤニタケをめぐる甲虫たち