今坂正一の世界
九州の昆虫
自然環境アセスメント
おたより・ログイン
九州におけるヨツモンカメノコハムシの分布拡大について

今坂正一

 ヨツモンカメノコハムシ Laccoptera quadrimaculata (Thunberg)は、サツマイモ・ノアサガオにつく南方系の大型カメノコハムシで、従来、沖縄本島以南の琉球と、台湾、中国、インドシナ、ビルマ、インド、アンダマン諸島などから知られていた(木元・滝沢, 1994)。その後、今坂・海老原(1997)は、奄美大島から本種を記録した。
 九州本土から、初めて本種を記録したのは山元(2000)で、長崎市潮見町で1999年5月にモモの葉に静止中の1個体を報告している。周辺に、サツマイモとノアサガオが見られたらしい。次いで、和田ほか(2001)は長崎市金比羅山では、5, 6, 9-11月に、ヒルガオ・サツマイモに少なくないことを述べている。山元・和田(2001)は、長崎市周辺の本種の分布状況を総括して、長崎市を中心とする西より外海町・時津町・長与町・三和町の各町での発生状況を報告している。成虫を発見したのは、4, 5, 6, 9, 10, 11, 12月で、特に長崎市内のサツマイモ畑からはほぼ全域で発見されたらしい。ホストとして、サツマイモ、ヒルガオ、コヒルガオを上げ、飼育実験で、越冬前に大部分の幼虫・蛹が羽化したことより、成虫越冬を示唆している。さらに、山元(2001)は、採集月として抜けている盛夏(7, 8月)の記録を追加し、成虫が4月から12月まで野外で活動していることを示した。また、浦田(2002a, b)はノアサガオ葉上から長崎市赤迫で本種を7月と4月に採集し、池崎(2002)は外来のアサガオの一種(通称・イリオモテアサガオ)から長崎市若竹町で11月に採集した例を、それぞれ報告している。
  本種の侵入は当然、農業害虫を扱う農林試験場等でも注目しているようで、長崎総合農試の福吉・小川・松尾(2002)により、分布が諫早市西部と多良見町まで広がり、サツマイモを加害していることが報告されている。本種の越冬成虫は、5月頃を中心に産卵し、孵化した第一世代幼虫は8月頃までに蛹化するらしい。サツマイモ畑での食害は10月以降に急速に進むが、他の鱗翅目害虫と比較すると被害が軽微なため、鱗翅目の食害と誤認されて見過ごされているようであると述べている。なお、インターネットのサイトで、場所は未確認だが、上五島で撮影された本種の写真が公開されている。
 以上を総合すると、長崎地方ではサツマイモの栽培が少ない春〜夏までは、主として、ヒルガオ、コヒルガオ、ノアサガオ、イリオモテアサガオなどの自生・あるいは鑑賞植物を食草として個体数を徐々に増加し、サツマイモが栽培される夏からは畑に移り、大量の食餌植物を得て11月には出荷直前のサツマイモ畑で大発生し、そのまま成虫越冬に入ると推測される。
  本種の分布拡大はその後も続いているようで、2006〜2007年には諫早市東部で、2007年には島原半島西部の雲仙市千々石町で本種を確認したので報告したい。今後分布はさらに広がる恐れがあると思われる。

  1ex. 長崎県諫早市白浜, 22. VII. 2006, サツマイモ葉上より, 今坂採集.
  5exs. 長崎県諫早市小船越町, 27. VI. 2007, ヒルガオ葉上より, 今坂採集.
  1ex. 長崎県雲仙市千々石町中島, 15. VIII. 2007, 人家の壁に植えられたアサガオの一種より, 今坂採集.

  一方、鹿児島県でも薩摩半島南部の川辺町に本種が侵入していることが、鹿児島県レッドデータブック(2002)に掲載されている。筆者もその川辺町と、南隣りの知覧町で、本種を確認しているので報告したい。

 1ex. 鹿児島県川辺町島内, 31. X. 2005, 葉上より, 今坂採集; 1ex. 同, 20. VI. 2006, 葉上より, 今坂採集.
 5exs. 鹿児島県知覧町平久保, 1. XI. 2005, イモが白くて巨大なアルコール醸造用サツマイモ葉上より, 今坂採集; 2exs. 同, 27. II. 2006, 畑ワキの防風林に這い上がったツル葉上より, 今坂採集; 3exs.  同, 21. IV. 2006, 同じツル葉上より, 今坂採集; 2exs.  同, 10. VII. 2006, 同じツル葉上より, 今坂採集.
  なお、採集個体数は以上のとおりであるが、知覧町平久保のサツマイモ畑では、11月と7月には本種成虫が無数に見られた。当地域でのサツマイモ以外のホストについては、ツル植物であることだけで種まで確認できていないが、畑から逃げ出したサツマイモの可能性が高い。鹿児島県では2, 4, 7, 10, 11月に成虫を確認しており、寒さで活動を停止する期間を除いて、周年成虫を見ることが出来るようである。
  なお、4月と7月に、隣接する南さつま市坊津周辺で採集する機会を持ったが、本種は確認できなかった。鹿児島県本土での、本種の拡散状況は今のところ不明であるが、サツマイモ畑を精査することにより、各地で見つかるかもしれない。
 山元・和田(2001)は、長崎市周辺の本種の侵入について、奄美諸島以南の生のサツマイモは本土への持ち込みが禁止されているので、サツマイモ以外の荷物に成虫が紛れ込んで、長崎港から侵入した可能性を示唆している。常識的にはそう考えざるをえないが、鹿児島県の例など、発生地はやや内陸の台地であり、ほとんど局地的に一部のサツマイモ畑周辺のみで大発生している状況を見ると、むしろ、琉球から直接サツマイモと一緒に持ち込まれたような印象を受ける。サツマイモ以外に、野生のヒルガオ類や、観賞用に植裁されているアサガオ類でも発生が確認されているので、今後、さらに分布拡大の恐れがある。
  本種の文献記録についてご教示頂いた南 雅之氏(武蔵野市)にお礼申し上げる。

引用文献
池崎善博(2002)ヨツモンカメノコハムシの食草としての外来アサガオの一種. こがねむし, (67): 54.
今坂正一・海老原 円(1997)奄美大島で採集した昆虫類. KORASANA, (64): 1-41.
浦田明夫(2002a)長崎市のヨツモンカメノコハムシの記録. こがねむし, (67): 54.
浦田明夫(2002b)再び、ヨツモンカメノコハムシの記録. こがねむし, (67): 54.
鹿児島県(2002)鹿児島県の絶滅の恐れのある野生動植物 動物編 鹿児島県レッドデータブック. 642pp.
木元新作・滝沢春雄(1994)日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説. 539pp. 東海大学出版会.
福吉賢三・小川恭弘・松尾和敏(2002)ヨツモンカメノコハムシの長崎県への侵入とサツマイモへの加害. 九州病害虫研究会報, 49: 133.
山元宣征(2000)ヨツモンカメノコハムシの長崎県からの記録. 月刊むし, (356): 45-46.
山元宣征(2001)盛夏のヨツモンカメノコハムシについて. こがねむし, (66): 30.
山元宣征・和田義人(2001)長崎市周辺に定着したヨツモンカメノコハムシ. 月刊むし, (368): 11-14.
和田義人ほか(2001)金比羅山の甲虫目録. こがねむし, (65): 19-57.



前のページ
2007年に採集した長崎県多良山系の甲虫 −幹掃き採集 その2−
コンテンツのトップ 次のページ
2007年佐賀昆虫同好会第149回例会で採集した甲虫