今坂正一の世界
九州の昆虫
自然環境アセスメント
おたより・ログイン

広島県のジョウカイボン相(予報)

今坂正一・中村慎吾

The Fauna of Cantharidae (Coleoptera)
from Hiroshima Prefecture ( Primary report)

Shoichi Imasaka and Shingo Nakamura

Synopsis : 44 species of Cantharidae (Coleoptera)
from Hiroshima Prefecture are listed,with
taxonomical aments.

はじめに
広島県のジョウカイボン科甲虫については、中村(1977)が広島県東北部から12種、後藤・ほか(1979) が弥栄峡から1種、中村(1987)が帝釈峡を中心に9種、後藤(1989)は立岩ダムと周辺地域から2種をそれぞれ報告している程度で、断片的なものしかない。しかもジョウカイボン科甲虫の分類は、主として♂交尾器と爪の形により行われているが、それらの報告は標本の同定に当たって♂交尾器など詳細な検討をすることなく行っているので、かなりの問題を含んでおり、現状では、普通種といわれているものでも文献上の記録をそのまま引用することはできない。上記の諸報告でも、複数の種の混同を全く否定できるのはアオジョウカイとマルムネジョウカイの2種くらいであろう。そこで、広島県のジョウカイボン相解明のために、今坂・中村両名の採集品を中心に、実検できた標本によって目録を作成した。検討した標本がまだ少なく、必ずしも広島県のジョウカイボン相の解明に程遠いと思うが、今後の調査研究の出発点となるようにと思い作成した。この小報が広島県ジョウカイボン相の解明の出発点となり、調査が加速されるならば望外の幸せである。このまとめに当たり、標本を御恵与いただいた松永善明、中原龍男、野田正美、岡田裕之の各氏と、比較標本等でお世話になっている佐々木茂美、西田光康、山地治、渡辺昭彦の諸氏にも心より御礼申し上げたい。

 

広島県産ジョウカイボン科目録
A list of Cantharidae from Hiroshima Prefecture.

凡 例
1.日本産ジョウカイボン科Cantharidaeの分類は現在はなはだ不完全で、Podabrus ,Athemus,Malthodesを中心に数多くの未記載種が存在するので、手元の未記載種には仮に種ナンバ−と和名を付けておいた。

2.今坂(1992)は、日本産ジョウカイボン亜科の分類に当たって、各属の種の♂交尾器の形と爪の形とが分類学的に重要な形質であることを指摘し、それらの形質と分類体系との関連性について述べたが、この目録はその新しい考え方にしたがって広島県産ジョウカイボン科を配列し、主としてさきに報告した岡山県(今坂他.1990) と比較しながら、広島県のファウナを考えてみたい。

3.ごく最近、高橋(1992)は『神奈川県のジョウカイボン科』を発表し、66種を記録し、うち25種を新種記載している。この中には、多少筆者等とは異なる考えも含まれているので、一応筆者等の考え方に従ってこの報文を見直してみたい。

4.採集地名は県東北部から南西部に向かって並べてある(図1参照)

5.検討した標本は今坂正一(S.I)、中村慎吾(S.N)、松永善明(Y.M)、中原龍男(T.N)、野田正美(M.N)、岡田裕之(H.O)の採集品で、それぞれの採集者はイニシャルで示した。

6.中村の採集品は比和町立自然科学博物館に保存し、ほかは今坂が保管している。

Cantharidae ジョウカイボン科
Cantharinae ジョウカイボン亜科

(Kandyosilis group コクロヒメジョウカイグル−プ)
1.Kandyosilis viatica (LEWIS) コクロヒメジョウカイ(図2−1,図4−1)
吉和村十方山林道(2♂.26.VII.1988.S.I)花上、本州、九州のブナ帯で夏期に花に集まるが、西日本では特に少い。日本産ではRhagonycha 、本属、Micropodabrusが♂交尾器にメディアン・フックを欠くことより本グル−プに含まれる。

(Podabrus groupクビボソジョウカイグル−プ)
2.Podabrus malthinoides malthinoides (KIESENWETTER)クロニンフジョウカイ(図2−2,図4−2)
高野町新市( 2 ♀ 15.V.1961.S.N, 1♀ 19.V.1961.S.N, 1♀ 23.VI.1966.S.N), 宮島町厳島(1♂ 2♀. 25. IV.1988.S.I, 3♀.26.IV.1988.S.I), 関東以西の本州、四国、九州の主として平地〜低山地に分布し、葉上、花上に多い。山地でコクロニンフと混生し、注意が必要。近畿〜中国地方産が原亜種と考えられ、♂交尾器のド−サルプロセスは太くて短い。九州産と中部以北産はそれぞれ別亜種と思われるが、後者は未記載。本グル−プはPodabrus 1属が含まれ、爪の形により4群に分けられる。雌雄ともすべての爪が2裂状になるP.longissimusが第1群、雄の前・中肢が2裂状になるニンフジョウカイ亜属(Asiopodabrus リストナンバ−2〜12)が第2群、雄の前肢のみが2裂になるリョウコジョウカイ群(リストナンバ−13〜14)が第3群、雌雄ともすべての爪が2裂状にならず、基部に三角形の歯状突起をもつ heydeni群(リストナンバ−15〜17)が第4群で,後の群ほど進化の進んだ群と考えている。

3.Podabrus lictorius LEWISミヤマニンフジヨウカイ(図2−3a,3b,3c,3d ,図4−3)比和町吾妻山(1♀.23.VI.1968.S.N), 吉和村中津谷渓谷(2♂ 2♀.23.V.1988.S.I, 1♀.27.VI.1988.S.I, 2 ♀.28.VI.1988.S.I, 1♀.17.VII.1989.S.I), 吉和村花原(20♂33♀.24.V.1988.S.I, 5♂ 9♀.25.V. 1988.S.I),十方山林道(2♀.28.VI.1988.S.I, 1♂.1. VII.1992.S.I), 本州のほぼ全域に分布。本種の分布と色彩変異、♂交尾器の変異については、今坂他(1990)で詳しく述べたので繰り返さないが、西北部の吉和村周辺の個体群は、淡色型、中間型、黒化型がいりみだれて、国内で最も変異の幅が大きい。さらに♂交尾器のド−サルプロセスも細長く、紀伊半島〜東海地方産に似る。本県東北部の吾妻山産や伯耆大山産は淡色型のみでド−サルプロセスも短く、四国と九州には産しないので、分布と変異が紀伊半島から本県西北部へ飛んで孤立しており、大変興味深い。

4.Podabrus syozoi syozoi NAKANE et MAKINO ショウゾウニンフジョウカイ原亜種(図2−4,図4−4)
庄原市川北(1♂.18.V.1987.S.N), 高野町大万木山(1♂.24.V.1987.S.N), 本州のほぼ全域に分布。本県の三段峡が基産地で、北アルプス〜奥日光産は別亜種。秋田・青森産も未記載だが別亜種であろう。やや大型で、ド−サルプロセスは太いY字状、ベントラルプロセスも狼の耳状で特徴的。

5.Podabrus uedai NAKANE et MAKINO ssp. ウエダニンフジョウカイ広島亜種(和名新称,図2−5,図4−5)
厳島(4♂ 1♀.25.IV.1988.S.I), 中津谷渓谷(3♂.24.V.1988.S.I), 花原(1♂ 3♀.24.V. 1988.S.I, 3 ♂.25.V.1988.S.I), 本種は岡山県のリストにおいてナガサキニンフジョウカイの別亜種?P.sp.15 ssp.とした種とほぼ同じと考えられる。その後の調査で、当地産を含めて、岡山産、西九州のナガサキニンフジョウカイとも、北九州原産のウエダニンフジョウカイの亜種とすべきことが判明した。小型6〜7弌∈拂垢、頭頂や前胸の黒紋はやや淡色化する傾向があり、基本的には前胸の黒紋は一つに繋がる。本県西部産のド−サルプロセスは太短く、両サイドは平行に近く、基部より少し前で2分期する。♂交尾器には地方変異があり、上記各地、および近畿北部、中部山岳でそれぞれド−サルプロセスの形が異なり、隠岐より記載されたP.hisash-ii NAKANE も本種の亜種と考えられ、本県東北部と岡山県産はこの隠岐亜種に含めても良さそうである。また、高橋(1992)により神奈川県から記載されたP.yushinensisも一連の亜種の系列に入るものと思われる。

6.Podabrus uedai hisashii NAKANE ウエダニンフジョウカイ隠岐亜種(図2−6,図4−6)
口和町橋堅(2♂.5. V.1988.S.N), 当地産は全体に白化がつよく、♂交尾器のド−サルプロセスは本県西部産より細長く、分岐位置もより基部に近く、V字状に先端は広がる。♂交尾器の形から、岡山県産と共に亜種hisashiiに含めていいとおもう。

7.Podabrus sp. 48 シロニンフジョウカイ(図2−7,図4−7)
中津谷渓谷(1♂.24.V.1988.S.I), 花原(2♂ 1♀.25.V.1988.S.I), 生時は黄白色で、頭頂部や前胸背にも黒褐色紋は出ない。福井県以西の本州、九州に分布し、各地で微妙に♂交尾器が変化する。前種ウエダニンフと酷似し、白化の程度や、ベントラルプロセスのパタ−ンなどで区別しているが、再検討の必要があるかもしれない。高橋(1992)によるP.kanagawaensisは本種の系列のようである。

8.Podabrus sp. 111オカヤマニンフジョウカイ(和名新称,図2−8,図4−8)
中津谷渓谷(1♀.27.V.1984.H.O, 1♀.5. V.1986.H.O, 2♂.24.V.1988.S.I), 岡山県と本県で見付かっている。一見、ショウゾウニンフに似るがより大型で、長いド−サルプロセスと深い間の溝が特徴的である。紀伊半島のキイニンフP.kiiensis や九州のオオニンフP.sp.31神奈川県のP.hakonensis TAKAHASHIなどが同系列になるようである。

9.Podabrus fragilis NAKANE et MAKINO ホソニンフジョウカイ(図2−9,図4−9)
中津谷渓谷(1♂.23.V.1988.S.I), 本種は福岡県の英彦山産を基に記載された種で、九州では各地に普通。本州では今のところ紀伊半島の奈良県伯母子岳から知られるだけで、岡山県でも得られていない。ウエダニンフに似るが、ド−サルプロセスは左右に開いて、細くて短く、ベントラルプロセスの 2/3 程度。ベントラルプロセスは兎の耳に似ていて、広くて長い。

10.Podabrus sp. 36 ヒロシマニンフジョウカイ(和名新称,図2−10,図4−10)
比和町比婆山(1♀.29.VI.1970.S.N), 中津谷渓谷(1♂.27.V.1984.H.O, 3♂.23.V.1988.S.I, 2♂.24.V.1988.S.I), 十方山林道(1♂.24.V.1988.S.I), ウスイロニンフジョウカイP.temp- oralis HALOLD に代表されるグル−プの一員で、前胸は横長で縦長の2黒紋を有し、♂交尾器のド−サルプロセスはU字状で細長く、ベントラルプロセスは細長くて先が尖る。中部から関東にかけて、多くの近似種が各地に産しその分類は困難を極めるが、今のところ、九州、および岡山県では、このグル−プの種は見つかっていない。神奈川県のP.mikunisanus TAKAHASHIはごく近縁。

11.Podabrus sp. 39 ササキニンフジヨウカイ(和名新称,図2−11,図4−11)
高野町新市(1♂ 1♀.20.V.1961.S.N), 花原(1♂ 1♀.24.V.1988.S.I), 本種の前胸背は横長、左右に縦長の黒紋を有し、後頭部の黒紋も2分される。後頭と前胸の点刻は大きく密。♂交尾器のド−サルプロセスはY字状で細長く(基部は短い)、ベントラルプロセスは棒状、側方から見て先端にフックがある。本種は対馬、大分県(黒岳、飯田高原)、熊本県(瀬の本高原)などで得られている。ベントラルプロセスが棒状になる点など、紀伊半島中央部に分布するP.okadai NAKANE et MAKINO や岡山県から知られるP.sp.110 と同じ種群に属する。

12.Podabrus kadowakii NAKANE et MAKINO コクロニンフジョウカイ(図2−12,図4−12)
中津谷渓谷(1♀.23.V.1988.S.I, 1♂.24.V.1988.S.I), 花原(1♂.24.V.1988.S.I, 2♀. 25. V.1988.S.I), 本種も本州のほぼ全域と隠岐に分布し、山地でクロニンフと混生する。全体により小型だが、♂交尾器のド−サルプロセスは左右に離れ、独立して角状、ベントラルプロセスはラテラルプロセスと一体化して長く突出し、メディアンロ−ブ背面には一対の長い突起を持つ(メディアン・フック?)など、他のニンフジョウカイ亜属の種からすると特異。Y字状のド−サルプロセスを持つクロニンフとは、♂交尾器の構造から見て、かなり系統的に離れた種。しかしお互いに外形はよく似ていて、おまけに変異も多く、♂交尾器以外の区別は困難。

13.Podabrus sp.59.ssp. ホクリクジョウカイ大山亜種(図2−13,図4−13)
吾妻山(1♂.22.V.1987.S.N), 本種と次種は先に述べたように、雄の爪は前肢のみが2裂状でニンフジョウカイ亜属(Asiopodabrus )とは異なるので、新亜属を創立する予定である。本種は本県東北部から福井県まで日本海側に分布し、伯耆大山、岡山県中部、吾妻山のものは♂交尾器のド−サルプロセスが基部近くで2裂し、岡山県北部より福井県まで分布する個体群とは別亜種程度の差がある(未記載)。

14.Podabrus sp.10ヒロシマジョウカイ原亜種(図2−14,図4−14)
花原(3♂ 9♀.24.V.1988.S.I,18♀.25.V.1988.S.I), 中津谷渓谷(4♂ 6♀.24.V.1988.S.I, 十方山林道(1♀.1. VII.1992.S.I), 本種は広島県西部から岡山県西部まで分布し、両県産は亜種として区別できる(未記載)。本県東北部の吾妻山産が本種の岡山亜種ではなく、前種だったのは意外であった。中国地方での本亜属の種分化と分布を調べることで、当地の地史の解明に繋がるものと信じる。

15.Podabrus heydeni KIESENWETTER クビボソジョウカイ(図2−15,図4−15)
高野町新市(1♀.19.V.1960.S.N, 1♂ 1♀.2. V.1961.S.N, 1♀.4. V.1961.S.N, 1♀.18.V1961.S.N,1♀.5. VII.1961.S.N, 1♀.28.V.1966.S.N), 庄原市七塚(2♀.3. V.1985.S.N,1 ♂.5V.1987.S.N,1 ♂ 2♀.1. V.1988.S.N), 庄原市川北(1♀.10.V.1987.S.N),比婆山(1♂.23.VI 1969.S.N, 1 ♀.16.VI.1988.S.N), 大万木山(1♀.3. VI.1979.S.N), 比和町(1♀.20.VI.1962.S.N), 三良坂町棗原(2♀.3. V.1991.S.N), 三良坂町灰塚(1♂.30.IV.1990.S.N, 1♂ 2♀.6. V. 1990.S.N, 1 ♀.27.V.1990.S.N, 5♂ 1♀.1. V.1991.S.N,3 ♀.19.V.1991.S.N,1 ♀.3. V. 1992.S.N, 福山市水呑町(1♀.14.V.1992.S.N, 1♂.16.V.1992.S.N). 府中市阿字町落合(2♀. 20. V.1992.S.N), 厳島(1♂ 1♀.28.IV.1985.H.O, 2♂.26.IV.1988.S.I), 中津谷渓谷(3♀.27. V.1986.H.O, 2♀.23.V.1988.S.I, 1♂ 1♀.24.V.1988.S.I, 1♀.25.VI.1988.T.N), 花原(4♂ 21♀.25.V.1988.S.I), 十方山林道(2♀.1. VII.1992.S.I), 関東以西の本州、四国、九州に広く分布し、地方変異は少ない。heydeni 群中、本種の分布が最も広い。

16.Podabrus osawai NAKANE et MAKINO オオサワクビボソジョウカイ(図2−16,図4−16)
吾妻山(1♂.21.V.1989.S.N), 大万木山(1♂.24.V.1987.S.N), 庄原市七塚(3♂ 1♀.28.IV. 1969.S.N,1♂.5. V.1987.S.N), 中津谷渓谷(3♂ 2♀.5. V.1986.H.O, 4♂3 ♀.23.V.1988.S.I, 1♂.24.V.1988.S.I), 花原(1♂.25.V.1988.S.I), 十方山林道(1♂.24.V.1988.S.I, 1♂.1 9.V.1989.Y.M), 長野県以西の本州、九州の山地に分布するが、前種より少ない。各地で♂交尾器に変異があり、幾つかの亜種に区別されるかもしれない。

17.Podabus hikosanus NAKANE et MAKINO ssp.?ヒコサンクビボソジョウカイ中国亜種(図2−17,図4−17)
吾妻山(1♀.23.VI.1968.S.N, 1♀.23.VI.1990.S.N), 吉和村(1♀.8. VI.1969.S.N), 中津谷渓谷(1♂.23.V.1988.S.I, 1♂.24.V.1988.S.I, 1♀.25.VI.1988.T.N), 当地と岡山県中北部、伯耆大山に分布。九州産とは微妙に差があり、亜種として区別できそうである。

(Stenothemus group クリイロジョウカイグル−プ)
18.Habronychus providus (KIESENWETTER)クロヒゲナガジョウカイ(図2−18,図4−18)川上村上徳山(1♂ 1♀.14.VI.1987.H.O), 中津谷渓谷(1♀.28.VI.1988.S.I, 1♂ 2♀.17.VII. 1989.S.I, 1 ♀.18.VII.1989.S.I), 十方山林道(2♀.28.VI.1988.S.I, 1♀.1. VII.1992.S.I), 花原(1♀.1. VII.1992.S.I), 本州、四国、九州に分布し、他の種群とは異なり、6,7 月の夏期に出 現する。本属とStenothemus,Prothemusが本グル−プに含まれる。

19.Stenothemus badius (KIESENWETTER)クリイロジョウカイ(図2−19,図4−19)
吾妻山(1♀.26.VII.1977.S.N), 中津谷渓谷(1♂.26.VII.1988.S.I), 灯火, 十方山林道(3♂ 2♀.26.VII.1988.S.I), ほぼ本州全域と四国、九州、屋久島に分布。地方変異は見られない。前種と本種の♂交尾器は明らかにド−サルプロセスを持たず、ラテラルプロセスの部分が上下に2分され、ベントラルプロセスの原形となっている。日本産ではメディアン・フックも見られず、♂交尾器の形は原始的である。爪の形に相違はあるが両属は近縁と考えられ、夏期出現で、地方変異がないなど、共に南方起源で比較的最近になって日本本土に侵入した種と考えられる。

20. Prothemus ciusianus (KIESENWETTER)マルムネジョウカイ(図2−20,図4−20)
高野町新市(1♂.12.V.1961.S.N, 1♀.4. VI.1961.S.N, 1♀.6. VI.1961.S.N), 吾妻山(1♀. 23. VI.1968.S.N, 1♀.26.VII.1976.S.N), 比婆山(1♂.23.VI.1969.S.N,1 ♂. 29. VI.1970.S.N),東城町帝釈峡(2♀.26.VI.1988.S.N), 吉和村(3♂.8. VI.1969.S.N), 花原(2♂ 1♀.25.V.1988.S.I), 中津谷渓谷(1♀.25.VI.1988.T.N, 2♀.28.VI.1988.S.I), 十方山林道(5♀.28.VI.1988.S.I,1 ♀.1. VII.1992.S.I), 岐阜県以西の本州、四国、九州に分布。地方変異はほとんど無い。中部以東のものは別種ヒガシマルムネジョウカイP.enokidoi TAKAHASHIで、最近記載された。
(Athemus group ジョウカイボングル−プ)

21. Athemus japonicus (KIESENWETTER)ヒメジョウカイ(図2−21a,21b ,図5−21)
高野町新市(1♀.4. VI.1961.S.N), 比婆山(1♀.2. VI.1985.S.N), 庄原市七塚(1♂ 1♀.3. V 1985.S.N, 7 ♂ 5♀.5. V.1987.S.N,2 ♂ 2♀.1. V.1988.S.N), 府中市阿字町落合(1♀.19.V 1992.S.N),吉和村(1♀.8. VI.1969.S.N), 中津谷渓谷(1♀.23.V.1988.S.I, 2♀.24.V.1988.S. I, 1♀.24.V.1988.S.I,12♀.25.V.1988.S.I), 花原(1♂.25.V.1988.S.I), 本州、四国、九州対馬に分布。上翅は黒地に黄褐色の縦縞をもつものが一般的だが、本県産はほとんど黒化したものが多い。最近、中根(1992)は、色彩型や♂交尾器の違いを理由に3亜種を記載し、高橋(1992)はその内の2亜種を種まで昇格させ、本種を3種1亜種に分類した。筆者としては、紀伊半島などの黒翅型を主とする個体群、神奈川県などの茶翅型を主とする個体群など、地域による色彩型の異なる個体群が何らかの分類学的な差異をもつことは認めるが、それが亜種あるいは種レベルで分化しているとは、今のところ考えにくい。従来どおり、本種1種が国内に分布しているとの立場を取りたい。本種の爪は2裂状で、Mikadocantharis属の種とされてきたが、前報でも述べたように、♂交尾器の近似性よりAthemus属に含めた。
本グル−プにはAthemusとAthemelluが含まれ、♂交尾器のメディアン・フックは良く発達し、ド−サルプレ−トは広く背面を覆い、中央で深く2分される。
本種(すべての爪は2裂状)と、次種からヒサマツジョウカイ(すべての爪は基部に親指状の突起)まで、さらに、ババジョウカイからニセヒメジョウカイ(前・中肢の爪のみ基部に親指状の突起)までは、♂交尾器の類似性もあり、Andrathemus亜属に含めていいようにおもう。

22.Athemus nakanei (WITTMER) ミヤマクビアカジョウカイ(図3−22,図5−22)
高野町新市(1♂.20.V.1961.S.N, 1♂.17.V.1970.S.N), 吾妻山(1♂.19.V.1991.S.N), 比婆山(1♀.1. VI.1986.S.N), 中津谷渓谷(2♂ 1♀.24.V.1988.S.I), 十方山林道(1♀.24.VI.1988.S.I), 本州、四国、九州の山地に分布。頭、上翅、肢、触角は黒色で、前胸背は赤褐色で中央に黒紋。ときに黒紋は縮小、拡大する。Ishida(1986) および中根(1992)による上翅にストライプのある本種の変異というのは、セスジジョウカイ種群(本州に10種前後分布、大半は未記載)の存在を誤認したものと考えられる。

23.Athemus hisamatsui ISHIDA ヒサマツジョウカイ(図3−24,図5−24)
三良坂町小塩野(1♂.3. V.1992.S.N), 関東以西の本州、四国、九州に分布。ヒメジョウカイや前種群に酷似し、爪と♂交尾器を見て正しく同定する必要がある。

24.Athemus babai ISHIDA ババジョウカイ(図3−23,図5−23)
熊野町呉地(1♂.11.IV.1992.S.N, 1♂.13.V.1992.S.N), 背面はほとんど黒化し、前胸背の周囲が細く黄褐色になる程度。上翅は短い。前報(今坂他 1990)でA.sp.2ババジョウカイの近似種としたものが、実はババジョウカイそのものであった。本種は、原産地の岐阜県を始め、秋田・新潟・神奈川・滋賀・岡山・広島の各県で得られている。ヤナギの新芽に見られ、アブラムシを捕食しているものとおもわれる。

25.Athemus lineatipennis WITTMERニセヒメジョウカイ(図3−25,図5−25)
中津谷渓谷(3♂.23.V.1988.S.I, 4♂ 6♀.24.V.1988.S.I), 花原(1♀.24.V.1988.S.I, 2♀ 25. V.1988.S.I), 関東以西の本州、四国、九州に分布。高橋(1992)が、A. okuyugawaranusホソニセヒメジョウカイとして記載したものは本種に当たる。真のlineatipennis が高橋(1992)の言うニセヒメに当たるのかどうか、両方のType を見ていないので判断できない。ファウナ比較の関係上、従来の扱いを踏襲しておく。前報等(今坂他 1990 ,今坂.1992)で、前・中肢の爪のみの基部に歯状突起があることを理由に、本種とセボシジョウカイをlineatipennis 群として、先のAndrathemus亜属の種群と区別しておいたが、上記の通りババジョウカイの後肢の爪も単純だった。その後、Andrathemus亜属の種を見直したところ、♂交尾器の類似性よりセスジジョウカイ群としてグル−ピングしていたなかから、複数の種で後肢の爪の突起をかくものが見付かった。これらを良く見ると、個体により、痕跡的に突起を残すものから完全に消失するものまで見られ、後肢の突起の有無をファクタ−とするグル−ピングは不適当であると考えられる。今後、lineatipennis 群を区別しない。
次種およびA.okabei TAKAHASHI( たぶん?)は、爪の形ではなく♂交尾器の特異生に於て、1つの群を構成すると考えられる。

26.Athemus vitellinus (KIESENWETTER)セボシジョウカイ(図3−26,図5−26)
高野町新市(1♀.15.V.1961.S.N, 1♀.24.VII.1961.S.N), 吾妻山(1♀.26.VII.1976.S.N), 新市町上戸手(2♂12♀.19.V.1992.S.N), 福山市水呑町( 2 ♂12♀.14.V.1992.S.N, 1♀.18.V. 1992.S.N),福山市山手町(3♂ 2♀.14.V.1992.S.N, 8♀.17.V.1992.S.N), 福山市森脇町山寺橋(2♀.17.V.1992.S.N), 府中市父石町(1♀.16.V.1992.S.N,1 ♂.19.V.1992.S.N), 府中市阿字 町落合(1♀.15.V.1992.S.N,1 ♀.16.V.1992.S.N,1 ♀.18.V.1992.S.N), 花原(2♂.25.V. 1988.S.I, 厳島 2♂.28.IV.1985.H.O), 本州、四国、九州、伊豆諸島、屋久島など北海道を除く国内全域に分布し、平地などのオ−プンランドでは特に最優先種となる。本種の爪のパタ−ンは前種と同じだが、♂交尾器はメディアンロ−ブの背面、先端前に直角に剣状の突起があり、特異である。高橋(1992)は本種に近似のA.okabeiオカベセボシジョウカイを神奈川県の三浦市、大和市、平塚市などより記載したが、今のところ手元の標本には後種は含まれていない。

27.Athemus sp. 5マツナガジョウカイ(図3−27,図5−27)
中津谷渓谷(3♂ 2♀.23.V.1988.S.I, 9♂ 5♀.24.V.1988.S.I), 十方山林道(2♂.24.V. 1988. S.I, 1♂ 2♀.19.V.1989.Y.M), 背面はほぼ黒褐色で、A.okinawanus ISHIDA オキナワジョウカイに似るが、より細形、♂交尾器も異なる。紀伊半島以西の本州、四国、九州、屋久島に分布するが、紀伊半島・四国産は上翅の肩部から後方へ向かって褐色紋が出やすい。岡山県から京都府までは今のところ本種は得られておらず、どんな分布をしているのか興味深い(未記載)。
本種からニセジョウカイまでは雄の爪は単純、雌の爪は前・中肢の基部に親指状の突起があり、後肢は単純になり、従来Athemus亜属とされていた。しかし、体のサイズや♂交尾器の類似性からマツナガからフチヘリまでのaegrotus群と、ニシジョウカイ・ニセジョウカイなどのsuturel-lus 群とに分けて考えた方がいいような気がする。

28.Athemus aegrotus (KIESENWETTER)クロホソジョウカイ(図3−28,図5−28)
十方山林道(1♂.21.VI.1987.M.N, 2♂.22.VI.1987.M.N, 2♂ 8♀.28.VI.1988.S.I, 1♂ 2♀.1VII.1992.S.I), 中津谷渓谷(1♂ 3♀.25.VI.1988.T.N, 3♀.27.VI.1988.S.I, 3♂.28.VI.1988.S. I, 1♂.17.VII.1989.S.I), 本州、四国、九州に分布。肢と触角は大部分褐色。上翅は黒褐色で、ときに黄褐色のストライプ。

29.Athemus tsuyukii TAKAHASHI ツユキクロホソジョウカイ(図3−29)
三良坂町棗原(1♀.3. V.1991.S.N), 仙台以西の本州、九州に分布。前種に似るが、触角、肢、上翅とも背面は全体黒い。岡山県のリストのA.sp. 1は本種のことで、つい最近、高橋(1992)により記載された。

30.Athemus maculielytris ISHIDA フチヘリジョウカイ(図3−30,図5−30)
中津谷渓谷(1♂.23.V.1988.S.I, 2♂.24.V.1988.S.I), 関東以西の本州、九州の山地で見付かる。雄の第7腹板中央突起が特異であり、前報では別グル−プに分けたが、爪と♂交尾器は基本的に本グル−プのものである。

31.Athemus luteipennis (KIESENWETTER)ニシジョウカイボン中国地方型(図3−31,図5−31)
吾妻山(2♂.23.1990.S.N,1♂.24.VI.1990.S.N), 比和町比和(1♀.20.VI.1962.S.N), 庄原市七塚(1♀.5. V.1990.S.N), 三良坂町小塩野(1♀.3. V.1992.S.N), 三良坂町灰塚(3♂ 2♀.27.V1990.S.N, 1 ♀.10.VI.1990.S.N, 2♀.17.VI.1990.S.N, 1♀.27.V.1991.S.N), 作木村岡三渕(1 ♀.30.V.1987.S.N), 戸河内町(1♂.23.VI.1974.S.N), 府中市阿字町落合(1♀.18.V.1992.S.N), 府中市父石町(1♂ 1♀.18.V.1992.S.N), 新市町上戸手(3♂ 4♀.19.V.1992.S.N), 福山市山手町(2♂.14.V.1992.S.N, 1♂ 1♀.17.V.1992.S.N), 福山市森脇町山寺橋(2♀.14.V.1992.S.N,1.♂ 5♀.17.V.1992.S.N), 広島市安佐南区温品(5♂ 2♀.5. V.1986.H.O), 中津谷渓谷(1♀. 27. V.1984.H.O, 1♂.23.V.1988.S.I, 2♀.25.VI.1988.T.N, 1♀.27.VI.1988.S.I, 1♂.28.VI 1988.S.I),十方山林道(1♀.21.VI.1986.M.N, 1♀.22.VI.1986.M.N, 1♂24. V.1988.S.I, 1♂. 28. VI. 1988.S.I,1♀.18.VII.1989.S.I, 2♂ 3♀.1. VII.1992.S.I), 花原(6♂ 8♀.25.V.1988. S.I, 1♀.1. VII.1992.S.I), 氷ノ山以西の本州、九州、対馬、屋久島に分布。前報(今坂ほか,1990) で述べたように、西日本のものは明らかに独立種と考えられるので、今後ジョウカイボンとは別種として扱う。中国地方産は肢や触角の黒化が著しく、対馬、多良岳以西の西九州、北九州も同様。九重山以南の九州山地と天草では、触角と肢は黄褐色。佐賀県の嬉野町から脊振山系、英彦山山系までは両型の混交地帯で、脊振山系では西から東へ黄肢型の割合が増す。
また、十方山林道産の1♂(図3−31)は、上翅後半が黒化し、前記ジョウカイボンの中部山岳の型に似てくる。このタイプは山口県下関市周辺(特に山地ではない)でも2個体検しており、中国地方では稀に現れるようである。ただし、西九州等の黒肢型のなかにはこのタイプを見たことはない。

32. Athemus infuscatus YAJIMA et NAKANE ニセジョウカイ(図3−32,図5−32)
吾妻山(1♀.5. VII.1961.S.N, 1♀.14.VI.1987.S.N, 1♂ 1♀.23.VI.1990.S.N), 中津谷渓谷(1 ♂.24.V.1987.T.N, 2♀.25.VI.1988.T.N, 1♂ 2♀.27.VI.1988.S.I), 花原(1♀. 25. V.1988. S.I, 1♀.1. VII.1992.S.I), 十方山林道(4♀.28.VI.1988.S.I, 2♀.1. VII.1992.S.I), 前種に酷似するが、上翅の立った毛が金色を呈することと、♂交尾器が異なることで区別できる。琵琶湖以西の本州、四国、九州に分布。岡山県でも最近採集された。図鑑等でクロジョウカイの亜種に扱われたこともあるが、岡山県〜滋賀県の日本海側の山地では混生し、明らかに別種である。

33.Athemellus insulsus ( HALOLD)ウスチャジョウカイ黒翅型(図3−33,図5−33)
三良坂町大谷 (1 ♂.7. IV.1992.S.N), 中津谷渓谷(1♂.23.V.1988.S.I, 1♀.24.V.1988.S.I), 花原(1♀.25.V.1988.S.I), 本種は本州全域に分布し、そのうち黒翅型は略々中央構造線以西に分布し、岡山県中部以西はそのうちの金毛型が分布する。本種からムネアカクロまでは、すべての爪が単純になることから、Athemellus 属としてAthemusとは区別されているが、♂交尾器のプロポ−ションはほぼ同じで、メディアン・フックがより発達し、爪も単純でより進化した形をしており、Athemusの延長線状にある。同属に含めてもいいかもしれない。

34.Athemellus oedemeroides (KIESENWETTER)クビアカジョウカイ(図3−34,図5−34)大万木山(2♂.1. VI.1992.S.N), 庄原市本村(1♀.30.III.1992.S.N, 1♂ 1♀.2. IV.1992.S.N),三良坂町棗原(1♀.14.IV.1990.S.N), 三良坂町灰塚(1♀.3. V.1992.S.N), 作木町岡三渕(1♂.2 9.IV.1990.S.N), 熊野町呉地(1♂.11.IV.1992.S.N), 中津谷渓谷(1 ♀.23.V.1988.S.I,1 ♂ 2♀.24.V.1988.S.I), 十方山林道(2♂ 1♀.24.V.1988.S.I), 岐阜県以西の本州、四国、九州に分布し、前種とよく似ているので注意が必要。一般により小型。本県産も岡山県同様、上翅は黒く、立った毛が金色の金毛型が産する。

35.Athemellus adusticollis (KIESENWETTER)ムネアカクロジョウカイ(図3−35,図5−35)
高野町新市(1♂.8. VII.1966.S.N. 1♀.20.VII.1969.S.N), 比婆山(4♂ 1♀.28.VII.1974.S.N),吾妻山(1♂ 2♀.26.VII. 1977.S.N),中津谷渓谷(1♂ 4♀.26.VII.1988.S.I, 5♂ 5♀.17.VII.1989. S.I), 十方山林道(4♂ 3♀.26.VII.1988.S.I), 花原(2♂.1. VII.1992.S.I), 本種は北海道から九州まで全国的に見られ、変異も少ない。前胸背の前縁が黒ずむことで前2種とは容易に区別できる。

(Themus groupアオジョウカイグル−プ)
36.Wittmercantharis curtata (KIESENWETTER)ムネアカフトジョウカイ(図3−36)
庄原市七塚(1♀.23.IV.1971.S.N), 本州各地に分布し、大きな川の河原で見つかる。ホッカイジョウカイも含めて本属の種はオ−プンランド性のようである。本属、Yukikoa、Themus は、♂交尾器のド−サルプレ−トは中央部に一本で2分されることはなく、メディアン・フックも良く発達することより本グル−プに含まれる。本属の雄の爪は、基部に大きく丸い突起を持ち、雌は単純。残る2属は雌雄共にすべての爪は単純である。

37.Themus episcopalis purpureoaeneus YAJIMA et NAKANE キンイロジョウカイ本州・四国亜種(図3−37,図5−37a )
吾妻山(2♀.5. VI.1960.S.N), 比和町比和( 2 ♀.20.VI.1962.S.N), 庄原市本村(1♀.26.VI. 1992.S.N),三良坂町灰塚( 1 ♀.27.V.1990.S.N), 広島市(1♀.1. VII.1969.S.N), 花原(5♂ 1♀ 1.VII.1992.S.I), 関東以西の本州と四国に分布し、九州産の原亜種(長崎原産、図5−37b )とは、上翅の色が金銅色〜金紫色である点、♂交尾器のド−サルプレ−トの先端両側の抉れが小さく、背面から見て、メディアン・フックの露出はより少ないなど(図5−37a)、形がやや異なる点などで区別されている。当県産は近畿産などと比べてもより紫味が強く、一見した感じ原亜種により近いかんじがする。

38.Themus midas (KIESENWETTER)ヒメキンイロジョウカイ基本型(図3−38,図5−38)
吾妻山(1♀.27.V.1967.S.N, 1♀.14.VI.1987.S.N, 1♀.22.VI.1991.S.N,1 ♂.13.VI.1992.S. N), 中津谷渓谷(1♀.25.VI.1988.T.N, 3♂ 1♀.28.VI.1988.S.I, 1♀.18.VII.1989.S.I), 十方山 林道(3♂.28.VI.1988.S.I, 1♂.18.VII.1989.S.I), 花原(3♀.1. VII.1992.S.I), 福井県以西の本州(主として日本海側)と九州、対馬、平戸島、五島列島上通島、天草、甑島に分布。本種は、九州周辺では多くの色彩変異を示すが、本州産は紫〜金紫色で安定している。九州内の変異の中では、英彦山山系の型に最も近い。

39.Themus cyanipennis MOTSCHULSKYアオジョウカイ基本型(図3−39,図5−39)
高野町新市(1♂.3. VI.1961.S.N), 高野町猿政山(1♂ 1♀.15.VI.1975.S.N), 吾妻山(1♂.5.VI.1960.S.N,2 ♂.23.VI.1968.S.N, 1♂ 2♀.14.VI.1987.S.N, 2♂ 5♀.23.VI.1990.S.N), 大万木山(1♀.1. VI.1992.S.N), 比婆山(2♂.23.VI.1968.S.N, 2♂ 1♀.29.VI.1970.S.N, 3♀.2. VI.1985.S.N, 3 ♀.1. VI.1986.S.N), 帝釈峡(1 ♀.6. VI.1982.S.N), 戸河内町三段峡(1♀.26.VI 1966.S.N),十方山林道(1♀.21.VI.1987.M.N, 5♂ 2♀.28.VI.1988.S.I,30♂15♀.18.VII.1989.S. I, 4♂.2♀. 1.VII.1992.S.I), 中津谷渓谷(14 ♂ 8♀.25.VI.1988.T.N, 2♀.27.VI.1988.S.I, 1♀.28.VI.1988.S.I, 3♂ 2♀.17.VII.1989.S.I, 9♂ 3♀.18.VII.1989.S.I), 花原(1♀.1. VII. 1992.S.I),北海道、本州、四国に分布し、東北と中部地方に黄肢型が、神奈川県周辺と紀伊半島に黒化型がそれぞれ分布する。その他の地方では余り変化がない。

Malthininaeチビジョウカイ亜科
(Malthinus group ツマキジョウカイグル−プ)
40.Malthinus humeralis KIESENWETTER キアシツマキジョウカイ(図3−40,図5−40)中津谷渓谷(1♂.17.VII.1989.S.I), 従来の分布は本州のみ。本種については資料が少なく、図鑑等で同定しているので、将来訂正が必要になるかもしれない。図示したように、♂交尾器は特異で、同じ♂交尾器をもつものが長崎県でも得られている。高橋(1992)が図示した神奈川県のものとは明らかに♂交尾器が違っていることから、これらは互いに別種であるが、どちらが真のキアシツマキであるかは判断できない。

41.Malthinus sp. ツマキジョウカイの1種(図3−41)
十方山林道(1♀.1. VII.1992.S.I), 前種によく似るがより大型。全体黄褐色だが生時は黄白色で、むしろシロニンフジョウカイに似るが、上翅には点刻列がある。雄が得られていないので種名の決定はできないが、既知種の中には見当たらない。

42.Malthinus japonicus OHBAYASHIクロツマキジョウカイ(図3−42,図5−42a )
花原(5♂ 5♀.25.V.1988.S.I), 北海道、本州、九州の分布が知られるが、詳細は不明。岡山県のリストでコウベツマキM.kobensis と本種を区別できないと書いたが、これらはやはり別物のようで、岡山県および本県のものはクロツマキの方である。本種の♂交尾器は複雑な造型物であるが、クロスジツマキM.mukoreus などと一脈通じる形をしている。

(Malthodes group チビジョウカイグル−プ)
43.Malthodes sp. 4(図3−43a,43b,43c )
厳島(1♀.25.IV.1988.S.I, 9♂ 6♀.26.IV.1988.S.I), 十方山林道(1♂.24.V.1988.S.I), 岡山県と本県で見つかっている。♂腹板末端節が杓子状で横長に角張り、杓子の柄の部分が強く曲がるのが特徴。大分県原産のM.kyushuensis や、長崎県多良岳のM. sp.2に近縁。

44.Malthodes sp. 7(図3−44a,44b,44c )
花原(1♂ 2♀.25.V.1988.S.I), 本種も岡山県と本県のみで見つかっている。キタチビジョウカイM.kurosawai に似るが♂腹板末端節の先端がカブトムシの角状に分岐が在り、柄の部分の形も異なる。
Chauliognathinae コバネジョウカイ亜科
45.Trypherus sp. コバネジョウカイの1種(図3−45a,45b )
中津谷渓谷(1♂ 4♀.1. VII.1992.S.I), 本属はBrancucci(1985)によってまとめられ、日本産も従来の取扱とは変わっているらしい。残念ながらその文献を見る機会がなく、本属についての知識がほとんど無かったが、高橋(1992)によりキベリコバネ、ニセキベリコバネ、クロコバネの3種についてはその正体が分かった。従来、筆者がニセキベリコバネと考えていたものが正しくはキベリコバネであり、キベリコバネと思っていたものはクロコバネであった。結局、前報の岡山県産はT.niponicus (LEWIS) キベリコバネジョウカイであったので訂正しておきたい。
本種は上記3種とは、第8腹板の形、♂交尾器ともども異なり、種名が決定できなかった。河原のヤナギの枝先で得た。

広島県産ジョウカイボン相の特徴
(県内における地域変異)
広島県内において限られた地域の採集品しか見ていないので、全体像についてはおぼろげながら分かる程度である。しかし、種によっては県内ですでに分化しているものもあり、それらの変異を通じて、本県の地史を探る手掛かりとなるかもしれない。種ごとの分布で特徴のあるものを次に列記したい

◎ミヤマニンフジョウカイ
芸北山地にある吉和村産は色彩変異に富み、淡色型〜中間型〜黒化型すべてが産する。このパタ−ンは中部・関東方面でも一部に現れるようだが、詳細は不明。中間型〜黒化型は本来紀伊半島から関東北部までの太平洋岸に見られ、淡色型は中国地方から東北まで主として日本海岸に分布している。紀伊半島を除くと、岐阜県以西で淡色型以外のタイプが分布するのは当地だけで、ほかでは知られていない。備北山地の吾妻山産は1 ♀だけしか見ていないが、明らかに淡色型。伯耆大山と岡山県北部でも淡色型のみが分布するので、備北山地には淡色型のみが産するのであろう。県内での両型の分布境界がどのあたりにあるのか今後調査する必要がある。

◎ウエダニンフジョウカイ
前種同様の傾向で、芸北山地の吉和村産と備北山地の口和町産が、♂交尾器と体色に差があり別亜種的。後者は岡山県北部産と共に隠岐亜種 ssp.hisashii NAKANE に含まれそう。

◎ヒロシマジョウカイ原亜種とホクリクジョウカイ大山亜種
ヒロシマジョウカイ原亜種が芸北山地の吉和村に分布し、ホクリクジョウカイ大山亜種が備北山地の吾妻山に分布する。岡山県西部にはヒロシマジョウカイ岡山亜種が分布するので、本県中央部の台地にどのようなものが分布するのか、境界はどこになるのか、確認する必要がある。

上記3種とも地域変異のパタ−ンはほとんど同じだが、種によって種レベル、亜種レベル、あるいはそれ以下と分化のレベルは異なる。この結果、本県は生物地理学上、大きく備北山地とそれ以外の地域に二分され、さらに残りの地域は、芸北山地と中央大地に区分することが可能である。

(本県産ジョウカイボンの分布型)
1.本地域の特産種
・ウエダニンフジョウカイ広島亜種(広島県西部)
・オカヤマニンフジョウカイ(広島・岡山両県)
・ヒロシマニンフジョウカイ(広島県北部のみで、九州と岡山県では取れていない。中部・関東のウスイロニンフ系のどの種かの亜種程度か?)
・ホクリクジョウカイ大山亜種(広島県東北部、伯耆大山、岡山県中部)
・ヒロシマジョウカイ原亜種(広島県西部、山口県東部)
・ツマキジョウカイの1種(広島県西北部)
・Malthodes sp. 4 (広島・岡山両県、宮島)
・Malthodes sp. 7 (広島・岡山両県)
以上、ほとんど亜種レベルでの特産で、種レベルでの特産種といえるのはヒロシマジョウカイくらいであろう。

2.九州系(九州と関連が深い種、現時点で四国の分布が知られていない種)
・ササキニンフジョウカイ(対馬、九州〜広島県西部)
・ヒコサンクビボソジョウカイ(種としては北九州〜鳥取・岡山県)
・ニシジョウカイ(対馬、九州〜兵庫県まで)
・ヒメキンイロジョウカイ(甑島、五島列島、対馬、九州〜福井県までの主として日本海側)
このグル−プは、九州から対馬に分布が広がっているのが暗示的。

3.襲速紀系(九州、四国、紀伊半島と本県に分布、岡山県〜兵庫県には分布しない)
・ホソニンフジョウカイ(九州、広島県西部、紀伊半島)
・マツナガジョウカイ(屋久島、九州、四国、広島県西部、紀伊半島)
本グル−プの種は本県では西部のみに見られるのが特徴である。

4.西日本系(九州、四国、岐阜県または琵琶湖以西の本州に分布)
 ・マルムネジョウカイ(岐阜県以西)
・ニセジョウカイ(琵琶湖以西)
・クビアカジョウカイ(岐阜県以西)

5.本州系(本州、四国に分布し、九州には分布しない)
・ミヤマニンフジョウカイ(四国の分布も知られていない)
・ショウゾウニンフジョウカイ(四国の記録はない)
・ヒロシマニンフジョウカイ(ウスイロニンフ系の亜種と考えると)
・コクロニンフジョウカイ(隠岐と本州の山地)
・ホクリクジョウカイ(種レベルで考えると広島県北東部〜福井県の日本海側)
・ミヤマクビアカジョウカイ(九州では英彦山のみの分布)
・ババジョウカイ(秋田県から広島県)
・ウスチャジョウカイ(中央構造線付近を境に2亜種に分かれる、四国にも分布しない)
・ムネアカフトジョウカイ(四国には分布しない)
・アオジョウカイ(本来ヒメキンイロの置換種、その後ヒメキンイロが分布を広げて分布域が重複した)

以上の種は本州のブナ帯を主な生息地にしているが、九州に分布しない理由は明らかではない。

高橋(1992)による『神奈川県のジョウカイボン科』について
さて、高橋(1992)については本文でも述べたように、だいぶ見解を異にしている。高橋が指定したType を見たわけではないので、あるいは的外れな意見かもしれないが、筆者らと種の取扱が異なる種について次に列記したい。将来Type を検した時点で、考えを改めるべきところも出てくるかもしれない。
ヒルガタケクビボソジョウカイPodabrus hirugatakensis TAKAHASHI
クビボソジョウカイP. heydeni の個体変異と思う。

ミヤマクビボソジョウカイP. lictrius LEWIS
本文および♂交尾器の図より判断して、P. yanoi NAKANE のことと思われる。P. lictr- ius は高橋がP. kisoとして図示している種にあてるべきと考える。

ユ−シンクビボソジョウカイP. yushinensis TAKAHASHI
北九州原産のウエダニンフジョウカイP. uedai NAKANE et MAKINO の地方変異型であろう。あるいはP. macilentus KIESENWETTER と亜種関係かもしれないが、Type を検していないので意見を述べられない。

カナガワヒメクビボソジョウカイP.kanagawaensis TAKAHASHI
筆者等が前々よりシロニンフジョウカイP.sp. 48と仮称しているものと同じ種群に属しており、前種にもよく似る。本種群は九州、本州に分布し、生時は全体黄白色、その点で多少カナガワヒメとは異なる。

イヌゴエジクビボソジョウカイP.inugoegianus TAKAHASHI
同じく高橋が記載したキントキクビホソジョウカイP.kintokisanus TAKAHASHIと同じものであろう。

キソクビボソジョウカイP.kiso NAKANE et MAKINO
再三述べているように、ミヤマニンフジョウカイP.lictorius LEWISの黒化型と考えるべきで、紀伊半島〜東海〜神奈川県のものはほぼ同じタイプである。

ヒガシチビクビボソジョウカイP.hiranoi TAKAHASHI
チャイロチビクビボソジョウカイP.minus TAKAHASHI
クロチビクビボソジョウカイP.micronigerinus TAKAHASHI
以上3種とも、霧島原産のチビニンフジョウカイP.neglectus NAKANE の亜種的なものであろう。本種は九州内でも草原等のオ−プンランドでは白化し、すぐ近くの林中では黒化するなど体色の変化が大きい。♂交尾器の形は九州と近畿以東の本州では多少異なるので、亜種程度の差があるものと思われる。なお、高橋はこれらの3種が体色の近似からキイロニンフジョウカイP.ochraceus KIESENWETTER に近縁と考えているようだが、この種の♂交尾器のド−サルプロセスは長いU字形で背面基部中央が抉れ、一見、P.kiiensis NAKANE et MAKINO に似る。しかし、キイロニンフのベントラルプロセスは広がって長く、チビニンフあるいはキイニンフも実際はかなり遠い種であろう。

ナナサワクビボソジョウカイP.nanasawaensis TAKAHASHI
本種の♂交尾器は高橋(1992)の図を見る限り、本属の種の正常なスタイルから逸脱しており、日本産ジョウカイボン亜科の種すべてを見渡しても、左右のベントラルプロセスが融合する種は見当たらず、多分タカオクビボソジョウカイP.takaosanus NAKANE et MAKINO の奇形であろう。

キベリクロクビボソジョウカイP.inexpectus TAKAHASHI
高橋が指摘するように、本種の♂交尾器はheydeni 群とニンフジョウカイ亜属(Asiopodabr- usとの中間的な形をしている。本種のド−サルプロセスの発達が悪いことから、高橋は本種を祖先的な種と考えているが、今坂(1992)が指摘したように、メディアン・フックの発達という1点だけからでも、heydeni 群のほうがニンフジョウカイ亜属より進化した群である。本種にはAs- iopodabrusらしからぬメディアン・フックが小さいながら認められ、むしろ、ニンフジョウカイ亜属中最も進化した群で、heydeni 群と近付いている種と言うことができる。本種は従来ヒメシロニンフジョウカイP.sp. 58と仮称している種のグル−プでかなり近縁な種と考えられる。

ニセミヤマクビボソジョウカイP.pseudolictorius TAKAHASHI
本種は筆者等によりリョウコジョウカイ群として、亜属を創立すべく準備されていたグル−プの一員で、従来トウカイジョウカイP.sp. 92 として仮称していた種である。三重県から山梨・神奈川・埼玉・新潟・栃木の各県に分布する。

シンボリヒゲナガジョウカイMicropodabrus shinborii TAKAHASHI
確かに、箱根と丹沢の間で♂交尾器のベントラルプロセスの形に差がある。ホソナガジョウカイM.longipes(WITTMER) の亜種で良くはないか・・・・。
ジョウカイボンAthemus suturellus(MOTSCHULSKY)
高橋は細分すれば神奈川県産は亜種insuturellus YAJIMA et NAKANE に含まれるとしている。今坂(1989)で述べたように、兵庫県以東のいわゆるジョウカイボン中、富士・箱根・丹沢の個体群は全体に淡色で華奢、肢は黒く、♂交尾器は特異で、色彩型による中部や関東北部などの亜種を認めないとしても、当地のものは別亜種にすべきであろう。

ニセヒメジョウカイAthemus lineatipennis WITTMER
ホソニセヒメジョウカイAthemus okuyugawaranus TAKAHASHI
筆者等が従来ニセヒメジョウカイとしてきた種は、♂交尾器の図から判断して、A.okuyuga- waranus の方である。両種とも雌雄共に爪は前・中肢のみ基部に親指状の突起があり、後肢は単純である。高橋のいうニセヒメは、筆者等がセスジジョウカイ群の種として考えていたしゅと同じ物で、♂交尾器の形の類似や後肢の爪が単純である点など、ババジョウカイに近い種であろう。神奈川・千葉両県産のみ検しており、分布は限られるのかもしれない。

ババジョウカイAthemus babai ISHIDA
ヒサマツジョウカイA.hisamatsui ISHIDA
ヤトセスジジョウカイCantharis yato TAKAHASHI
高橋は、すべての爪の基部に突起を持つことを理由にヤトセスジジョウカイをCantharis属で記載し、Andrathemus亜属の♂の後肢の爪には小歯を欠くとして、セボシ、オカベセボシ、ニセヒメ、ホソニセヒメ、ババ、ヒサマツを所属させている。このうち、実はヒサマツには全ての爪の基部には親指状の突起があり、それならヒサマツもCantharis属に含めるべきであろう。筆者等としては、先に述べたように、セボシ、オカベセボシを除く、ニセヒメ、ホソニセヒメ、ババ、ヒサマツと、これにヒメとミヤマクビアカを加えて、Andrathemus亜属に含めるべきと考えている。

ヒメジョウカイMikadocantharis japonicus (KIESENWETTER)
ミヤマヒメジョウカイM.alpicola NAKANE
タカオヒメジョウカイM.takaosana NAKANE
少なくとも中根(1992)のいう各地方の亜種は、亜種の可能性はあってもそれぞれ別種ではない。神奈川県の標本を見ないまま判断するのは早計だが、多分神奈川県の上記3種はヒメジョウカイ1種の、亜種でもない、ただの個体変異であろうと考えている。

キアシツマキジョウカイMalthinus humeralis KIESENWETTER
高橋が図示した本種の♂交尾器と、筆者等が示した♂交尾器(図5−40) とは全然違っている。どちらが正しいのか確かめる術を持たない。

クロツマキジョウカイMalthinus japonicus OHBAYASHI
高橋の図示した神奈川県産の♂交尾器と同じタイプのものは静岡県産(図5−42b)で見ているが、今回報告した広島県産を始め、岡山・兵庫・京都の各府県と札幌産の♂交尾器はコブシ状の下の部分がより横長で(図5−42a)、微妙な差だが区別することができる。一応、別亜種扱いをしておく。

ブランクッチコバネジョウカイTrypherus atratulus BRANCUCCI
本報でTrypherus sp.としたものが、あるいは本種なのかもしれないが、確かめる術を持たない。

以上の結果、神奈川県産ジョウカイボン科は58種1亜種を数えることができる。

ほかの地域とのFaunaの比較
広島県産ジョウカイボン科44種1亜種を、前報(今坂ほか,1990)における岡山県(1種が追加され48種)と長崎県(こちらも1種追加し40種)、そして前記神奈川県(58種1亜種)と比較したのが、表1である。これら4県で記録されたジョウカイボン科甲虫は総数で100 種である。

○◎●◇などは、互いに亜種レベルで異なることを意味し(ただし、ほとんどは未記載)、1つ県内に2亜種が産するときは、複数書き入れてある。

一応、地方分化の著しいPodabrus と、それ以外とに大別して比較してみたい。Podabrus 40種中、4県全てに分布する種は5種しかなく、しかも亜種レベルでも同じなのはクビボソ1種のみで、のこる4種は変化している。3県共通は2種だけで,それも各地で亜種が異なり、2県共通が9種で、うち6種は広島−岡山の共通種である。あとは長崎−広島、岡山−神奈川、長崎−神奈川の共通種が各1種ずつである。40種中25種は1県だけの分布で、Podabrus では6割以上の種が地域の特産種として分化している。つい隣の県である広島県と岡山県の間でも、両県合わせて19種中12種が共通にすぎず(共通率80.0%)、亜種レベルではそのうち4種が変化している(共通率53.3%)。同様に、広島県と長崎県では23種中6種(共通率42.9%)、亜種レベルでわずか2種(共通率14.3%)、広島県と神奈川県では30種中5種(共通率33.3%),亜種レベルではこちらも2種(共通率13.3%)である。また比較した4県の両端に当たる長崎県と神奈川県では両県産29種中5種(共通率35.7%)、亜種レベルでただの1種(共通率7.1 %)である。

一方、Podabrus を除いたその他のジョウカイボン科でも様相は変わらず、総数60種中4県全てに分布する種は10種あり、これらの種は一部の種を除いてほとんど変化がない。3県に分布するものは13種で、このうち幾らか変化しているものが7種。2県共通の種は9種で、残る28種は1県のみ。つまり約半数が各地域の特産種で占められていると言える。
共通率は広島−岡山で36種中25種(86.2%)、亜種レベルで差のあるものはない。同じく広島−長崎で37種中18種(69.2%)、亜種レベルで4種差があり14種(53.8%)、広島−神奈川では52種中15種(51.7%)、亜種レベルで3種差があり12種(41.3%)となる。長崎−神奈川では52種中12種(46.2%)、亜種レベルで差のあるものはない。

Podabrus,その他両方共に、広島−神奈川と長崎−神奈川の共通率に大差がないのが興味深い。多分、6割を越える地域の特産種と、1割5分程の広域分布種の存在がこういった結果を招いたのであろう。

結局広島県のジョウカイボン相の特徴は次のように要約できる。

◎広島県産ジョウカイボン科44種のうち、本州、四国、九州に広く分布する広域分布種は18種である。一方、本州系で九州には分布しない種が10種(一応ミヤマクビアカはここに含める)いるのに対して、九州系は前述の九州系4種と襲速紀系が2種、そして西日本系3種の計9種と、東西の種の勢力が拮抗している。

◎本州系の種はホクリクジョウカイを除いて、限られた分布系を示す種がないにも拘らず、九州系のほうは上記の3系が含まれ、種によって特徴のある分布系を示す。

◎岡山県を含めてこの地域の特産種を8種あげたが、これらのほとんどが本州系の種、または亜種的なものと考えられる。この結果本州系18種に対して九州系9種と、本州系が圧倒的に勢力を誇っている。

◎以上のことから本州系の約半数は広島県内ですでに分化しており、それらの種の広島県への侵入はかなり古いこと、九州系の種は種により広島県に侵入した時期と、入ってきた道筋が複数あることなどが考えられる。

◎距離的に近いにも拘らず、四国と広島県に分布するいわゆる四国系といえる種は1種もいない。◎広島県はジョウカイボン科の分布と地域変異より、大きく備北山地とそれ以外に2分され、残りの地域はさらに芸北山地と中央台地とに区分される。

◎岡山県との共通率はすぐ隣の県であるにもかかわらず、種レベルで84.1%、亜種レベルで75.0%と比較的差がある。

◎対長崎県と、対神奈川県での比較では、種レベルでそれぞれ60.0%、43.2%、亜種レベルで40.0%、31.8%と長崎県のほうがやや共通率が高い。興味深いのは、倍近い距離があるにもかかわらず、広島−神奈川と長崎−神奈川の共通率に大差がないことで、6割という圧倒的数の地域の特産種と、1割5分という少ない広域分布種の存在(これこそジョウカイボン科の特徴)が、こういった結果を招いている。

文 献
BRANCUCCI(1985)Ent.Basil.10:266.
後藤孝彦(1989)立岩貯水池地域の昆虫類,立岩貯水池地域の自然,:255-288.
・中田昭吾・田公和男・弘法泰英(1979)小瀬川流域の昆虫類,弥栄峡の自然,:559-647.
今坂正一(1989)日本産ジョウカイボン科について,日本甲虫学会第41回大会講演要旨,24pp. 自刊.
(1992)ホソナガジョウカイについて,甲虫ニュ−ス,(100) :27-30.

・山地治・渡辺昭彦(1990)岡山県のジョウカイボン相,すずむし(125):1-23.
ISHIDA,K.(1986) A Revision of the two Genera Athemus and Athemellus,
of Japan(Coleoptera:Cantharidae),Trans. Shikoku Ent. Soc.,17(4) :193-213.中村慎吾(1977)広島県比和町とその周辺の昆虫類,比和の自然,:255-294.
(1987)広島県帝釈峡の昆虫類,帝釈峡の自然,:
中根猛彦(1992)日本の雑甲虫覚書9,北九州の昆蟲,39(2) :73-79.
高橋和弘(1992)神奈川県のジョウカイボン科,KANAGAWA-CHUHO(100):71-124.


(図版表省略)


前のページ
プロフィール
コンテンツのトップ 次のページ
広島県のジョウカイボン相(第2報)