今坂正一の世界
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寂地山彙のジョウカイボン科

田中  馨・椋木 博昭・今坂 正一

前回、「2001年に寂地山彙で採集した甲虫類」(田中・椋木 2002)の中で、以下に示したジョウカイボン科甲虫11種を報告した。

ウスチャジョウカイ Athemellus insulsus (Harold)
クロホソジョウカイ Athemus aegrotus (Kiesenwetter)
ニセヒメジョウカイ Athemus lineatipennis Wittmer
ミヤマクビアカジョウカイ Cantharis nakanei Wittmer
シコククビボソジョウカイ Podabrus ishiharai M. Sato
クロヒメクビボソジョウカイ Podabrus malthinoides Kiesenwetter
ウスイロクビボソジョウカイ Podabrus temporalis Harold
マルムネジョウカイ Prothemus ciusianus (Kiesenwetter)
アオジョウカイ Themus cyanipennis Motschulsky
ムネミゾクロチビジョウカイ Malthodes sulcicollis Kiesenwetter
ニセキベリコバネジョウカイ Trypherus mutilatus (Kiesenwetter)
しかし、この中に、明らかに山口県には分布しないと思われる種が含まれていることを、今坂から連絡があり、標本の再検討を依頼した結果、多くの誤りが含まれていることが明らかになった。さらに、標本の一部も破損等で失われていることが判明した。

そのため、一応、田中・椋木(2002)で記録した上記のジョウカイボン科11種については総ての記録を抹消し、今回、改めて同定できた結果を新たに報告したい。併せて2002年度に採集したデータと、それらの種についての知見も報告する。本誌読者には著者らの誤りにより混乱を生じたことをお詫び申し上げる。

なお、採集と標本の保管は田中と椋木、同定は今坂が行った。また、種の配列は今坂の系統分類上の考え方に従い、従来の図鑑類の配列とはほぼ逆の順序となっている。LTはライトトラップによる採集を示す。


1. マルムネジョウカイ Prothemus ciusianus (Kiesenwetter, 1874)
寂地山, 1♂1♀, 30. vi. 2001. 田中採集(♀LT); 同, 1♂, 2. vi. 2002. 田中採集.
岐阜県以西の本州、四国、九州に分布。平地〜山地に普通。


2. クロヒゲナガジョウカイ Habronychus providus (Kiesenwetter, 1874)
寂地山, 1♀, 30. vi. 2001. 田中採集(LT).
本州、四国、九州に分布。平地〜山地に普通。


3. アオジョウカイ Themus cyanipennis Motschulsky, 1857
寂地山, 1♂, 30. vii. 2001. 田中採集(LT).
北海道、本州、四国に分布するが、各地で色彩や雄交尾器などが分化しており、将来いくつかの種か亜種に区分する必要がある。山地に普通。


4. ニセジョウカイ Athemus infuscatus Yajima et Nakane, 1969
寂地山, 1♂, 30. vi. 2001. 田中採集; 同, 1♂1♀, 2. vi. 2002. 田中採集.
滋賀県以西の本州、四国、九州に分布。山地に普通。兵庫県以西に分布するニシジョウカイボンAthemus luteipennis luteipennis (Kiesenwetter,1874)に酷似するが、上翅の立った毛は金毛であり、黒褐色のニシジョウカイボンとは区別できる。本種はニシジョウカイボンよりやや遅く、より高標高に出現する。


5. ヒメジョウカイAthemus japonicus japonicus (Kiesenwetter,1874)
錦町河津峡, 1♀, 4. v. 2001. 田中採集.
本州、四国、九州に分布し、平地から山地に出現する。山地には酷似するミヤマヒメジョウカイAthemus alpicola alpicola Nakane,1992が分布している可能性があるので、同定には注意を要する。


6. ミヤマクビアカジョウカイ Athemus nakanei nakanei (Wittmer, 1953)
錦町河津峡, 1♀, 4. v. 2001. 田中採集; 寂地山, 1♂, 28. v. 2002. 田中採集.
本州、四国、九州に分布し、山地に出現する。いくつかの亜種が命名されているが、未整理。


7. イシハラジョウカイ Athemus ishiharai Ishida, 1986
錦町河津峡, 1♀, 20. v. 2001. 田中採集; 寂地山, 1♂, 2. vi. 2002. 田中採集.
本州、四国、九州に分布し、山地に出現する。ヒメジョウカイ Athemus japonicus japonicus (Kiesenwetter,1874)やホソニセヒメジョウカイによく似ており、爪の形や♂交尾器で区別される。


8. ホソニセヒメジョウカイ Athemus okuyugawaranus okuyugawaranus Takahashi, 1992
錦町河津峡, 1♂1♀, 20. v. 2001. 田中採集; 寂地山, 2♀, 30. vi. 2001. 田中採集(LT).
本州、四国、九州に分布し、山地に出現する。


9. マツナガジョウカイ Athemus matsunagai Imasaka et Okushima, 2001
寂地山, 1♀, 28. v. 2001. 田中採集; 同, 1♀, 2. vi. 2002. 田中採集.
本州、四国、九州、屋久島に分布し、ブナ帯とその下部など山地に限って出現する。ごく最近記載された。


10. クロホソジョウカイ Athemus aegrotus (Kiesenwetter, 1874)
寂地山, 3♂, 2. vi. 2002. 田中採集.
本州、四国、九州に分布し、山地に出現する。渓流や谷間などの日当たりが余り良くない葉上に多い。


11. ツユキクロホソジョウカイ Athemus tsuyukii Takahashi, 1992
錦町河津峡, 1♀, 4. v. 2001. 田中採集.
本州、九州に分布するが記録は少ない。クロホソジョウカイに似るが背面から見て、大部分が黒く、区別できる。山口県初記録。


12. セボシジョウカイAthemus vitellinus (Kiesenwetter,1874)
寂地山, 1♀,     2001. 田中採集.
本州、四国、九州、対馬と朝鮮半島に分布。平地から山地まで、オープンランドから樹林まで、生息範囲が広い。河原や草地、島などオープンな場所では優占種。


13. ムネアカクロジョウカイ Athemellus adusticollis (Kiesenwetter, 1874)
寂地山, 1♀, 28. vii. 2002. 田中採集.
北海道、本州、四国、九州に分布。平地から山地まで、他の種より遅く出現する。


14. クビアカジョウカイAthemellus oedemeroides (Kiesenwetter,1874)
錦町河津峡, 3♂6♀, 4. v. 2001. 田中採集.
本州(岐阜県以西)、四国、九州に分布し、平地から山地まで早春より出現する。各地で上翅の色や生えている立毛の色に変異があり、当地産は立毛が金色。山地では立毛が黒色になる地域が多い。


15. タキモトクビボソジョウカイ Hatchiana takimotoana (Kiriyama, 2000)
寂地山, 1♂, 28. v. 2001. 田中採集.
本州(紀伊半島と岡山県以西)と四国に分布。山地に出現するが少ない。山口県初記録。


16. ヒロシマジョウカイ(未記載種) Asiopodabrus sp. 10
寂地山, 1♀, 28. v. 2001. 田中採集; 同, 1♀, 30. vi. 2001. 田中採集(LT); 同, 3♀, 2. vi. 2002. 田中採集.; 錦町河津峡, 1♀, 4. v. 2001. 田中採集.
雄の中肢の爪が二裂状にならないリョウコジョウカイ群は、各地に1種のみが分布し、特に岡山県以西の中国地方では各地で細かく種分化している。種の特徴は雄交尾器に強く表れ、雌はお互いに似ていて区別が困難である。寂地山産は雌のみが得られており、厳密には種を確定できない。しかし、周辺に当たる岩国市〜広島県吉和村では本種が得られており、常識的に考えれば寂地山産は本種である可能性が高い。


17. ミヤマニンフジョウカイ Asiopodabrus kiso kiso (Nakane, 1989)
寂地山, 3♂1♀, 30. vi. 2001. 田中採集(2♂1♀LT); 同, 1♂1♀, 2. vi. 2002. 田中採集.
本州、四国、九州に分布し、主として山地に生息する。各地で亜種化しており、雄交尾器や色彩が変化する。これらを数種に区別する研究者もいる。山口県初記録。


18. オオニンフジョウカイ(未記載種) Asiopodabrus sp. 31
錦町河津峡, 1♂2♀, 20. v. 2001. 田中採集.
本州(山口県)、九州に分布し、主として山地に生息する。従来は九州各地で得られており、九州以外では初めての記録。山口県初記録。

以上18種を記録する。その他にもAsiopodabrus属に含まれる2種が採集されているが、種名を確定できなかったので、今回は割愛したい。

参考文献
田中馨・椋木博昭(2002)2001年に寂地山彙で採集した甲虫類, 山口のむし, (1): 37-38.


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