今坂正一の世界
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壱岐と平戸島のエジマツツハムシの記録

今坂正一・松尾照男

 今坂は、2009年6月16日から18日までの3日間、長崎県のレッドデータブック(RDB)の見直し調査の一環として、壱岐へ出かけた。  その際、壱岐の北端の海岸で、従来、五島列島の南西端に位置する男女群島の固有種と考えられていたエジマツツハムシ Cryptocephalus egimai Takizawaを採集したので記録し、♂♀の全形や♂交尾器を紹介しておきたい。

1♂1♀. 長崎県壱岐市勝本町仲触串山海水浴場, 17. VI. 2009. 今坂正一採集・保管.  

 採集地の串山海水浴場周辺は、岩山が波によって浸食されたと思われるような岸壁が続いており、岩肌にはハイビャクシンが繁茂して一種異様な様相を呈するが、本種は、岸壁と海にはさまれた空き地に生えていたクローバをスウィーピングすることによって採集された。ホストは未確認である。
 さらに、これより14年ほど前、松尾も平戸島南端の志々伎山中腹で、吹き上げにより飛来したと思われる個体が、低い灌木に止まっていたものを採集している。当時、今坂が本種であることを確認していたが、まだ報告していなかったので、この機会に併せて記録しておきたい。
1♂1♀. 長崎県平戸市志々伎山, 2. V. 1995. 松尾照男採集・保管.

  本種は、Takizawa(1990)により、長崎県五島列島の南西部に孤立する男女群島女島産を基に記載された種である。本種発見のいきさつは以下の通りである。
 1989年5月22〜26日、環境庁からの委託を受けた鳥獣類の生息環境調査が男女群島で実施され、この調査に長崎県生物学会会員の江島正郎・池崎善博両氏が「鳥類が補食する昆虫類の調査」を目的として参加された。調査後、今坂は、江島氏よりゾウムシ類を除く甲虫類について、調査研究を依頼された。男女群島からは、それまでの数回に渡る長崎県生物学会などの調査によって、大陸系と考えられる多くの固有種が知られていた。男女群島は大陸棚上にある絶海の孤島群として、最も近い日本本土側にある五島列島とは深い海溝で隔てられており、さらに多くの未知で固有の甲虫類が生息していることが期待されていた。
 今坂は慎重を期すためにも、既に男女群島から記録されている種など、容易に同定できる種を除いて、甲虫全般の権威である中根猛彦博士に同定を依頼した。後日博士からの同定結果を含めて調査結果をお知らせした直後に、江島氏が急逝された。その結果、代わって池崎氏が結果をとりまとめられ、江島氏追悼号となるこがねむし51号に池崎・江島(1990)として、昆虫をはじめとした鳥類を除く動物全般の採集目録を発表された。
 その目録中、既に、中根博士のコメントとして、本種がチビルリツツハムシ Cryptocephalus confusus Suffrianに近似する新種であることが述べられており、図20として本種の♂の白黒写真も掲載されている。
 その後中根博士は、この時の採集品を基に、男女群島産の数種の甲虫を固有種や固有亜種として新種記載された。しかし、このハムシについては、滝沢春雄氏から研究させて欲しいとの要請があり、中根博士も了承されて、Takizawa(1990)により男女群島固有の新種として記載・発表された。本種の記載時期が、江島氏が逝去された直後のことだったので、江島氏への献名をお願いしたように思う。
 その後長く本種に関する情報は公表されていなかったが、上記のように、松尾により1995年には平戸島南端で採集され、そして、今年、壱岐で見つかったわけである(図11分布概念図)。
 それらの結果、本種は、男女群島の固有種では無かったことになった。現在では、対馬暖流に直接洗われる九州西岸〜北岸の広い範囲で、海浸岸壁の発達する海岸を中心に、広く産するのではないかと推定している。男女群島以北の五島列島各地、壱岐、対馬、馬渡島など佐賀県の離島などでも分布している可能性が考えられる。今のところ、ホストが不明であり、その分布が地史的背景を持つのか、あるいは海流によるものか、はたまた、人為的なものかは不明であるが、分布の全体像が明らかになれば、分布要因も判明するかも知れない。
 エジマツツハムシは、中根博士や、記載された滝沢氏が指摘されているように、国内産では、チビルリツツハムシに最も近い種と考えられるが、足全体が黄褐色になること、頭の一部と、前胸の前縁と側縁前半が黄褐色になることで区別できる。また、♂交尾器も特徴的な形をしていて、区別は容易である。
 本種の発見者・江島正郎氏の生前には、今坂は興味深い多様な甲虫を託していただいたし、松尾は平戸のチョウについて高校生の頃からご指導いただくなど、それぞれ大変お世話になった。氏ゆかりの昆虫が平戸で採集できたことも感慨深いものがある。

引用文献
池崎善博・江島正郎(1990)長崎県男女群島陸生動物相調査(1989年5月)報告. こがねむし, (51): 13-20.
Takizawa, H. (1990) Notes on Japanese Chrysomelidae (Coleoptera). with descriptions of two new species, Part 2. Akitsu, New series, Kyoto, (114): 1-8.

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大分県で採集した興味深い甲虫 (1989-1996)
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大野原で確認した昆虫類