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ギョウトクテントウの追加記録

今坂正一・松原 豊

 ギョウトクテントウ Hyperaspis gyotokui H.Kamiya(図1, 2)は、Kamiya(1963)により、久留米昆蟲研究會第二代会長であった行徳直巳氏の1936年3月と6月の採集品1♂3♀を元に記載された種であり、学名・和名共に氏に献名されている。原産地は福岡県浮羽郡, Mizunawaで、Sasaji(1971)では浮羽郡, Minoに訂正してある。国内産としてはかなり珍しい種で、確認できた記録個体は11頭程度である。
 高倉(1974)は二番目の産地として福岡県平尾台から、1972年8月に採集した1個体を報告した。さらに高倉・城戸(1980)は浮羽郡耳納と平尾台の記録を再録しているが、高倉(1989)では、平尾台と田主丸町石垣となっている。
 久留米から日田まで、筑後川の南岸に連なる山地が耳納(みのう)山地で、田主丸町石垣はその北山麓、行徳氏が勤務されていた農事試験場の農場があったところで、行徳氏はこの地名の下に多くの昆虫類を記録されている。多分、浮羽郡耳納を田主丸町石垣(現・久留米市)に訂正されたものと推測されるが、確証はない。
 また、高倉(1983)は平尾台から2頭目の本種(1982年10月採集)を記録している。 次いで、秋山(1985)は広島県神石町高光で1974年8月に採集した本種を記録し、さらに、秋山(1996)では同地で5月に採集された1個体(年号の記載無し)を記録している。後者では、「広島県2頭目の記録である。畑のそばの草から得られた。最初の記録も同じ場所である。」と述べている。これらの記録は、比婆科学教育振興会(1997)と、佐々治・秋山(2000)で再録された。後者では、1999年8月の同地での目撃例を示して、あわせて、島根県邑智町信喜で1999年5月に採集された1個体を記録している。
 以上の採集例から、本種の生息環境について、「これらは、畑の周囲で得られており、(中略)。おそらく、こうした開けた草地を生息場所としていると思われる。」と述べている。
 最近、堤内(2005)は大分県玖珠町日出生台において、4月に「ネクイハムシの採集で、湿地の植物をすくって」、得た1個体を記録している。この記録を元に、レッドデータブックおおいたでは、本種を大分県の絶滅危惧I類に指定している。 以上が、確認できた本種の記録の全てである。
 今坂は、宮崎県と福岡県で各1個体の本種を採集しているので記録しておきたい。

1ex. 宮崎県日之影町深角(ふかすみ), 24. IV. 2000, 今坂採集・同定. 1ex. 福岡県犀川町(現・みやこ町)伊良原, 1. VIII. 2000, 今坂採集・同定.

 前者は耕作地周辺の林縁の樹葉のビーティング、後者は田圃のあぜ道での草のスウィーピングで得られた。どちらも、やや標高のある山村の耕作地である。

 福岡県での既知記録のうち、田主丸町石垣は山麓の平地、平尾台は標高500m程度のカルスト台地である。これらを総合すると、本種は、中国地方西部から九州中部までの、平地〜低山地の耕作地周辺にある低径の草地、および湿地で、3, 4, 5, 6, 8, 10月に得られているので、そのつもりで探せば各地で見つかるかもしれない。既知の分布をプロットしたのが図3である。
 なお、蛇足であるが、野田・今坂(1989)はかつて、長崎市内から本種を記録したことがある。直後に、掲載写真を見た佐々治寛之博士から連絡があり、標本を確認して頂いたところ、中国大陸から知られるヨツボシツヤヒメテントウ Hyperaspis leechi Miyatakeの誤りであるとして、佐々治博士自ら訂正され、日本初記録として報告された(佐々治, 1989)。こちらは、最近の帰化昆虫と考えられている。今回は改めて、正しく本種の記録ができたわけである。
 大分県の分布記録についてご教示頂いた三宅 武氏(由布市)と、広島虫の会会誌の入手に尽力頂いた大塚健之・寺田勝幸両氏(広島市)にお礼申し上げる。

引用文献
秋山美文, 1985. 神石郡の甲虫類 (2). 広島虫の会会報, (24): 29-30.
秋山美文, 1996. 広島県の甲虫類採集記録. 広島虫の会会報, (35): 47-48.
比婆科学教育振興会, 1997. 広島県昆虫誌 (1). 広島県昆虫誌刊行会, 636pp.
Kamiya, H., 1963. A revision of the tribe Hyperaspini of Japan (Coleoptera: Coccinellidae). Mem. Fac. Lib. Arts, Fukui Univ. Ser. II, Nat. Sci., (13): 79-86.
野田正美・今坂正一, 1989. 長崎市でギョウトクテントウを採集. 月刊むし, (223): 41-42.
大分県, 2001. レッドデータブックおおいた −大分県の絶滅のおそれのある野生動物−.大分県, 507pp.
Sasaji, H., 1971. Fauna Japonica: Coccinellidae (Insecta: Coleoptera). Academia press, 340pp.
佐々治寛之, 1989. ヨツボシツヤヒメテントウ(新称)日本に産す. 月刊むし, (226): 6.
佐々治寛之・秋山美文, 2000. 広島県のテントウムシ科の分布記録 (3). 比和科学博物館研究報告, (39); 81-86.
高倉康男, 1974. 北九州産の注目すべき甲虫類. 北九州の昆蟲, 20(1): 5-9.
高倉康男, 1983. ツシマアシナガハムシ平尾台に多産. 北九州の昆蟲, 30(2): 114.
高倉康男, 1989. 福岡県の甲虫相. 葦書房, 526pp.
高倉康男・城戸克弥, 1980. 福岡県のテントウムシ科とテントウダマシ科. 生物福岡, (20): 16-22.
 堤内雄二, 2005. 珍種ギョウトクテントウを日出生台で採集. ニ豊のむし, (42): 16.

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北大和歌山演習林でのフォギング調査でイチイガシ樹冠からイセテントウを採集
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ツマアカクビボソムシ九州に産す