今坂正一の世界
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アオハムシダマシ類の上翅肩部にある縦稜と交尾姿勢との関係

今坂 正一

発端

筆者は、今坂(2005)において日本産アオハムシダマシ類の再検討を行い、本誌421号(今坂, 2006)に改めて絵解き検索による解説を行った。

そのおり、上翅肩部に角張った縦稜(隆起線)があるかどうかで、本土産13種を大きく2群に分ける事ができることを述べた。つまり、縦稜があるのはニシアオハムシダマシ種群に含まれる4種で、ないのはアカガネハムシダマシ種群の9種である。

このように、♂交尾器の特徴と共に、上翅肩部の縦稜は種群を分ける大きな特徴となっており、しかも、縦稜を持つ種は、現在の所、国内産に限られている。

しかし、この特徴に気が付いて以来、解説の原稿を作っている頃まで、縦稜にどのような生態的な意味があるのか、考えがつかなかった。たまたま、一昨年(2005年)暮れに、大阪市在住の畑山武一郎氏から、岐阜県白川村白水湖で撮影したというアオハムシダマシ類の生態写真を、標本と共にいただいた(写真1, 2)。撮影地が中部山岳の一角であるので、夏に多いアオハムシダマシ Arthromacra viridissima Lewisか、あるいはオオアオハムシダマシ Arthromacra majuscula Nakaneであろうと思い、特に気にせずそのまま預かって帰宅した。その後しばらくしてから標本を確認してみると、自身で記載したタカハシアオハムシダマシ Arthromacra takahashii Imasakaであり、詳しく眺めてみると写真も確かにこの種であった。

タカハシアオハムシダマシの交尾姿勢

写真1を眺めていて、何か違和感を持った。しばらくしてその理由は明らかになったが、♂が妙に♀の後方に位置していたのである。採集時にハナカミキリなどで良く交尾を観察したり、生態写真を見たりする機会が多いが、甲虫の多くは、交尾時には♂の頭は♀の前胸背の上あたりに位置しており、前肢は♀の前胸か、前肢あたりを抱え込むことが多い。

この白水湖のタカハシアオハムシダマシのカップルの場合、♂の頭は♀の前胸後縁に達しておらず、♂の前肢はというと、♀上翅の肩のあたりに置かれていた。もう一枚の写真2を拡大して見てみると、明らかに、件の肩の縦稜に♂は?節を掛けていて、♀のエッジを掴んでいた。タカハシアオハムシダマシには明瞭に縦稜が発達しており(写真7参照)、この体勢なら、丸いなで肩より、角張った稜の方がより確実に♀を保持することができて、交尾体勢を維持できるわけである。

アカハムシダマシの交尾姿勢

それでは他の種はどうなのか? 手元の写真を探してみた。確か再検討の図版にも使用した長崎県雲仙で撮影したアカハムシダマシ Arthromacra sumptuosa Lewisの写真があったはずだ。本種には上翅肩部に縦稜はなく、丸まっている(写真8参照)。

しばらくして、写真3と写真4が見つかった。写真3の♀は緑型(higoniae-type)であるが、両カップル共に、同一花上で見られたアカハムシダマシである。これらの2枚の写真を見る限り、アカハムシダマシでは、通常の他の甲虫の交尾姿勢により近い。♂の頭は少なくとも♀の前胸後縁に達しているし、前肢は♀の前胸を抱え、?節の爪は前胸前縁の前角付近に引っかけられているようである。本種の前胸は本属中最も前角と後角が発達して側方に突出しているが、そのことと、この交尾姿勢は対応しているのかもしれない。

ニシアオハムシダマシの交尾姿勢

雲仙では上翅肩部に縦稜を持つニシアオハムシダマシ Arthromacra kyushuensis Nakaneも撮影した。それが、写真5と6である。この種では♂がタカハシアオハムシダマシよりさらに♀に対して後方に位置しており、♂の頭も前肢?節も、上翅基部よりかなり後方に置かれている。♂の?節は確かに上翅肩部の縦稜を掴んでいるが、その位置は、タカハシアオハムシダマシが肩の直後だったのに対して、本種ではかなり後に下がり、上翅の基部から1/5付近であった。

上翅肩部の縦稜の機能

以上、現在の所3種についての観察例しかないが、交尾の際、上翅肩部に縦稜を持つ2種では、♂が♀の縦稜部分を前肢?節で掴んでおり、縦稜を持たない1種では他の甲虫同様、前胸背を掴んでいることが明らかになった。このことから、当然、この上翅肩部の縦稜の機能は、♂が掴みやすく、?節が引っかかりやすく、♀の体を強く保持するために利用されていると考えられる。

この形質は、ニシアオハムシダマシ種群の♂の交尾姿勢が、普通よりずっと後にずり下がった体勢を必要とすることから、♂の前肢が上翅肩部を掴む形になり、発達したと考えられる。しかし、なぜこういう交尾姿勢が必要であるかということについては、現在の所、まったく見当が付かない。あるいは、ニシアオハムシダマシ種群の中では最も縦稜が未発達なオオダイアオハムシダマシ Arthromacra oodaigahara Imasakaの交尾形が観察できれば、ひょっとしてそのヒントが得られるかもしれない。読者諸氏も、アオハムシダマシ類の交尾活動を観察・撮影する機会が有れば、その様子をご教示頂ければ幸いである。問題提起となる貴重な写真を恵与頂いた畑山武一郎氏に、心より厚くお礼申し上げる。

図版に示した撮影データ・図版説明を以下に記す。

1. タカハシアオハムシダマシ(岐阜県白水湖1)
 岐阜県白川村白水湖平峰, 19. VI. 2005, 畑山武一郎撮影.

2. タカハシアオハムシダマシ(岐阜県白水湖2)
  同上.

3. アカハムシダマシ(雲仙1)
  長崎県雲仙市小浜町雲仙, 28. V. 2004, 今坂正一撮影.

4. アカハムシダマシ(雲仙2)
  同上.

5. ニシアオハムシダマシ(雲仙1)
  同上.

6. ニシアオハムシダマシ(雲仙2)
  同上.

7. 上翅肩部に角張った縦稜を持つ種
  タカハシアオハムシダマシ

8. 上翅肩部に縦稜を持たない種
 アカハムシダマシ

参考文献

今坂正一, 2005. 比和科学博物館研究報告, (44): 61- 163.
今坂正一, 2006. 月刊むし, (421): 20-35.


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