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佐賀県九千部山のヒミコヒメハナカミキリ

今坂正一

筆者は、最近、天野昌治氏と共同で西九州からヒミコヒメハナカミキリ西九州亜種Pidonia neglecta hizena Imasaka et Amanoを記載した(Imasaka & Amano, 2001)。西九州亜種は雲仙岳(長崎県島原半島)、多良岳(長崎県および佐賀県)、八幡岳(佐賀県多久市)、および九千部山(佐賀県鳥栖市)でそれぞれ記録しておいたが、最後の九千部山産は1♀のみの記録であった。
記載と前後して、廣川典範氏は九千部山においてヒミコヒメハナカミキリ2♂♂を採集し、そのことをお知らせいただいた。さっそく借用して確認したところ、2個体共に雄交尾器の中央片の先端にトゲ状突起がないことから、西九州亜種ではなく原亜種に含まれることが明らかになった(図1左〜1中)。
一方、パラタイプに指定しておいた九千部山産1♀は、記載時、採集者の西田光康氏より今坂が借り受け、共著者の天野氏には確認していただかないままパラタイプに加えたのであるが、その後改めて慎重に再検討したところ、原亜種に含めるのが正しいとの結論に至った。この点、今坂の早とちりであり、ご迷惑をかけた天野氏と西田氏、および読者に対して心よりお詫び申し上げる。
以上の結果より、原記載における九千部山産1♀のパラタイプ指定を解除・訂正し、新たに採集された♂と共に、改めて原亜種として記録したい(図1右)。
◎ヒミコヒメハナカミキリ原亜種
Pidonia neglecta neglecta Kuboki, 1982
佐賀県鳥栖市九千部山 2♂♂. 19.V.2001. F.Hirokawa leg.;1♀.12.VI.1988. M. Nishida leg. (西九州亜種パラタイプ指定分を解除)
なお、問題の九千部山は佐賀・福岡県境付近に位置し、脊振山系の東南端に当たる。今坂が調査しているジョウカイボン科などでは、雲仙山系〜脊振山系などの西九州と、英彦山山系〜久重〜国見山系などの東九州とで、亜種が分かれる種があり、亜種の記載では本種も同様の分化と分布を示す種として述べておいた。しかし、今回の結果から判断すると、西九州と東九州で亜種が分かれるという大勢には変化がないとしても、脊振山系の中に、亜種の分布境界が存在する可能性が考えられる。つまり、脊振山系西端の多久市八幡岳では西九州亜種が分布し、東端の鳥栖市九千部山では原亜種が分布することが明らかになったが(図2)、現在までのところ、中央部の脊振山や金山などではヒミコヒメハナカミキリの種自体が採集されておらず、どちらの亜種が分布するのか、しないのか不明である。脊振山系全体における両亜種の分布状況、各地点での分化の程度、それらの原因となる地史的背景など、明らかにすべきさまざまな問題が提起されたことになる。今後とも、ヒミコヒメハナカミキリの問題について調査を続けたいと思う。
末筆ながら、標本等でお世話になった廣川典範氏(佐賀県大和町)と西田光康氏(佐賀県嬉野町)に心よりお礼申し上げる。

引用文献
Imasaka, S. & M. Amano (2001) Pidonia neglecta hizena n. subsp., a new subspecies from Western Kyushu, Japan (Coleoptera, Cerambycidae). SUKUNAHIKONA, Spec. Publ. Japan Coleopt. Soc. Osaka, (1): 337- 342.

図版説明
図1.九千部山産ヒミコヒメハナカミキリ原亜種
左:♂背面、中:♂交尾器中央片右側面、右:♀背面
図2.実検したヒミコヒメハナカミキリ亜種の分布
●:西九州亜種、○:原亜種


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