今坂正一の世界
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佐々治寛之先生の後輩

今坂正一 

佐々治寛之先生は長崎の出身で、九州大学昆虫学教室から福井大学へと移られた。長崎東高校生物部では部誌「染色体」を虫の記事で充実させ、九大時代に筑紫昆虫同好会を創立、また、福井に移られてからは福井昆虫研究会を作られた。先生は筋金入りの虫屋であり、大学教授となられ、日本でも屈指の甲虫分類のプロフェッショナルになられてからでさえ、常にアマチュアや初心者を啓蒙され、同好会活動にも精力を傾けられてきた。それを如実に示しているのは、ご専門のテントウムシ科について何度となく日本語での検索表を作られていることで、アマチュアにも理解しやすいように、美しい全形図とともに、丁寧に、そして努めて平易に解説されている(図1:先生最初(?)のテントウムシ科の図入り検索表)。

先生同様、私も長崎県の島原市の出身で、郷土の虫屋の先輩として、早くから先生とはお手紙のやり取りをさせていただいていた。私は、カミキリ→ハムシ→アリモドキ→テントウムシ→ゴミムシダマシと、色々な甲虫に興味を持ったが、頻繁に先生と連絡を取り始めたのは、長崎県のテントウムシのことをご教示願うためだった。先生は「長崎甲虫誌資料(一)」として、長崎県のテントウムシの記録をまとめられており、これに触発されて、先生のファウナ・ヤポニカ・テントウムシ科を購入し、慣れない英文を訳しながらテントウムシを調べた。一度、長崎での講演のついでに、島原の実家にお泊まりいただいて、一升瓶を片手に一晩虫の話を伺ってからは、遠慮が無くなり、同定などでもしばしばお世話になった。その結果、長崎県産テントウムシを何種も追加することが出来、一時は県単位で最も多いテントウムシの種数を誇った。

同時に、早くから地方変異と生物地理に興味を持ち、1980年頃からはヒサゴゴミムシダマシ属の地方変異を調べ始めた。その課程で、より多くの方から標本を借り出して調べる必要が成じて、厚かましくも先生にも、ヒサゴゴミムシダマシ標本の借用をお願いした。先生のご専門はテントウムシであるが、甲虫全般に興味を持って研究されており、特にゴミムシダマシを含むヒラタムシ上科は守備範囲にしておられた。こんなアマチュアの生意気な申し出に対して、「誰に対してそんな物を言っているのか?」と読みとれるような返事をいただいたのは、当然の結果だったと思う。私は慌てて、その当時、関西の若手甲虫屋の勉強会で発表した、「ヒサゴゴミムシダマシ属についての覚え書き」のコピーをお送りして釈明し、問題に対する研究姿勢と進展具合を説明した。

先生はコピーを見るなり、あっさりと前言を撤回され、手持ち標本を貸与されて研究を進めるよう励ましてくださった。その後、雑誌への連載初期には、「・・・しだいに本論へ入って行き、分布論や系統論が展開されていけばゴミダマそのものに関心をもっていない人も方法論的な面で興味を抱いてくれると思います。(1983年7月18日付私信)」と鼓舞していただいた。

また、連載終了後にも、以下のようなお手紙をいただいた。

「系統関係の推定、進化過程の類推、生物学的考察については、それなりにいくつかの原則や方法論がありましょうが、それらは多分に主観的です。客観性を重視するために、数量的手法を導入する方法もありますが、それとてもBestなものではないでしょう。そのため、多くの分類研究者は、方法論の批判から逃避するため、区別して命名記載するだけに終始しているのが現状です。なるべく多くの材料を基礎に、思う存分の考察を展開した点で、貴兄の研究態度を十分に評価したいと思います。貴兄の推定された系統関係や生物地理が、本当に正しいかどうかは私には何ともいえません。しかし、ヒサゴ問題は、20年以上も前から、何人もの甲虫屋が関心を持ちながら、ほとんど何も出来なかったのは事実です。恥ずかしいことながら、私もその一人でした。せめて、あるといえば、中根先生の記述くらいでしょう。実験生物学では、然るべきデータが出来れば、それから、ある客観的結果を証明することが可能ですが、現状から過去を推定することは困難です。それには勇気がいります。そういう意味からも貴兄に心から敬意を表したいと思います。(1984年12月3日付私信)」。

私としては、大先生からの好意溢れるお手紙をいただいたことで心から安堵し、ヒサゴゴミムシダマシの文章を書いて本当に良かったと思った。同時に、先生の度量の大きさとご厚意に対して感謝で胸が一杯になった。そして現在まで、座右の銘として、この手紙を保管している。

ふと思うのだが、もし、先生が大学教授と言うプロの立場でなかったとしたら、もっと思う存分、生物地理や系統の話などでも、SF的な話も含めて展開されたのではないか? 上の文章はそんなアマチュアの自由さを、少しはうらやましく思われての言ではなかったのか? そう思えてならないのである。

私の方は、その後、機会があってジョウカイボン科の分類をテーマに九大昆虫学教室に研究生として籍を置くことになり、実際に先生の後輩ということになった。

先生は大学退官後、テントウムシ類など所蔵甲虫標本の大部分を、出身大学である九州大学に寄贈され、これらの標本は現在、「佐々治コレクション」として九大総合博物館に収蔵・展示されている。私は、2003年からアオハムシダマシ属の再検討を進めたが、佐々治コレクションの中に多くのこの類の標本が含まれているのを知って、先生と管理者に借用をお願いした。

ただ、かつて、益本仁雄博士が本土産アオハムシダマシを1種にまとめられた際、先生もその処置に賛意を述べられているので、お二人の考えに異議を唱えるための一助とするために、当事者である先生に標本の借用をお願いしたことになる。しかし、今回も、先生は快く標本の借用について管理者に許可を与えられ、結果として2005年には日本産を新種6種を含む14種に分類し、公表することができた。このように、先生は常に、自身と意見を異にする者に対してでさえ、意欲のある者には助力を惜しまれなかった。

最後に先生に感謝の意味を込めて、先生に献名された日本産昆虫の種のリストを示す。先生の業績については、退官記念誌「SUKUNAHIKONA」の中で、自ら著作と記載された種について記述されているが、自身に献名された種についての記述は無い。あるいは、先生もある部分ではアマチュアの気分だったので、喜んでいただけるのではないかと考えている。合掌。

佐々治寛之先生に献名された日本産昆虫

1.タニソバマダラキジラミ Aphalara sasajii Y. Miyatake
2.ウスベニホソチビカスミカメSasajiophylus crapulatus Yasunaga
3.マルオカメクラチビゴミムシTrechiama hiroyukii S. Ueno
4.アスワメクラチビゴミムシTrechiama sasajii S. Ueno
5.エゾカタキバゴミムシBadister sasajii Morita
6.ヒロユキメダカハネカクシStenus hiroyukii Puthz
7.ササジヒメコバネナガハネカクシLathrobium sasajii Watanabe
8.ササジムネトゲアリヅカムシPetaloscapus sasajii S. Nomura
9.ヒラタドロムシ対馬亜種Mataeopsephus japonicus sasajii M. Sato
10.ホソアカツヤコメツキScutellathous sasajii Kishii
11.マツナガチビオオキノコTritoma sasajii Narukawa
12.ミヤタケメダマテントウSasajiella amamiana Miyatake
13.マルムネトサカツツキノコムシCis sasajii Kawanabe
14.ササジクロハナノミMordella sasajii Takakuwa
15.ササジヒメハナノミGlipostenoda sasajii Shiyake
16.アリアケホソヒメアリモドキ Leptaleus sasajii Sakai et Telnov
17.アマミコブスジゴミムシダマシBoletoxenus sasajii Masumoto et Akita
18.シロアリノスゴミムシダマシLorelus sasajii Masumoto et Akita
19.ミヤマヨコミゾコブゴミムシダマシUsechus sasajii M. Saito
20.ヤエヤマツヤバネクチキムシHymenalia sasajii M. Saito
21.カンバムジハムシGonioctena kamiyai Kimoto
22.カミヤコバンゾウムシMiarus kamiyai Morimoto
23.カミヤノミゾウムシOrchestes kamiyai (Morimoto)
24.カミヤチビシギゾウムシCurculio kamiyai Morimoto
25.ササジカレキゾウムシTrachodes sasajii Morimoto et Miyakawa
26.カミヤササコクゾウムシDiocalandra kamiyai Morimoto

図版説明

1. 神谷寛之(1960)テントウムシの見分け方. 筑紫の昆蟲, 4(1/2):19-32.より抜粋

2. ソボトゲヒサゴゴミムシダマシ Misolampidius sobosanus M. T. Chujo et Imasaka ♂
  今坂正一・中條道崇(1983)ヒサゴゴミムシダマシ属の系統と進化(1). 月刊むし,(148):9-13.
  タイトル画

3. 島原半島産アリアケホソヒメアリモドキ♂


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アオハムシダマシ類の上翅肩部にある縦稜と交尾姿勢との関係