今坂正一の世界
九州の昆虫
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2006年に田畑郁夫氏により採集された九州・沖縄産甲虫

今坂 正一

はじめに
 北九州市在住のバッタ類・アミメカゲロウ類の研究家・田畑郁夫氏とは, 2005年にアセスメント調査で知り合い, その後は, 筆者自身の仕事を手伝っていただいたりして, 親しくお付き合いいただいている.一緒に採集してみると, 長身の彼は主として3mほどの捕虫網でもっぱら梢をスウィーピングしながら歩かれているし, 筆者はビーティングネットで低い位置の葉を叩いているという採集法の違いからか, 得られた採集品は, 同一のルートを歩いていても, 驚くほど構成が異なっていた.興味の対象がかけ離れているために, 目の付け所もずいぶん違うのであろう.ご専門以外にも, ハネナガウンカとか, ハチ類とか, さまざまなグループに興味をお持ちのようで, 採集される昆虫も極小のものから大型のバッタまで, 大変巾が広い.甲虫一点張りの筆者とは相性と効率が良いとばかり, その後は, 可能な限り一緒に調査をしたいと考えている.
  シーズンも終わりかけた2006年秋頃, 彼から, 自身の採集行での傍ら拾った甲虫類を2度に渡って恵与いただいた.その時はまだ多忙でろくに目を通す時間が取れなかったが, 後にゆっくり時間が取れた際に見直すと, 驚くほど沢山の種が含まれており, 甲虫を専門とする人の採集品と言ってもおかしくない内容で, いくつか記録しておく必要のある種も含まれていた.
  そんなわけで, ここに彼の2006年度分の採集品をまとめて報告しておきたい.本文の搭載について御助力いただいた本誌編集部の古川雅通氏に心よりお礼申し上げる.

凡例
 記録した種は全て田畑郁夫氏が2006年に採集したものである(一部に2003年と2005年採集品が含まれている).同定と標本の保管は今坂.
  採集場所は,桓宅近傍の福岡県北九州市内のものが最も多く, 次いで, 調査の途中で寄られたり, 採集旅行に出かけられた熊本県あさぎり町白髪岳など離島を含む九州各地産, さらに, 2縄県八重山産を含んでいる.ファウナのまとまりから, 一応, 採集リストを上記のように3つの表に分けて記録したい.

田畑郁夫採集甲虫目録

(_県北九州市
 採集場所・日時は以下のとおり.全て2006年度の採集である.灯火採集は(ライト)と表示した.採集リストを表−1に示したが, 数字は個体数である.結果として2006年に北九州市で237種547個体を採集されている(種名確定分のみ).
 以下に採集地点ごとに注目される種などについて述べる.なお採集地はほぼ区ごとに北から南に並べた.
○2006/5/29 若松区東二島(ひがしふたじま)二番池〜三番池
  33種45個体.春の採集品らしいニンフジョウカイ類, キクスイカミキリ, エダヒゲナガハナノミなどが得られている.その他, 記録の少ないヒメマルミツギリゾウムシ(図1)とササコクゾウムシ(図2)が得られているが, 前者は北九州市福智山の記録があり, 後者の北九州市の記録は見いだせなかった.ヒメマルミツギリゾウムシはキクイムシの坑道で生活するとされている.
○2006/5/29 若松区東二島上水上林道
  前者と同日で18種20個体.ジョウカイ類, アカアシヒメコメツキモドキと, おなじく, ヒメマルミツギリゾウムシが採れている.
○2006/8/3-4 若松区高塔山(8/4はライト)
  12種14個体.8/3はタイワンメダカカミキリとカシワツツハムシ.8/4のライトでツマグロツツカッコウ, キイロゲンセイ, ツマグロキゲンセイ, ウスモンツツヒゲナガゾウムシなどが採れている.
○2006/8/1 戸畑区金比羅山
  2種2個体のみ.ヒメトラハナムグリとヨツスジトラカミキリ.
○2006/7/24 八幡東区皿倉山
  11種12個体.トウキョウヒメハンミョウは九州では北九州周辺のみで知られる.イモサルハムシ, トゲヒゲトラカミキリ, ケシカミキリ, ホソクビキマワリなど低地性の種.
○2006/8/4 八幡東区皿倉山
  5種5個体.同じく, トウキョウヒメハンミョウ.ヨツスジトラカミキリ(平地性)とフタオビミドリトラカミキリ(山地性)が同時に得られている.
○2006/8/3 八幡東区河内貯水池
  2種2個体のみ.シラホシカミキリとキバネクチボソコメツキ.
○2006/5/1 八幡西区畑けやき谷入口(ライト)
  36種145個体.水田や河川など水辺の虫と, 周辺の林や草地の虫がライトに飛来したようである.ミヤケチャイロコガネ(図3, 4:♂交尾器), アトグロジュウジゴミムシはやや少ない.イシハラジョウカイのようなやや山地性の種も得られているのは興味深い.
○2006/6/27 八幡西区畑けやき谷入口(ライト)
 31種71個体.同様に水ものを中心に, ノコギリクワガタ, ミツメニンフジョウカイ, アシナガオニゾウムシなど樹林性種も得られている.水生のアシナガミゾドロムシ, 湿気た裸地にいるエリザハンミョウなども採集された.
○2006/7/30 八幡西区畑けやき谷入口(ライト)
  17種21個体.チャイロコミズギワゴミムシ, クロヒゲアオゴミムシ, ミズギワコメツキなど大部分が河川敷にいる種である.
○2006/5/21 小倉南区福智山鱒渕ダム
  70種98個体.一日の採集種数としては, かなり優秀な成果である.低山地の春ものが一通り, ジョウカイ類, コメツキ類, カミキリ類, ハムシ類などが多く得られている.
 なかでも, ヒコサンクビボソジョウカイ(図5, 6:♂交尾器)は, 英彦山山系を中心に, 飯塚市の笠置山, 宗像市の城山からも知られるごく狭い分布圏を持つ固有種で, 北九州市からは初めての記録(東限記録)となる.キノコハネカクシの仲間のLordithon pallidiceps(図7)とLordithon sharpianus (図8)も分布記録は少なく, 後者は福岡県初記録と思われる.ヤスマツケシタマムシ, ニセコガシラアオゴミムシも多くない.
○2006/8/6 小倉南区福智山鱒渕ダム
  ゴミムシ類, ハムシ類など9種13個体.
○2006/6/29 小倉南区道原菅生の滝(ライト)
  23種31個体.やや山地の水辺近くの甲虫が含まれている.クロズカタキバゴミムシ, セスジカクマグソコガネ, セダカマルハナノミ, ヒメボタル, ナガセスジホソカタムシ, カタモンヒメクチキムシなどはやや少ない.
○2006/6/20 小倉南区朽網昭和池
 37種68個体.やや遅い時期にもかかわらず, キベリコバネ・ニシ・クロヒゲナガ・クロスジツマキなどのジョウカイ類が含まれている.タケにつくニホンホホビロコメツキモドキ, 士の形の紋を持つサムライマメゾウムシ, 陸生ホタルであるオオマドボタルなどが興味深い.
○2006/8/1 小倉南区平尾台千仏鍾乳洞
  シワナガキマワリ1個体.
 
九州各地(離島を含む)
 採集場所・日時は以下のとおり.熊本県俵山産が2003年, 対馬市産と日田市産が2005年の他は, 全て2006年度の採集である.灯火採集は(ライト)と表示した.採集リストを表−2に示したが, 数字は個体数である.九州各地で129種258個体を採集されている.
 以下に採集地点ごとに注目される種などについて述べる.なお採集地は県ごとにほぼ北から南に並べた.

○2006/6/13 福岡県杷木町高山米ノ山林道
  4種4個体.アオグロナガタマムシ・マスダクロホシタマムシなど.
○2005/8/6 長崎県対馬市豊玉町北鑓川(きたやりかわ)
  ウシズラヒゲナガゾウムシ1個体, 土場の材に見られるが最近は余り採れない.
○2006/6/6 長崎県新上五島町有川地区江ノ浜川上流
  5種5個体.ツヤケシナガタマムシ(図9:五島列島初記録), アカガネサルハムシ(図10:緑っぽい), アカオビタマクモゾウムシ(五島列島初記録)など.五島や平戸など九州西岸の離島では, 上翅中央の赤紫部が周囲の金緑部との差が少なくなって, 全体に緑っぽいアカガネサルハムシの個体がしばしば出現するが, 通常の個体も見られ, 亜種化しているわけではないらしい.
○2006/6/6 同有川地区一二三滝(ひふみのたき)入口
  8種10個体.うち, キバネケシガムシ, チャイロミジンムシ(五島列島初記録), キュウシュウヒゲボソゾウムシ(やや小型), ツヅミキクイムシ(五島列島初記録)はライト.キュウシュウヒゲボソゾウムシは岡山以西の本州, 四国, 九州に分布し, 九州では低地〜山地に多い.離島では, 五島と対馬の分布が知られるのみ.五島産はやや小型のものが多い.
  他に, ハスオビヒゲナガカミキリ, キボシツツハムシ(図11)など.後者は, トカラ列島〜五島に分布する上翅の黄色紋が縮小して黒っぽい色彩のトカラ型.この型はアカガネサルハムシ同様, 対馬海流に洗われる九州西岸の離島で見られ, 時に通常の黄紋の発達する個体に優先する場合もある.
○2006/6/7 同一二三滝入口
 16種22個体.エダヒゲナガハナノミ, ウスイロクチキムシ, カタモンヒメクチキムシ, ミヤケヒメナガクチキムシ, ルリホソアリモドキ, ヨツキボシカミキリ, アラゲサルハムシなど.ルリホソアリモドキ以外は五島列島初記録.ルリホソアリモドキは大陸・朝鮮半島から, 五島, 平戸, 九州で記録されているが, 九州本土では最初の記録以降再発見されていない.また, ここのカタモンヒメクチキムシ(図12)は2個体共に, 通常ある上翅肩の黄褐色紋が, ほとんど地色と差が無く不明瞭.
○2005/10/4大分県日田市亀山公園
 8種8個体.アトワアオゴミムシ, イボタサビカミキリ, チビヒョウタンゾウムシなど.
○2003/10/1 熊本県西原村俵山北方
  4種4個体.ヒメオサムシ, オオセンチコガネ, クロルリトゲトゲ, タケトゲトゲ.クロルリトゲトゲはやや山地のススキ葉上でみられる.
○2006/4/25 熊本県あさぎり町白髪岳薬師谷林道
  フタオビチビハナカミキリ1個体のみ.
○2006/4/25 同あさぎり町白髪岳炭山林道
  22種44個体.白髪岳中腹を通る林道での採集.イシハラジョウカイ, ナガサキニンフジョウカイ, コクロマルハナノミ, ヘリアカナガハナゾウムシなど山地性の春もの.
○2006/5/14 同白髪岳炭山林道
 43種97個体.春真っ盛りといったところで, ホソキマルハナノミ, ニセジョウカイ, ヤマト・ヒミコ(原亜種)・サイゴク・ニセヨコモン・チャイロ・ナガバ・フタオビチビの各ヒメハナカミキリ, クロカネ・ミドリヒメ・ムナボソ・キバネホソの各コメツキなど.カクチビキカワムシ, ルイスコトビハムシ, セスジトビハムシ(図13), コゲチャホソクチゾウムシ(図14), ハダカヒゲボソゾウムシなどの記録はやや少なく, 筆者はコゲチャホソクチゾウムシは九州で採集したことがない.
○2006/4/25 同白髪岳猪ノ子伏 alt.1100m付近
  5種8個体.九州脊梁のほぼ南端に位置するブナ帯の原生林のすぐ近くまで, 車で横付けできるのが魅力の採集地.カバノキハムシ, ムネスジノミゾウムシ.チビコメツキモドキ(図15)の九州の記録はごく少ない.
○2006/5/14 同白髪岳猪ノ子伏 alt.1100m付近
  43種97個体.九州ではかなり記録の少ないニセケブカネスイ(図16)を始めとして, マツナガジョウカイ, イシヅチヒメハナカミキリ九州亜種, アカチャサルハムシ, コブアラゲサルハムシ, トゲアシヒゲボソゾウムシ(図17), クチブトヒゲボソゾウムシ(図18)など山地性の種が得られている.最後の2種は最近, 森本・小島・宮川(2006)の再検討が出て, 従来のミヤマヒゲボソゾウムシがトゲアシヒゲボソゾウムシと改称され, それまで, 北海道から四国までで分布の無かったクチブトヒゲボソゾウムシを九州から記録している.
○2006/5/14熊本県多良木町槻木峠
  トゲアシヒゲボソゾウムシ1個体.

2縄県八重山
 採集場所・日時は以下のとおり.全て2005年度の採集である.採集リストを表−3に示したが, 数字は個体数である.八重山では7種7個体を採集されている.
○2005/6/30 西表島浦内川下流稲葉林道
 キボシフナガタタマムシ, ヤエヤマメダカカッコウムシ(図19), チャイロカッコウムシ(図20), ナミモンニセナガカッコウムシ(図21)の4種4個体.いずれも, 樹葉上に見られる種である.このうち, ヤエヤマメダカカッコウムシは石垣島の分布のみが知られており, 西表島から初めての記録のようである.
○2005/7/2 石垣島オモト林道
 キマダラヒメヒゲナガカミキリ, イシガキフトカミキリ, クロカタゾウムシの3種3個体.

  以上, 合わせて368種を記録した.なお, 若干の未同定の種も残っているので, ほぼ一年間に, ご専門の虫を採集する片手間に400種近い甲虫を採集されて, ご恵与いただいたことになる.そのご厚意に報いるためと, 貴重な記録を残すために, ここに記録した次第である.

引用文献
森本 桂・小島弘昭・宮川澄昭(2006)日本の昆虫 ゾウムシ上科概説・ゾウムシ科(1).406pp.櫂歌書房刊.



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2007年佐賀昆虫同好会第149回例会で採集した甲虫
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