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ホタル上科の分類に関する最近の進歩

環境科学(株)九州事務所

今坂正一

Shoichi Imasaka: Recent advance on the phylogeny of Coleoptera, Cantharoidea.
Key words: ホタル上科,軟鞘類,最近の研究,分類体系,系統図,ジョウカイボン科,総目録以降の追加種.

< ホタル上科の系統的位置の変遷>
ホタル科(Lampyridae)、ジョウカイボン科(Cantharidae)などを含むホタル上科Cantharoideaは、かつて、硬い体を持つ甲虫類の中にあって、体や上翅が柔らかいという特徴から例外的な一群として、軟鞘類あるいはMaracodermataとして知られていた。
軟鞘類の範囲は時代と共に変化しており,戦前の湯浅啓温(1932)「日本昆虫図鑑」や三輪勇四郎(1938)「日本甲虫分類学」では、軟鞘類に現在のホタル上科に加えてカッコウムシ科やヒメボタル科(ジョウカイモドキ科),ツノブトホタル科が含まれている.
しかし、世界的には既にSharp & Muir (1912)の♂交尾器の構造の研究などにより、この類の分類学的位置はほぼ明らかになっていた。彼らは♂交尾器の構造の共通性から系統を分析し、甲虫を8つの系列(Byrrhoidea, Caraboidea, Cucujoidea, Staphylionidea, ホタル系列Malacodermoidea, Tenebrionidea, Scarabaeoidea, Phytophagoidea)にまとめ、ホタル系列として、ジョウカイボン科(Telepholidae)、ホタル科(Lampyridae)、ベニボタル科(Lycidae)、ジョウカイモドキ科(Melyridae)、ホタルモドキ科の属(Drilus)を含めている。
中根(1954)による「日本の甲虫」の解説によると、Boving & Craighead (1931)は、幼虫の形態に注目して、甲虫目を3亜目に大別した(始原亜目Archostemataを追加)。ホタル上科は多食亜目の一員とし、ヒラタドロムシ・ドロムシなどの上科Dryopideaとコメツキムシ上科Elateroideaの間に配置し、そのメンバーとしてホタルモドキ科(Drilidae)、ジョウカイボン科、ホタル科、ベニボタル科を含めており、ジョウカイモドキ科は除外している。
これらの考え方は、Crowson (1950-72)の一連の研究などによって、より網羅的・体系的にまとめられ、ほぼ現在使用されている体系が確立された。Crowson (1972)はホタル上科について、幼虫形態を始め、成虫形態の多くのキャラクター(図1)を使用して各科の系統的位置を示したが、ホタル上科をコメツキムシ上科とカツオブシムシ上科Dermestoideaの間に置き、そのメンバーとして、日本産としては、ホタルモドキ科(Omethidae: Drilidaeより分離独立)、ジョウカイボン科、ホタル科、ベニボタル科を含めている。彼の分岐図に依ると前二者と後二者がそれぞれ間近に置かれている(図 2)。
Crowsonの体系は現在でもほぼそのままの形で採用されており、森本ほか(1986)や平嶋・森本・多田内(1989)でも日本産甲虫目についてはそのような形で示されている。
この体系に対しては幼虫の形態を重視しすぎるとの批判あるが、その後世界的にも部分的な修正が行われているだけで、全体的にはほぼそのまま使用されてきた.最近になって、Lawrence & Newton (1995)は、Crowsonの定義したコメツキムシ、ホタル、ナガハナノミダマシの3上科をコメツキムシ上科にまとめ、またBeutel(1997)も幼虫から最初の2上科が単系統であると主張している(本号,森本の総論参照)。
また、Branham & Wenzel (2001)はDNAと形態を含めてのコメツキムシ上科の解析を行い、オオメボタル科とホタルモドキ科を近くに置き、Lawrence & Newton (1995)がオオメボタル科の亜科と位置づけているイリオモテボタル亜科(ここでは科としてRhagophthalmidae)をベニボタル科よりさらに遠い位置に置いている。彼らの系統図では、ジョウカイボン科の各亜科に含まれる種も各科の間のあちこちにばらまかれており、ジョウカイボン科は単系統でなく複数の科に分割すべきであるという結論になる。その意味からも、異論のあるところであり、彼らの結論をにわかに受け入れることは出来ない。
筆者はジョウカイボン科ジョウカイボン亜科(Cantharinae)に含まれるクビボソジョウカイ族(Podabrini)の系統的な位置を確立する目的で研究を行っている。その一環として、国内産ホタル上科に含まれる他の科の種を含めた系統解析を、頭部構造(主として、tentoriumとgular sutureなど)、大腮、上翅の構造、爪、♂腹部構造、♂交尾器などのキャラクター(図3)を用いて系統解析を行った。その結果は口頭発表だけで刊行されてはいないが、国内産ホタル上科に含まれるオオメボタル科を除く4科の系統関係は、ほぼ、Crowson(1972)が示した分岐図と同様で、ジョウカイボン科に最も近縁なものはホタルモドキ科という結果を得た。

<ジョウカイボン科の各亜科の系統関係>
ジョウカイボン科内の体系については、Delkeskamp (1939)において7族に整理され、さらにDelkeskamp (1977)においては2亜科7族にまとめられた(図4)。国内の図鑑類や九大昆虫総目録(1989)ではほぼ後者の配列を採用している。
また、Brancucci(1980)は、チビジョウカイ族 (Malthinini)を主とする研究で、Crowson(1972)が使用したものも含めて、多くのキャラクターを使用して、ジョウカイボン科内における系統関係を整理統合し、ジョウカイボン科を5亜科5族にまとめた。彼の体系は以下のとおりである(和名のないものは国内に分布しない:図5)。
一方、前述のように筆者自身による系統解析では、以下のような結果が得られた(図6)。この結果は、クシヒゲジョウカイ亜科がジョウカイボン亜科に近いという点でBrancucci (1980)の結果とは異なっており、コバネジョウカイ亜科やチビジョウカイ亜科がむしろ祖先的な形質を多く持ち、ジョウカイボン亜科が派生的な形質を多く持つという結果から、ジョウカイボン科の体系として、ほぼ、従来とは逆の配列が考えられる。

< ホタル上科の最近の進歩>
以下に、1989年度に作成された九大昆虫総目録における各科の既知種数と2003年現在の種数を示す(図7)。ベニボタル科についての集計は松田潔氏によるものを使用させていただいた。
日本産ホタル上科は、九大総目録には4科53属228種11亜種が記録されていた。1994年にはイリオモテボタル Rhagophthalmus ohbai WITTMER,1994が西表島より発見・記載され、この種を含むオオメボタル科(記載時はイリオモテボタル科Rhagophthalmidae、現在はPhengodidaeの亜科Rhagophthalminaeと扱われていることは前述)が5番目の科として国内産ホタル上科に追加された(Wittmer, 1994)。ホタルモドキ科については3種のままで異同がない。ホタル科では、Nakane (1987)、M.Sato (1991)、M.Sato & Kimura (1994)、Kawashima (1999)などにより、クロクシヒゲボタル Cyphonocerus watarii、シブイロクシヒゲボタル Stenocladius flavipennis、アマミクシヒゲボタル S. yoshimasai 、クメジマボタル Luciola owadai、ゲンジボタル十和田亜種 L. cruciata towadensisの4種1亜種が追加された。

また、ベニボタル科では、Nakane(1993〜1994)とKasantsev (1993)によりLycostomus koshimizui、Macrolycus confusus、M. hyugaensis、M. nagaii、M. ozeanus、M. similaris chugokuensis、M. submontanus、M. kotuensis の7種1亜種が追加された。Bocak & Bocakova (1988)、Bocakova (1988)などにより属の見直しも行われ、Mesolycus→Dilophotes、Stenolycus→Dilophotes、Konoplatycis→Platycisなどの整理統合が行われた。Bocak & Matsuda (2003)はベニボタルの幼虫についての大まかなまとめを行い、また、Bocakは現在、大阪府立大学先端科学研究所でmtDNA ND5遺伝子の塩基配列を用いて、アミメボタル族(Metriorrynchini)の分子系統解析を行い、大きな成果を上げているという。

ジョウカイボン科では、大きな研究の進歩があり、九大総目録による23属93種2亜種から、現在、27属264種33亜種と、種数で約2.5倍に増加した。Nakane & Makino (1989〜1990)を皮切りにして、Takakura (1989)、Ishida (1989)、Takahashi (1992〜2003)、Sato & Okushima (1992〜2001)、Ishida & Sato (1993)、Kiriyama (2000)、Imasaka (2001)、N. Takahashi (2001)、Kasantsev & Takahashi (2002)などにより、Asiopodabrus、Athemus、Malthodes、Rhagonycha、Hatchianaなどの諸属を中心に毎年20種以上の新種が記載されている。中でもK. Takahashiはほとんど上記の総ての属に渡って多くの種を記載し、活躍がめざましい。以上の結果、現在では、日本産ホタル上科は5科56属412種44亜種が記録されている。ベニボタル科やジョウカイボン科にはまだかなり未記載種が残されており、ジョウカイボン科はあるいは300種を超え400種に近づくものと考えられる。
常日頃ご指導頂き、本文を作成するに当たって種々の助言をいただいた森本桂九州大学名誉教授、高橋直樹博士(九州大学農学部)、松田潔氏(宝塚市)に心よりお礼申し上げる。

主要参考文献(系統分類学関係のみ)
Beutel, R. (1997) Phytogenese und Evolution der Coleoptera, insbesondere Adephaga. Abh. Naturw. Ver. Hamburg,(NF)31, 164pp.
Boving A. G. & F. C. Craighead (1931)An illustrated synopsis of the principal larval forms of the order Coleoptera. (中根1954)
Brancucci, M., 1980. Morphologie comparee, evolution et systematiqe des Cantharidae (Ins.: Col.). Ent. basil., 5: 215-388.
Branham, M. A. & J. W. Wenzel (2001)The evolution of bioluminescence in Cantharois (Coleoptera: Elateroidea). Florida Entomologist, 84(4): 565-579.
Crowson, R. A. (1972) A review of the classifification of Cantharoidea (Coleoptera), with definition of two new families, Cneoglossidae and Omethidae. Revista Universidad Madrid, 21(82): 35-77.
Delkeskamp, K., 1939. Cantharidae. In Junk, W. and S. Shenkling (eds.), Coleopterorum Catalogus, (165). 357pp. W. Junk, 's- Gravenhag.
Delkeskamp, K., 1977. Cantharidae. Coleopterorum Catalogus Supplementa, 165(1). 485pp. W. Junk, The Hague.
平嶋善宏・森本桂・多田内修(1989)昆虫分類学. 597pp. 川島店.
九州大学農学部昆虫学教室・日本野生生物研究センター(1989)日本産昆虫総目録I. 540pp.
Lawrence & Newton (1995)
三輪勇四郎(1938)日本甲虫分類学. 11+202+40pp. 西ケ原刊行会, 東京.
森本桂ほか(1986)原色日本甲虫図鑑(I). 323pp. 保育社.
中根猛彦(1954)日本の甲虫19. 新昆虫, 7(12): 47-51, 同20. 新昆虫, 7(13): 37-41.
Sharp, D. & F. Muir (1912)The comparative anatomy of the male genital tube in Coleoptera. Trans. Ent. Soc. Lond. part3,: 477-642, (reprinted by Ent. Soc. America, 1969).
湯浅啓温(1932)分担執筆, 日本昆虫図鑑. :585-712, 北隆館.

図版説明
図1. 系統解析に使用しキャラクター(Crowson, 1972より引用)
図2. ホタル上科の科の系統図(Crowson, 1972より森本ほか, 1986が改変したものを引用)
図3. 系統解析に使用しキャラクター(TentoriumとAedeagus:今坂原図)
図4. ジョウカイボン科の亜科と族(左: Delkeskamp, 1939; 右: Delkeskamp, 1977;  Brancucci, 1980より引用)
図5. ジョウカイボン科の亜科の系統図(Brancucci, 1980より改変)
図6. ジョウカイボン科の亜科の系統図(今坂原図)
図7. 日本産ホタル上科の種数の変遷(1989→2003)

ジョウカイボン科 (Cantharidae)
┌────── ジョウカイボン亜科 (Cantharinae)
│ │ ┌────クシヒゲジョウカイ亜科 (Silinae)
│ │ │ ┌── Dysmorphocerinae
│ └───── チビジョウカイ亜科 (Malthininae)
│        チビジョウカイ族 (Malthinini)
│        ツマキジョウカイ族 (Malthodini)
│        Malchinini
└───────コバネジョウカイ亜科 (Chauliognathinae)
         Chauliognathini
         コバネジョウカイ族 (Ichthyurini)
図5. ジョウカイボン科の亜科の系統図(Brancucci, 1980より改変)

┌────── コバネジョウカイ亜科(Chauliognathinae)
├────── チビジョウカイ亜科(Malthininae)
│     ┌─── クシヒゲジョウカイ亜科(Silinae)
└────── ジョウカイボン亜科(Cantharinae)
図6. ジョウカイボン科の亜科の系統図(今坂原図 Imasaka, drawn)

図1. 系統解析に使用しキャラクター(Crowson, 1972より引用)
図2. ホタル上科の科の系統図(Crowson, 1972より森本ほか, 1986が改変したものを引用)
図3. 系統解析に使用しキャラクター(TentoriumとAedeagus:今坂原図)
図4. ジョウカイボン科の亜科と族(左: Delkeskamp, 1939, 右: Delkeskamp, 1977;  Brancucci, 1980より引用)
図5. ジョウカイボン科の亜科の系統図(Brancucci, 1980より改変)
図6. ジョウカイボン科の亜科の系統図(今坂原図)
図7. 日本産ホタル上科の種数の変遷(1989→2003)

キーワード
ホタル上科
軟鞘類
分類体系
系統図
ジョウカイボン科
総目録以降の追加種

ホタル上科
甲虫目、多食亜目のコメツキムシ上科とカツオブシムシ上科の間に位置する。ホタル科、オオメボタル科、ベニボタル科、ホタルモドキ科、ジョウカイボン科を含む。

軟鞘類
甲虫目の中で上翅が柔らかいグループを含む科の総称。ホタル科、ベニボタル科、ホタルモドキ科、ジョウカイボン科の他、カッコウムシ科、ジョウカイモドキ科なども含む。

分類体系
生物を自然分類の系統に即して、種、属、科、目などを配列したもの。

系統図
分類体系の一部を枝状に結んで、種、属、科、目などの近縁関係、分岐関係などを図示したもの。

ジョウカイボン科
ホタル上科に含まれる甲虫。成虫は他の小昆虫を捕食する。国内に264種が知られ、地域変異が著しいことで知られる。

総目録以降の追加種
1989年に発行された日本産昆虫総目録に掲載されている種以降に国内から追加記録、あるいは新種記載された種。


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