今坂正一の世界
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北大和歌山演習林でのフォギング調査で
イチイガシ樹冠からイセテントウを採集

今坂正一・小島弘昭

小島は森林樹冠部の昆虫相を把握するために、各地でフォギング法を用いた調査を行っている。フォギング法とは、残留性のない薬剤を専用の機械で噴煙し、地上付近に設置したトレイで気絶して落ちてきた昆虫類を受け取る調査法で、人の手が届かず、アクセスの難しい高木や樹木高所の調査に有効な方法である(小島,2005)。2006年5月3日に和歌山県古座川町平井の北海道大学和歌山研究林において実施したイチイガシのフォギング調査において、採集記録の少ないイセテントウ Chujochilus isensis (Kamiya) の成虫がまとまった数得られたので、和歌山県初記録として報告する。

イセテントウ Chujochilus isensis (Kamiya,1966)(写真1-3)
 Exochomus isensis Kamiya, 1966: 80.
 Arawana isensis: Kamiya, 1971: 230; 経, 1992: 568(中国:四川,雲南)
 Chujochilus isensis: Sasaji, 2005: 62(再記載,雄)

16 exs. 和歌山県平井北海道大学和歌山研究林(標高280m),3. V. 2006, 小島弘昭採集.

体長約3.6-4.0mm。頭頂部と後胸背板が黒褐色になる以外は、ほぼ全体黄褐色で無紋。半球形で背面は強く盛り上がり、日本産テントウムシとしては、特異な形態をしている。後翅の先端部が褐色を呈するのも興味深い(写真3)。

本種は、Kamiya(1966)により、三重県高倉山(伊勢皇大神宮)産の1♀により記載されたが、その後長い間追加記録がなく、一般には謎のテントウムシと思われていた。高橋(1991, 1992)は、記載後25年目にして奈良市奈良公園より発見し、斎藤(2003)も同地のイチイガシ葉上から記録し、奈良公園・春日山周辺には確実に生息していることが明らかとなった。また、冨嶋(1996)は本種を九州から初めて記録し、熊本県(上村白髪岳、水上村市房山、多良木町下槻木)のイチイガシの大木高所より多数採集したことを報告した。本種は、これまで国内では三重県、奈良県、熊本県の限られた地域からしか記録のない、大変珍しいテントウムシの1種である。

樹高20m(胸高直径40cm)に達するイチイガシの樹冠下に直径1mの円錐型トレイを35個セットし、地上から残留性のない薬剤(ピレハイス油剤)をフォグマシン(Swingfog)を用いて噴煙した(写真5, 6)。気絶して落ちてきた節足動物すべてを回収し、本種はその仕分け作業中に発見された。周辺のツクバネガシ、ウラジロガシ、ツブラジイも同様に調査したが、それらのサンプル中には見られなかった。

冨嶋(1996)などでは、本種がイチイガシ葉裏でミカドテントウ Phaenochilus mikado (Lewis) やオオツカヒメテントウ Pseudoscymnus ohtsukai Sasaji と共に越冬することを報告しているが、今回は、イセテントウ以外にオオツカヒメテントウは確認されたが(写真4)、ミカドテントウは採集されなかった。当地でも、これら3種がイチイガシに生息するものと思われるが、今回見つからなかったのは、5月初旬という調査時期が影響しているかもしれない。また、イセテントウが得られた同株を同年の7月3日にも同様な方法で調査したが、上記のテントウムシはいずれも採集されなかった。

イセテントウが得られた同じ株からは、非常に珍しいゾウムシ2種(シロテンシギゾウムシ、ヒダカノミゾウムシ)も見つかっており(小島,2006a, b)、社寺林以外では見つけにくく、高木となるイチイガシは、これまで甲虫相調査を行う際の盲点となっていたと考えられる。

末筆ながら、和歌山研究林での調査の便宜を図っていただいた野田真人林長はじめ研究林職員の方々、調査にご協力いただいた的場 績氏(和歌山県立博物館)と土谷賢太郎氏(九州東海大学)、文献記録についてご教示いただいた松原 豊氏(横浜市)と生川展行氏(鈴鹿市)の各氏に心よりお礼申し上げる。

参考文献

経 希立,1992.鞘翅目:瓢虫科.中国科学院青蔵高原綜合科学考察隊著.横断山区昆虫 第一冊, 科学出版社:541-574.
Kamiya, H., 1966. On the Coccinellidae attacking the scale insects and mites in Japan and the Ryukyu. Mushi, Fukuoka, 39: 69-95.
小島弘昭,2004. 林冠昆虫相調査へのフォギング法の導入.昆虫分類学若手懇談会ニュース,(81):4-9.
小島弘昭,2006a. シギゾウムシ2種の分布記録と寄主植物の推定.甲虫ニュース,(156):13.
小島弘昭,2006b. ヒダカノミゾウムシの分布および成虫採集記録.甲虫ニュース,(156):30.
Sasaji, H., 1971. Fauna Japonica, Coccinellidae (Insecta: Coleopt.). 340pp. Academic Press of Japan.
Sasaji, H., 2005. Additional revision of the tribe Chilocolini (Coleoptera, Coccinellidae) ofJapan. Elytra, Tokyo, 33(1): 61-68.
齋藤琢巳, 2003. 奈良県春日山周辺でのイセテントウの再記録, 月刊むし,(394): 21-22.
高橋 敞, 1991. 奈良公園の甲虫:京都府南部の甲虫相との比較. 関西甲虫談話会資料第1号, 45pp.
高橋 敞, 1992. 奈良公園の甲虫(3), 月刊むし,(255): 39.
富嶋雄治, 1996. 九州初記録のイセテントウとイチイガシより得たテントウ類, 月刊むし, (305): 42-43.

写真1-5.北大和歌山研究林のフォギング調査で得られたイセテントウとオオツカヒメテントウ.1-3:イセテントウ;4:オオツカヒメテントウ;5, 6:フォギング調査風景.


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