今坂正一の世界
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モグラの坑道にいたセスジチビシデムシ

今坂正一・大塚健之

Catops torigaii which ware in the galleries of moles.
by Shoichi Imasaka & Kenshi Ohtsuka

大塚は河川敷に放置してあるワラ束の下のモグラの坑道からセスジチビシデムシ Catops torigaii Nakane 1♂を採集した。その報告を受けた今坂が、坑道にベイトトラップを設置したところ、1♂2♀を採集できたので報告したい。
1♂. 福岡県久留米市小森野宝満川河川敷, 1. V. 2006, 大塚採集; 1♂2♀♀. 同所, 5. V. 2006, 今坂採集, いずれも春沢圭太郎氏同定.

発見の状況
大塚(広島市在住)は、年3回の長期連休の際には実家のある佐賀県鳥栖市に里帰りをしている。実家に滞在中は、かってフィールドとしていた場所に足を運び、懐かしむ様に甲虫を採集するのがささやかな楽しみとなっている。
この日も佐賀県鳥栖市と福岡県久留米市の県(市)境になっている宝満川に、ゴミムシ類採集を目的に赴いた。ここの川岸は泥質の土壌を有し、大部分は草地で、一部が耕作地となっており、平地性のゴミムシを期待してのものだった。現地に着くと、刈られた草を束ねた塊(図1)が目に入った。このようなワラ束と地面の間には、しばしばゴミムシ類が隠れていることがある。早速、ワラ束をそっと動かしてみると、そこには、モグラのものと思われる坑道が縦横に走っており、上部のワラ束や土を注意深く取り払うと、坑道の中が完全に見える状態となった(図2)。
すぐに、最近、ネズミ類の坑道入り口付近で糞虫やチビシデムシが採集されている(西田, 2002)のを思い出し、なにか雑甲虫でも居ないかと、しばらく坑道を観察した。すると、1頭のチビシデムシが坑道内を走っているのを発見し、あわてて素手で押さえた。チビシデムシはかなり敏速に走っていて、もう少しで、地中の坑道内に逃げ込まれるところであった。更に観察を続けたが、追加は得られなかった。帰宅してから採集した個体を改めてよく見てみると、ベイトトラップや洞窟内から報告されているものに比べて一回り大きく、まったく見たことのない個体であった。そのため、翌々日、今坂宅を訪問する際に見てもらうことにした。

ベイトトラップ
大塚に標本を見せられて、今坂もまったく未知の種であったので、さっそく案内してもらって現地へ出かけた。河川敷内の小規模な耕作地わきに、前年草刈り後に束ねられたドラム缶大のワラ束が6個立っていて、これを除けると底にモグラの坑道があり、その中をチビシデムシが走っていたと言う。さっそく、ワラ束をソーッと取り除いて、坑道を崩さないようにして、坑道内各所に10個のフィルムケースを埋め、餌としてカルピス+焼酎を入れ、サナギ粉を振りかけた(図3)。ソッとワラ束をかぶせておき、2日後に回収したところトラップ内から2個体が得られ、トラップの周囲を足早に走り回っている1個体を採集した。その後も、トラップ設置を2〜3日置きに、2度ほど繰り返したが、それぞれ、大雨で、坑道内が水浸しになったようで、追加は得られなかった。

種名決定
採集したチビシデムシは、上翅には合わせ目以外に、それぞれ3つの盛り上がった縦筋があるように見えた(図4)。そのため一旦は、甲虫図鑑で、上翅には弱い縦隆がある、との説明があるセスジチビシデムシと判断した。しかし、角度を変えて高倍率で検鏡してみたところ、盛り上がった縦筋に見えたものは、単に直立した毛の束であって、一方、凹んで見えた部分は毛が寝ているにすぎず、上翅表面にはほとんど凸凹は認められなかった。さらに、本種の分布は本州だけで、九州からの記録はなく、モグラの坑道にいるという記述もなかったので、この種かどうか自信が持てなくなった。
それで、大阪の春沢氏に標本を送って同定していただいたところ、本種に間違いないとのご教示を受けた。同氏からは、中根猛彦博士の原記載(Nakane, 1956)のコピーと、同種と思われるPerreau(2004)によるNipponemadus yanoiの原記載コピーが送られてきた。本種のホロタイプはHida, Kawai, Futatsuya産であり、Perreauの種の原産地は大阪の淀川である。後者は1♀で記載されているが、きれいな全形図があり、春沢氏の指摘通り本種と思われる。春沢氏は、その他に舞鶴市神崎で得られた本種も確認されているという(京都府企画環境部, 2002)。記録を編纂された水野弘造氏を通じて採集者の安川謙二氏に採集状況を伺ったところ、「2000年11月24日に舞鶴市神崎の由良川河口の砂丘へ行き、主に、流木の下の甲虫を採集した。この日は、晴れで約1時間ほどで100頭ほどの成果があり、そのうちの1ex. がセスジチビシデムシだったと思う。」とご教示いただいた。
本種の同定をお願いし、種々のご教示をいただいた春沢圭太郎氏に心から厚くお礼申し上げる。また、舞鶴市の記録について懇切にご教示いただいた水野弘造氏と安川謙二氏にも感謝申し上げる。

生態等雑感
本種の上翅に見られた毛の縦筋は、採集直後は裸眼でもはっきり確認できるほど顕著であったが、標本にしてしばらく経つと、やや不鮮明になった(図5)。そのためか、甲虫図鑑IIに掲載されている本種の写真(体表面は泥様のもので汚れている)でも、縦筋はほとんど確認できない。坑道内の観察では、かなり足早に移動するし、標本を確認したところ足は長く、上翅よりやや長い後翅があるにも関わらず飛び回るような様子はなく、もっぱら歩いて移動するような感じを受けた。
今回の観察や春沢氏等の情報を総合すると、本種は大きな川の河川敷に特異的に生息し、モグラなどの坑道を主とする地中の空間に生活圏を持つものと推測される。このため、採集されにくく、分布記録も余り出ていないものと思われる。当然、九州からは今回が初めての記録となる。
モグラの坑道を破損しないように、上に物が乗っている状態の坑道を見つけて上記のようなトラップを設置すれば、各地で確認できると思われる。

参考文献
京都府企画環境部, 2002. Red Data Book of Kyoto Prefecture Vol. 3, 京都府自然環境目録2002, 374pp.
林 靖彦・久松定成ほか, 1985. 原色日本甲虫図鑑II, 保育社.
中根猛彦, 1956. 西京大学学術報告, 2: 29-44.
西田光康, 2002. 鰓角通信, (5): 25-27.
Perreau, M., 2004. Mitt. sch. ent. Ges. 77: 197-212.


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