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こがねむし(72)長崎昆虫研究会

2001年以降に長崎県多良山系で採集した甲虫
−幹掃き採集など新しい採集法の紹介をかねて−

今坂 正一

多良山系に産する甲虫相については、西田光康氏と共に、第2回目のまとめとして、2002年に前年までのデータをとりまとめて報告した(今坂・西田, 2002)。その集計によると、多良山系産甲虫は佐賀県側が1479種、長崎県側が1555種で、合計101科1901種である。

筆者はその後も、折に触れ多良山系に採集に行く機会を作っているが、地理的な制約もあって、数えるほどしか出かけていないし、また余り成果も上がっていない。

しかし、最近は、多少視点を変えて、今までと違った場所で、違った採集法を試してみている。良くした物で、やり方を変えてみると今まで採れなかった虫が採れ始める。よくよく自然は複雑で、奥が深い物だと、今更乍らに感心するばかりである。今回は、単に採集リストを並べるのではなく、採集方法を紹介しながら得られた種について述べることにしたい。

ハネナシナガクチキムシの一種の採集法を指導頂いた西田光康氏(嬉野市)、幹掃き採集のヒントを与えて頂いた松原 豊氏(神奈川県)と廣川典範・高橋隆信両氏(佐賀市)、チビドロムシの一種についてご教示頂いた吉富博之氏(札幌市)、本文の搭載をお世話いただいた本誌編集部の柴原克己氏に、心よりお礼申し上げる。

表-1は、2001年以降に長崎県多良山系で採集した甲虫リストである。通常とは異なって、出かけた日付ごとに、その虫が得られた採集方法別に分けて並べた。2001年以降に多良山系に採集に出かけたのは、2004年に1回、2005年に3回、そして、2007年に2回の計6回に過ぎない。種の列の上部に記した場所と日時のデータに対応して、右側に1〜6の列を作り、採集した個体数を示した。その右側には、得られた採集方法別に○印を付けた。採集方法についてはそれぞれの項で説明したい。任意採集は通常の採集で、枯れ枝や、葉や花などのビーティング、スウィーピンク、飛んでいるもののネットイン、見つけ取りなどを含む。
例えば、カワツブアトキリゴミムシは3, 5, 6に各1、1、5個体、樹幹の幹掃きおよび樹皮はがしによって採集したことを示している。次の多良山系の項は、多良山系における県別の記録の有無で、●印は記録が無いことを示し、◎印は多良山系のみならず県本土全域で記録がないことを示している。分布は概略を記した。

1,諫早市高来町湯江 2004年5月26日
<ヨシ原とその周辺での採集>

境川の河口付近の草地〜ヨシ原で、短時間採集した。10種の甲虫を採集したが、ツマグロマルハナノミ とヤマトヒメメダカカッコウムシ、ババヒメテントウ、ジュウクホシテントウは ヨシをビーティングして得られた。これらの種は、ヨシ原に強く依存する種で、それ以外の環境ではまったく見られない。またガマ類のビーティングでガマキスイを得たが、この種もガマの穂に依存している。

草地でのイネ科やヨモギ、オオブタクサなどのスウィーピンクでは、トビイロマルハナノミ、ナガサキアオジョウカイモドキ、クロヒメハナノミ、ブタクサハムシ、モンチビゾウムシを採集した。このうち、モンチビゾウムシは長崎県本土から初記録(以下、長初と表示)であり、ガマキスイとジュウクホシテントウは多良山系から初めての記録(以下、多初と表示)である。ブタクサハムシは既に多良山系を含む佐賀県各地で記録されているが、長崎県側では初記録である(以下、多長初と表示)。前回取りまとめた2001年当時は、まだほとんど知られていなかったブタクサハムシが、ほぼ数年で全国に広がってしまったのは驚異的である。

ナガサキアオジョウカイモドキ(図1)は、既に諫早市内から記録しているが、具体的なデータを示していなかった。本種は長崎原産であるが、中根(1983)がタイプ標本を図示するまで正体が良く解っていなかったので、上記を除いて図鑑等に図示されたことは無い。高倉(1989)が福岡県平尾台で記録し、筆者自身も当地で採集して、春に安定した低茎草地に出現する種であることが解ったが、諫早市の海岸近くのそれほど広くない草地で見られたのには驚いた。いわゆる草原以外にも各地に分布すると思われるが、全国的にほとんど記録がない。あるいは、ツマキアオジョウカイモドキと混同されているのかもしれないが、より大きく、上翅が長い。

2,大村市狸尾 2005年3月31日
<樹皮はがし採集>

狸尾のイチイガシ林に、樹皮下の虫と、最近、西田(2004)が報じた落ち枝中で生活するハネナシナガクチキムシの一種 Nipponomarolia sp.を狙って出かけた。

樹皮はがし採集は、主としてイチイガシ生木の剥がれやすい樹皮をはがして、ビーティングネットで受け、見つかった甲虫を採集した。始めてすぐに、樹皮下に静止するハネカクシナガクチキの一種を見つけて、ヤッタと思った(図2)。最近は、目が悪くなっており、5mm以下の甲虫を見つけるのには不自由を感じているので、見落としがないように、大型の樹皮などを除いた残滓全てを持ち帰って、自宅で抽出することにした。手順は、ビーティングネットに落ちてきたもののうち、大型の樹皮等を取り除いて、ビニール袋を装着した篩いに掛けて持ち帰るだけである。これを、自宅で簡易ベルレーゼに掛けて昆虫類を抽出した。この中からは、コヨツボシアトキリゴミムシ、ホシハネビロアトキリゴミムシ、オオホコリタケシバンムシ、ヨツボシケシキスイ、ムクゲチビテントウ(多長初)、オオツカヒメテントウ(長初・多初)、ダルマチビホソカタムシ、クチキムシ、イチモンジハムシ、ケナガサルゾウムシが得られたが、大部分は樹皮下で越冬中のものである。

オオツカヒメテントウは記載直前の1980年頃、やはり狸尾の樹葉上から1個体採集し、佐々治寛之先生の依頼に応じて郵送したところ、包装が悪くて郵送途中で虫体のみが行方不明になり、悔しい思いをしたことがある。その後採集できずに、自身にとっては幻の虫になっていたのだが、なんとか再度採集して記録することができた。近年、イチイガシに完全に依存し、葉上で越冬することが城戸(1998, 1999)によって明らかになっている。ムクゲチビテントウは微小で全体に剛毛を成じるテントウムシらしからぬ種で、分類学的な変遷が多い種である。イチイガシやアカガシなどの樹幹で生活するようで、今回多くの個体数が得られたので嬉しかった。小さすぎて、普通にビーティングネットで受けていたのでは見過ごしていたと思う。

<落ち枝・落葉採集>

樹皮はがし採集と平行して、落ち枝の塊を見つけては篩に掛けた。この方法は西田(2004)の発明によるが、斜面の、立木の根本などに溜まっている落ち枝の、なるべく大きな塊を両手で掴んでビーティングネットの上にぶちまけ、しばらく揺すった後で枝と大きな葉を除け、残りを篩に掛けて、残滓を持ち帰り、自宅でソーティングするというもの。筆者は衣装ケースに詰めて持ち帰り、帰宅後フタをあけると色んな虫が壁面やフタに這い上がっていた。湿気を防ぐ意味から、中にチラシや新聞紙を数枚入れておいたところ、そのすきまにも色んな虫が潜り込んだ。しばらく経って虫が這い上がらなくなった後、同様に簡易ベルレーゼに掛けて昆虫類を抽出した。この落ち枝採集からは、通常の落葉での採集と同様なものも得られるが、ハネナシナガクチキムシの一種のように、普通の落葉ではほとんど見られない種も含まれる。同様に地表にあり、落葉で被われているというものの、虫にとっては違う環境であるらしい。ヤマトホソスジハネカクシ(長初・多初)、タチゲクビボソハネカクシ、キアシチビコガシラハネカクシ(多初)、ハスモンヒメキノコハネカクシ(多長初)、ツヤケシシワチビハネカクシ(多初)、コブスジケシキスイ(多長初)、ダエンミジンムシ(多初)、クロミジンムシダマシ、ケシツチゾウムシ(多初)、ナガサキオチバゾウムシ、アカナガクチカクシゾウムシ、マルクチカクシゾウムシの一種(長初・多初)、ヒサゴクチカクシゾウムシが採集できた。マルクチカクシゾウムシの一種は茶色いツートンのはっきりした柄を持つ種で、落ち枝に限って見られる。以上のうち、半数以上が何らかの意味で未記録の種で、多良山系でいかに落ち枝採集を試みていないか、ということが明らかになった。

<任意採集>

狸尾では、生葉や花、枯れ枝のビーティングなど一般の採集も行い、マルガタチビタマムシ、シロオビチビサビキコリ、カバイロコメツキ、クロテントウ、ヒメマキムシ、アカホソアリモドキ、クロフナガタハナノミ、フタモンカサハラハムシ、チビカサハラハムシ、クロオビカサハラハムシ、ツブノミハムシ、マダラケブカチョッキリ、コカシワクチブトゾウムシ、カシワクチブトゾウムシ、ミスジマルゾウムシを採集した。しかし、全て既に記録している種ばかりで、一般の採集方法では、なかなか追加種が出ない。

3,諫早市高来町修多良の森 2005年3月31日
<任意採集:主としてモミのスウィーピング>

大阪自然史博物館の初宿成彦氏から、冬期にツガにつくカサアブラムシを探して欲しいと依頼されていたが、筆者にはツガとモミ、イヌマキなどの区別が付かず、躊躇していた。狸尾に出かけて来たついでに、午後から、良い機会とばかり、取り敢えずモミが多い修多良の森に出かけてツガを探してみたが、確信を持ってツガと断定できる木が見つからず、しようがなくてモミを中心に針葉樹の樹冠の葉をスウィーピングしてみた。標高800m近くで、まだ春も浅いというのに、晴天に恵まれたこともあり、モミ樹葉上からはルイステントウ(図3)とウンモンテントウ、ユアサハナゾウムシなどが採集できた。これらの種はすでに記録しているが、過去には1−2個体しか採集しておらず、この時期にモミを探せば良いことを改めて認識した。また、アロウヨツメハネカクシ(多初)、クビアカジョウカイ、ツノブトホタルモドキ、イケザキアシブトゾウムシなど春先のみに見られる種が採集できた。イケザキアシブトゾウムシはかなり珍しく、分布域の限られた種(山口県と雲仙岳・多良山系で記録されている)である。他に、ミヤマジュウジゴミムシ、ワモンナガハムシ、ツブノミハムシ、アカアシノミゾウムシが採集できた。得られた虫は少なかったが、時期と採集樹種を選ぶと興味深いようである。
結局ツガも、カサアブラムシも発見できず、初宿氏には気の毒な思いをした。

4,諫早市五家原岳 2005年7月18日
<任意採集>

山頂周辺での吹き上げ採集を期待して出かけたが、低温でほとんど虫は飛ばず、葉や花のビーティングで採集した。メダカチビカワゴミムシ、サビキコリ、ヒメクロツヤハダコメツキ、メスアカキマダラコメツキ、ヒロオビジョウカイモドキ、マルガタキスイ、ナミテントウ、オオツツキノコムシ、フタオビホソナガクチキムシ、クロツヤバネクチキムシ、ヒメヒゲナガカミキリ、ヤマイモハムシ、カシワツツハムシ、ヤナギルリハムシ、ヒメドウガネトビハムシ、アケビタマノミハムシ、コブルリオトシブミ、キュウシュウヒゲボソゾウムシ、カシワクチブトゾウムシを採集したが、特筆すべき種は含まれていない。

5,諫早市高来町轟の滝 2007年4月9日
<幹掃き採集>

昨年、平戸の安満岳と、佐賀の黒髪山でトホシニセマルトビハムシを採集して、さっそく報文(廣川・高橋, 2007)を公表した廣川・高橋両氏が拙宅を訪れ、土産に、黒髪山産トホシニセマルトビハムシと平戸産の種不明のメツブテントウを恵与頂いた。その際、トホシニセマルトビハムシの採集方法についての話になって、廣川さんからは、樹幹のマメヅタを枝葉付のササの小枝で払うようにしてビーティングネットに落とせば良いと教わった。立ち枯れや倒木の下面などに隠れているコブヤハズカミキリ類の採集や、キノコの虫の採集にも効率が良いと言うことだった。

このメツブテントウについて、神奈川の松原さんに問い合わせたところ、メツブテントウ類はシイ・カシ類の樹幹で生活しているので、是非、標本を追加・採集して欲しいとの連絡を頂いた。実は、多良山系轟の滝では過去に未記載種と考えられる仮称タラメツブテントウを2個体採集していて、ただ1枚の白黒の標本写真を残したまま、その標本を紛失していたのである。

ちょうど良い機会なので、このタラメツブテントウの再捕獲を狙って、樹幹の甲虫を狙ってみようと思い立った。お二人の話から、小さいテントウなども射程に入れるなら、ササの枝より確実・綿密に樹幹の表面を掃ける箒を用意して、ビーティングネットに落とせば良いと考えた。この採集方法を「幹掃(みきは)き採集」と名付けて、まだ新芽が吹き始めたばかりの4月9日に轟の滝周辺で試してみた(図8)。

採集地は諫早市轟峡の標高300m程度に位置し、渓谷沿いにシイ・タブの老木を中心にうっそうとした林に覆われているところである(図4)。春がまだ早いこともあって、虫の数はたいへん少なかったのだが、それでも2時間ほどの探索で、シイの樹幹からメツブテントウ(図13:多長初)が、タブの樹幹からは種名不明の甲虫(図16:仮称コケチビドロムシ:札幌の吉富さんによるとチビドロムシの一種で、多分新属・新種とのこと)が、それぞれ1個体採集できた。数は少ないものの、ともかく狙いは当たったわけである。

また、タブなどの樹幹に着生したマメヅタ(図5)からは、こちらも狙ってきたトホシニセマルトビハムシ(図11:多初)が3個体採集できた。林内には樹幹に這い上がるマメヅタは数多く見られるのに、なかなかハムシは発見できず、ここにはいないのかと諦め掛けたのであるが、結局、少数見つかった新しく芽吹いた葉に、このハムシはひっそり付いていた(図6)。

このうち、メツブテントウは県本土では長崎市の記録があるだけで、多良山系では佐賀県側の記録のみ。また、トホシニセマルトビハムシは前記の廣川さんたちの平戸安満岳の記録に次ぐものである。

その他に、シラホシクチブトノミゾウムシ(長初・多初)、クロヒメキノコハネカクシ(多初)、ガロアノミゾウムシ(多初)を始めとして、幹掃き採集でカワツブアトキリゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、マルガタチビタマムシ、フタホシテントウ、アトホシヒメテントウ、コクロヒメテントウ、ヒメカメノコテントウ、タカオヒメハナノミ、クロホシテントウゴミムシダマシ、イクビゴミムシダマシ、ヒメナガキマワリ、ケナガサルゾウムシ、ボウサンクチカクシゾウムシが得られた。これらの種のうち、クロヒメキノコハネカクシ、カワツブアトキリゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、アトホシヒメテントウ、クロホシテントウゴミムシダマシ、イクビゴミムシダマシ、ボウサンクチカクシゾウムシが樹幹・樹皮下で生活する種で、それ以外は樹皮下や植物の陰で越冬していたものと考えられる。

シラホシクチブトノミゾウムシは石垣島と西表島から記載された種であるが、生川他(2006)によると、本州(三重・和歌山)、四国、琉球、台湾に分布する暖地系の種らしい。筆者は南九州でも採集していて、別に報告する予定である。多良山系の記録は、九州においての北限の記録になると思われる。

なお、上記、松原さんによると、フランスの文献で、同様に幹をブラシで掃く採集方法が紹介されているそうで、どこにでも、変なことを考える人がいるものと、自身も含めて妙に感心した次第である。

<任意採集>

シイやカシ・タブ・カエデ類の葉上から、アオバアリガタハネカクシ、カクムネベニボタル、ヒメジョウカイ、フタモンヒメナガクチキムシ、アカホソアリモドキ、クロフナガタハナノミ、フタモンカサハラハムシ、マダラカサハラハムシ、クロオビカサハラハムシ、クロウリハムシ、カシワクチブトゾウムシ、オビモンヒョウタンゾウムシ、ミスジマルゾウムシを採集した。また、シダ類の若葉にはルイスコトビハムシ、セマルトビハムシが見られた。


6,諫早市高来町轟の滝 2007年5月2日
<幹掃き採集>

前回、狙いが当たってメツブテントウが採れたが、肝心のタラメツブテントウは採れなかったので、過去に採集した時期に合わせて、再度、轟の滝付近に幹掃き採集に出かけた。

前回と比較して、大分、春が進行しており、カエデの花は既に散り、シイの花は残念ながら一週間くらい早そうで咲いていなかったが、葉上にも虫が多く見らた。前日雨が降っていたこともあり、樹幹は前回のように乾燥してなくて、適度な湿り気が見られた。マメヅタも大分、新葉が増えており、そこ、ここに良さそうな葉がみられたが、トホシニセマルトビハムシの数はそれほど多くなく、採集は5個体に止まった。

前回本種を掃き落としたマメヅタのついたタブの樹幹からは、本種と共にクロジュウニホシテントウ(図10:多長初)とコマルガタテントウダマシ(図18:長初・多初)が1個体ずつ、すぐ近くの同じくハムシが得られたタブ(図7)からは待望のタラメツブテントウ(図12)が1個体落ちてきた。

してやったりと、一人ほくそ笑んだのは言うまでもない。

渓流沿いの林内には、タブ、シイなどの大木が多く、樹幹にはマメヅタ、ツタ・テイカカヅラなどのツル植物、コケ、のいずれかの着生が見られたが、最も多様な虫が見られたのがマメヅタで、次いでコケが多く、ツル植物や何も着生していない樹幹からはほとんど虫は得られなかった。 前回、唯1個体採集したコケチビドロムシ(長初・多初)はコケに多く、43個体を採集した。確実にコケの中で生活する優占種のようである。吉富さんによると、「一般的に幼虫が水棲のチビドロムシ成虫が、樹幹のコケの中で何をしているのか、理解を超える。」と言うことで、彼による分類学的な解明と共に、生態解明についても興味が持たれる。また、今回は同定出来なかったが、微小なアナアキゾウムシやクチカクシゾウムシも何種かコケから見つかった。

樹種に関係なく樹幹で最も多く見られたのはクロホシテントウゴミムシダマシ(図15)であった。興味深いことに、ほぼ同じ環境で見られたトホシニセマルトビハムシ、クロジュウニホシテントウ、タラメツブテントウ、前回のメツブテントウが、黄色地に黒紋を散らすと言った、ほとんど同様な形・色・柄をしていることである。このことに、生態的な意味があるかどうかは、今のところ不明である。

その他に、偶然か、必然かは解らないが、珍品のオオコキノコムシ(図9:九州では多良山系佐賀県側の記録が唯一知られる:長初)を始めとして、セマルチビヒラタムシ(図14:長初)、マダラツツキノコムシ(多初)、アカバマルタマキノコムシ(図17:多長初)が採集できた。あと、カワツブアトキリゴミムシ、コキムネマルハナノミ、クロマルケシキスイ、ワモンマルケシキスイ、ウスオビキノコケシキスイ、ベニモンムクゲキスイ、キアシチビオオキノコムシ、ホソチビオオキノコムシ、クロチビオオキノコムシ、ルリテントウダマシ九州亜種、バイゼヒメテントウ、ダルマチビホソカタムシ、アカハムシダマシ、ヒメナガキマワリ、セスジヒメハナカミキリ、ニセヨコモンヒメハナカミキリ、ベーツヤサカミキリ、ケナガサルゾウムシ、ボウサンクチカクシゾウムシ、ミカドキクイムシが採集できて、樹幹上もなかなか多様であった。

不思議なことに、そこここにある大岩に着生しているマメヅタからはまったく虫が得られず、同様にコケからも得られた虫は少数だった。同じように見えても、虫にとっては、樹幹と大岩では条件が異なり、樹幹でないと好まないようである。また、イチイガシやシイなど、樹皮の表面に複雑な割れ目などがあって、虫の隠れる場所が多いと思われる樹種からも、植物が付着していないと、ほとんど虫が落ちてこなかった。

実は、第1回目の幹掃き採集の後、筆者の地元である久留米市高良山や、仕事で出かけた菊池渓谷などでも、幹掃き採集は試みてみたのだが、マメヅタやコケはあるものの、まったく、成果は得られなかった。轟の滝付近での採集経験を加えると、幹掃き採集には以下の6つのポイントが有りそうである。

1. 空中湿度の高い渓流沿いが良い。
2. 大木の生育する場所が良い。
3. マメヅタ、コケ等、樹幹の表面に植物が着生するものが良い。
4. 陽当たりの良い場所、林内のうっぺいされて暗い場所は良くない。
5. 林縁で、木漏れ陽が時に当たる、あるいは、1日のごく一部の時間、陽が当たる、風通しの良い場所が良い。
6. 今のところ、常緑樹林が良い(夏季にはブナ帯でも可能かもしれない)。
幹掃き採集も、結構極めると、かなり面白い成果が期待できそうである。

<樹皮はがし採集>

立ち枯れや倒木があったので、樹皮はがしもやってみた。カワツブアトキリゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、クロヒメキノコハネカクシ、クロヒラタケシキスイ、ヒメヒラタムシが採集できた。

<任意採集>

前回よりさらに、シイやカシ・タブ・カエデ類の葉上に虫が多く見られ、キイロハナノミダマシ(長初・多初)、ヒメキムネマルハナノミ(多長初)を始めとして、ハラアカモリヒラタゴミムシ、ベーツホソアトキリゴミムシ、イクビホソアトキリゴミムシ、アオヘリアトキリゴミムシ、アオバアリガタハネカクシ、コキムネマルハナノミ、マルガタチビタマムシ、キバネホソコメツキ、フチヘリジョウカイ、クロニンフジョウカイ九州亜種、チビニンフジョウカイ、ナガサキニンフジョウカイ、クロスジツマキジョウカイ、ケオビトサカシバンムシ、ヒメマキムシ、フタモンヒメナガクチキムシ、アカホソアリモドキ、クロオビカサハラハムシ、アカタデハムシ、タイワンツブノミハムシ、キアシノミハムシ、イチモンジカメノコハムシ、ヒゲナガオトシブミ、キュウシュウヒゲボソゾウムシ、カシワクチブトゾウムシ、オビモンヒョウタンゾウムシが採集できた。また、シダの若葉にはルイスコトビハムシとセマルトビハムシが見られた。

以上6回で、甲虫類40科146種440個体を採集したが、このうち、長崎県本土および多良山系からの初記録が、ヤマトホソスジハネカクシ、コケチビドロムシ(仮称)、セマルチビヒラタムシ、コマルガタテントウダマシ、オオツカヒメテントウ、キイロハナノミダマシ、モンチビゾウムシ、シラホシクチブトノミゾウムシ、マルクチカクシゾウムシの一種の9種。佐賀・長崎を通じての多良山系の初記録が、アロウヨツメハネカクシ、キアシチビコガシラハネカクシ、クロヒメキノコハネカクシ、ツヤケシシワチビハネカクシ、ガマキスイ、ダエンミジンムシ、ジュウクホシテントウ、マダラツツキノコムシ、トホシニセマルトビハムシ、ケシツチゾウムシ、ガロアノミゾウムシの11種で、多良山系の甲虫が20種増加したことになる。多良山系長崎県側では、さらに、ハスモンヒメキノコハネカクシ、ヒメキムネマルハナノミ、アカバマルタマキノコムシ、コブスジケシキスイ、ムクゲチビテントウ、クロジュウニホシテントウ、メツブテントウ、オオコキノコムシ、ブタクサハムシの9種を追加した。
本文中でも述べたように、このように追加した種の大部分は、今まで試みていなかった場所や時期、採集法などに負うところが大きく、一般的な採集ではほとんど追加出来なかった。多良山系の甲虫調査はかなり精度が高くなっているといえ、やり方次第では、まだまだ未知の種が隠れているようで、自然は底が知れないものだとつくづく思うこの頃である。

なお、福岡県在住で、永年甲虫を研究されている城戸克弥氏は、筆者以上にそのようなことを感じていらっしゃるようで、ヨシ原の採集(城戸, 2003a)、海岸砂丘での採集(城戸, 2004)、アカガシの樹皮はがし採集(城戸, 2003b)、カナクギノキの樹皮はがし採集(城戸, 2007b)、市街地のケヤキの樹皮はがし採集(城戸, 2007a)と、今まで同好者があまり試みていない場所の調査と新しい採集法を精力的に行って、めざましい成果を上げられている。

また、先頃まで、九州大学の総合博物館に勤務されていた小島弘昭氏(現 東京農業大学准教授)は、樹冠に生息する昆虫相を丸ごと解明する方法として、薬剤を噴霧器で散布して落下した虫を集める噴霧採集(フォッギング)を、熱帯雨林や国内の大学演習林などで実施され、多大な成果を上げられている。このように、林の中では樹冠と樹幹がねらい目のようである。甲虫の採集と生態解明には、今後、調査方法のさらなる改善と工夫が必要になると考えられる。

引用文献
今坂正一・西田光康(2002)多良岳の甲虫相2001. 佐賀の昆虫(36): 389-480.
城戸克弥(1998)福岡県におけるミカドテントウにかかる知見. 北九州の昆蟲, 45(1): 33-40.
城戸克弥(1999)福岡県におけるオオツカヒメテントウの採集記録. 北九州の昆蟲, 46(1): 46.
城戸克弥(2003a)筑後川のヨシ原の甲虫類I. KORASANA, (70): 33-37.
城戸克弥(2003b)アカガシの樹皮下の甲虫についてI. 北九州の昆蟲, 50(1): 31-34.
城戸克弥(2004)福岡県の海岸砂丘の甲虫類. KORASANA, (71): 7-14.
城戸克弥(2007a)ケヤキの樹皮下の甲虫についてII. KORASANA, (74): 3-8.
城戸克弥(2007b)カナクギノキの樹皮下の甲虫についてII. KORASANA, (74): 9-10.
高倉康男(1989)福岡県の甲虫相. 葦書房, 526pp.
中根猛彦(1983)邦産ジョウカイモドキ類の覚え書. 北九州の昆蟲, 30(3): 161-166.
生川展行・ほか(2006)熊野灘沿岸照葉樹林の甲虫類. 熊野灘沿岸照葉樹林の昆虫, : 63-188.
西田光康(2004)ハネナシナガクチキの採集方法と個体変異について. ねじればね, (108): 1-3.
廣川典範・高橋隆信(2007)佐賀・長崎のトホシニセマルトビハムシはマメヅタに付く. 月刊むし, (432): 32-33.


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佐賀北高校生物部員採集の佐賀県産甲虫