今坂正一の世界
九州の昆虫
自然環境アセスメント
おたより・ログイン

佐多岬のマンマルコガネ

今坂正一

1996年5月8日、鹿児島県佐多岬の先端部で採集した。あいにく、雨混りの強風下で、ちらほら咲いているシイの花にも目指すジョウカイボン類はほとんど見られなかった。四半世紀ぶりに、この遠隔地までやってきたもので、葉っぱや枯れ木や朽ち木を、叩いたり、崩したりいろいろやってみたが、ほとんど成果らしい成果はなかった。駐車場で待つ妻と子供達の人待顔を思いつつも、このまま空手で帰る気も起こらず、持ち時間を無駄に消費していった。最後の手段で、遊歩道から斜面を降り、窪地の湿気の多そうな落葉を篩に掛け、ビニ−ル袋に詰めて持ち帰った。

帰宅してから、自作の簡易ベルレ−ゼ装置(プラスティックの洗面器に水を張り、同径の水切りザルをはめ込み、ここに篩った土を入れ、上からゼットライトで照らすもの、太陽に晒してもいい。どこも自作してないか…?)に土を入れ、2日放置してからソ−ティングを行った。洗面器の水面に浮かんでもがいている、または底に沈んだ虫を、ヘッドル−ペで眺めて拾い取っていく。水面に黒く真ん丸の種子様のものが浮かんでおり、側方によけておいた。
微小な甲虫類などをひとしきり拾い終り、ふと見ると、種子に足が生え動きだしたではないか。慌てて拾い上げ顕微鏡で眺めると、まさしく、マンマルコガネだった。

トカラマンマルコガネ  Madrasostes kazumai OCHI,JOHKI et NAKATA
3exs.,鹿児島県肝属郡佐多町佐多岬,8.V.1996.今坂採集(写真3:背面,写真4:腹面,丸まった状態,写真11:頭部と前胸の側面,写真12:上翅の隆条と間室の点刻,写真13:後脛節)

国内のマンマルコガネ属 Madrasostesには、石垣・西表島のヤエヤママンマルコガネM.hisamatsui OCHI,JOHKI et NAKATA とトカラ中之島のトカラマンマルコガネが知られ、いずれも、朽ち木の樹皮下で得られている。OCHI(1990) によると、トカラはヤエヤマに比較して、目がより大きくて広い、分眼突起はより短く、目の約2/3 の長さ、上翅はより長方形に近く、4つの強くはっきりとした隆条を装うという。文献だけでは同定に自信がなく、北山昭氏からトカラを、野田正美氏よりヤエヤマを借用して、比較してみた(写真参照、5.8.11: 側面,6.9.12: 上翅,7.10.

13: 後脛節)。
1.ヤエヤママンマルコガネ 1ex.石垣島オモト岳,1-  31.V.1992.R.Fukaishi 採集,野田正美保管(写 真1,5,6,7 )
2.トカラマンマルコガネ 1ex.トカラ中之島楠木,2. VIII.1992.西田信夫採集,北山昭保管(写真2,8,9,10)

形質比較表(略)

以上の結果から、佐多岬産はトカラマンマルコガネと判断されたが、トカラ中之島産よりさらに、上翅の隆条や点刻、間室の凹みなどは強く、多少の差が見出された。目の大きさと分眼突起の大きさは、かなり個体変異がありそうで、あるいは雌雄の差かもしれない。国内のマンマルコガネは、石垣島から佐多岬まで、種々の形質がクラインを成していると考えられ、琉球各島での分布と変異の傾向を調べる必要がある。朽ち木の樹皮下と落葉下を調査することにより、多くの島から見出だされるものと思う。現時点では、上記2種の差は、形質が連続的で、質の差はなく、その量に段階的に差がある程度なので、別種と考えるより亜種と考えたほうが合理的と思われるが、いかがなものであろうか?
常々、コガネの同定等でお世話になっている三宅義一氏、貴重な標本を貸与いただいた北山昭氏、野田正美氏にも心よりお礼申上げる。

参考文献
1.OCHI,T., J0HKI, Y., T. NAKATA(1990) A New Myrmecophilous beetle (Col.,Cerato-canthidae) from Japan, Jpn. J. Ent.,58(1):31-34.
2.OCHI,T. (1990) A New Species of the Genus Madrasostes from Japan (Col.,Ce-ratocanthidae), Ent. Rev. Japan, 45(2):113-117.


前のページ
奄美大島で採集した昆虫類
コンテンツのトップ 次のページ
九州山地でエゾトラカミキリ