今坂正一の世界
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背振山系産キュウシュウクロナガオサムシの記録
(付九州内における分布の概要)

今坂正一

筆者は、2003年9月28日に水生甲虫の採集を目的に、背振山系の佐賀県富士町から七山村を訪れたが、富士町杉山から峠を越えて七山村中原に入ったあたりで、車両に轢かれたと思われるキュウシュウクロナガオサムシ Leptocarabus kyushuensis kyushuensis (Nakane)の死骸を拾ったので記録しておきたい(図1)。
1♀.(死骸) 佐賀県七山村中原(標高約550m付近) 28. IX. 2003. 今坂採集
キュウシュウクロナガオサムシ(原亜種)は、長崎県雲仙岳を基産地とする九州固有亜種で、標高50m程度の畑地(奥村1989)からブナ帯の森林まで広範囲に生息している。筆者自身による長崎県島原半島での観察においても標高250m〜1300m(雲仙岳山頂付近)までみられた(今坂1999)。近似のホソムネクロナガオサムシ Leptocarabus procerulus miyakei (Nakane)と混生する九重山や九州脊梁などの地域では、ほぼ標高800m〜1000m付近を境界として本種が下に、ホソムネが上に棲み分けていると考えられる。
本種は、中臣(1970)による雲仙岳、熊本県金峰山、同砥用町、同市房山、霧島山、岩橋(1973)による佐賀県七山村、福岡県久留米市草野町、同浮羽町田篭、熊本県小国町、同阿蘇山、同金峰山、同砥用町などにより概略の分布範囲が理解されるが、参考文献として上げたその他の報文の記録も含めると、概ね、福岡県南端部(耳納山系以南)と、大分・熊本・宮崎県の九州山地沿いの地域(図2の実線で囲んだ範囲)ではほぼ普遍的に分布していると考えられる。それ以外に、衛星状の独立した分布圏として上記長崎県島原半島、鹿児島県霧島山、背振山系(?)、熊本市金峰山周辺などが知られている。
そのことを裏返せば、福岡県では北九州〜英彦山山系〜背振山系、七山村の一例(背振山系)を除いた佐賀県の全域、島原半島を除く長崎県全域、霧島山を除く鹿児島県全域からは分布記録が知られていないわけで、九州内のかなり広範囲に分布の空白地帯が認められる事に対して、分布しない理由も含めて種々の興味深い問題が残されている。
今回報告した背振山系からは、前述のように多少疑問視されていた七山村の記録が知られていた。記録された岩橋氏に直接確認したところ、七山村の浜玉町との境界付近に当たる七山村馬川松坂付近で採集されたとのことである。また、廣川(1998)によると、正式な採集データは報告されていないが、最近さらに背振山系佐賀県側で採集されたようであるし、福岡県側では既に過去において採集されていたという。その上に今回の記録が重なり、本種が背振山系に分布することはほぼ確定的であると考えて良いと思う。
しかし、九州における本種の分布の空白地帯の問題は背振山系を除いても依然解決していないわけで、今後その全容の解明が期待される。
末筆ながら背振山系の記録についてご教示いただいた荒巻健二氏(久留米市)と岩橋正氏(久留米市)、西田光康氏(嬉野町)にお礼申し上げる。

参考文献
廣川典範(1998)1998年までのオサムシの採集記録. 佐賀の昆虫, (32): 117-126.
今坂正一(1982)1982年に採集した五家荘の甲虫. 熊本昆虫同好会報, (70): 1-15.
今坂正一(1999)島原半島の甲虫相1. 長崎県生物学会誌, (50): 125-170.
岩橋正(1973)中部九州のLeptocarabus. 北九州の昆蟲, 19(1): 15-16.
木野田毅(1996)宮崎県で採集した甲虫の記録I. タテハモドキ, (32): 7-25.
中島義人ほか(1978)樫葉自然環境保全地域における昆虫. タテハモドキ, (13): 23-38.
中臣謙太郎(1970)九州地方のオサムシ分布調査の現状と問題点. INSECT MAGAZINE オサムシ特集号. (76): 173-176.
奥村正美(1989)平野部におけるキュウシュウクロナガオサムシの採集記録. 北九州の昆蟲, 36(2): 124.
大塚勲(1982)菊池渓谷の陸上昆虫. 菊池渓谷の動物,: 53-158, 熊本洞穴研究会.
大塚勲(1988)白髪岳自然環境保全地域及び周辺地域の昆虫相. 白髪岳自然環境保全地域調査報告書,: 161-279, 環境庁.
大塚勲(1993)泉村の陸上昆虫目録. 泉村の自然−資料編−,: 51-192.
鮫島拓人(1994)コウチュウ目. 鹿児島県立博物館収蔵資料目録 第III集,: 368-449.
佐々木茂美(1981a)黒岳の甲虫(その1). 二豊のむし, (6): 2-20.
佐々木茂美(1981b)別府市内成周辺の甲虫相. 二豊のむし, (7): 45-59.
潮崎正浩(1975)阿蘇のオサムシ類. 熊本昆虫同好会報, (48): 1-4.

図版説明
図1:背振山系産キュウシュウクロナガオサムシ轢死体
図2:キュウシュウクロナガオサムシの分布概念図
●:既産地 ◎:新産地 〇:普遍的な分布範囲


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