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福岡県三橋町の用水路における淡水魚

今坂正一

はじめに
仕事の関係から川の生物にたずさわる機会が多くなり、1995年からは淡水魚に興味を持った。1980-1981年に柳川市二つ川で調査をした二階堂(1982)によると、カゼトゲタナゴ、カネヒラなど24種が記録されている。川那部・水野(1993)にも、多くのタナゴ類の産地として柳川市二つ川が記録されている。柳川市は自宅から比較的近く、タナゴ以外にもどのような種がいるのか興味を持った。また、二階堂(1982)の調査後20年近く経過して、魚類相がどの様に変化したか調べてみようと思った。そこで、1995年の夏以来、3年間に渡って調査し、二つ川水系のうちの三橋町百町周辺で魚類30種を確認できたので報告したい。
本文の掲載について色々ご教示いただいた佐賀県立博物館の田島正敏氏と、シモフリシマハゼの同定でお世話になった環境科学(株)大阪事務所の大迫尚晴氏にお礼申し上げる。

調査地の概要と調査方法
福岡県山門郡三橋町(図1)は、柳川市の東北部に隣接する町で、町全体がほぼ、水田と耕作地、集落、そして縦横に走るクリークで占められる。福岡県の南端に近いところを東から西に流れる一級河川の矢部川は、河口から全流路の約1/5にあたる三橋町中山で沖端川を分岐する。沖端川はさらに、三橋町百町で二つ川を分岐する。二つ川は水郷柳川の水源を確保するために作られた運河と考えられ、三橋町から柳川市の市街地を通り、お堀の周りをめぐる。二つ川の分岐から下流に4つめの橋までの間に、南側に向かって4本の用水路が走っており、そのうちの東から2番目(a用水路)と4番目(b用水路)の2本の用水路(図8)を調査の中心とした。また、上記4つめの橋の北側には二つ川と平行にヒシ畑に利用されるcクリーク(図6)があり、沖端川から引かれた用水路からも水が流れ込む。塩塚川(図7)は二つ川の分岐付近の南側にあるクリークから細流が発して南西方向に流れるが、流速が遅く、ほとんど止水に近い。二つ川(図5)では分岐から下流に4つめの橋付近まで、沖端川(図3,4)では矢部川の分岐から二つ川分岐の下流の堰まで、矢部川(図2)では主として沖端川分岐より上流の瀬高町側で調査したが、いずれも回数はごく少ない。矢部川と沖端川の一部を除く調査地の大部分は三橋町百町に含まれ、cクリークは三橋町正行に含まれる。
調査は口径50cm、網目3mmのタモ網のみを用いて、1995年8月から1998年10月まで、月に1〜2度、1〜2時間程度行った。日によって調査地点は異なるが、1回2〜3地点程度、頻度の多い方からa用水路、b用水路、塩塚川、cクリークの順で、その他の地点では全期間で2〜数回調査をしただけである。真冬と盛夏の調査は2〜3ヶ月に1〜2回と間隔が開き、春と秋の調査はより頻度が多く、毎週の場合もあった。捕獲した個体の一部は持ち帰って飼育した。
分類は川那部・水野(1993)に従い、田島(1995)を参考にした。

a、b用水路の環境概要
a用水路(図8左列)
幅70cm、深さ70cm、通常水深は55cm程度、両側は水田と畑、中流は片側が舗装道路である。水門から50mほど直進すると、溜りと側溝があり、土手の下を潜る。さらに100mほど直進して、左に45゚曲がり、さらに90゚右折する。洗い場を過ぎ、住宅の間を抜け、左折しすぐまた右折して比較的広いクリークに合流する。便宜上以下のように区分して表現する。
上流:水門から土手の下まで
中流:土手から90゚右折まで
下流:90゚右折からクリーク合流まで

b用水路(図8右列)
幅、深さともa用水路よりやや広い。水門からすぐ広い溜りを経て、50mほど直進し、左右に2分岐。左支流には低い堰があり、ほとんど調査していない。右支流は10m程度直進して溜まりとなり、90゚左折。30mほど直進して、舗装道路の下を暗渠で通り抜け、さらに50mほど直進して比較的広いクリークに合流する。便宜上以下のように区分して表現する。
上流:水門から2分岐まで
中流:2分岐から舗装道路まで
下流:舗装道路からクリーク合流まで

調査結果と考察
1.用水路で確認された種数
三橋町百町周辺で9科30種の魚類を確認することができた。調査地点別の確認状況は表1のとおりである。

a用水路では23種が得られ、上流が21種で最も多く、次いで下流の17種、中流は12種で最も少なかった。上流は水質が良く、川底は砂〜砂礫で、流速が早いところや、逆に流速が遅い溜まりや側溝など、環境が多様なので種数が多かったのであろう。中流は挺水植物が多すぎるため流れが淀んでおり、ゴミなども多く溜まっていた。さらに川底が泥であったことも種数が少なくなった原因と思われる。下流は流れは再びスムーズになり、川底は泥の部分が多く、オオカナダモが多く生えていた。挺水植物は水面が半分隠れる程度に多く、魚が隠れる場所が豊富にあった。これらの理由で比較的種数が多かったのであろう。確認できた23種のうち、ウナギ、アユ、カワバタモロコ、カムルチーの4種は本来a用水路を生活の場としているとは考えにくいが、残る19種はa用水路で生活の大部分を過ごしていると考えられる。

b用水路では22種が得られた。中流が18種と最も多く、次いで上流が15種で、下流は13種と少なかった。上流は水質が良く、川底は砂〜砂礫で、流速が早く、挺水植物も多かったが、溜まりや側溝部分を含まないので多少多様性が低くなった。中流は水質が良く、川底は砂礫部分と泥の部分があり、泥底部分にはオオカナダモが多く繁茂していた。流れが早い所と、逆に遅い溜まりもあり、環境が多様になり、種数が多くなったものと思われる。下流は流速が遅く、挺水植物は多すぎて水面の大半を隠し、ゴミなども溜まって水質が悪く、種数も少なかった。確認できた22種のうち、コイを除く21種はb用水路を生活の場としていると考えられる。しかし、カワヒガイ、ゼゼラなどは一部の月しか見つかっておらず、短期間だけ利用しているのかもしれない。
a、b両用水路を合わせ確認した種数は27種で、このうち22種は、その生活の大半をこの狭い用水路で過ごしているものと考えられる。
なお、両用水路で、魚類以外にテナガエビ、スジエビ、ミナミヌマエビ、アメリカザリガニ、マツカサガイ、トンガリササノハ、ドブガイ、マシジミ、カワニナ、タニシ、スクミリンゴガイなどがみられた。二つ川ではスッポンの幼体も1個体採集した。

2.魚種毎の確認状況および飼育状況
ウナギ科 ANGUILLIDAE
(1)ウナギ Anguilla japonica Temminck et Schlegel
a用水路下流.1尾.1998年5月23日;50〜60cm程度の大物を、草の根際からすくい上げたが、携帯用水漕に移そうとしてタモ網の破れ目から逃げられた。3年間で1度のみ。

アユ科 PLECOGLOSSIDAE
(2)アユ Plecoglosus altivelis altivelis Temminck et Schlegel
a用水路上流.1尾.1996年6月22日;体長13cm程度の個体を溜りから分岐する側溝の藻の中から採集。帰宅するまでに死んでしまった。2-3日大雨が続き、増水した後だったので、流されて紛れ込んだのであろう。その後まったく見ない。

コイ科 CYPRINIDAE
(3)カワムツB型 Zacco temminckii (Temminck et Schlegel)(図9ー2)
a用水路中流および下流.10尾.1996年8月24日;a用水路中流および下流の、岸辺がショウブ類や雑草で覆われ水流が多少澱む根際、ゴミの下などに潜んでおり、通年みられる。a用水路上流、b用水路やその他の水域で採れなかったのが不思議である。型の判定は主に色彩に基づく。側線鱗数や尻びれ条数などは数えていない。3年間自宅の水槽で飼育しても、A型と同定される色彩の個体は出てこなかった。
(4)オイカワ Zacco platypus (Temminck et Schlegel)  (図9ー4)
a用水路上流.20尾.1995年11月4日;a用水路全域、b用水路全域、cクリーク、塩塚川、二つ川、沖端川、矢部川の全ての水域で最優占種。幼魚が遊泳しているのが通年みられた。成魚は草の根際やオオカナダモの中に隠れていた。7-9月の夏期には早朝から、二つ川の分岐からa用水路の付近まで、ハエ釣りの人が2-3m間隔で並んでいる。煮て食べると美味しいとのことである。二つ川のa用水路付近には、時折四つ手網も設置されており、支柱は常時立てられたままで、ここではまだ日常的に漁が行われていると考えられる。
(5)カワバタモロコ Hemigrammocypris rasborella Fowler(図9ー1)
cクリーク.6尾.1997年11月22日,a用水路上流.3尾.1998年4月4日;cクリークは冬期堀干しが行なわれ、その西端付近では幅1-2mの干潟の細流が残る。初冬には、秋に逃げ遅れた魚類はかたまって深みの泥の中に潜っており、ここでは、ヤリタナゴ、ギンブナ、セボシタビラ、ヤマトシマドジョウ(体長7cm以下)などの幼魚が多く見られた。その中に、少し体高の高いモツゴに似た種が少し混じっていたが、当初は種名が判定できなかった。自宅で飼育している間に栄養が行きとどき、腹が膨れ、体色も良くなって、カワバタモロコであることが解った。その後、a用水路上流の溜りでも3尾を採集したが、以上2例のみで、少ないと思われる。
(6)ムギツク Pungtungia herzi Herzenstein
a用水路上流.2尾.1996年7月13日;a用水路上流、下流、b用水路全域、沖端川などで、5〜10月に流れのある所の草の根際、底の石の下、藻の下などに隠れていた。しかし、冬期には確認できなかった。5月には体長3cm程度の当歳魚が多数見られた。これを飼育したところ、多くはやせ細って死亡し、1/4程度が成魚に生育した。
(7)モツゴ Pseudorasbora parva (Temminck et Schlegel)
塩塚川.4尾.1995年9月23日;a用水路全域、b用水路全域、cクリーク、塩塚川、沖端川などで通年見られたが、ほとんど流速が感じられない塩塚川を除いて余り多くなかった。溜まりや側溝などの止水に近いところで見られた。水槽で飼うのはたやすい。
(8)カワヒガイ Sarcocheilichthys variegatus variegatus (Temminck et Schlegel)
a用水路上流.1尾.1995年10月21日;a用水路上流、b用水路上流など、水質が良く流れが速い所で、5〜10月に川底の石の下、藻の下などに隠れていたが少なかった。5月には、川底のオオカナダモの陰に、3cm程度の幼魚がみられた。自宅の水槽で1年以上飼育することができた。
(9)カマツカ Pseudogobio esocinus esocinus (Temminck et Schlegel)(図9ー3)
a用水路上流.3尾.1995年10月21日;a用水路上流、b用水路中流など、水質が良く流れが早い所で、通年、砂地の川底に停止していた。5〜6月には幼魚が多くみられた。水槽に細かい砂をいれて飼育するとよく砂を吸い込んで摂食し、生育は良かった。底砂も清潔に保つことができて重宝した。
(10)ツチフキ Abbottina rivularis (Basilewsky)
塩塚川.1尾.1995年11月4日,b用水路中流.1尾.1996年8月24日;この他、1997-1998両年に、b用水路中流の溜まりのオオカナダモの中から、5〜6月の渇水期に少数が採れた。b用水路は、冬〜春先と水田耕作前の5〜6月には水門が絞られて、かろうじて通常の7割程度の水深が維持され、ほとんど流れがなくなった。この時期に泥質の川底にオオカナダモが繁茂し、その中にツチフキ、イトモロコ、カゼトゲタナゴ、ギンブナなどが潜んでいた。カマツカ同様に、砂地の水槽で比較的長く飼育できたが、半年くらいで原因不明のまま死んでしまった。
(11)ゼゼラ Biwia zezera (Ishikawa)
b用水路中流.3尾.1997年2月22日;1997年の冬季に、b用水路中流の砂地の川底に静止する姿がみられた。2月の早朝には、朝日が用水路の川底まで直入して姿が良く見えたが、そのほかの季節には太陽光の角度があわず、その姿を見つけることができなかった。その他には、b用水路中流の溜まりの藻の中から1尾を採集しただけである。持ち帰って飼育してみたが、そのつどうまく行かず、ほとんど2〜3ヵ月で死んでしまった。
(12)イトモロコ Squalidus gracilis gracilis (Temminck et Schlegel)
b用水路中流.3尾.1997年7月26日;1997年の夏になって、やっと採れた。b用水路中流の溜まりの川底でオオカナダモの下に静止している個体を採集した。その後、川底の藻を掬うことにより、水量が多い6-11月と、3-4月などに採れた。冬期と5-6月の渇水期には見つからなかった。飼育水槽内では、他の種から餌を奪われ、やせ細る個体が多かったので別の水槽に移した。
(13)コイ Cyprinus carpio Linnaeus
b用水路中流.2尾.1996年6月22日;養殖場から逃げだしたと思われるイロゴイ(錦鯉)の幼魚が用水路の川底を泳ぐのを見つけた。捕獲して持って帰り、水槽で飼うとみるみる大きくなり、半年後には持て余して元の場所に放流した。その後も時折、b用水路中流でイロゴイが見られた。
(14)ギンブナ Carassius auratus langsdorfii Temminck et Schlegel
a用水路上流.5尾.1995年10月21日;a用水路全域、b用水路全域、Cクリーク、塩塚川などで通年みられた。溜まりや側溝などの止水に近いところでみられ、5月には周囲の田圃にも無数の稚魚がみられた。
(15)ヤリタナゴ Tanakia lanceolata (Temminck et Schlegel)
二つ川.5尾.1995年11月4日;a用水路全域、b用水路全域、Cクリーク、塩塚川、二つ川、沖端川など、調べた全ての水域で通年みられた。a、b用水路では通年、川底を遊泳する姿が見られ、植物の根際や藻の中に潜り込んでいた。Cクリークでは冬期の渇水期に細流の泥の中に潜っていた。二つ川と沖端川では、オイカワとアブラボテに次いで個体数が多かった。水槽で飼うと良く育った。飼育個体中に、本種の色彩と次種に近い体型を合わせ持つ個体(図9ー6)がおり、あるいは雑種かもしれないと考えている。
(16)アブラボテ Tanakia limbata (Temminck et Schlegel)(図9ー5)
二つ川.10尾.1995年10月21日;a用水路全域、b用水路全域、塩塚川、二つ川、沖端川などの水域で通年みられた。a用水路中・下流と、b用水路下流、塩塚川、二つ川などの流速が遅く、多少とも水質が濁った所に多く、植物の根際や藻の中に潜り込んでいた。稚魚はオイカワに次いで個体数が多かった。水槽の中では最も元気で、良く餌を食べ、早く成長した。
(17)ニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus smithii (Regan)(図9ー7)
塩塚川.6尾.1995年9月23日;a用水路全域、b用水路全域、塩塚川、二つ川などで通年みられたが、ほとんど流速が感じられない塩塚川とa用水路下流を除いて、余り多くなかった。溜まりや側溝などの止水に近いところで稚魚がみられ、多少とも水質が濁った所に多く、植物の根際や藻の中に潜り込んでいた。稚魚は多いが、婚姻色の出た成魚はa用水路中流で2尾採集したのみで少なかった。アブラボテやカネヒラ、ヤリタナゴなどと一緒の水槽で飼うと、競争に負けて餌を食べられず、やせ細る個体が多かった。おとなしいカゼトゲタナゴと本種だけを別の水槽にいれ飼育したところ、やっと2年目にきれいな婚姻色が出た。マツカサガイをいれてやると、♂は縄張りを守り、♀は産卵管を伸ばした。産卵するところを目撃したので貝を隔離したら、5mm程度の仔魚が10尾ほどふ化した。3年間の調査と飼育期間中、腹鰭前縁に白線のある個体は一度も見ておらず、当地域にはタイリクバラタナゴは生息していないと考えている。
(18)カゼトゲタナゴ Rhodeus atremius atremius (Jordan et Thompson)(図9ー9)
塩塚川.5尾.1995年9月23日;a用水路上・下流、b用水路中流、塩塚川などで通年見られた。a用水路上・下流やb用水路中流では、渇水期に川底の藻の中に幼魚や成魚が潜っていたが少なかった。流速が緩く、多少とも水が濁った所に多く、塩塚川では5-9月に植物の根際に稚魚が多くみられた。稚魚では体側中央のブルーの線が目立たず、前種と紛らわしい。♂の婚姻色は、紅色の口紅とアイライン、そしてコバルトブルーの体側線が可愛らしい。
(19)カネヒラ Acheilognathus rhombeus (Temminck et Schlegel)(図9ー8)
a用水路下流.1尾.1995年10月21日;a用水路上・下流、b用水路下流などで通年見られた。a用水路下流では川底を遊泳中のものをよく見たが、なかなか採れなかった。川底のオオカナダモの中に潜り込んでいる成魚がたまに採れた。a用水路上流の側溝では5月に、ニッポンバラタナゴそっくりの稚魚が群れていることがあった。持ち帰って飼育するとめきめきと成長し、1年目には10cm程度の成魚になった。夏の終わりから秋にかけてきれいなピンク色の婚姻色に染まった。
(20)セボシタビラ Acheilognathus tabira Jordan et Thompson subsp.2(図9ー10)
a用水路上流.5尾.1995年10月21日;a用水路全域、b用水路全域、二つ川、沖端川などで通年みられた。a用水路上流やb用水路上流では川底を遊泳中のものを良く見たが、なかなか採れなかった。時折、地元の人がビン漬けを行っており、覗いてみると本種の大物が5〜10尾も入っていることもあった。1995-1996年には、a用水路上流では両岸に水路の2/3を被う程度のイネ科の挺水植物が繁り、その根際に多くの成魚が潜り込んでいた。1997年以降はこまめに用水路の草刈が行われ、隠れ場所がなくなって成魚は採りずらくなった。カネヒラ、アブラボテ、ヤリタナゴなどと一緒に飼うと競争に負けるようで、餌が不足すると本種が最初に栄養失調になった。♂の婚姻色は背鰭に黒い斑紋があり、上縁は紅色、シリ鰭の下縁が白くなる個体や、紅色になる個体、両方が二重に出る個体など、かなりの個体変異があった。

ドジョウ科 COBITIDAE
(21)ヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarai Okada et Ikeda(図9ー12)
a用水路上流.1尾.1995年11月4日;a用水路上流とb用水路上流の砂地の川底から、3度ほど採集した(5,6,11月)。Cクリークでは、冬期に、細流の泥の中に無数の幼魚が潜り込んでいた。水槽の中に細かい砂をいれて飼育すると、常に砂を吸い込んで摂食し、砂がきれいになるので重宝した。幼魚は1年では成魚には至らず、2年以上かかるようである。体側面の黒班は、個体によってそれぞれ少しずつ異なっていた。

ナマズ科 SILURIDAE
(22)ナマズ Silurus asotus Linnaeus
a用水路上流.1尾.1995年9月23日;a用水路上・下流、b用水路上流、Cクリークなどで5-9月にみられた。a用水路上流やb用水路上流、Cクリークでは5-6月、オタマジャクシみたいな幼魚が多くみられた。b用水路上流の水門直下の溜まりでは、流れ藻の塊の中に無数のスジエビと供に大型の成魚が潜んでいた。1998年8月に掬った個体は体長約40cmほどあった。飼育すると小魚や小エビをよく捕食し、体長2cmの幼魚が1週間でほぼ倍の大きさになったのには驚いた。

メダカ科 ORYZIATIDAE
(23)メダカ Oryzias latipes (Temminck et Schlegel)
a用水路上流.10尾.1995年9月23日;a用水路全域、b用水路全域、塩塚川などで通年見られた。溜まりや側溝など流速が緩い所にかたまっており、b用水路では渇水期には無数と言っていいほどみられた。通常は流れのある用水路より、むしろほとんど流れがない淀んだ側溝に多く、そんな場所ではメダカとギンブナだけがみられた。

タイワンドジョウ科 CHANNIDAE
(24)カムルチー Channa argus (Cantor)
a用水路上流.1尾.1996年9月21日;a用水路上流・下流でこの3年間に3回(6,9月)採集したのみ。外来魚で水草の多い淀んだ水域を好むので、a、b両用水路では繁殖はしていないものと思われる。

スズキ科 SERRANIDAE
(25)オヤニラミ Coreoperca kawamebari (Temminck et Schlegel)(図9ー11)
a用水路上流.1尾.1996年5月11日;a用水路全域、b用水路全域、二つ川、沖端川、矢部川など水質が良く流れが早い場所で、4-10月に挺水植物の根際、オオカナダモの中などに潜んでいた。b用水路上流では5-6月に体長2-3cmの幼魚が特に多く、一度の採集で7-8尾が採れることもあった。成魚は同じ水槽に2尾以上を入れると激しく争うが、幼魚の時から一緒に飼うとほとんど闘争をしない。ここ2年ほど、毎年5-6尾を同じ水槽で成魚まで育て上げ、春に元の水路に戻している。

ハゼ科GOBIIDAE
(26)ドンコ Odontobutis obscura obscura (Temminck et Schlegel)
a用水路上流.3尾.1995年9月23日;a用水路全域、b用水路全域、cクリーク、塩塚川、二つ川、沖端川、矢部川などで通年みられ、水が淀んだ場所の挺水植物の根際、オオカナダモの中などに多数潜んでいた。
(27)カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus Mizuno
a用水路上流.6尾.1995年9月23日;a用水路全域、b用水路全域、cクリーク、塩塚川、二つ川、沖端川、矢部川などで通年みられ、前種と反対に、むしろ流速が早く、水流が直接当たる用水路の壁面や川底に群れていることが多かった。
(28)シモフリシマハゼ Tridentiger bifasciatus Steindachner
cクリーク.7尾.1997年5月10日;cクリークで、堀干しが終わって水が張られ、挺水植物も少し生えてきた頃、ナマズ、ヤリタナゴ、モツゴ、カワヨシノボリなど色々な魚の幼魚がみられた。この中に、縞のあるハゼが混じっていたので、持ち帰って調べたが、図鑑類では同定できなかった。大迫尚晴氏に同定を依頼して、本種であることが確認できた。汽水性の種ということなので、沖端川か矢部川を遡上してきたのかもしれない。6月まで幼魚は見られたが、7月になってヒシが水面の大部分を被う頃、みられなくなった。
(29)ウロハゼ Glossogobius olivaceus (Temminck et Schlegel)
cクリーク.1尾.1996年10月19日;本種も汽水性の種で、前種同様に遡上個体と思われる。3例(9,10月)採集し、飼育を試みたがすぐに死んでしまった。
(30)マハゼ Acanthogobius flavimanus (Temminck et Schlegel)
cクリーク.1尾.1997年9月27日;本種も汽水性の種で、遡上個体と思われる。体長8cm程度の個体で、持ち帰ったら既に死んでいた。

3.用水路の魚類の保全−むすびにかえて
調査のきっかけになった川那部・水野(1993)には二つ川産として、ヤリタナゴ、アブラボテ、カゼトゲタナゴ、カネヒラ、セボシタビラの5種のタナゴ類が記録されている。
また、1980-1981年に柳川市二つ川(川下りの船着き場から上流に400mまでの範囲)で調査をした二階堂(1982)によると、アユ、カワムツ、オイカワ、カマツカ、ツチフキ、イトモロコ、ムギツク、モツゴ、コイ、ギンブナ、タイリクバラタナゴ、バラタナゴ(ニッポンバラタナゴと思われる)、カゼトゲタナゴ、ヤリタナゴ、アブラボテ、カネヒラ、タビラ(セボシタビラと思われる)、マナマズ(ナマズと思われる)、メダカ、カダヤシ、カムルチー、オヤニラミ、ドンコ、ヨシノボリの24種が記録されている。今回、カダヤシを除いて総てが再確認されたので、二つ川の魚類相はこの20年近く、ほとんど変化していないと言えるかもしれない。調査したa、b両用水路の水温は、夏は冷たく冬は温かい。特に冬期は外気温やcクリークの水温よりずいぶん暖かく、調査中もかじかんだ手を水中で暖めていた。たぶん夏期は25゚C以下、冬期は10゚Cくらいはあるものと思われる。平野の真ん中にある用水路の水質と水温が、各種の魚類の生息に適した、良好な状態に保たれているのは驚くべきことである。淀川水系を始めとする日本有数の淡水魚の産地が、河川の改変や水質の悪化等によって著しく種数および個体数を減じる中にあって、本調査地は本来の魚類相を保っている希有な例と言えると思う。当地域の方々が昔同様に用水路を大事に使用され、整備と水質の保全に務められた結果、このような多様な魚類相が保持され続けてきたのであろう。全国的に見ても矢部川と筑後川は淡水魚類の生息地として重要な水系の一つである。当用水路は容易に多くの種と個体数を捕獲できる場所であるので、乱獲を厳に慎む必要がある。また、水質と隠れ場所の保全、産卵の対象になる貝類の保護にも、今後も細心の配慮が必要であると考えられる。

引用文献
川那部浩哉・水野信彦(1993)山渓カラー名鑑日本の淡水魚,720pp.山と渓谷社,東京.
田島正敏(1995)佐賀県の淡水魚ー人と川と自然を考える,272pp.佐賀新聞社,佐賀.
二階堂浩文(1882)柳川の淡水魚.生物研究会誌(福岡大学生物研究会)12:10-16.


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大野原で採集したオオクサキリ
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