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文献による山口県産ジョウカイボン科の記録

今坂 正一・田中  馨・椋木 博昭

はじめに
1990年代以降,国内のジョウカイボン科の分類学的研究は急速に進行中で,ここ数年毎年20種以上の新種が記載されている.1983年に刊行された保育社の原色日本甲虫図鑑IIIでは国内産75種が掲載されていたものが,1989年の九州大学昆虫学教室編集の日本産昆虫総目録では93種2亜種であり,約10年後にあたる1998年の高橋和弘による日本産ジョウカイボン科目録では184種30亜種に倍増し,さらに今坂による2003年12月現在の集計によると4亜科27属264種33亜種と飛躍的に増加している.さらに,Asiopodabrus 属,Malthodes 属などを中心に50種を超える未記載種が発見されており,大部分の種で多少とも各地で地域変異を起こし,亜種化しているものが多いと考えられるので,最終的には350〜400種(100亜種以上)程度が予想される.
山口県のジョウカイボン科については,「山口県の昆虫」(山口県立山口博物館 1988)においてそれまでの纏めが行われ,28種が記録されている.今後,さらに県産ジョウカイボン相が解明されていくと考えられるが,そのたたき台として,従来の記録を採録し,整理しておきたい.なお,上記のように日本産ジョウカイボン科の分類学的研究は現在,飛躍的に進行中である.そのため,従来1種とされていた種が数種に分割されたり,1種の中に姉妹種が含まれていたことが判明したりして,従来の記録の中には現在では正確にはどの種を指しているのか判別できないものが多く存在する.これらのことを踏まえて,取り敢えず文献ごとに記録を引用した上で,県産の目録を作成したが,明らかに誤同定や数種が混同されている可能性がある記録については,最後に疑問種としてまとめて示した.

A. 文献記録
山口県産ジョウカイボン科甲虫を記録した文献を,可能な限り年代順に掲載し,筆者等による所見を付した.記録された種名が筆者等の所見と異なる場合は,一応元の形で記録した後,( )中に筆者等が考える種名を,Bの目録で示した和名を用いて示した.

1. 三好和雄(1954)羅漢山に於ける7月下旬の昆虫相について.山口生物, 2(1):9-5.
1952年と1953年の7月に山口県羅漢山で採集した昆虫リスト,採集地の状況とカメムシ,ガ,チョウ,甲虫,ハチなどを記録.セボシジョウカイとムネアカクロジョウカイを記録した.

2. 三好和雄(1961)冠山の昆虫相(II).山口県の自然, (5): 9-20.
1951年以降に山口県冠山で採集した昆虫リスト,一回目はトンボ,バッタ,カメムシなどで,二回目は,チョウ,ガ,甲虫,ハチ,ハエなど.種名のみで具体的な採集データは示されていない.アオジョウカイ,キンイロジョウカイ,ジョウカイボン(→ニシジョウカイボンか,ニセジョウカイボン,以後も同じ),セボシジョウカイ,ムネアカクロジョウカイを記録した.

3. 浜崎詔三郎(1964)見島産昆虫目録.山口大学農学部学術報告, (15):595-605.
見島は萩市の西北約40kmの日本海上に浮かぶ孤島で,山口大学などにより5回に渡り行われた見島総合学術調査の昆虫類のまとめとして,230種余りの昆虫類を記録したもの.ジョウカイボン科としては,ヒメクビボソジョウカイ(注1)1種を記録した.本種は近畿〜中部地方に分布する種で,近縁種が多数存在するので,Asiopodabrus 属の種を記録したものという理解をする他はない.しかし,元来 Asiopodabru 属の種は,湿潤な森林に生息するグループなので,佐渡,隠岐,対馬など大きな島以外では記録がない.もし,見島に Asiopodabrus 属の種が本当に分布するなら,その分類や成立年代を含めて,興味深い問題である。再発見が期待される.

4. 池田 寛(1966)[D]昆虫.西中国山地国定公園候補地学術調査報告,: 83-105, 山口県.
西中国山地国定公園候補地にあげられた寂地高原一帯の学術調査報告,昆虫目録500種程度を記録したもの.
山口県寂地高原からアオジョウカイ,キンイロジョウカイ,ジョウカイボン,セボシジョウカイ,ムネアカクロジョウカイを記録した.

5. 和田俊雄(1966)長府産昆虫類目録.六脚虫(山口県立豊浦高校科学部生物班会誌), (1):9.
下関市長府地区で採集した昆虫類の目録.ジョウカイボン科としては,キンイロジョウカイを記録.

6. 三好和雄(1969)鹿野町とその周辺の昆虫(II).山口県の自然, 3(2): 9-15.
1951年以降に山口県鹿野町周辺で採集した昆虫リスト,一回目はバッタ,トンボ,カメムシ,チョウ,ガなど,二回目は甲虫目,三回目は甲虫目の続きとハチ,ハエなどを記録。種名のみで具体的な採集データは示されていない.クビボソジョウカイ,ミヤマクビボソジョウカイ(注2),アオジョウカイ,キンイロジョウカイ,ジョウカイボン,セボシジョウカイ,ムネアカクロジョウカイ,ヒメジョウカイ,キベリコバネジョウカイを記録した.

7. 三好和雄(1976)美和町の昆虫相について(その三), 山口県の自然, 4(5): 27-45.
1971〜1975年に山口県美和町で採集した昆虫リスト,一回目はバッタ,トンボ,カメムシなどの記録.二回目はガとチョウ,本編である,三回目は甲虫目とハチ,ハエなどを記録.種名のみで具体的な採集データは示されていない.クビボソジョウカイ,ミヤマクビボソジョウカイ(注3),クロヒメクビボソジョウカイ(→クロニンフジョウカイ),キンイロジョウカイ,ジョウカイボン,クロジョウカイ(注4),セボシジョウカイ,マルムネジョウカイ,クリイロジョウカイ,クビアカジョウカイ,ヒメジョウカイを記録した.

8. 池田 寛(1970)周防祝島の昆虫(概報).山口県立山口博物館研究報告, (2): 1-15.
山口県上関町周防祝島は光市の南方約15kmの周防灘に浮かぶ島嶼で,山口県下でほぼ南端に位置し,日向灘から豊後水道を経て瀬戸内海に至る暖流の影響を強く受け,暖地性植物が生育する.本報告は祝島で1970年に行った3回の採集行(3月,5月,10月)をベースとして昆虫類300種程度を記録したもの.ジョウカイボン科としては,セボシジョウカイとムネアカクロジョウカイを記録した.

9. 後藤孝彦・田公和雄・弘法泰英(1979)小瀬川流域の昆虫類.弥栄峡の自然総合学術研究調査報告: 641-647.
弥栄峡は山口・広島県境に位置する小瀬川の上流域で,山口県の名勝に指定されている.この弥栄峡に多目的ダムが建設される機会に行われた総合調査で,甲虫類は83種が記録されている.なお,小瀬川が県境とされているので,ここでの記録は山口・広島両県の記録として扱う.ジョウカイボン科としては,キンイロジョウカイを記録した.

10. 三好和雄・田中 馨(1988)ジョウカイボン科.山口県産昆虫目録, 山口県の昆虫: 152, 山口県立山口博物館.
山口県立山口博物館編集による山口県産昆虫目録で,それまでの記録の集大成.甲虫の担当は三好和雄氏と筆者の一人田中で,このうち,ジョウカイボン科は28種,ほとんど具体的な産地名はない.
山口県産としてウスイロクビボソジョウカイ(注5),ミヤマクビボソジョウカイ(注6),クロヒメクビボソジョウカイ(→クロニンフジョウカイ),クビボソジョウカイ,クロヒゲナガジョウカイ,キンイロジョウカイ,ヒメキンイロジョウカイ,アオジョウカイ,セボシジョウカイ,クロホソジョウカイ,ジョウカイボン,クロジョウカイ(注7),ニセヒメジョウカイ(注8),ウスチャジョウカイ(→ウスチャジョウカイ西日本亜種),クビアカジョウカイ,ムネアカクロジョウカイ,ミヤマクビアカジョウカイ(羅漢山),マルムネジョウカイ,クリイロジョウカイ,ヒメジョウカイ,クロヒメジョウカイ(注9),クロスジツマキジョウカイ,キアシツマキジョウカイ,クロツマキジョウカイ,ムネミゾクロチビジョウカイ(注10),クシヒゲジョウカイ(宇部市),キベリコバネジョウカイ,ニセキベリコバネジョウカイを記録した.

11. 今坂正一・中原龍雄・高橋秀哉・池田一喜(1988) 「山口県の昆虫」に載っていない甲虫について.蝶州, (2): 25-27.
オオサワクビボソジョウカイ(錦町木谷峡)とヒロシマジョウカイ(錦町木谷峡),ヒサマツジョウカイ(錦町木谷峡→イシハラジョウカイのシノニム)を記録した.

12. 松永善明・今坂正一(1988) 山口県(主として下関市)で採集した甲虫.蝶州, (2): 27-37.
下関市からクビボソジョウカイ(火の山,功山寺,青山),クロニンフジョウカイ(火の山,功山寺,馬皿),クロヒゲナガジョウカイ(火の山,功山寺,小月),ジョウカイボン西日本亜種(火の山,功山寺,青山→ニシジョウカイボン),セボシジョウカイ(火の山,功山寺,青山),クリイロジョウカイ(青山),クロスジツマキジョウカイ(火の山,功山寺,青山)を記録した.

13. 三好和雄(1994)光市産昆虫目録 1948〜1993.82pp, 自刊.
ほぼ半世紀に渡る光市産昆虫の調査結果で,全昆虫297科2373種を記録.具体的な地名等の採集データは,ごく一部を除いて付けられていない.ジョウカイボン科としては,産地名なしで,光市産としてムネアカクロジョウカイ,クロジョウカイ(注11),セスジジョウカイ(注12),ジョウカイボン,セボシジョウカイ,クロヒゲナガジョウカイ,ヒメジョウカイ,クビボソジョウカイ,ヒメクビボソジョウカイ(注13),クロヒメクビボソジョウカイ(→クロニンフジョウカイ),マルムネジョウカイ,クリイロジョウカイ,キンイロジョウカイ,クロスジツマキジョウカイを記録した.

14. 松永善明(1995) 山口県(主として下関市)で採集した甲虫(II).蝶州, (9): 6-15.
松永・今坂(1988)の追補として,その後自身で採集したカミキリ科104種,友人から恵与されたカミキリ科22種,マメゾウムシ科およびゾウムシ上科,その他の甲虫類などを記録した.このうち,ジョウカイボン科としては,ムネアカクロジョウカイ(下関市火の山)とヒメジョウカイ(下関市東行庵)を記録した.

15. 三好和雄(1996)光市虹ヶ浜の昆虫相, 33pp, 自刊.
光市虹ヶ浜で1948年から1996年まで,ほぼ半世紀に渡って調査した結果の昆虫目録で,114科475種を記録したもの.ジョウカイボンを記録した.

16. 奥島雄一(1996) セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイ(コウチュウ目,ジョウカイボン科)の分布と色彩変異.倉敷市立自然史博物館研究報告, (11): 1-13.
セボシジョウカイの姉妹種であるオカベセボシジョウカイAthemus okabei TAKAHASHI,1992の発見を受けて,両種の分布と色彩変異を全国的に再調査したもの.セボシジョウカイを山口県美東町より記録した.

17. 中村慎吾・奥田育夫・野見山洋之(1996)広島県大竹市弥栄ダムの昆虫類.比婆科学, (170): 1-76.
山口・広島県境に位置する小瀬川の中流域にある弥栄ダムにおいて,1993年〜1994年に行われたダム湖版「河川水辺の国勢調査」の報告.広島県大竹市と表示してあるが,小瀬川中央が県境であるので,山口・広島両県の記録として扱う。甲虫類は235種で,このうちジョウカイボン科としてクビアカジョウカイ,ニシジョウカイボン,セボシジョウカイ,キンイロジョウカイの4種を記録した.

18. 中村慎吾・中島元康・浜口敬太(1998)広島県大竹市小瀬川の昆虫類 1996年の調査結果.比和科学博物館研究報告, (36): 81-82.
山口・広島県境に位置する小瀬川において1996年に行われた第二回「河川水辺の国勢調査」の報告.広島県大竹市小瀬川と謳ってあるが,小瀬川中央が県境であるので,山口・広島両県の記録として扱う.甲虫類は244種で,このうちジョウカイボン科としてセボシジョウカイ,ミヤマクビアカジョウカイ,ヒメジョウカイ,クビボソジョウカイ,クロヒメクビボソジョウカイ,マルムネジョウカイ,ニセキベリコバネジョウカイを記録した.
この同定は今坂が和名で結果を知らせ,著者が建設省の昆虫目録などを参考に学名をあてたもので,一部の種では今回の報告とは異なる学名を使用している.

19. 田中 馨・椋木博昭・安田正利(1999)「山口県の昆虫」以後に採集された甲虫類.蝶州, (11): 17-24.
「山口県の昆虫」(1988)以後に採集された甲虫類127種の記録.このうちジョウカイボン科としてはコクロヒメジョウカイ(錦町寂地山)を記録した.

20. 池田 寛・松田 賢・吉田浩史・岡本 生(1999) 山口県佐波川流域の昆虫.防府市青少年科学館研究紀要, (1): 23-42.
1997年に山口県佐波川で実施された河川水辺の国勢調査の結果概要で,昆虫類は20目190科985種を記録.このうち,ジョウカイボン科は,ニシジョウカイボン(Athemus sturellus luteipennisとして),セボシジョウカイ,マルムネジョウカイ,クロスジツマキジョウカイの4種を記録した.調査地点は防府市〜徳地町に及んでいるが.この文章では明示してないので採集地点は不明である.

21. 田中馨(2000) 阿武町の甲虫類(主に大木克行氏採集による), 蝶州, (12): 13-19.
阿武町で採集された甲虫類146種の記録.このうちジョウカイボン科としてはムネアカクロジョウカイ(阿武町福賀,同白須)とクロヒゲナガジョウカイ(阿武町田平池)を記録した.

22. 奥島雄一・佐藤正孝・石田勝義(2001) ジョウカイボンとその近縁種の分類学的再検討.東海甲虫誌, 穂積俊文博士記念論文集: 305-325.
ジョウカイボンとその近縁種数種の地域変異について,色彩と♂交尾器を中心に再検討したもの.山口県産としては,地図にポイントする形で,ジョウカイボン西日本亜種 Athemus suturellus luteipennis (KIESENWETTER)(→ニシジョウカイボン)とニシクロジョウカイ(→ニセジョウカイ 学名同じ)を県内から記録した(産地名の詳細は不明).和名,学名共に著者らの扱いと異なることに注意.

23. IMASAKA, S.(2001) Taxonomic study of the genus Hatchiana (Col., Cantharidae, Podabrini). Jpn. J. syst. Ent, 7(2): 279-313.
従来,クビボジョウカイPodabrus属として取り扱われていたものの中から,やや大型のクビボジョウカイ属Hatchianaを分離し,日本産の再検討を行い,12種について解説したもの.
山口県産として,オオサワクビボソジョウカイ(錦町木谷峡,川上村野戸呂)とクビボソジョウカイ(山口県)を記録した.

24. 三好和雄(2002a)続光市産昆虫目録 No. 3 1999〜2001.16pp, 自刊.
光市産昆虫目録の追加記録の第三報,昆虫101種を記録し,累計で2838種になるという.クロヒメジョウカイ(光市駒ヶ原:注14)とムネミゾクロチビジョウカイ(光市茶臼山:注15)を記録したが,2種共に山口県に分布しないと考えられる.

25. 三好和雄(2002b)光市内のオオバヤシャブシに集まる昆虫類.山口県の自然, (62): 18-30.
光市内の茶臼山などオオバヤシャブシを主とする山林で採集した昆虫,14目105科383種の記録.ジョウカイボン科としてはセスジジョウカイ(注16),ジョウカイボン,セボシジョウカイ,クロヒゲナガジョウカイ,ヒメジョウカイ,クビボソジョウカイ,クロヒメクビボソジョウカイ(→クロニンフジョウカイ),マルムネジョウカイ,クロヒメジョウカイ?(注17),キンイロジョウカイ,クロスジツマキジョウカイ,ムネミゾクロチビジョウカイ(注18)を記録した.

26. 田中 馨・椋木博昭(2002)2001年に寂地山彙で採集した甲虫類.山口のむし, (1): 31-45.
2001年に錦町寂地山とその周辺(河津峡,深谷川中流,松の木峠など)で採集した甲虫類285種を記録.うち,ジョウカイボン科として,ウスチャジョウカイ(河津峡),クロホソジョウカイ(河津峡),ニセヒメジョウカイ(河津峡),ミヤマクビアカジョウカイ(河津峡),シコククビボソジョウカイ(寂地山),クロヒメクビボソジョウカイ(寂地山,河津峡),ウスイロクビボソジョウカイ (河津峡),マルムネジョウカイ(寂地山),アオジョウカイ(寂地山),ムネミゾクロチビジョウカイ(河津峡),ニセキベリコバネジョウカイ(寂地山)を記録.
発表後,一部に同定誤りがあったとして,総ての記録を抹消.改めて次々項に記した田中・椋木・今坂(2002)として,記録し直した.このため,本記録については目録内では特に引用していない.

27. 八千代エンジニアリンク環境計画部(2002)山口県玖珂郡錦町平瀬ダム環境影響調査(昆虫類).山口県錦川総合開発事務所,(抜粋).
平成元年〜2年に実施された山口県錦町平瀬ダム建設のための環境影響調査の抜粋.ジョウカイボン科として,ウスチャジョウカイ,クロヒメクビボソジョウカイ,マルムネジョウカイの3種が記録.

28. 田中 馨・椋木博昭・今坂正一(2003)寂地山彙のジョウカイボン科.山口のむし, (2): 54-56.
先に述べたように,田中・椋木(2002)による記録種を再同定して記録したもの.寂地山からマルムネジョウカイ,クロヒゲナガジョウカイ,アオジョウカイ,ニセジョウカイ,ミヤマクビアカジョウカイ,イシハラジョウカイ,ホソニセヒメジョウカイ,マツナガジョウカイ,クロホソジョウカイ,セボシジョウカイ,ムネアカクロジョウカイ,タキモトクビボソジョウカイ,ヒロシマジョウカイ(未記載種),ミヤマニンフジョウカイの13種,錦町河津峡からヒメジョウカイ,ミヤマクビアカジョウカイ,イシハラジョウカイ,ホソニセヒメジョウカイ,ツユキクロホソジョウカイ,クビアカジョウカイ,ヒロシマジョウカイ(未記載種),オオニンフジョウカイ(未記載種)の8種の計18種を記録した.

B. 文献記録による山口県産ジョウカイボン科目録
以上の文献記録から山口県産ジョウカイボン科目録を作成した.文献記録のうち,一部は現在どの種に該当するのか判別できないものや,2種以上が混同されていると判断されるものもみられる.後者については,著者等の判断で,確実に本県に分布し,記録されている環境に出現する可能性が最も高いと考えられる種を採用した.
なお,亜科や族・属・種は今坂による系統分類学上の考えにより配列した.
ジョウカイボン科 Family Cantharidae
コバネジョウカイ亜科 Subfamily Chauliognathinae

1.ニセキベリコバネジョウカイTrypherus mutilatus (KIESENWETTER,1879)
山口県(三好・田中 1988),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),本州,四国,九州に分布し,柳などの河畔林を伴う比較的大河川の河川敷で見られる.

2.キベリコバネジョウカイTrypherus niponicus (LEWIS,1879)
鹿野町(三好1969),山口県(三好・田中 1988),北海道,本州,四国,九州に分布し,花上などで得られるが局地的.
チビジョウカイ亜科 Subfamily Malthininae

3.キアシツマキジョウカイMalthinus humeralis KIESENWETTER,1874
山口県(三好・田中 1988),本州,九州で記録されているが,少ない.

4.クロツマキジョウカイMalthinus japonicus OHBAYASHI,1949
山口県(三好・田中 1988),北海道,本州,九州に分布し,林縁部の樹上で見つかる.

5.クロスジツマキジョウカイMalthinus mucoreus KIESENWETTER,1879
山口県(三好・田中 1988),下関市火の山,同功山寺,同青山(松永・今坂 1988),光市(三好1994),光市(三好2002b),山口県佐波川(徳地町〜防府市)(池田・他 1999),本州,四国,九州に分布し,シイなどの花上に集まり,葉上でも見られる.
クシヒゲジョウカイ亜科 Subfamily Silinae

6.クシヒゲジョウカイLaemoglyptus pectinatus (LEWIS,1895)
宇部市(三好・田中 1988),本州,四国,九州,屋久島などで花上に集まったものが記録されている.
ジョウカイボン亜科 Subfamily Cantharinae
ジョウカイボン族 Tribe Cantharini

7.マルムネジョウカイProthemus ciusianus (KIESENWETTER,1874)
美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),光市(三好1994),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),山口県佐波川(徳地町〜防府市)(池田・他 1999),光市(三好2002b),山口県錦町平瀬(八千代エンジニアリンク環境計画部 2002),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州(岐阜以西),四国,九州に分布し,各地に多い.中部以南には近縁の,ヒガシマルムネジョウカイProthemus reini (KIESENWETTER,1874) が分布する.

8.クリイロジョウカイStenothemus badius (KIESENWETTER,1874)
美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),下関市青山(松永・今坂 1988),光市(三好1994),本州,四国,九州に分布し,灯火で得られることが多い.

9.クロヒゲナガジョウカイHabronychus providus (KIESENWETTER,1874)
山口県(三好・田中 1988),光市(三好1994),阿武町田平池(田中 2000),光市(三好2002b),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,初夏に花上・葉上に多い.

10.コクロヒメジョウカイKandyosilis viatica (LEWIS,1895)
錦町寂地山(田中・椋木・保田 1999),本州,四国,九州に分布するが,西日本では山地性で個体数も少ない.花上に見られる.

11.アオジョウカイThemus cyanipennis MOTSCHULSKY,1857
冠山(三好1961),寂地高原(池田1966),鹿野町(三好1969),山口県(三好・田中 1988),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),北海道,本州,四国に分布し,各地で色彩変異がある,山地の花上に多いが,九州に分布しないことは興味深い.

12.ヒメキンイロジョウカイThemus midas midas (KIESENWETTER,1874)
山口県(三好・田中 1988),本州,四国,九州に分布するが,九州以外では余り個体数が多くない.

13.キンイロジョウカイ本州・四国亜種Themus episcopalis purpureoaeneus YAJIMA et NAKANE,1988
冠山(三好1961),寂地高原(池田1966),鹿野町(三好1969),美和町(三好1976),小瀬川流域(後藤・田公・弘法 1979),山口県(三好・田中 1988),光市(三好1994),弥栄ダム(中村・奥田・野見山 1996),光市(三好2002b),下関市長府(和田1966),総てキンイロジョウカイThemus episcopalis KIESENWETTERとして.本種は,本州,四国,九州に分布するが,本州・四国産は上翅の色彩や♂交尾器の形で,九州産の原亜種から区別される.
ヒメジョウカイ種群 (The japonicus group)

14.イシハラジョウカイAthemus ishiharai ISHIDA,1986
錦町木谷峡(今坂・中原・高橋・池田 1988),ヒサマツジョウカイAthemus hisamatsui ISHIDAとして;寂地山・錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,カエデ花上などで見られる.ヒメジョウカイやホソニセヒメジョウカイと紛らわしいので,爪の形や♂交尾器を確認するなど,同定には注意を要する.

15.ヒメジョウカイAthemus japonicus japonicus (KIESENWETTER,1874)
鹿野町(三好1969),美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),光市(三好1994),下関市東行庵(松永 1995),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),光市(三好2002b),錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,二裂する爪の形で,近縁種から区別できる.ただ,♂交尾器以外には殆ど区別がつかない姉妹種のミヤマヒメジョウカイ Athemus alpicola alpicola NAKANE,1992が広島県以東で記録されているので注意が必要.各地にきわめて普通.

16.ミヤマクビアカジョウカイAthemus nakanei nakanei (WITTMER,1953)
羅漢山(三好・田中 1988),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),寂地山・錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,花上・葉上で見られるがやや局地的.
クロホソジョウカイ種群 (The aegrotus group)

17.クロホソジョウカイAthemus aegrotus (KIESENWETTER,1874)
山口県(三好・田中 1988),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,渓流や川沿いの日の当たらない樹葉上に多い.

18.マツナガジョウカイAthemus matsunagai IMASAKA et OKUSHIMA,2000
寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州,屋久島に分布し西日本ではほぼブナ帯以上の花上で見られる.

19.ホソニセヒメジョウカイAthemus okuyugawaranus okuyugawaranus TAKAHASHI,1992
寂地山・錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,四国,九州に分布し,花上・葉上に多い.

20.ツユキクロホソジョウカイAthemus tsuyukii TAKAHASHI,1992
錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,九州に分布し,早い時期に林縁部を飛翔するものが見つかる場合が多い.クロホソジョウカイに似るが,背面はほとんど全体黒色で,区別できる.
セボシジョウカイ種群 (The vitellinus group)

21.セボシジョウカイAthemus vitellinus (KIESENWETTER,1874)
羅漢山(三好1954),冠山(三好1961),寂地高原(池田1966),鹿野町(三好1969),周防祝島(池田 1970),美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),下関市火の山,同功山寺,同青山(松永・今坂 1988),光市(三好1994),山口県美東町(奥島 1996),弥栄ダム(中村・奥田・野見山 1996),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),光市(三好2002b),山口県佐波川(徳地町〜防府市)(池田・他 1999),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州,佐渡,四国,九州,対馬,屋久島に分布し,各地にきわめて普通.伊豆諸島と神奈川県周辺では本種に酷似するオカベセボシジョウカイAthemus okabei TAKAHASHI,1992が分布する.
ジョウカイボン種群 (The suturellus group)

22.ニセジョウカイAthemus infuscatus YAJIMA et NAKANE,1969
山口県(奥島・佐藤・石田 2001:ニシクロジョウカイとして,学名同じ),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本州(滋賀以西),四国,九州に分布するが,次種よりやや遅れて,山地を主に出現する.次種に酷似するが,体が華奢で,上翅の立った毛が金毛(次種は黒褐色)であることで区別できる.

23.ニシジョウカイボンAthemus luteipennis luteipennis (KIESENWETTER,1874)
冠山(三好1961),寂地高原(池田1966),鹿野町(三好1969),美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),以上すべてジョウカイボンAthemus suturellus MOTSCHULSKYとして;下関市火の山,同功山寺,同青山(松永・今坂 1988:ジョウカイボン西日本亜種 Athemus suturellus luteipennis (KIESENWETTER)として);光市(三好1994),光市虹ヶ浜(三好 1996),以上ジョウカイボンとして;弥栄ダム(中村・奥田・野見山 1996);山口県(奥島・佐藤・石田 2001:ジョウカイボン西日本亜種 Athemus suturellus luteipennis (KIESENWETTER)として),光市(三好2002b),山口県佐波川(徳地町〜防府市)(池田・他 1999:ニシジョウカイボン Athemus suturellus luteipennisとして).本種は,本州(兵庫県以西)と九州,対馬,五島,屋久島に分布し,近畿以東に分布するジョウカイボンAthemus suturellus MOTSCHULSKYとは,♂交尾器で区別できる.さらに,種内でも,各地で,色彩変異と♂交尾器の微妙な変化が見られるが,研究者により,意見が分かれる.山口県産は,足と触角が黒色で,翅端1/4程度が黒色になる個体(♀の場合が多い)が,場所により異なるが,ほぼ3割程度混じる.このタイプは,島根〜広島県以西の主として山陰側で見られる.

24.ムネアカクロジョウカイAthemellus adusticollis (KIESENWETTER,1874)
羅漢山(三好1954),冠山(三好1961),寂地高原(池田1966),鹿野町(三好1969),周防祝島(池田 1970),山口県(三好・田中 1988),光市(三好1994),下関市火の山(松永1995),阿武町福賀,同白須(田中 2000),寂地山(田中・椋木・今坂 2003),北海道,本州,四国,九州に分布する.赤褐色の前胸背の前縁が黒ずむので他種と区別できる.

25.ウスチャジョウカイ西日本亜種Athemellus insulsus lewisii (PIC,1906)
山口県(三好・田中 1988),山口県錦町平瀬(八千代エンジニアリンク環境計画部 2002),いずれも,ウスチャジョウカイAthemellus insulsus HAROLDとして.本種は本州に分布し,中部以東にみられる上翅が赤褐色の原亜種と,中部以西に見られる上翅が黒色の西日本亜種に区別される.次種と紛らわしいが,より大型で長く,上翅は黒みが強い.♂交尾器や♀腹説末端の形で区別される.

26.クビアカジョウカイAthemellus oedemeroides (KIESENWETTER,1874)
美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),弥栄ダム(中村・奥田・野見山 1996),錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州,九州に分布し,各地で早春から見られる.前種より小型で,上翅の色は薄い.
クビボソジョウカイ族 Tribe Podabrini

27.オオサワクビボソジョウカイHatchiana osawai (NAKANE et MAKINO,1981)
錦町木谷峡(今坂・中原・高橋・池田 1988),錦町木谷峡,川上村野戸呂(IMASAKA 2001),本州(長野,紀伊半島以西),九州(英彦山)に分布し,やや山地性.

28.クビボソジョウカイHatchiana heydeni (KIESENWETTER,1879)
鹿野町(三好1969),美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),下関市火の山,同功山寺,同青山(松永・今坂 1988),光市(三好1994),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),山口県(IMASAKA 2001),光市(三好2002b),本州,四国,九州に分布し,各地に普通.

29.タキモトクビボソジョウカイHatchiana takimotoana (KIRIYAMA,2000)
寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本(中国地方,紀伊半島)と四国に分布.近畿地方(滋賀・京都)などで見つかっていないのが興味深い.やや大型で,色彩はウスチャジョウカイ西日本亜種に似る.
リョウコジョウカイ種群 (The pseudolictrius group)

30.ヒロシマジョウカイ(未記載種) Asiopodabrus sp.10
錦町木谷峡(今坂・中原・高橋・池田 1988),寂地山・錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本州(広島〜山口)に分布.リョウコジョウカイ種群に含まれる種は前胸背中央部と上翅の側縁が縦に黒く,外見は互いによく似ているが,各地で♂交尾器が変化しており,生物地理の良い材料となる.本種は未記載種であるが,本県の錦町〜広島県西部に分布する.
ニンフジョウカイ種群 (The macilentus group)

31.ミヤマニンフジョウカイAsiopodabrus kiso kiso (NAKANE, 1989)
寂地山(田中・椋木・今坂 2003),本種も本州,四国に広く分布し,各地で♂交尾器と色彩が変化する.このうち,東北北部産は亜種Asiopodabrus kiso imasakai (TAKAHASHI et OKUSHIMA,1999)として区別されたが,その他の個体群は未命名である.本県産は,広島県以西に分布する個体群と考えられ,前胸背や上翅が黄褐色のものからかなり黒化するものまで変化がある.

32.クロニンフジョウカイ九州亜種Asiopodabrus malthinoides hayato (NAKANE, 1989)
美和町(三好1976),山口県(三好・田中 1988),クロヒメクビボソジョウカイPodabrus malthinoides KIESENWETTER として;下関市火の山,同功山寺,同馬皿(松永・今坂 1988);光市(三好1994),小瀬川(中村・中島・浜口 1998),光市(三好2002b),山口県錦町平瀬(八千代エンジニアリンク環境計画部 2002),以上クロヒメクビボソジョウカイとして.本種は本州,四国,九州に分布し,九州産は亜種 hayatoとして,区別された.県産はこの亜種の範疇に含まれるものと考えられる.

33.オオニンフジョウカイ(未記載種) Asiopodabrus sp.31
錦町河津峡(田中・椋木・今坂 2003),本種も従来は九州のみの分布が知られていた.
以上,文献上に記録され,種が確定できる山口県産ジョウカイボン科は33種である.Aで述べたように以下の種は,現在では種が確定できないので,疑問種として扱うしかない.
C.疑問種
◎浜崎(1964)における見島の記録
注1) ヒメクビボソジョウカイ:本種は中部地方を中心に記録されており,この記録は他のAsiopodabrus属の種の誤認と考えられるので,県産目録に加えることを保留する.
◎三好(1969)における鹿野町の記録
注2)ミヤマクビボソジョウカイ:この記録は,Asiopodabrus 属の1〜数種が混在している可能性を否定できないので,県産目録に加えることを保留する.
◎三好(1976)における美和町の記録
注3) ミヤマクビボソジョウカイ:同様に,県産目録に加えることを保留する.
注4) クロジョウカイ:本種は鳥取県以東に分布するので,他の種の誤認と考えられる.あるいはニセジョウカイの可能性もあるので,県産目録に加えることを保留する.
◎三好・田中(1988)による山口県の記録として,
注5) ウスイロクビボソジョウカイ:本種は関東地方のみに分布するので,他の種の誤認と考えられる.
注6) ミヤマクビボソジョウカイ:同様に,県産目録に加えることを保留する.
注7) クロジョウカイ:同様に,県産目録に加えることを保留する.
注8) ニセヒメジョウカイ:本種は関東地方のみに分布するので,他の種の誤認と考えられる.
注9) クロヒメジョウカイ:本種は北海道に分布し,他の種の誤認と考えられる。

注10) ムネミゾクロチビジョウカイ:本種は近畿以東に分布し,他種の誤認と考えられる.
◎三好(1994)による光市の記録
注11) クロジョウカイ:同様に,県産目録に加えることを保留する.
注12) セスジジョウカイ:本種は中部地方で記録されており,他の種の誤認と考えられる.
注13) ヒメクビボソジョウカイ:同様に,県産目録に加えることを保留する.
◎三好(2002a)による光市の記録
注14) クロヒメジョウカイ:同様に,他の種の誤認と考えられる.
注15) ムネミゾクロチビジョウカイ:同様に,他の種の誤認と考えられる.
◎三好(2002b)による光市の記録
注16) クロヒメジョウカイ:同様に,他の種の誤認と考えられる.
注17) セスジジョウカイ:本種は中部地方で記録されており,他の種の誤認と考えられる.
注18) ムネミゾクロチビジョウカイ:同様に,他の種の誤認と考えられる.
以上で,現在までに山口県から記録された種の整理が出来たので,今後,新たに採集・確認される種について追加することが容易になったものと考えられる.山口県にはさらに,20〜30種程度分布すると考えられるので,山口県産ジョウカイボン相を明らかにするために,今後も調査したいと思う.


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チビホタルモドキの九州(熊本県)の記録