今坂正一の世界
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長崎県島原半島産甲虫覚え書き 2
−雲仙市田代原(たしろばる)の牧場草地の甲虫−
今坂 正一

  雲仙市田代原は、雲仙岳の北西部に広がる高地(標高700〜800m)の草原で、かなり古くから牛や馬の放牧場として利用されている。30年近く前には、馬の放牧が多く、ダイコクコガネやオオセンチコガネ、ゴホンダイコクコガネなど食糞性のコガネムシ類が多かったが、最近は牛ばかり、それも、年間通しては行われていないようで、前2種はほとんど見られないようである。
  2007年8月31日に島原市まで出かける用事が出来て、多少時間の余裕があり、久しぶりに田代原を訪ねてみた。下界では、まだまだ猛暑の夏の名残りの中、さすがに高地の田代原では比較的涼しく、ミンミンゼミとツクツクボウシの声の中、牧場ワキの林縁をジャノメチョウが飛び回っていた。
 木のサクの間から、ちょっとだけ牧場の草地の中に入り、タデやオオバコ、芝生などをスウィーピングすると、トビハムシ類やサルゾウムシ類が多く見られた。林縁の花にはフタオビミドリトラカミキリやマメコガネ、キバラヒメハムシなどが集まっていて、枯れ枝には、クロフヒゲナガゾウムシも見られた。ほんの一時間余りの探索であったが、長崎県下でまだ記録がない種も見つかったので、記録しておきたい。全て、2007年8月31日、田代原にて今坂採集。

マメコガネ Popillia japonica Newmann 目撃多数
ケナガマルキスイ Tramus glisonothoides (Reitter) 1ex. 枯れ草
フタオビミドリトラカミキリ Chlorophorus muscosus (Bates) 2exs. 花上
ヒゲナガマメゾウムシ Bruchidius lautus (Sharp) 1♀. タデで得られたが、周囲にクサフジは見られず、マメ科としては近くにイヌエンジュが見られた。♂の触角は体長を越える長さ。北海道〜九州の分布が知られるが、福岡・佐賀・長崎県では記録されていない。「北方系の種で、クサフジにつく」とあるので、高原の草地に適応した種かもしれない。田代原を特徴づける種の一つと考えることが出来るので写真を図示しておいた。長崎県、および島原半島初記録。
アカクビボソハムシ Lema diversa Baly 1ex. ツユクサ。
サクラサルハムシ Cleoporus variabilis (Baly) 1ex. タデで得られたが、普通はサクラなどバラ科にいる。付近のノイバラにいたものか?
キバラヒメハムシ Exosoma flaviventre (Motschulsky) 1ex. 花上。
モンキアシナガハムシ Monolepta quadriguttata (Motschulsky) 2exs. タデ葉上に多かった。
アザミカミナリハムシ Altica cirsicola Ohno 1ex. タデで得られたが、食草のアザミが周囲に多く見られた。
ヒメドウガネトビハムシ Chaetocnema concinnicollis (Baly) 1ex. 食草はイネ科のメヒシバ・エノコログサとされているが、草地や放棄水田などでタデやギシギシを掬っても良く入る。
クサイチゴトビハムシ Chaetocnema granulosa (Baly) 7exs. タデ葉上。かつて、本種の同定が出来ず、テンサイトビハムシやフタイロヒサゴトビハムシにあてるべきかどうか迷って、そのまま、放置していた。最近、武蔵野市の南氏と、情報をやり取りし、文献なども恵与いただいて調べ直したところ、本種であることが判明した。平地から山地の河川敷、水田わき、荒れ地、湿地、放棄水田、草原などで、イヌタデ・オオイヌタデなどのタデ類があれば、普遍的に見られる。図鑑類に図示されていないので、余り知られていないが、本州〜九州の本属で最も普通の種類と思われる。外形と頭部、および、♂交尾器の写真を示す。体長1.8〜2.5mmで、ヒメドウガネトビハムシやキイチゴトビハムシと同サイズ。前者とは、頭部全面には点刻を備えず、目の後に数個の大点刻を持つことで区別され(図版参照)、後者とは、体形がより太短く、背面は黒色で多少青色光沢を持つこと(前2種共に、銅色の光沢がある)で区別できる。テンサイトビハムシとも体形や色彩、点刻の様子がよく似ているが、より小さく、頭部、目の後の点刻の形や、触角間の前頭の盛り上がりと彫刻、上翅側片の表面の状態などが異なる。本種の和名は、クサイチゴを食べるキイチゴトビハムシの誤認から生じたのではないかと考えられ、イヌタデトビハムシとでもした方が良いように思う。本種は、対馬で記録されているだけで、長崎県本土では初めて、もちろん、島原半島初記録。
クロボシトビハムシ Longitarsus bimaculatus (Baly) 1ex. ネズミモチに多い。
イヌノフグリトビハムシ Longitarsus holsaticus (Linnaeus) 1ex. 食草はイヌノフグリとされているが、日陰のオオバコをスウィープして得ることが多い。翅端が赤褐色になるので、解りやすい(写真参照)。県内では、対馬と、島原半島から2例が知られているだけ。オオバコを積極的に探せば、各地で見つかると思う。
オオバコトビハムシ Longitarsus scutellaris (Rey) 3exs. オオバコより。本種は、裸地や、車が時々入るような林道に生えたオオバコに多い。多少、日陰になっていて、小さな穴がいっぱい空いたオオバコがあれば、まず間違いなくいる。葉の裏側の、地面とのわずかなすきまがあるような所に静止しているので、ソーッと葉をめくる。それが面倒なら、地面ごとスウィーピングするしかない。ヨモギにいるヨモギトビハムシに似るが、後足が短く、上翅の合わせ目が黒ずむので区別できる。
ヒメトビハムシ Orthocrepis adamsii (Baly) 2exs. タデ葉上。食草はトウダイグサ科のエノキグサとされる。本種も、草地や放棄水田などのタデを掬うと、ポツポツ入ってくる。同様の環境に、エノキグサが生えるためか? 田代原ではエノキグサは見ていない。県内では、対馬と多良山系から記録されているだけで、島原半島初記録となる。
クロフヒゲナガゾウムシ Tropideres roelofsi (Lewis) 1ex. イヌツゲの枯れ枝にいた。
クロケシツブチョッキリ Auletobius uniformis (Roelofs) 2exs. 荒れ地のノイバラに多い。
ヒメケブカチョッキリ Involvulus pilosus (Roelofs) 1ex. 本種もノイバラにいる。
ワモンヒョウタンゾウムシ Sympiezomias lewisi (Roelofs) 1ex. クワなどの害虫。
マダラヒメゾウムシ Baris orientalis Roelofs 1ex. イノコヅチで見られる。
ツヤチビヒメゾウムシ Centrinopsis nitens Roelofs 1ex. 林縁から落ちてきた。
タデノクチブトサルゾウムシ Rhinoncus sibiricus Faust 2exs. サルゾウムシの中では、平地〜低山地のタデ、ギシギシ葉上に最も普通に見られる。
タデサルゾウムシ Homorosoma asperum (Roelofs) 2exs. タデ、ギシギシ葉上に見られるが、やや、局地的。
ハスジクチカクシゾウムシ Cryptorhynchus fasciculatus (Roelofs)    1ex. 枯れ枝から落ちてきた。本州以南〜琉球まで分布するが、余り見ない。特徴的な斑紋により、解りやすい。長崎県、および、島原半島初記録。

  島原半島の甲虫相(1〜5)で合わせて1972種を報告した後、中薗(2004a, b)、このシリーズの一回目(今坂, 2006)などにより、島原半島産甲虫として18種が追加されている。島原半島の甲虫相に掲載した種のうち、オオツカクチブトゾウムシは最近、ケブカクチブトゾウムシのシノニムに扱われ(森本・小島・宮川, 2006)、さらに、今坂(2006)で追加したオオマルガタゴミムシは既に記録していた(重複で1種減ずる)。
 今回、島原半島産として、ヒゲナガマメゾウムシ、クサイチゴトビハムシ、ヒメトビハムシ、ハスジクチカクシゾウムシの4種を追加したので、島原半島から1992種を記録したことになる。
 日頃、ハムシ類の文献と興味深い情報をお寄せ頂いている武蔵野市の南 雅之氏と、ハネミイヌエンジュを写真で確認していただいた熊本県益城町の塚原和之氏、本文の搭載をお世話いただいた本誌編集部の柴原克己氏に心よりお礼申し上げる。

 引用文献
今坂正一(1999-2002)島原半島の甲虫相1〜5. 長崎県生物学会誌, (50): 125-170, (51): 19-39, (52): 56-73, (53): 65-84, (55): 53-73.
今坂正一(2006)長崎県島原半島産甲虫覚え書き 1 (島原半島の甲虫相1〜5 以降の追加種). KORASANA, (73): 16-18.
森本 桂・小島弘昭・宮川澄昭(2006)日本の昆虫 ゾウムシ上科概説・ゾウムシ科(1).406pp.櫂歌書房刊.
中薗信行(2004a)マルマグソコガネをイノシシ糞より採集. 鰓角通信, (8): 36.
中薗信行(2004b)島原半島産タマムシ科4種の記録. こがねむし, (68): 46.


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2007年に採集した長崎県多良山系の甲虫 −幹掃き採集 その2−